🔶コロナ後の世界 「ニューノーマル2.0」とは
コロナ後の世界を考える時、最初に考えなければならないのは、世界経済の景色である。
東京都知事小池百合子がコロナ下の制限のある生活を「ニューノーマル」と言って有名になったが、下に紹介しているような、言葉本来の重い意味を検証することなしに表面だけを掠め取るパフォーマンスに過ぎない。
本来の「ニューノーマル」は、リーマン・ショックの後、モハメド・エラリアン氏(※)が唱えた「ニューノーマル経済」が始まりである。
その彼が、今回のコロナ後の新しい経済のありようを「ニューノーマル2.0」として提示している。彼の提案には様々なヒントが隠されているようなので、紹介しようと思う。
(※モハメド・エラリアン:ニューノーマル経済=リーマン・ショック後の09年、これからの世界経済について、景気回復を果たしたとしても以前のような状態に戻らないとする「ニューノーマル」の概念を提唱。景気循環論でとらえられない時代の到来を訴え、この言葉は世界で流行した。英オックスフォード大経済学博士。)
① 今回のコロナリセッション→リーマン・ショック以上のリセッション(景気後退)になる。
(理由)
世界経済の活動を唐突に中止させた。→世界経済に重要なシステムが停止
世界の中央銀行が即座に対応できない
健康に直接かかわる問題→人々の恐怖心を誘う→悪影響を増幅
② 突然の経済混乱→需要と供給双方が抑え込まれ、時には同時に破壊されている。
↓
先進国の大半は経験なし→それが世界規模で発生
③ コロナ渦の初期段階→公衆衛生上の対策(ソーシャルデイスタンス確保・都市封鎖・隔離)
↓
経済成長・雇用維持・金融の安定にとって逆効果→近代政府・経済は「つながり」「統合」が原則→
感染症対策は「つながり」「統合」を断ち切るのが本質
↓
【脱グローバリゼーション】【脱リージョナリズム(地域的経済統合に逆行)】の流れ加速
↓
国家や地域レベルの経済封鎖が起きる。
④ 三つの不平等=「収入・富・機会」の更なる拡大→世界の不安定さが拡大、様々なショックに対する耐性が失われる。
↓
世界の中央銀行は量的緩和政策などの人為的な金融安定策を迫られる。
↓
世界の国々の経済政策に必要な新たな視点
↓
包摂的経済成長(inclusive growth)を実現させることを目標にした経済政策の必要性
(持続可能で経済成長の恩恵が広くいきわたる経済政策)
⑤ 「ニューノーマル2.0」とは
コロナショック→グローバル経済のあり様を変容→「脱グローバリゼーション」「脱リージョナリズム(地域統合に逆らう)」の動きが加速→海外拠点を減らす・世界規模での生産を見直す
↓
過去の世界の趨勢 (費用対効果、効率性の追求)
↓
リスク回避と「レジリエンス」(困難な状況に陥った時に発揮できる強靭さと回復力)に重きをおいた政策に転換せざるを得ない。
↓
世界経済の光景は全く違うものになるはず⇒ 「ニューノーマル2.0」の経済
米国バイデン政権も徐々にこの方向へ舵を切りつつある。高額所得者への税率の引き上げなどの政策は、【包摂的経済成長】を目指す政策の一つ。コロナ後の世界は、持続可能な社会をどう構築するか、レジリエンスをどのように育成するか、に焦点を当てた政策を選択せざるを得ない状況になっている証左だろう。
今回の総裁選でも岸田文雄が「新自由主義的経済の見直し」を主張していたが、中身のあまりない政策で、他候補との論議も深まっていなかった。
それより、立憲民主党の枝野党首が提示した“1年間 年収1、000万円以下の国民の税の徴収を行わない”という政策と“消費税を5%にする”という政策の方がはるかにインパクトもあり、包摂的経済成長という概念にふさわしい。
「レジリエンス」=「困難な状況に陥った時に発揮できる強靭さと回復力」の処方箋を作成するためには、現在困難に陥っている国民をまず救済する事が重要。この視点で、次の総選挙の各党の政策をよく見る事が重要になる。
🔶安全保障上の問題
世界中がパンデミックの対処で右往左往しているが、今世界では、米中の覇権争いが過熱。一触即発の危機を孕んでいる。第三次世界大戦という薄氷の上を歩いているような危険な状況にある。
この不安定さの要因は、米国の覇権力の低下と中国の台頭である。
この掲示板で何度も指摘したが、覇権国家が衰え始め、覇権を守るのが難しくなった時が一番危険。これまでは、多少の問題は笑って見過ごせる余裕があった。しかし、国力が衰え始めると、そう言う余裕はなくなる。そうなると、覇権国家の負の部分が表に出始める。傲慢で、居丈高で、自分勝手で、他国の都合など配慮する気持ちの余裕がなくなり始める。
トランプ時代の米国はこういう外交を行ってきた。“もう世界の面倒を見るのは止めた。俺たちは米国の事しか考えない”という孤立主義へ逆戻りする外交方針へ転換した。
バイデン大統領は、トランプの孤立主義から、【同盟国を大切にする】という外交方針へ転換すると言っているが、トランプ大統領時代に失った米国の信用を取り戻すのは容易ではない。
先に紹介した中国の【デカップリング】政策は、米国の対中国敵視政策の圧力にたまりかねた中国が、対米自立政策に舵を切ったものである。
本来、中国は、米国の覇権を容認しつつ、対米貿易で大きな利益を上げ、国力を増強しようという戦略を取っていた。米国との決定的な対立は、国益にならない、というのが中国の基本的立場だった。
しかし、覇権喪失の崖っぷちに立っている米国には、中国が今以上に力をつけるのを黙ってみている余裕はない。米国の持っている安全保障上の力(同盟関係、条約、軍事力などなど)を全て対中国に振り向け始めた。アフガン撤廃もその一環。結果、NATOとの関係にひびが入り始めた。
(1) NATOとの関係
現在のNATOとの関係を象徴的に示しているのが、①アフガニスタンからの撤兵問題 ②豪州の原子力潜水艦購入を巡るフランスとの関係悪化 ③ノルドストリーム2完成阻止のため課していた制約を撤廃、などの問題である。
●アフガニスタンからの撤兵問題
アフガニスタン撤退決定時の米兵の数⇒2,500人 NATO兵士⇒約7,000人
バイデン大統領の撤退命令⇒アフガン政府の通知やNATOとも調整し損ねていた。
撤退を巡るNATO軍の混乱はきわめて深刻。
簡単に言うと、アフガン戦争を始めたのは米国。タリバン政権が倒れた後のアフガン国内の治安維持活動などの多くをNATO派遣の兵士たちが行っていた。(米軍は主にタリバン残党やアルカイダなどのテロリストとの戦闘を担っていた。)イラク戦争の時、日本の自衛隊が担った任務をNATO兵士たちが担っていた。
米国の戦争も20年だが、NATO軍の戦争も20年になる。米軍にとって、NATO軍はそれだけ重要な同盟軍であり、一心同体でなければならない存在。その同盟軍にさえ、米軍撤退についてきちんとした連絡が行われてなかった。米国にとってNATOの存在が軽くなっている一つの証左である。
●豪州の原潜購入を巡るフランスとの関係悪化
豪州は潜水艦の艦隊を編成するため、仏から12隻の潜水艦を総額900億ドルで購入する計画だった。これを破棄し、米国と英国の技術を使って原子力潜水艦を建造する事にした。仏政府は、烈火のごとく怒り、米国と豪州から大使を召還した。
この問題は、NATOに深刻な危機を引き起こした。仏外務大臣ジャン=イヴ・ル・ドリアンは、われわれは「背中を刺された」と表現した。「我々はオーストラリアと信頼し合える関係を確立していたが、この信頼は裏切られた」と述べた。
この背景には、米国+英国+豪州というアングロサクソン三ヶ国が、中国を仮想敵国とする軍事同盟AUKUSAを組織する事を計画、豪州の米国・英国からの原子力潜水艦購入は、その一環であろう。
元NATOの常任理事だったピーター・リケッツはAFPで以下のように述べている。
・「この動きは、NATOとNATO同盟諸国に対するフランスの信頼に確実に悪影響を及ぼし、従って、ヨーロッパの戦略的自立に向かう、彼らの意欲を強くすると思う」
・「NATOは信頼に依存しているのだから、NATOに損害を与えるだけだと私は思う。早急に修復作業を始める必要がある。」
・「フランスやドイツや他のヨーロッパ諸国は中国の経済パートナーになりたいと望んでいる。彼らは新冷戦を始めるアメリカの取り組みを、他の問題からの全く無用な逸脱と見ている。」
要するに、米国が始めようとしている中国との間の【新冷戦】そのものに対して、EU各国は冷ややかな目を向けている。簡単に言えば、大きな迷惑だと言うわけ。同時に、それはNATO各国の思惑に大きな影響を与えるはずである。バイデン大統領の【同盟国】を重視するという発言の信憑性が疑われる事態だと言わざるを得ない。
●ノルド・ストリーム2完成阻止のため課していた制約を撤廃
米独の懸案だった「ノルドストリーム2」について、米独との間で合意に至った。
[ワシントン 7月21日 ロイター]
・・・・
- 米国とドイツは21日、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」を巡る合意を発表した。ロシアがウクライナや中東欧諸国に打撃を与えるためにエネルギーを武器として利用した場合、ドイツは独自の対応を行うほか、欧州連合(EU)に対し制裁導入を働き掛ける。
総工費110億ドルの同パイプラインは98%がすでに完成。ロシア北極圏からバルト海を通してドイツに天然ガスを供給する。米国はこの計画に反対していたが、バイデン政権は制裁措置で同パイプライン計画を完全に頓挫させない道を選んだ。・・・・・・
この決定は、少なくとも、米国がロシアとの間の「新冷戦」を即座に始めるつもりがないことを意味すると同時に、米国の安全保障政策の力点が対中国に移った事を意味する。NATOから手を引くというわけだ。と言う事は、EU各国とロシアとの関係の改善を意味する。
この決定はNATOの弱体化とパラレルの問題だと考えた方が良い。
■ 米国・英国の長期的「世界戦略」の要諦(地政学的発想)
米国+英国は、ユーラシア大陸の周辺部を支配。(欧州、中近東、南アジア、東南アジア、東アジア)
内陸部を締め上げる⇒不安定化させる。(アフガニスタン紛争、オレンジ革命、ウクライナ問題等々)
↓
最終的にはロシアを制圧する。現在は、それに中国が加わる。
違う言葉で言うならば、海洋国家VS内陸国家の図式である。
現在の世界情勢を読むとき、アングロサクソン連合とでもいうべき米国・英国の焦りの顕在化を見逃す事はできない。
覇権国家米国の凋落と共に、かっての栄光が色あせ2流国家に転落しつつある英国の焦りも加わり、新たに覇権争いに名乗りを上げた中国封じ込めにやっきとなっている。特に、EUを離脱した英国は、活路をアジアに求め、日本などとの連携(軍事的にも)を深めようとしている。
この流れから独仏を中心としたEUやNATOの重要性が薄れ始めているため、上記のような問題が噴出し始めている。21世紀の世界の趨勢を巡る権益争いがますます激しくなることは容易に予想できる。
この流れの中で日本はどう生きるのか、が問われている。今回の自民党総裁選の世界認識論議の浅さは、この困難な時代を生き抜けねばならない日本にとって致命的。アプリオリ(先験的)に米国追従の姿勢を示すことでしか生き残れない自民党の政治家のあり方で良いのか、が問われている。
(2)アジアとの関係
米国は、安全保障の最重点政策として、中国との「新冷戦」(中国封じ込め=中国包囲網形成)政策に明確に舵を切った。
この政策変更に伴い、上で指摘したように、NATOとの関係なども見直しの過程に入った。クリミア半島を巡って、一時険悪な関係に入りかけた対ロシアとの関係も、バイデン・プーチン会談以降、小康状態に入っている。
米国は、安全保障の力点をアジアに移すために、新たな軍事同盟などを構築し、インド洋から南シナ海、東シナ海、太平洋の支配を強化しようとしている。
① 「Quad」(クアッド) ⇒日本、米国、豪州,印度の4ケ国が安全保障などで協力する仕組み。
・目的⇒『自由で開かれたインド太平洋』 FOIP (Free and Open Indo-Pacific)に向けた関係強化 ⇒現実には、中国包囲網
★米国の狙い
アジア太平洋版NATOの構築⇒韓国とシンガポール、ニュージーランド、また中国の軍事的脅威に晒されている台湾やベトナムなども候補。
★現実
各国とも中国との軋轢を怖れ、参加に二の足を踏んでいるのが現状。参加している国境を接している印度もかなり腰の引けた対応に終始している。
② AUKUS(オーカス)⇒米国、英国、豪州の三ケ国による安全保障の同盟。
★目的⇒共通の利益の保護、新たな脅威への対応、軍事技術の共有
★同盟の最初の仕事⇒豪州に原子力潜水艦艦隊を創設⇒フランスとの契約破棄
「AUKUS」の狙いについては、敵対国であるロシアの政治学者で米国研究者のドミトリー・ドロブニツキー氏の解説が最も適切だと思うので、紹介しておく。
・・・・・・・
「この始まりは、オバマ大統領の時代までさかのぼる。米国はオバマ政権時に、事実上の全面的な中国封じ込めを目的とした『アジア回帰』を開始した。米国は以前、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイとの条約は、この戦略的回帰の要だと発表した。したがって米国の同盟国は、中国封じ込めの影響下に引き入れられた。そして、トランプ政権下では封じ込めが主に経済的方向に集中していたが、現在は軍事的要素があらわれた。これは予想されていた。英国のEU離脱後の外交および防衛政策の新たな概念でも、インド太平洋地域への軸足のシフトが宣言されている。そしてオーストラリアは、英連邦の一員として、インド太平洋地域における中国封じ込めへの包囲網を強化するために最も適した国だ。・・・・・・・スプートニック・・・
🔶結語
以上、様々な視点からコロナ後の世界を俯瞰してきた。
現代の世界の状況は、覇権国家米国の影響力の低下、新たな覇権国家としての中国の影響力の増加、コロナ後の世界経済の減速、世界的な環境悪化による台風、大雨、洪水、地震・津波の被害の拡大、旱魃、バッタの被害などによる食糧危機の増大などなど問題が山積みしている。
どれ一つ取っても簡単に解決できる問題はない。ある意味、【人類の危機・地球の危機】の時代だと言って過言ではない。
その中で最も差し迫った危機は、米中対立の激化による「第三次世界大戦」の危機である。もし、台湾海峡での米中衝突が現実化したら、米軍基地が密集している日本の被害は、半端ではない。第二次世界大戦の被害の比ではない。
今の日本人は忘れているが、中国大陸で日本人が行った蛮行を、中国人は忘れていない。もし戦争が始まれば、過去の忌まわしい記憶が蘇り、報復の感情が増幅しても不思議はない。これが日本の被害をさらに拡大すると考えておかねばならない。
米国に隷属するとは、そんな被害を覚悟すると言う事である。いざ戦争が始まってそんな気持ではなかった、と言っても始まらない。
これからの日本の国政を担うとは、こういう難題をどう解決するか、を背負う事である。文字通り、国民の命を背負うのである。自民党総裁選にそんな覚悟が見えたか。
もうあまり時間は残されていない。脅しや忖度、同調圧力に負けた選挙をしていれば、結局自分の首を絞める事になる事を国民は知るべきである。
「この程度の国民にこの程度の政府」の言葉の重さを、もう一度噛みしめなければならない。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
流水
コロナ後の世界を考える時、最初に考えなければならないのは、世界経済の景色である。
東京都知事小池百合子がコロナ下の制限のある生活を「ニューノーマル」と言って有名になったが、下に紹介しているような、言葉本来の重い意味を検証することなしに表面だけを掠め取るパフォーマンスに過ぎない。
本来の「ニューノーマル」は、リーマン・ショックの後、モハメド・エラリアン氏(※)が唱えた「ニューノーマル経済」が始まりである。
その彼が、今回のコロナ後の新しい経済のありようを「ニューノーマル2.0」として提示している。彼の提案には様々なヒントが隠されているようなので、紹介しようと思う。
(※モハメド・エラリアン:ニューノーマル経済=リーマン・ショック後の09年、これからの世界経済について、景気回復を果たしたとしても以前のような状態に戻らないとする「ニューノーマル」の概念を提唱。景気循環論でとらえられない時代の到来を訴え、この言葉は世界で流行した。英オックスフォード大経済学博士。)
① 今回のコロナリセッション→リーマン・ショック以上のリセッション(景気後退)になる。
(理由)
世界経済の活動を唐突に中止させた。→世界経済に重要なシステムが停止
世界の中央銀行が即座に対応できない
健康に直接かかわる問題→人々の恐怖心を誘う→悪影響を増幅
② 突然の経済混乱→需要と供給双方が抑え込まれ、時には同時に破壊されている。
↓
先進国の大半は経験なし→それが世界規模で発生
③ コロナ渦の初期段階→公衆衛生上の対策(ソーシャルデイスタンス確保・都市封鎖・隔離)
↓
経済成長・雇用維持・金融の安定にとって逆効果→近代政府・経済は「つながり」「統合」が原則→
感染症対策は「つながり」「統合」を断ち切るのが本質
↓
【脱グローバリゼーション】【脱リージョナリズム(地域的経済統合に逆行)】の流れ加速
↓
国家や地域レベルの経済封鎖が起きる。
④ 三つの不平等=「収入・富・機会」の更なる拡大→世界の不安定さが拡大、様々なショックに対する耐性が失われる。
↓
世界の中央銀行は量的緩和政策などの人為的な金融安定策を迫られる。
↓
世界の国々の経済政策に必要な新たな視点
↓
包摂的経済成長(inclusive growth)を実現させることを目標にした経済政策の必要性
(持続可能で経済成長の恩恵が広くいきわたる経済政策)
⑤ 「ニューノーマル2.0」とは
コロナショック→グローバル経済のあり様を変容→「脱グローバリゼーション」「脱リージョナリズム(地域統合に逆らう)」の動きが加速→海外拠点を減らす・世界規模での生産を見直す
↓
過去の世界の趨勢 (費用対効果、効率性の追求)
↓
リスク回避と「レジリエンス」(困難な状況に陥った時に発揮できる強靭さと回復力)に重きをおいた政策に転換せざるを得ない。
↓
世界経済の光景は全く違うものになるはず⇒ 「ニューノーマル2.0」の経済
米国バイデン政権も徐々にこの方向へ舵を切りつつある。高額所得者への税率の引き上げなどの政策は、【包摂的経済成長】を目指す政策の一つ。コロナ後の世界は、持続可能な社会をどう構築するか、レジリエンスをどのように育成するか、に焦点を当てた政策を選択せざるを得ない状況になっている証左だろう。
今回の総裁選でも岸田文雄が「新自由主義的経済の見直し」を主張していたが、中身のあまりない政策で、他候補との論議も深まっていなかった。
それより、立憲民主党の枝野党首が提示した“1年間 年収1、000万円以下の国民の税の徴収を行わない”という政策と“消費税を5%にする”という政策の方がはるかにインパクトもあり、包摂的経済成長という概念にふさわしい。
「レジリエンス」=「困難な状況に陥った時に発揮できる強靭さと回復力」の処方箋を作成するためには、現在困難に陥っている国民をまず救済する事が重要。この視点で、次の総選挙の各党の政策をよく見る事が重要になる。
🔶安全保障上の問題
世界中がパンデミックの対処で右往左往しているが、今世界では、米中の覇権争いが過熱。一触即発の危機を孕んでいる。第三次世界大戦という薄氷の上を歩いているような危険な状況にある。
この不安定さの要因は、米国の覇権力の低下と中国の台頭である。
この掲示板で何度も指摘したが、覇権国家が衰え始め、覇権を守るのが難しくなった時が一番危険。これまでは、多少の問題は笑って見過ごせる余裕があった。しかし、国力が衰え始めると、そう言う余裕はなくなる。そうなると、覇権国家の負の部分が表に出始める。傲慢で、居丈高で、自分勝手で、他国の都合など配慮する気持ちの余裕がなくなり始める。
トランプ時代の米国はこういう外交を行ってきた。“もう世界の面倒を見るのは止めた。俺たちは米国の事しか考えない”という孤立主義へ逆戻りする外交方針へ転換した。
バイデン大統領は、トランプの孤立主義から、【同盟国を大切にする】という外交方針へ転換すると言っているが、トランプ大統領時代に失った米国の信用を取り戻すのは容易ではない。
先に紹介した中国の【デカップリング】政策は、米国の対中国敵視政策の圧力にたまりかねた中国が、対米自立政策に舵を切ったものである。
本来、中国は、米国の覇権を容認しつつ、対米貿易で大きな利益を上げ、国力を増強しようという戦略を取っていた。米国との決定的な対立は、国益にならない、というのが中国の基本的立場だった。
しかし、覇権喪失の崖っぷちに立っている米国には、中国が今以上に力をつけるのを黙ってみている余裕はない。米国の持っている安全保障上の力(同盟関係、条約、軍事力などなど)を全て対中国に振り向け始めた。アフガン撤廃もその一環。結果、NATOとの関係にひびが入り始めた。
(1) NATOとの関係
現在のNATOとの関係を象徴的に示しているのが、①アフガニスタンからの撤兵問題 ②豪州の原子力潜水艦購入を巡るフランスとの関係悪化 ③ノルドストリーム2完成阻止のため課していた制約を撤廃、などの問題である。
●アフガニスタンからの撤兵問題
アフガニスタン撤退決定時の米兵の数⇒2,500人 NATO兵士⇒約7,000人
バイデン大統領の撤退命令⇒アフガン政府の通知やNATOとも調整し損ねていた。
撤退を巡るNATO軍の混乱はきわめて深刻。
簡単に言うと、アフガン戦争を始めたのは米国。タリバン政権が倒れた後のアフガン国内の治安維持活動などの多くをNATO派遣の兵士たちが行っていた。(米軍は主にタリバン残党やアルカイダなどのテロリストとの戦闘を担っていた。)イラク戦争の時、日本の自衛隊が担った任務をNATO兵士たちが担っていた。
米国の戦争も20年だが、NATO軍の戦争も20年になる。米軍にとって、NATO軍はそれだけ重要な同盟軍であり、一心同体でなければならない存在。その同盟軍にさえ、米軍撤退についてきちんとした連絡が行われてなかった。米国にとってNATOの存在が軽くなっている一つの証左である。
●豪州の原潜購入を巡るフランスとの関係悪化
豪州は潜水艦の艦隊を編成するため、仏から12隻の潜水艦を総額900億ドルで購入する計画だった。これを破棄し、米国と英国の技術を使って原子力潜水艦を建造する事にした。仏政府は、烈火のごとく怒り、米国と豪州から大使を召還した。
この問題は、NATOに深刻な危機を引き起こした。仏外務大臣ジャン=イヴ・ル・ドリアンは、われわれは「背中を刺された」と表現した。「我々はオーストラリアと信頼し合える関係を確立していたが、この信頼は裏切られた」と述べた。
この背景には、米国+英国+豪州というアングロサクソン三ヶ国が、中国を仮想敵国とする軍事同盟AUKUSAを組織する事を計画、豪州の米国・英国からの原子力潜水艦購入は、その一環であろう。
元NATOの常任理事だったピーター・リケッツはAFPで以下のように述べている。
・「この動きは、NATOとNATO同盟諸国に対するフランスの信頼に確実に悪影響を及ぼし、従って、ヨーロッパの戦略的自立に向かう、彼らの意欲を強くすると思う」
・「NATOは信頼に依存しているのだから、NATOに損害を与えるだけだと私は思う。早急に修復作業を始める必要がある。」
・「フランスやドイツや他のヨーロッパ諸国は中国の経済パートナーになりたいと望んでいる。彼らは新冷戦を始めるアメリカの取り組みを、他の問題からの全く無用な逸脱と見ている。」
要するに、米国が始めようとしている中国との間の【新冷戦】そのものに対して、EU各国は冷ややかな目を向けている。簡単に言えば、大きな迷惑だと言うわけ。同時に、それはNATO各国の思惑に大きな影響を与えるはずである。バイデン大統領の【同盟国】を重視するという発言の信憑性が疑われる事態だと言わざるを得ない。
●ノルド・ストリーム2完成阻止のため課していた制約を撤廃
米独の懸案だった「ノルドストリーム2」について、米独との間で合意に至った。
[ワシントン 7月21日 ロイター]
・・・・
- 米国とドイツは21日、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」を巡る合意を発表した。ロシアがウクライナや中東欧諸国に打撃を与えるためにエネルギーを武器として利用した場合、ドイツは独自の対応を行うほか、欧州連合(EU)に対し制裁導入を働き掛ける。
総工費110億ドルの同パイプラインは98%がすでに完成。ロシア北極圏からバルト海を通してドイツに天然ガスを供給する。米国はこの計画に反対していたが、バイデン政権は制裁措置で同パイプライン計画を完全に頓挫させない道を選んだ。・・・・・・
この決定は、少なくとも、米国がロシアとの間の「新冷戦」を即座に始めるつもりがないことを意味すると同時に、米国の安全保障政策の力点が対中国に移った事を意味する。NATOから手を引くというわけだ。と言う事は、EU各国とロシアとの関係の改善を意味する。
この決定はNATOの弱体化とパラレルの問題だと考えた方が良い。
■ 米国・英国の長期的「世界戦略」の要諦(地政学的発想)
米国+英国は、ユーラシア大陸の周辺部を支配。(欧州、中近東、南アジア、東南アジア、東アジア)
内陸部を締め上げる⇒不安定化させる。(アフガニスタン紛争、オレンジ革命、ウクライナ問題等々)
↓
最終的にはロシアを制圧する。現在は、それに中国が加わる。
違う言葉で言うならば、海洋国家VS内陸国家の図式である。
現在の世界情勢を読むとき、アングロサクソン連合とでもいうべき米国・英国の焦りの顕在化を見逃す事はできない。
覇権国家米国の凋落と共に、かっての栄光が色あせ2流国家に転落しつつある英国の焦りも加わり、新たに覇権争いに名乗りを上げた中国封じ込めにやっきとなっている。特に、EUを離脱した英国は、活路をアジアに求め、日本などとの連携(軍事的にも)を深めようとしている。
この流れから独仏を中心としたEUやNATOの重要性が薄れ始めているため、上記のような問題が噴出し始めている。21世紀の世界の趨勢を巡る権益争いがますます激しくなることは容易に予想できる。
この流れの中で日本はどう生きるのか、が問われている。今回の自民党総裁選の世界認識論議の浅さは、この困難な時代を生き抜けねばならない日本にとって致命的。アプリオリ(先験的)に米国追従の姿勢を示すことでしか生き残れない自民党の政治家のあり方で良いのか、が問われている。
(2)アジアとの関係
米国は、安全保障の最重点政策として、中国との「新冷戦」(中国封じ込め=中国包囲網形成)政策に明確に舵を切った。
この政策変更に伴い、上で指摘したように、NATOとの関係なども見直しの過程に入った。クリミア半島を巡って、一時険悪な関係に入りかけた対ロシアとの関係も、バイデン・プーチン会談以降、小康状態に入っている。
米国は、安全保障の力点をアジアに移すために、新たな軍事同盟などを構築し、インド洋から南シナ海、東シナ海、太平洋の支配を強化しようとしている。
① 「Quad」(クアッド) ⇒日本、米国、豪州,印度の4ケ国が安全保障などで協力する仕組み。
・目的⇒『自由で開かれたインド太平洋』 FOIP (Free and Open Indo-Pacific)に向けた関係強化 ⇒現実には、中国包囲網
★米国の狙い
アジア太平洋版NATOの構築⇒韓国とシンガポール、ニュージーランド、また中国の軍事的脅威に晒されている台湾やベトナムなども候補。
★現実
各国とも中国との軋轢を怖れ、参加に二の足を踏んでいるのが現状。参加している国境を接している印度もかなり腰の引けた対応に終始している。
② AUKUS(オーカス)⇒米国、英国、豪州の三ケ国による安全保障の同盟。
★目的⇒共通の利益の保護、新たな脅威への対応、軍事技術の共有
★同盟の最初の仕事⇒豪州に原子力潜水艦艦隊を創設⇒フランスとの契約破棄
「AUKUS」の狙いについては、敵対国であるロシアの政治学者で米国研究者のドミトリー・ドロブニツキー氏の解説が最も適切だと思うので、紹介しておく。
・・・・・・・
「この始まりは、オバマ大統領の時代までさかのぼる。米国はオバマ政権時に、事実上の全面的な中国封じ込めを目的とした『アジア回帰』を開始した。米国は以前、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイとの条約は、この戦略的回帰の要だと発表した。したがって米国の同盟国は、中国封じ込めの影響下に引き入れられた。そして、トランプ政権下では封じ込めが主に経済的方向に集中していたが、現在は軍事的要素があらわれた。これは予想されていた。英国のEU離脱後の外交および防衛政策の新たな概念でも、インド太平洋地域への軸足のシフトが宣言されている。そしてオーストラリアは、英連邦の一員として、インド太平洋地域における中国封じ込めへの包囲網を強化するために最も適した国だ。・・・・・・・スプートニック・・・
🔶結語
以上、様々な視点からコロナ後の世界を俯瞰してきた。
現代の世界の状況は、覇権国家米国の影響力の低下、新たな覇権国家としての中国の影響力の増加、コロナ後の世界経済の減速、世界的な環境悪化による台風、大雨、洪水、地震・津波の被害の拡大、旱魃、バッタの被害などによる食糧危機の増大などなど問題が山積みしている。
どれ一つ取っても簡単に解決できる問題はない。ある意味、【人類の危機・地球の危機】の時代だと言って過言ではない。
その中で最も差し迫った危機は、米中対立の激化による「第三次世界大戦」の危機である。もし、台湾海峡での米中衝突が現実化したら、米軍基地が密集している日本の被害は、半端ではない。第二次世界大戦の被害の比ではない。
今の日本人は忘れているが、中国大陸で日本人が行った蛮行を、中国人は忘れていない。もし戦争が始まれば、過去の忌まわしい記憶が蘇り、報復の感情が増幅しても不思議はない。これが日本の被害をさらに拡大すると考えておかねばならない。
米国に隷属するとは、そんな被害を覚悟すると言う事である。いざ戦争が始まってそんな気持ではなかった、と言っても始まらない。
これからの日本の国政を担うとは、こういう難題をどう解決するか、を背負う事である。文字通り、国民の命を背負うのである。自民党総裁選にそんな覚悟が見えたか。
もうあまり時間は残されていない。脅しや忖度、同調圧力に負けた選挙をしていれば、結局自分の首を絞める事になる事を国民は知るべきである。
「この程度の国民にこの程度の政府」の言葉の重さを、もう一度噛みしめなければならない。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
流水