老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

伊坂幸太郎「火星に住むつもりかい?」

2015-03-16 10:56:26 | 暮らし
伊坂幸太郎「火星に住むつもりかい?」を読みました。

この物語は架空の日本、仙台が舞台です。「平和警察」という組織が権威を振るい、各地交代制で「テロリスト」の疑いをかけた人をあぶり出し連行します。一度疑いをかけられたら、拷問のような取り調べの果て、公開処刑させられます。その「平和警察」の捜査する地域として仙台が選ばれます。「テロリスト」の汚名を着せられた人が公開処刑される日が遂にやってきます。

「平和警察」は現実の世界の「積極的平和主義」を、「逮捕された人が誰かを通報(密告、それが真実でなかったとしても)すれば罪は問われないという制度」は「共謀罪」を彷彿とさせ、これがあながちフイクションであると言えないリアルさを感じさせられます。

事実現実の世界でも結果が全てであり、もし「犯罪を予防するため」という名目で「平和警察」のような組織ができて、結果「犯罪件数は減少している」という情報をマスコミが流し専門家が支持すれば、社会には反対の意見を言いにくい空気が蔓延るかもしれません。おぞましい「公開処刑」も、アルカイダやイスラム国に殺害された人達に対するバッシングの酷さを思い起こさせます。

伊坂幸太郎は以前から国家権力が暴走した時の恐ろしさを主張しています。この物語でも、悪い事を企む者達はモンスターのように残虐で悪知恵が働き、人の心の弱くて柔らかい部分を狙い撃ちしていきます。

その時人々の前に現れたのが正義の味方、黒ずくめの服装で「平和警察」の前にたった1人で立ちはだかります。このヒーローが実は普通の人で、使う武器もありふれたもの。私達の身近にあり、小学生でも学校で使っています。

その力の抜けた主人公が伊坂の作品らしく、また彼を助ける「平和警察」の中の異物のような、やたらに虫の擬態に詳しい人物もどこか飄々として彼自身の姿が擬態ではないかと思わされます。

結局「正義のヒーロー」なんていなかったのです。そして「この世界はちっとも良くならない」けれど、皆が少しづつ偏った振り子をゆりもどす作業を続けて行くしかない。この世界に生きていく限りは、あっちにいったり、こっちにいったり、振り子は絶対に真ん中で止まる事はないのだからと、もしそれが嫌なら「火星に住むつもりかい?」とこの物語は言っているような気がしてならないのです。

たかが小説です。作り話です。でもハラハラドキドキ、ジェットコースターに乗っているような気分で伊坂ワールドにひたっている時、そっと背中を押されたような気がするのです。

「護憲+コラム」より
パンドラ
コメント
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