今月13日までUnited Arab Emirate(UAE)のDubaiにおいてCOP28が開催された。
COP28の成果を伝えることを念頭に、妥当な記事を調べていたが、一つの記事だけでは全貌を伝えること・その成果の是非を伝えることが難しそうだと考えている。
従って、幾つかの記事を何回かに分けて紹介していく予定です。
先ずはAlJazeeraからの記事を紹介致します。
この記事はCarola Rackete氏が見たCOP28の総括であり評価ですが、氏の総括と評価には現代国際社会の統治(ガバナンス)が抱えている大きな課題であるMultistakeholderism(多利害主体主義)が各所に見え隠れしており、そういう視点で極めて興味深い読み物になっていると考えます。
Rackete氏の記事をCOP28の紹介の最初に持ってきた由縁です。
このMultistakeholderismというキーワードが、今回のCOPを考えていく上で重要な背景思想の一つであると思っており、そしてこの背景思想が、COPだけに限らず現代の国際社会が抱える一国だけでは解決が困難な諸課題を国際社会が対応していく際、ある特定の有力勢力がこの思想を拠り所にし、国際社会の統治(ガバナンス)が事実この思想に沿って左右されている、と考えると現在の国際社会の流れが良く見えてくる節がある、と思っております。
という訳で、これから何回かに分けてCOP28の総括と評価を紹介していくことと、合わせてMultistakeholderismの是非や問題点をも考えていきたいと思っております。
ではRackete氏の記事を紹介します。
タイトル:気候危機から抜け出す方策・道はある。だがそれはCOPを通じて、ではない。
AlJazeera、2023年12月19日 Carola Rackete氏記す
***
世界最大規模の気候課題サミットが開催されたが、それは一種のマヤカシであり、我々に役立つものではありえない。
気候危機に対する国連締約国会議(UN Conference of Parties:COP)は今回で28回目の開催となる。そして今回の最新のCOP28の会議の最終合意文書に初めて「化石燃料の終結」という文言が載せられた。
確かにCOP28では「化石燃料への依存状態から移行していくこと」を各国に約束させることに成功はしたけれども、気候危機を真に解決できる策が設定できたかどうか、という視点からみると、COP27やそれ以前の合意内容以上の進展はほとんどなかった、と言えるのである。
即ち、2015年のパリ合意の目標である2030年までにGHG(Green House Gas)排出を43%削減すること、に対しては今回の会合出席者間で合意に至らなかった。
そしてCOP27で設立した損失と損害基金(Loss and Damage Fund:この基金は気候危機に最も脆弱な諸国に対して財政支援を行うことを目的とする)の課題に関して言うと、富裕諸国側はいかなる有効な貢献策も打ち出すことはなかったのである。
例えば、ドイツはこの基金に1億ドルの拠出を約束しているが、この額はベルリンのA100高速道路のわずか430mの距離分の建設費用と同等なのである。そしてこの金額は気候変動の結果全世界が被った損失と損害金額に全く見合う額ではないのである。事実2022年のパキスタンで発生した洪水では1739人が死亡し、200万人が避難を強いられたが、この洪水災害損害額は300~400億ドルに達したと見られている。
一方、ウクライナ戦争の結果、化石燃料生産者らは記録的な利益を得ており、そして彼らは更に生産拡大を目論んでいる。今回のCOP28には数千人の化石燃料生産者サイドのロビーストらが会合に参加している。
化石燃料生産者サイドの動向が地球の未来に大いに懸念される所であるとの我々の認識に対して、ロビーストらは化石燃料生産者サイドの動向は人類の賢明な進歩であるかのような認識を植え付ける偽装工作活動を展開していたのである。
そして今回、議長役を務めたUAE国営石油会社社長のスルタン・アル・ジャベル氏の文書が流出するという事態が発生し、その文書においてジャベル氏は化石燃料ビジネスの推進を今回の会合の中で計画していると指摘されているのである。
化石燃料生産者側は、会議の交渉の中心に公正さと正義という思想を据えるのではなく、彼らは誤った方向の解決策を推進しようとしているのである。即ち欧州全域において、企業は炭素捕捉と貯蔵技術(carbon capture and storage:CCS、CO2をその発生源で捕捉し、適切な場所に移送し埋蔵するという方式)の開発を推進しており、この推進の狙いが異常気象が進行する状況下においてさえ、化石燃料の利用を継続し続けたい、ということなのである。
しかしながら、CCS技術の有効性・効率性は不充分なものであり、コスト的にも見合わないと見られている。そして現在の実験室レベルの再現性・有効性を充分大きなスケールまで同等の性能で規模拡大させるにはかなりの時間が掛かるとも見られている技術なのである。
即ちCCSの技術開発の推進は、単に化石燃料の利用を延長し、継続したいが為の方便であり、化石燃料利用の延長による化石燃料の漏出や流失、採掘地の崩壊等の破壊的危険性が継続し続けることになり、そしてその上に権力者らが正しい判断の下でより望ましい対策を採用し、実施していくことを単に遅らせるだけの働きをするものだと言える。CCS技術への過剰な期待と依存は、地球環境を劣化させ続けることに繋がるのである。
CCS技術の推進は、ドイツの緑の党のプログラムにも見られ、Wintershall社のようなドイツ化石燃料企業もがCCS技術を推進している状況がある。
そしてCCS技術は、COP28の最終合意文書中にも組み込まれているのである。
この理由は何なのだろうか?
考えられることは、資本主義を機能し続けるために、そして欧州のGDP成長を継続させるために、化石燃料を燃やし続けることが必要だという思想であり、その思想には多くの人の生命や他の地域に住む人々の生活は含まれていない、無視されているのである。
もう一つ別の企業側の遅延戦略が炭素オフセット(carbon offsets:現在はnature-based solutions、自然に基づく解決策とも呼ばれているようだ)に対して市場を更に拡大しようとする動きである。例えば炭素オフセットの認証を発行したとしても、その80~90%はCO2排出削減に結び付いていない、とされている。かかる状況下において、オーストラリアやUKの様な諸国は、炭素市場を世界に既に拡大している。一方ECは、生物多様性クレジットと水質汚染との取引きを計画中である。
COPは一種のマヤカシであり、年が経過するほど腐敗が進行していると言える。
誰もが考える真の解決策というものは、化石燃料使用の終結であり、企業による政治支配の停止であり、化石燃料依存体質を脱却した産業構造の広範な構築である。
幾つかの国は既にこの方向への道をたどり始めており、化石燃料不拡散条約(a fossil fuel non-proliferation treaty)推進運動を画策することで代替え策を創造している。12カ国、2000以上の団体、そして60万人以上の人々が、このキャンペーンを後押ししている。これら12カ国とは、気候変動の悪影響を最も受けている国々なのである。
ヨーロッパでのこの条約の意味する所は、化石燃料に関する新規インフラへのこれ以上の投資を行わないこと、時代遅れの内燃エンジン自動車の迅速な停止、そして生態系に合致した農業(ecological agriculture)に向けて工業生産型肥料の代わりに天然素材を利用する肥料への転換ということである。
この方向に展開していくには、グローバルノースの各組織や団体や人々が立ちあがり、各国政府が行動に参加するよう圧力をかけていくことが必要とされるのである。
EUは、明らかにその富を共有化することには関心を持ってはいないが、しかしEUは国連が到達した合意よりも先進的な政策パッケージの一つであるグリーンディール政策を少なくとも実行しているのである。ただしこのグリーンパッケージ政策は間違った目標を設定しており、即ち持続可能な方向に発展していくのでなく、経済を発展させていく目的の為に、グリーン化へ転換を図っていくという構図になっている。そして近年、EUの政策は「悪い」状態から「更により悪い」状態へと悪化する方向になって来ている。
最近の数カ月間、欧州では保守勢力と極右勢力が協同してグリーンディールの最も重要な法律(自然保全法と殺虫剤使用削減の為の持続可能な利用規制)のいくつかを葬り去ろうとしている。
この保守と極右勢力の協同体制が強化されたり、6月予定の次期議会選挙の結果、協同体制が多数派となれば、EUの各組織が化石燃料終結に向かう動きを維持することは、ほとんど期待できないものとなるだろう。次期EU議会選挙の結果が最も懸念されるところであり、EUの決定の重要性を人々が深く認識して、投票行動に結びつける必要がある。
結局のところ、変化を推進していくのはCOPやEU委員会からもたらされてくるのではない、ということである。変化というものは下からわき上がって来るものである。
我々は企業による乗っ取り(corporate takeover)に対し、抗議活動に参加が望まれる。そして極右勢力の台頭に対しても抗議活動に加わることが望まれる。我々は、人間中心の生態系に合致したシステムに移行するため、下からの動きを加速化していくことが望まれ、そのための共同行動を構築していく必要がある。
我々はCOPで提示される誤った解決策には慎重に対応していく必要があり、そして化石燃料を終結させるためグローバルサウスの行動の先頭に加わることが求められている。-
***
以上がCarola Rackete氏から見た今回のCOP28の総括議論です。
表題の地球沸騰化時代を考える際、重要なキーワードとしてCOPとMultistakeholderismの二つを挙げました。
COPについては更に説明の必要は無いと思いますが、Multistakeholderismについては最後に少々説明を加えておきます。この言葉の説明も簡単に纏めることが困難なものであるということを、先ずはことわっておく必要があります。
これから数回に分けて今回のCOP28の説明を行いますが、その中の情報等も参考にこのキーワードの存在を意識して考えてもらえれば、と思います。
Multistakeholderismの最初の説明として、京大の久野秀二氏の「持続可能な食農システムへの転換:グローバルヘゲモニーと対抗的実践との相克(農業経済研究94巻91-105、2022年)」中にある部分を引用させていただきます。
***
マルチステークホルダー主義は、1980年代以降に強まった新自由主義的グローバリゼーションの産物である。加盟国からの拠出金に依存する国連システム等の多国間機関が財政難に陥り、多国籍企業の資本力、とりわけBMGF(Bill & Melinda Gates Foundation)等の民間財団の資本力に依存せざるをえない状況が背景にある。更に世界経済フォーラム(World Economy Forum)の影響力が増し、彼らが多国間主義(Multilateralism)から多(利害関係)主体間主義(Multistakeholderism)への転換を構想した「Global Redesign Initiative」が着実に実行に移されてきたという点も重要だ。
マルチステークホルダー主義の問題点としては、
1. 多様なステークホルダーが水平的な関係においてグローバルガバナンスに参加するとはいえ、それが包括的・民主的である保証はなく、むしろ現実に存在するステークホルダー間の構造的な権力格差が曖昧にされてしまう。政府・国際機関を除いてガバナンスのプロセスに積極的・恒常的に参加できるステークホルダーは自ずと多国籍企業・産業団体や主流の国際NGOに限られる。規制する側(政府)とされる側(企業)、権利保持者(人々)と義務履行者(政府)と潜在的権利侵害者(企業)の立場上の違いも、同じカテゴリーに括られることによって曖昧にされてしまう。
2. コンセンサスが前提されており、熟議の末に採決が行われるような意思決定の手続きを要しないガバナンス手法であるため、「すべてのステークホルダーが合意できる合理的な解決策」という名目で、課題解決の方向性や手段を技術的・脱政治的に限定し、より構造的・根本的な転換を要求するような反対意見や少数意見は最初から排除される傾向にある。
3. 総じてグローバルガバナンスの断片化が生じ、透明性と説明責任の欠如も相まって、実際に何が議論され、何が行われているのかが外からは見えづらい、いわばガバナンスの迷宮が出現している。
***
前回のキーワードのAGRAとAFSAに合わせて更に説明すると、マルチステークホルダー主義の具現体組織がAGRAといえる。AGRAの訴求するグローバルガバナンスにおいては、国連機関(そもそも元国連事務総長のアナン氏がAGRA初代代表)や政府間組織、農業研究機関(矮生小麦や矮生コメの開発化とその実践)、国際NGO、農業団体、民間財団(BMGFやロックフェラー財団)、民間企業(多国籍肥料企業や農薬企業そして国際的種苗企業等)などの広範な関係団体を構成員に加えたマルチステークホルダー型のガバナンスプラットフォーム(即ちAGRA)が設置され、特定の考え方や規範に基づく農業改革等の構造化・制度化が進められる、のである。
Multistakeholderismの考え方は、現実の国際社会の諸々の課題に対するガバナンスに既に深く広く浸透しているのが実態と言える。
Rackete氏が危惧するCOPの現状においても、アフリカの食と農のシステムにおいても(充分な「人もの金」に裏付けられたAGRAの考え方が優先的に実態化される一方で、AFSAの動きはやはり鈍いと言える)、そしてSDGsの実態においても(上位に位置している筈の人々や市民ら権利保持者が建前としてはSDGsを主導していくのが、望ましい姿であると考えたいが、やはり実態は大手建設企業らが勝手に主張する論理のもとSDGsが実態化され、推進されているのが現実と感じている)、現代の諸課題のガバナンスはマルチステークホルダー主義の考え方に浸食されている、という見方を意識することが大切ではないかと思っている。
「護憲+BBS」「 新聞記事などの紹介」より
yo-chan
COP28の成果を伝えることを念頭に、妥当な記事を調べていたが、一つの記事だけでは全貌を伝えること・その成果の是非を伝えることが難しそうだと考えている。
従って、幾つかの記事を何回かに分けて紹介していく予定です。
先ずはAlJazeeraからの記事を紹介致します。
この記事はCarola Rackete氏が見たCOP28の総括であり評価ですが、氏の総括と評価には現代国際社会の統治(ガバナンス)が抱えている大きな課題であるMultistakeholderism(多利害主体主義)が各所に見え隠れしており、そういう視点で極めて興味深い読み物になっていると考えます。
Rackete氏の記事をCOP28の紹介の最初に持ってきた由縁です。
このMultistakeholderismというキーワードが、今回のCOPを考えていく上で重要な背景思想の一つであると思っており、そしてこの背景思想が、COPだけに限らず現代の国際社会が抱える一国だけでは解決が困難な諸課題を国際社会が対応していく際、ある特定の有力勢力がこの思想を拠り所にし、国際社会の統治(ガバナンス)が事実この思想に沿って左右されている、と考えると現在の国際社会の流れが良く見えてくる節がある、と思っております。
という訳で、これから何回かに分けてCOP28の総括と評価を紹介していくことと、合わせてMultistakeholderismの是非や問題点をも考えていきたいと思っております。
ではRackete氏の記事を紹介します。
タイトル:気候危機から抜け出す方策・道はある。だがそれはCOPを通じて、ではない。
AlJazeera、2023年12月19日 Carola Rackete氏記す
***
世界最大規模の気候課題サミットが開催されたが、それは一種のマヤカシであり、我々に役立つものではありえない。
気候危機に対する国連締約国会議(UN Conference of Parties:COP)は今回で28回目の開催となる。そして今回の最新のCOP28の会議の最終合意文書に初めて「化石燃料の終結」という文言が載せられた。
確かにCOP28では「化石燃料への依存状態から移行していくこと」を各国に約束させることに成功はしたけれども、気候危機を真に解決できる策が設定できたかどうか、という視点からみると、COP27やそれ以前の合意内容以上の進展はほとんどなかった、と言えるのである。
即ち、2015年のパリ合意の目標である2030年までにGHG(Green House Gas)排出を43%削減すること、に対しては今回の会合出席者間で合意に至らなかった。
そしてCOP27で設立した損失と損害基金(Loss and Damage Fund:この基金は気候危機に最も脆弱な諸国に対して財政支援を行うことを目的とする)の課題に関して言うと、富裕諸国側はいかなる有効な貢献策も打ち出すことはなかったのである。
例えば、ドイツはこの基金に1億ドルの拠出を約束しているが、この額はベルリンのA100高速道路のわずか430mの距離分の建設費用と同等なのである。そしてこの金額は気候変動の結果全世界が被った損失と損害金額に全く見合う額ではないのである。事実2022年のパキスタンで発生した洪水では1739人が死亡し、200万人が避難を強いられたが、この洪水災害損害額は300~400億ドルに達したと見られている。
一方、ウクライナ戦争の結果、化石燃料生産者らは記録的な利益を得ており、そして彼らは更に生産拡大を目論んでいる。今回のCOP28には数千人の化石燃料生産者サイドのロビーストらが会合に参加している。
化石燃料生産者サイドの動向が地球の未来に大いに懸念される所であるとの我々の認識に対して、ロビーストらは化石燃料生産者サイドの動向は人類の賢明な進歩であるかのような認識を植え付ける偽装工作活動を展開していたのである。
そして今回、議長役を務めたUAE国営石油会社社長のスルタン・アル・ジャベル氏の文書が流出するという事態が発生し、その文書においてジャベル氏は化石燃料ビジネスの推進を今回の会合の中で計画していると指摘されているのである。
化石燃料生産者側は、会議の交渉の中心に公正さと正義という思想を据えるのではなく、彼らは誤った方向の解決策を推進しようとしているのである。即ち欧州全域において、企業は炭素捕捉と貯蔵技術(carbon capture and storage:CCS、CO2をその発生源で捕捉し、適切な場所に移送し埋蔵するという方式)の開発を推進しており、この推進の狙いが異常気象が進行する状況下においてさえ、化石燃料の利用を継続し続けたい、ということなのである。
しかしながら、CCS技術の有効性・効率性は不充分なものであり、コスト的にも見合わないと見られている。そして現在の実験室レベルの再現性・有効性を充分大きなスケールまで同等の性能で規模拡大させるにはかなりの時間が掛かるとも見られている技術なのである。
即ちCCSの技術開発の推進は、単に化石燃料の利用を延長し、継続したいが為の方便であり、化石燃料利用の延長による化石燃料の漏出や流失、採掘地の崩壊等の破壊的危険性が継続し続けることになり、そしてその上に権力者らが正しい判断の下でより望ましい対策を採用し、実施していくことを単に遅らせるだけの働きをするものだと言える。CCS技術への過剰な期待と依存は、地球環境を劣化させ続けることに繋がるのである。
CCS技術の推進は、ドイツの緑の党のプログラムにも見られ、Wintershall社のようなドイツ化石燃料企業もがCCS技術を推進している状況がある。
そしてCCS技術は、COP28の最終合意文書中にも組み込まれているのである。
この理由は何なのだろうか?
考えられることは、資本主義を機能し続けるために、そして欧州のGDP成長を継続させるために、化石燃料を燃やし続けることが必要だという思想であり、その思想には多くの人の生命や他の地域に住む人々の生活は含まれていない、無視されているのである。
もう一つ別の企業側の遅延戦略が炭素オフセット(carbon offsets:現在はnature-based solutions、自然に基づく解決策とも呼ばれているようだ)に対して市場を更に拡大しようとする動きである。例えば炭素オフセットの認証を発行したとしても、その80~90%はCO2排出削減に結び付いていない、とされている。かかる状況下において、オーストラリアやUKの様な諸国は、炭素市場を世界に既に拡大している。一方ECは、生物多様性クレジットと水質汚染との取引きを計画中である。
COPは一種のマヤカシであり、年が経過するほど腐敗が進行していると言える。
誰もが考える真の解決策というものは、化石燃料使用の終結であり、企業による政治支配の停止であり、化石燃料依存体質を脱却した産業構造の広範な構築である。
幾つかの国は既にこの方向への道をたどり始めており、化石燃料不拡散条約(a fossil fuel non-proliferation treaty)推進運動を画策することで代替え策を創造している。12カ国、2000以上の団体、そして60万人以上の人々が、このキャンペーンを後押ししている。これら12カ国とは、気候変動の悪影響を最も受けている国々なのである。
ヨーロッパでのこの条約の意味する所は、化石燃料に関する新規インフラへのこれ以上の投資を行わないこと、時代遅れの内燃エンジン自動車の迅速な停止、そして生態系に合致した農業(ecological agriculture)に向けて工業生産型肥料の代わりに天然素材を利用する肥料への転換ということである。
この方向に展開していくには、グローバルノースの各組織や団体や人々が立ちあがり、各国政府が行動に参加するよう圧力をかけていくことが必要とされるのである。
EUは、明らかにその富を共有化することには関心を持ってはいないが、しかしEUは国連が到達した合意よりも先進的な政策パッケージの一つであるグリーンディール政策を少なくとも実行しているのである。ただしこのグリーンパッケージ政策は間違った目標を設定しており、即ち持続可能な方向に発展していくのでなく、経済を発展させていく目的の為に、グリーン化へ転換を図っていくという構図になっている。そして近年、EUの政策は「悪い」状態から「更により悪い」状態へと悪化する方向になって来ている。
最近の数カ月間、欧州では保守勢力と極右勢力が協同してグリーンディールの最も重要な法律(自然保全法と殺虫剤使用削減の為の持続可能な利用規制)のいくつかを葬り去ろうとしている。
この保守と極右勢力の協同体制が強化されたり、6月予定の次期議会選挙の結果、協同体制が多数派となれば、EUの各組織が化石燃料終結に向かう動きを維持することは、ほとんど期待できないものとなるだろう。次期EU議会選挙の結果が最も懸念されるところであり、EUの決定の重要性を人々が深く認識して、投票行動に結びつける必要がある。
結局のところ、変化を推進していくのはCOPやEU委員会からもたらされてくるのではない、ということである。変化というものは下からわき上がって来るものである。
我々は企業による乗っ取り(corporate takeover)に対し、抗議活動に参加が望まれる。そして極右勢力の台頭に対しても抗議活動に加わることが望まれる。我々は、人間中心の生態系に合致したシステムに移行するため、下からの動きを加速化していくことが望まれ、そのための共同行動を構築していく必要がある。
我々はCOPで提示される誤った解決策には慎重に対応していく必要があり、そして化石燃料を終結させるためグローバルサウスの行動の先頭に加わることが求められている。-
***
以上がCarola Rackete氏から見た今回のCOP28の総括議論です。
表題の地球沸騰化時代を考える際、重要なキーワードとしてCOPとMultistakeholderismの二つを挙げました。
COPについては更に説明の必要は無いと思いますが、Multistakeholderismについては最後に少々説明を加えておきます。この言葉の説明も簡単に纏めることが困難なものであるということを、先ずはことわっておく必要があります。
これから数回に分けて今回のCOP28の説明を行いますが、その中の情報等も参考にこのキーワードの存在を意識して考えてもらえれば、と思います。
Multistakeholderismの最初の説明として、京大の久野秀二氏の「持続可能な食農システムへの転換:グローバルヘゲモニーと対抗的実践との相克(農業経済研究94巻91-105、2022年)」中にある部分を引用させていただきます。
***
マルチステークホルダー主義は、1980年代以降に強まった新自由主義的グローバリゼーションの産物である。加盟国からの拠出金に依存する国連システム等の多国間機関が財政難に陥り、多国籍企業の資本力、とりわけBMGF(Bill & Melinda Gates Foundation)等の民間財団の資本力に依存せざるをえない状況が背景にある。更に世界経済フォーラム(World Economy Forum)の影響力が増し、彼らが多国間主義(Multilateralism)から多(利害関係)主体間主義(Multistakeholderism)への転換を構想した「Global Redesign Initiative」が着実に実行に移されてきたという点も重要だ。
マルチステークホルダー主義の問題点としては、
1. 多様なステークホルダーが水平的な関係においてグローバルガバナンスに参加するとはいえ、それが包括的・民主的である保証はなく、むしろ現実に存在するステークホルダー間の構造的な権力格差が曖昧にされてしまう。政府・国際機関を除いてガバナンスのプロセスに積極的・恒常的に参加できるステークホルダーは自ずと多国籍企業・産業団体や主流の国際NGOに限られる。規制する側(政府)とされる側(企業)、権利保持者(人々)と義務履行者(政府)と潜在的権利侵害者(企業)の立場上の違いも、同じカテゴリーに括られることによって曖昧にされてしまう。
2. コンセンサスが前提されており、熟議の末に採決が行われるような意思決定の手続きを要しないガバナンス手法であるため、「すべてのステークホルダーが合意できる合理的な解決策」という名目で、課題解決の方向性や手段を技術的・脱政治的に限定し、より構造的・根本的な転換を要求するような反対意見や少数意見は最初から排除される傾向にある。
3. 総じてグローバルガバナンスの断片化が生じ、透明性と説明責任の欠如も相まって、実際に何が議論され、何が行われているのかが外からは見えづらい、いわばガバナンスの迷宮が出現している。
***
前回のキーワードのAGRAとAFSAに合わせて更に説明すると、マルチステークホルダー主義の具現体組織がAGRAといえる。AGRAの訴求するグローバルガバナンスにおいては、国連機関(そもそも元国連事務総長のアナン氏がAGRA初代代表)や政府間組織、農業研究機関(矮生小麦や矮生コメの開発化とその実践)、国際NGO、農業団体、民間財団(BMGFやロックフェラー財団)、民間企業(多国籍肥料企業や農薬企業そして国際的種苗企業等)などの広範な関係団体を構成員に加えたマルチステークホルダー型のガバナンスプラットフォーム(即ちAGRA)が設置され、特定の考え方や規範に基づく農業改革等の構造化・制度化が進められる、のである。
Multistakeholderismの考え方は、現実の国際社会の諸々の課題に対するガバナンスに既に深く広く浸透しているのが実態と言える。
Rackete氏が危惧するCOPの現状においても、アフリカの食と農のシステムにおいても(充分な「人もの金」に裏付けられたAGRAの考え方が優先的に実態化される一方で、AFSAの動きはやはり鈍いと言える)、そしてSDGsの実態においても(上位に位置している筈の人々や市民ら権利保持者が建前としてはSDGsを主導していくのが、望ましい姿であると考えたいが、やはり実態は大手建設企業らが勝手に主張する論理のもとSDGsが実態化され、推進されているのが現実と感じている)、現代の諸課題のガバナンスはマルチステークホルダー主義の考え方に浸食されている、という見方を意識することが大切ではないかと思っている。
「護憲+BBS」「 新聞記事などの紹介」より
yo-chan