1.(はじめに)
戦後史(戦争も含む)を検証している中で、歴史学が見落としているのではと思う「敗戦直後の食料事情」に疑問を抱いた、この一年であった。
ある判事の餓死事件(山口判事の餓死)がきっかけで、当時の政府が採った食管法をもう一度再考するべきではないかと考えるようになっていた。結論を先取りして言うと、当時の政府は、食管法に基づき、配給だけで生活することを国民に強制していた。山口判事の餓死は、彼の餓死という問題に還元できない、国民すべてに襲い掛かる餓死という問題であり、「事件」だったのである。
そして、現在でも、その餓死の危機的状況は日本に迫っているのではないかと思い巡らせている時に、鈴木宣弘東大教授の上記タイトルの著書に出会うことになった。
この本は、新書版であるが、かなりの情報量であり、一回でその概略を紹介できる構成とはなっていない。今回と次回で、分けて紹介したい。
最初に問題のキーワードになることがある。それは何故、日本の「食料自給率が37パーセント」と低いのであろうか。その「疑問」を解く謎の解明は、鈴木教授がすべて、この著書で書きつくしている。
2.「大惨事が迫っている」国際機関の警告
この見出しで、鈴木氏は、次のように述べる。
『いま、世界中で、かつてない規模の食料危機が迫っている。WFPとFAOは、2022年6月に、ハンガーホットスポットーFAO-WFPの急性食料不安に対する早期警告という報告書を発表している。
新型コロナウィルスの拡大や、ウクライナ戦争の影響などにより、世界20か国以上で深刻な飢餓が発生すると「警告」したのである。(中略)
「世界同時多発食料危機」が、現実の世界でも切羽詰まった問題になっているのである。
その中で、日本の食料問題もまた、深刻な脅威に直面している。』
そして、さらに鈴木氏は概ね、次のように述べる。
『筆者が主張する根拠は、日本の食料自給率が今後大幅に低下するという試算にある。
日本のカロリーベースの食料自給率は、約37パーセントという低水準だ。しかし、37パーセントと言うのは、あくまで楽観的な数字に過ぎない。
農産物の中には、種やヒナなどを、ほぼ輸入に頼っているものもある。それらを計算に入れた「食の自給率」はもっと低くなる。
農水省のデータに基づいた筆者の試算では、、2035年の日本の「実質的な食糧自給率」は、コメ11パーセント、野菜4パーセントなど、壊滅的な状況が見込まれるのである。』
この後の文章で、鈴木氏は、なぜ、世界の食料問題が危機的な状況を迎えたのか、現状分析などを具体的に述べているが、肝心の日本の農政の失敗に関して、次の見出しで、日本の「食の安全保障」(全くないが)を批判して、読者である私たちに、岸田政権の欠陥を突き付けるのである。
3.日本には「食料安全保障」が存在しない(鈴木氏曰く)
『2022年1月17日に行われた岸田総理大臣の施政方針演説で、「経済安全保障」という言葉が語られた。だが、そこに、「食料安全保障」、「食料自給率」への言及はなく、農業政策の目玉は、輸出振興とデジタル化であるとされている。(中略)
勿論筆者も輸出振興を否定するわけではない。だが、食料自給率が約37パーセントと、世界的にも極めて低い日本にとって、食料危機が迫るいま、真っ先にやるべきことは、輸出振興ではない。国内生産の確保に全力を挙げることである。(中略)
いま、日本に突き付けられているのは、食料、種、餌などを海外に依存する度合いが大きすぎれば、いざという時に国民の命を守れない、という現実である。それなのに、より自由化を進めて、貿易を増やすことが安全保障であるといった、筋違いの議論は、いまだに横行しているのである。』
4.かくして、鈴木氏の説得力のある日本の食料事情の危うさを訴える実証的な報告で、日本政府の「農政」の失敗が理解されたと思うが、このような食糧自給率の貧困は今に始まった事では、勿論ない。
それはこの本で、その「原因」となった日本の「農政」の失敗が、実はアメリカの日本への「計画的な策略」に起因していることが、明らかになるだろう。その策略に手を貸したのが、政府の官僚、とりわけ、財務省などであったことを著者は言及している。
この詳細は、次回のコラムに続きます。
「護憲+コラム」より
名無しの探偵
戦後史(戦争も含む)を検証している中で、歴史学が見落としているのではと思う「敗戦直後の食料事情」に疑問を抱いた、この一年であった。
ある判事の餓死事件(山口判事の餓死)がきっかけで、当時の政府が採った食管法をもう一度再考するべきではないかと考えるようになっていた。結論を先取りして言うと、当時の政府は、食管法に基づき、配給だけで生活することを国民に強制していた。山口判事の餓死は、彼の餓死という問題に還元できない、国民すべてに襲い掛かる餓死という問題であり、「事件」だったのである。
そして、現在でも、その餓死の危機的状況は日本に迫っているのではないかと思い巡らせている時に、鈴木宣弘東大教授の上記タイトルの著書に出会うことになった。
この本は、新書版であるが、かなりの情報量であり、一回でその概略を紹介できる構成とはなっていない。今回と次回で、分けて紹介したい。
最初に問題のキーワードになることがある。それは何故、日本の「食料自給率が37パーセント」と低いのであろうか。その「疑問」を解く謎の解明は、鈴木教授がすべて、この著書で書きつくしている。
2.「大惨事が迫っている」国際機関の警告
この見出しで、鈴木氏は、次のように述べる。
『いま、世界中で、かつてない規模の食料危機が迫っている。WFPとFAOは、2022年6月に、ハンガーホットスポットーFAO-WFPの急性食料不安に対する早期警告という報告書を発表している。
新型コロナウィルスの拡大や、ウクライナ戦争の影響などにより、世界20か国以上で深刻な飢餓が発生すると「警告」したのである。(中略)
「世界同時多発食料危機」が、現実の世界でも切羽詰まった問題になっているのである。
その中で、日本の食料問題もまた、深刻な脅威に直面している。』
そして、さらに鈴木氏は概ね、次のように述べる。
『筆者が主張する根拠は、日本の食料自給率が今後大幅に低下するという試算にある。
日本のカロリーベースの食料自給率は、約37パーセントという低水準だ。しかし、37パーセントと言うのは、あくまで楽観的な数字に過ぎない。
農産物の中には、種やヒナなどを、ほぼ輸入に頼っているものもある。それらを計算に入れた「食の自給率」はもっと低くなる。
農水省のデータに基づいた筆者の試算では、、2035年の日本の「実質的な食糧自給率」は、コメ11パーセント、野菜4パーセントなど、壊滅的な状況が見込まれるのである。』
この後の文章で、鈴木氏は、なぜ、世界の食料問題が危機的な状況を迎えたのか、現状分析などを具体的に述べているが、肝心の日本の農政の失敗に関して、次の見出しで、日本の「食の安全保障」(全くないが)を批判して、読者である私たちに、岸田政権の欠陥を突き付けるのである。
3.日本には「食料安全保障」が存在しない(鈴木氏曰く)
『2022年1月17日に行われた岸田総理大臣の施政方針演説で、「経済安全保障」という言葉が語られた。だが、そこに、「食料安全保障」、「食料自給率」への言及はなく、農業政策の目玉は、輸出振興とデジタル化であるとされている。(中略)
勿論筆者も輸出振興を否定するわけではない。だが、食料自給率が約37パーセントと、世界的にも極めて低い日本にとって、食料危機が迫るいま、真っ先にやるべきことは、輸出振興ではない。国内生産の確保に全力を挙げることである。(中略)
いま、日本に突き付けられているのは、食料、種、餌などを海外に依存する度合いが大きすぎれば、いざという時に国民の命を守れない、という現実である。それなのに、より自由化を進めて、貿易を増やすことが安全保障であるといった、筋違いの議論は、いまだに横行しているのである。』
4.かくして、鈴木氏の説得力のある日本の食料事情の危うさを訴える実証的な報告で、日本政府の「農政」の失敗が理解されたと思うが、このような食糧自給率の貧困は今に始まった事では、勿論ない。
それはこの本で、その「原因」となった日本の「農政」の失敗が、実はアメリカの日本への「計画的な策略」に起因していることが、明らかになるだろう。その策略に手を貸したのが、政府の官僚、とりわけ、財務省などであったことを著者は言及している。
この詳細は、次回のコラムに続きます。
「護憲+コラム」より
名無しの探偵