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生態系の崩壊を抑制する法律を間に挟んで、EUと農民との間に意見の対立が起きている

2023-06-01 17:13:30 | 環境問題
「生態系の崩壊を抑制する法律を間に挟んで、EUと農民との間に意見の対立が起きている」
(Deutsche Welle 2023年5月26日 Tim Schauenberg氏記す)

気候変動の事象を泥炭地の視点から考えることは見過ごされやすいものだったと思います。
Deutsche Welleに格好の記事がありましたので紹介します。欧州の泥炭地ということで温帯から寒帯地域の泥炭地の場合を考える機会となります。

一方、インドネシアに特徴的にみられる熱帯地域の泥炭地の状況や課題については別の機会に紹介したいと思います。

気候変動のスピードを抑制することを目標に、EUは農業の生産活動から生じるGHG(温室効果ガス)排出を抑制すること、そして土壌の持続可能な利用を促進することを目指して、新たな法律の成立を検討している。この新たな法律にはCO2の貯蔵庫であるピートランド(泥炭地)の復元が含まれていることから、もとピートランド(泥炭地)だった土地を利用している農民らの働く場が失われるとして批判も起こっている。

欧州地域のグリーン化を促進し、気候変動が進行する中で地域の生態系と生物種の保全を目指す自然復元法(Nature Restoration Law)は2022年6月にEC(European Commission)により初めて導入されているが、排水された元は泥炭地だった土地を復元するという内容を含んでいることから政治的に抵抗を受けている。

法案が成立すると、以前は泥炭地、今は農地になっている土地の30%は10年内に元の泥炭地に復元し、別の利用法に変更が求められ、さらに2050年には30%を目途の復元面積が70%にまで引き上げられることになっている。

農民団体は貴重な耕作地の大規模な減少に繋がる法案として懸念を訴え、一方法案擁護者らは泥炭地が地球温暖化のスピードを鈍化させる上で有効な手段であり、EUが掲げるパリ協定の目標達成には必須のものだと主張している。

湿地帯の一つの形の泥炭地と言うものは、数千年にわたり大量の植物の死骸が水面下に貯留することで形成されており、他の如何なる生態系よりも大量の炭素を貯えていることを特徴としている地帯である。

地球規模で見ると泥炭地は全陸地の3%程を占めている。一方泥炭地が貯留する炭素量は地球上の森林全体が吸収する炭素量の2倍程を貯えている。

ここで泥炭地を排水し、農業の様な何らかの利用をその地で行うとすると、泥炭地はCO2貯留地ではなく、反対に温暖化ガスの大きな発生源地域へと変わってしまうことになる。

欧州全域のGHG排出量の7%分が排水された泥炭地及び湿地帯からの排出の結果である。そしてこの量は欧州全域の工業活動からの排出分に匹敵するという。

養分が豊富で生物多様性にも役立っている欧州の泥炭地の面積を合計するとドイツほどになる。その半分以上が回復困難なダメージを既に受けている(ドイツでは90%近くがダメージを受けているという)。

スカンジナビアやバルト海諸国に存在する以前は泥炭地だった場所は、現在は森林として主に利用されている。オランダ・ポーランド・ドイツでは排水された元泥炭地の大半が現在農地になっている。ドイツでは全耕作地の約7%は元泥炭地であり、現在全GHG排出量の37%が農業からものである。

ドイツ北西部にある研究機関(Greifswald Mireセンター)のHirschelmannさんは、パリ協定を確実に順守するには排水された元泥炭地での農業を廃止して、paludiculture(再度湿潤化した泥炭地を利用した農業)に投資するといったパラダイムシフト(paradigm shift)が求められると言っている。

一方欧州議会の保守グループ(欧州民衆党、European People’s Party)は今回の泥炭地復元法の効力を大幅に削ぎ取ることを狙っている。そして農業目的の土地利用から農業以外の目的への土地利用の変更にも反対の立場である。また欧州農業団体のCopa-Cogecaは今回のEUのグリーン法案の経済的および社会的欠点を警告している。即ち排水されていた元泥炭地の再湿潤化は欧州の農業生産性を大幅に低下させることに繋がり、食料の安定確保に危険をもたらすとしている。

これらの主張に対してグリーン法案擁護者らは、長期的にみればこの法案は欧州の食料安全保障に資するものだと主張する。即ち欧州環境・海洋・漁業委員会のSinkevicius委員は、この5月初めに「多くの神話があるのは事実だが、グリーン法案には多くの利点が農民に対してあるのも事実である。土壌の肥沃化、日照り災害の減少、保水力改善、受粉活動の増大が例である」とツイートしている。

また緑の党の欧州議会議員のPaulusさんは「農民は常に排水した元泥炭地に換金作物を栽培することで短期的利益を最大化することを選択するものであり、一旦排水した元泥炭地を再度湿潤化した土地で農業活動を行うことはしたくないのである。それ故に、農民に対して補償等のインセンティブを行うことが当然の考え方になる」と述べている。

野心的な法案を擁護する人は、利益の出る農業と湿潤地への復元策とがお互いに利益が相反する関係である必要性はないと指摘している。欧州委員会の計算によれば、天然の資源を復元するのに投資される1ユーロの金は長期的に見れば少なくとも8倍の8ユーロ分の経済的リターンが見込まれるとしている。

再度湿潤化した泥炭地は、穀物(grains)やコーンのようなものを単一栽培するには適していないものの、Greifswald Mireセンターも含まれる多くの研究機関が1月に公表したPosition Paperによると、再湿潤化泥炭地は他の作物の生育には適している可能性はあるとしている。

再湿潤化し復元した土地には、樹木や牧草やアシ・ヨシを栽培することは可能であり、これらアシやヨシは建築向断熱材またはプラスチック代替用有機素材として利用できる。また牛の代わりに水牛が再度湿潤化した泥炭地で飼育できる日が来るかもしれないとしている。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

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