老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

「アトミックスボックス」 (池澤夏樹・毎日新聞社)

2014-06-01 11:31:53 | 社会問題
池澤夏樹氏が、3.11の後に書かれた著書「アトミックスボックス」を紹介します。

香川県から東京まで、新幹線も飛行機も車も使わないで移動する。ただの移動ではない。国家権力を相手とする逃亡劇である。

アトミックスボックスの主人公、宮本美汐の父が癌に罹患して亡くなった。若き日の父耕三は、東京で国家的プロジェクトに関わり、その仕事が頓挫した直後何故か故郷に戻って漁師になった。それから美汐が産まれ、約30年にわたり家族は国家から監視されていた事実が分かる。

父が亡くなった直後、娘の美汐に父親殺害の容疑がかけられ指名手配となる。しかし何故か美汐の手配写真は公開されない。国家権力が狙っているのは嘗て父が関わった仕事に関する機密ファイルだった。

その機密ファイルと共に美汐は逃げて逃げて、逃げ切る事が出来るのか?最初からサスペンスに満ちた展開は面白くてページを捲る手が止まらない。エンタメとリアルな社会性を合わせ持った作品を、池澤夏樹氏だから描けたのかも知れない。

特に大学で美汐がフイールドワークとしている離島の島々とその島に暮らす人々、原発と闘う祝い島の人々も出てくるが、離島の老人が国家権力に抗い美汐を逃がす様子が面白い。そこには毎日田畑を耕したり、漁にに出たり元気に暮らす老人達の、活発で丁寧な暮らしが垣間見える。

それとは対照的に、核と原子力の世界も緻密に描かれていてこの物語にリアル感を与えている。

エンディングは賛否両論あるかも知れないが、私はこれで良かったと思う。美汐を追い詰める側の人間達にもそこはかとない人間性が垣間見られるのは
、池澤氏がまだ日本という国に希望を失っていないからだろうか。

池澤氏はつくづく海と舟の作家なのだと思う。原子力と核という国を揺るがすテーマと、離島、海に潜り泳ぎ生きる人々それらを繋ぐ舟…。

福島原発事故から三年、未だに何一つ問題が解決していない今だから、ぜひ、1人でも多くの人に読んで欲しい本である。

「護憲+BBS」「 明日へのビタミン!ちょっといい映画・本・音楽・美術」より
パンドラ
コメント
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