最近のNHKは、素晴らしい。8月20日、日曜日に公開されたNHKスペシャルも素晴らしかった。
戦後すぐの東京を米国の公開した資料・映像をもとに再現したこの作品は、今まであまり知られていなかった事実やこれまであまり公開したくない事実もあえて公表し、事実を事実として提供しており、出色のできだった。
フィクシヨン(主人公が現在からタイムスリップする設定)を交えたノンフィクションの構成だったが、戦後すぐの東京の悲惨さも、何もない所で生き抜く人々のたくましさも、米軍の横暴さも、大変よく伝わった。
そして、これが一番重要なテーマだと思うのが、戦後0年には、すでに現在との連続性が垣間見えている点である。
この点にテーマを絞って書いてみようと思う。
●第一のテーマ⇒ 戦後すぐは、食糧難、物資難と言われていたが、本当にそうだったのか。
①米軍は、日本には食料も物資もお金もあると考えていた。⇒米軍の諜報機関がそのように報告していた。⇒ところが、現実に占領して見ると、大変な食糧難だし物資もお金もなかった。⇒日本の指導層は、ポツダム宣言受諾後、それらを隠匿するように指示していた。⇒陸軍・海軍・大蔵省や内務省など様々な所で物資の隠匿が行われた。この作品では、東京湾に沈められた金塊が引き上げられた場面が出ていた。⇒東京地検特捜部は、この隠匿物資を捜索するためにGHQが命じてつくられた組織。
※この隠匿物資の多くは、国民から供出されたもの。(欲しがりません、勝つまでは!という標語の下、国民はなけなしの財産を国家に差し出した)それを国家組織が私有物のように隠匿し、それが闇市などに提供された。勿論、膨大な儲けが生まれたのである。後に保守政治のフィクサーとして君臨した児玉誉士男がのし上がった要因は、海軍などの隠匿物資を隠し持っており、それを自由党などにばら撒いてスポンサーになった事がきっかけ。
●ここでも国民は良いように騙され、食い物にされたのである。
②戦後日本政府が最も恐れたのは、性犯罪の頻発である。この為、いわゆるパンパンと呼ばれた売春婦の横行もある程度大目に見ていた。(時折取り締まる)彼女たちの生態を描いて有名になった小説が、田村泰次郎の【肉体の門】であり、歌謡曲では菊池章子の【星の流れに】である。
しかし、彼女たちの相手は下士官や兵たちで、上級将校ではなかった。上級将校のお相手をする女性たちをスカウトしたのが、RAA(Recreation and Amusement Association)。日本語では、「特殊慰安施設協会」と訳されているが、体の好い慰安婦【売春婦】である。この募集を日本政府が行ったのである。一説には、5万人以上の女性が集まったようである。もちろん、本当の仕事内容は伏せていた。
まあ、従軍慰安婦がどうのこうのとか難しい議論をする人がいるが、戦後すぐの日本政府が、売春宿を経営したようなもので褒められた話ではない。
★軍の性処理の問題は、古今東西どの指導者も悩んだ問題。これを無かった事にする論は、無理がある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E6%AE%8A%E6%85%B0%E5%AE%89%E6%96%BD%E8%A8%AD%E5%8D%94%E4%BC%9A
さらに銀座では、米軍将校向けのクラブが林立。楽団と踊り子は日本人が入れたが、客としては日本人は入れなかった。たとえば、原信夫とシャープス&フラッツなどが活躍した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E4%BF%A1%E5%A4%AB
その他、雪村いずみとか江利ちえみなど戦後を代表する歌手が、歌っていた。
さらに、皇居前広場では、一般の日本女性と米兵が多く交際していた。米兵向けの雑誌などには、皇居前広場に行けば、今で言う【ナンパ】が出来ると紹介されていた。
この類の話は、あまり紹介したくない話になるが、今回のNHKでは積極的に紹介していた。「国破れて山河あり」ではないが、銃後を守った女性たちの肩には、家族や子供たちの生活がのしかかっていた。戦後の教育ではなく、戦前の教育で生きてきた女性たちだ。夫を亡くし、家も焼かれ、それでも生きていかなければならない彼女たちが出来る事は限られていた。理念や綺麗ごとだけでは生きていけない厳しい現実があった。
当時、世間を騒がせた猟奇的殺人鬼に小平義雄という男がいた。彼は、買い出しに出かけた女性に声をかけ、凶行を繰り返していた。当時の社会情勢が良く見える事件である。
https://matome.naver.jp/odai/2144133638405311001
③占領米軍の費用⇒GHQが接収した建物・家屋は約700戸。占領米軍将校などが住んだ。特に一般家屋は、当時水洗トイレなどが完備していた上流階級の家屋を接収したのが多かった。それらの生活費用の一切は日本政府が持った。銀座でのクラブ通いの費用なども日本政府が持っていた。
つまり、米占領軍の費用の大半は日本政府が持っており、彼らは廃墟と化した焼け跡の東京で優雅な生活を送ったのである。現在の駐留米軍の豪奢な生活と傲慢な姿勢は、いまだ占領軍の記憶を引きずっているのである。
美空ひばりが「悲しき口笛」で歌った「丘のホテルの赤い火も」という歌詞は、当時、占領軍の将校たちが接収したホテルや住宅が、横浜の高台にあった。夜、ホテルや家々に灯りがともり、別世界のような明るさを誇っていた。ところが、高台の下では、街灯もなく、薄暗い夜道を、帰る家もなく、とぼとぼと肩をすぼめて歩く占領下の日本人がいたのである。ひばりの歌がヒットしたのは、その光景が、戦後すぐの日本人の心象風景にぴったり合ったからであろう。
実はこの光景。黒澤明監督の作品で、山崎努の出世作【天国と地獄】で意図的に使われていたと、わたしは思っている。高台にある三船敏郎の豪華な家を毎日見ている惨めな自分の暮らしが、「誘拐」の引き金になったとしていた。黒澤明の脳裏にあったのは、戦後の米兵たちの豪奢な暮らしと敗戦国国民の惨めさの落差ではなかったか、と考えている。
わたしは、戦後の日本人、特に東京・横浜など大都会に住んでいた日本人の生きるバネが、美空ひばりの「悲しき口笛」の風景ではなかったかと考えている。その意味で、文字通りの戦後日本人の【原風景】がこの番組にはあった。
さらに、この番組が素晴らしかったのは、占領軍に擦り寄り、自分だけがうまい汁を吸おうと試みている醜い旧陸軍将校の話も描いている点である。
たとえば、服部卓四郎大佐。戦後、ウィロビーの「戦史調査部」に協力、その裏の業務として彼の命令で【日本再軍備研究機関】として【服部機関】を設立した。戦後の再軍備には、彼が大きくかかわっていた。その他、辻正信などもそうである。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%8D%E9%83%A8%E5%8D%93%E5%9B%9B%E9%83%8E
この種の問題で忘れてならないのは、NHKスペシャルでも放映された「陸軍731部隊」である。この中心人物である石井中将など関係者は、CIAやGHQ関係者と接触し、【人体実験データ】を提供するかわりに、戦争裁判からまぬかれたのである。
これについては、改めて書こうと思っているが、731部隊の研究に協力した多くの医学者(東大・京大など)は、戦後医学界の権威者として君臨した。彼らもまた、占領軍に協力し、自らの延命を図ったのである。
◎このような占領軍の費用の出方などを見ていると、現在の日米安保条約の「地位協定」の不平等さの淵源は、占領期に合った事が良く分かる。なにしろ、女性の提供まで国が行っていたのだから。
「隠匿物資」の話。米国に擦り寄る服部卓四郎や辻正信のような軍人。お前たちのためにどれだけの人間が死に、どれだけの人間が惨めで悲しい思いをしているのか、と詰りたくもなる。
・・・開戦時の陸軍の作戦は多くが、辻―服部―田中のラインで形成されることになった。
1942年(昭和17年)8月に始まったガダルカナル島の戦いにおいては、現地を視察した際、「補給路が確立されつつあり、この点について問題なし」と虚偽の報告をした。
結果、陸軍は3万人以上の部隊を投入したが、撤退できたのは僅かに1万人足らずであった。この時の約2万人の損害のうちの15000人は、餓死と戦病死(事実上の餓死)だったと推定されている。・・ウィキペデイア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%8D%E9%83%A8%E5%8D%93%E5%9B%9B%E9%83%8E
ガダルカナルの地獄の戦争を闘った兵士(たとえば、水木しげるはこの戦いで片腕を失った)からすれば、「何だ、この野郎」という話である。彼らが、国民を洗脳した「鬼畜米英」の理念はどこに行ったのか、と言う話である。
これもまた、指導者の無責任の原型のような話である。戦前賛美を続ける【日本会議】流の極右連中に問いたい。君たちは、焼け野原と化した東京を是とするのか。この責任は誰が取るのか。
この映像を見ていると、『一億総懺悔』などというまやかしの論理が、どれほど酷い論理かと言う事が良く分かる。
「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
流水