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老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3-3)

2024-10-05 09:47:20 | 環境問題
前回の『農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3-2)』において、『遺伝子という山を越えた先にあるもの:アフリカの遺伝子組み換え作物の実態と遺伝子編集技術の暗示するもの』という文献の(要旨)と(序論)部分のみの紹介を行い、次回はGE技術擁護者の訴える3つの特徴に関する擁護側と懐疑派側の論点を紹介する旨を記して前回は終えました。以下にこの擁護側と懐疑派側の3つの特徴に関する議論を今回は紹介します。

GE技術を成功裏にアフリカ大陸に普及させたいのであれば、どのような条件が必要なのかに関する議論は、今回も見送りました。また別の機会に紹介するつもりです。

では、以下に紹介を始めます。

3つの特徴(精密性・コスト・迅速性)が、遺伝子編集技術と遺伝子組み換え技術の両技術の潜在能力の説明に長く使われてきている。
これら3つの特徴を継続的に主張し続けたが為に、多くのアフリカ農民の利益が妨げられてきていたと言える。よって、これら3つの長所とされた主張を精査して調べることは意義有ることであろう。そして、制度的構造と評価基準に焦点をあてることで、アフリカにおけるGM作物の複雑な遺産から得られる教訓について学ぶことができると考える。

そして、今後GE技術に焦点が当てられるであろう今後の育種プログラムの中にGM作物から得られた教訓をどのように組み込んでいくかに関する、我々の推奨事項を最後に述べることとする。
そのためにも、遺伝子だけに焦点を絞り込み過ぎることなく、遺伝子も含めての全体的視野に立ってアフリカの農業施策全般を考えていくことの重要性を、資金提供者らや政策決定担当者らに提案したい。

【遺伝子組み換え(Genetically Modified;GM)からゲノム編集(Genome Editing;GE)へ】

1980年代後半そして1990年代初めから始まった分子内マッピング技術の発展により、科学者らは、価値ある形質に繋がる遺伝子の特定が可能となった。一方で、遺伝子の組み換え(genetic modification)技術の発展により、育種業者はある生命体の遺伝子を別の生命体へと移すことが可能となり、生殖の概念の壁が取り払われてしまった(Stone,2021)。
遺伝子技術者らは、土壌中に常在する菌であるバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus Thuringiensis,Bt菌)の遺伝子を切り取り、栽培植物に組み込むことが可能となった。
GM作物の推進者らは、この新たに達成された技術の成果は、単に作物の改質が達成できただけではなく、この新技術により貧困が削減でき、食料安全保障が改善され、経済と人類の発展が約束されることになる、との評価を広めていった(Bouis,2007;Qaim&Kouser, 2013)。
初期のバイオ技術の大半を開拓したアメリカでは、GM作物が急速に市場を拡大した。今日ではトウモロコシ・大豆・綿花の90%以上がGM作物である(USDA,2020)。
世界全体で見ても、GM作物は26の国々で2億haに近い耕作面積で栽培されている(ISAAA、2019)。
しかし栽培されているGM作物の種類は4つ(大豆・トウモロコシ・綿花・キャノーラ)のいずれかであることがほとんどである。GM作物栽培に割り当てられている耕作地の88%は、除草剤耐性機能を組み込んだ作物向けであり、その中の45%は除草剤耐性機能とともに害虫抵抗性機能を同時に組み込んだ作物である(ISAAA,2019)。

【除草剤耐性機能は、世界的に最も汎用されているモンサント社(現在はバイエル)除草剤glyphosateの散布でも枯れることがない特質をもつ種子。害虫抵抗性機能はバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus Thuringiensis,Bt菌:生物農薬として30年以上の実績を持つ)が持つ作物の葉を食べる毛虫に対し殺虫効果を持つBt菌からの形質を組み込んだ種子】

GM推進者らが、GM技術の利点を強調する例として、果物や野菜栽培を行うに当たってウイルス抵抗性の形質を導入することが有益であると主張しているが、実際に応用され利用されているケースの規模は小さい。
潜在的な価値があると見られる別の形質として日照りに強い形質や栄養成分強化に繋がる形質があるが、これらの開発は充分に為されていないのが現状である。

GM作物の研究・開発は今も続いているが、新たなバイオ技術が出現してきている。
それがゲノム編集(GE)技術であり、この技術はDNAの繋がりであるヌクレオチド連鎖上で、加える・削除する・変換する、または置き換えるといったことを行って、作物の遺伝子構造を変換する技術である。
ゲノム編集技術には幾つかの異なったやり方・道具がある(Glover et al、2020)。

これまでのGM技術では、ヌクレオチド鎖の変換はランダムに行うことしかできない状況であったのに対して、GE技術においては、ゲノム連鎖内のヌクレオチドの繋がりのターゲットとする部分に対し編集が行える、という特徴がある。

GM技術と比べて、GE技術には3つの大きな特徴があるとGE技術の推進者らは指摘する。
1 精密さ:ゲノム内のターゲットとする箇所を、高い精密度・大きい制御力で編集ができる。
2 コスト:必要なインフラ装置・設備は極めて少なく、GE処理のコストは低い。従ってGE技術は「民主的であり、ハードルの低い技術」である。
3 迅速性:GM技術と異なりGE作物には別種生命体からの外来性遺伝子物質は組み込まれない。従って、研究室レベルから上市レベルまでにクリアしなければならないハードルは、GM作物に比べて低いことから、商品化までに要する時間とコストは低いだろうとの主張である(Macnagthten&Habets,2020;Smyth,2020)。

これらGE技術を擁護し、GE技術から生れるビジネス機会の最大化を目指す人々の主張する特徴の妥当性とその主張に疑念を持つ人々の考え方・意見を、以下に詳細に検討してみたい。

第一の主張:精密さ
Charpentier氏とDoudna氏の2020年ノーベル化学賞受賞の際、スウェーデン王立科学アカデミーは彼らの開発したCRISPR-Cas9遺伝子編集技術が「極めて精密性が高い」点を強調した。植物の品種改良を行う専門家らも、この技術が従来の遺伝子組み換えの抱えていた課題を克服する「超精巧」なもの、として歓迎した。

しかしながら、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術には、実際に利用する場面において多くの複雑さが存在していることが明らかになってきている。
即ち育種家らはCRISPR-Cas9遺伝子編集技術を利用するにあたって、多くの他の技術も合わせて一緒に利用しており、例えば、最近Corteva Agriscience社は、グリフォサート耐性トウモロコシと害虫耐性トウモロコシの認可申請を欧州の食料安全機関に行っているが、これらの新しい種子は、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術と共に旧来の遺伝子組み換え(GM)技術も利用して作られているのである。更に、利用される遺伝子編集技術の種類並びに対象とする植物の種類によっては、GE技術ではあっても外来のDNAの挿入に繋がる可能性が否定できないとされる。
即ち、新たに導入を考える形質に対応するゲノムが対象とする植物に存在しない場合には意図的に外来DNAを挿入する可能性があり、またそれとは別に遺伝子編集技術の工程中、意図はしないものの副次的に挿入が起こってしまう可能性がある。例えば国際熱帯農業研究所の科学者らは、プラスミド伝達(plasmid delivery)を用いてバナナの遺伝子編集を行っているが、編集に用いた「選択マーカー(selectable marker)」がバナナのゲノムに挿入されてしまい、結果として外来DNAが組み込まれたトランスジェニック植物が作り出されたと指摘している。

CRISPR技術は、外来遺伝子の挿入が無い点で従来のGM技術とは異なるとしばしば指摘されるが、遺伝子編集(GE)作物には外来性DNAの小断片が導入され含まれてしまう可能性があり、現在良く宣伝に利用されている言説・説明は誤解を招く危険を内在していると言える。

外来からDNAの挿入は無いと主張することで、遺伝子編集作物が遺伝子組み換え作物とは別種のものだとする説明は、これら2つの技術の間に存在する不都合な類似点や重なり状況を都合よく隠ぺいしたい利害関係者らが行いがちな「目標・結果ありき」の言説戦略だと言えるのである。

第二の主張:コスト
GE技術の秀逸性を強調する主張の第二番目は、コスト面であり、この技術が植物の育種に関わる多くの人々に利用できる『民主的な技術』であるとする点である。
例えば、2015年のNature誌には、CRISPR技術が簡便であり、必要な資材の入手が容易であり、研究者が実際に行う必要のあることは、研究目的に合致するRNA断片を注文することだけで、他の資材は、通常の在庫から容易に入手でき、要するコストは30ドル未満であり、アフリカ農民らが直面する課題に対し解答を模索する開発者や技術擁護者らに対してもコスト的に参入可能な障壁の低い「民主的な育種技術」だと指摘している。
上に述べられたGE技術の特徴、例えばハードルの低さや様々な地域でも利用可能な『民主的』技術であるといったGE技術がばらまいた夢は、しかし高度の技術集約型を特徴とするバイオ技術企業が勃興し、これら大企業が取りくんだ厳格な知的所有権戦略によって残念ながら打ち砕かれてしまった。
米国における1980年のDiamond対Chakrabartyの裁判の判決により、GM作物を含む生きた生命体にまで知的所有権は効力の範囲が拡げられる事となった。
この判決により、企業間の知的所有権競争が激化し、発明競争と共に法令順守に係るコストの拡大が発生してしまった。
コスト上昇により企業間に合併の動きが起こり、1990年代前半時分には800件ほどの合併や買収やその他の戦略的合同化が農業各種資源供給企業からなる業界で見られ、10年前の1/5の企業数に減少したのである。
企業合同化の波は、知的所有権の効力を強化することに繋がり、この潮流が21世紀にはいっても継続しており、今日では4社の巨大企業(バイエル-モンサント;ケムチャイナ-シンジェンタ;BASF;コルテバアグリサイエンス)が世界の種子ビジネスの65%を支配している状況となっている。
1990年代後半、これらの多国籍企業はGM技術から得られる種子の持つ潜在能力の大きさに沸き立ち、これら種子がアフリカの貧困と飢えの解決に役立つと考え、彼らは知的所有権で守られた彼らが作成の種子をアフリカに送り込んだのである。
GM種子の第一陣は、種子ならびに必要とされる外部投入資材と一緒にアフリカの農民たちに販売された。販売された種子の価格は、アフリカの農民が扱っていた従来の種子に比べて30~40%高いものであったが、GM種子を利用する栽培法を採用すれば充分収穫高の向上でコスト的問題は無いと説明されたのである(Schnurr, 2012)。
南アフリカにおける初期のデータ(害虫耐性形質を組み込んだ綿花並びにトウモロコシ)によると、初期投資の増額以上の収穫量のアップと投入殺虫剤量低減によるコストダウン効果が出た(Keetch et al., 2005; Thirtle et al., 2003)としているがその後の長期間にわたり検討を継続した所、初期に打ち出された成功事例は、補助金並びに特恵協定による下駄を履かせたことによる結果だったと指摘されている。即ち、これら補助金や特恵協定が無い状況では、GM種子に付随するコスト高はアフリカ農民にとっては採用を躊躇する事態に繋がることが証明されている(Schnurr, 2012)。
2008年Fischer らは、南アで販売の害虫耐性Btトウモロコシが、当時小規模農家が通常購入していた認可済み種子に比べて5倍高いことを認めている。一方、2019年のデータによると、GMトウモロコシ種子が通常手に入る種子に比べて10倍高いとしている(Fischer,2022)。
知的所有権の制約と種子の高いコストが第一世代のGM種子の採用の妨害になっている。
この状況の下、これら採用の障害となっている制約に縛られないアフリカの主要作物のアフリカ版遺伝子組み換え作物の作成に向けた協調的な取り組みが発生している(Schnurr,2015)。21世紀に入りロックフェラー財団は巨大バイオ企業と提携してアフリカ農業技術財団(the African Agricultural Technology Foundation, AATF)を設立し、民間の種子会社とアフリカの科学者の間の協定を仲介し、これら協定のもとでアフリカの農家が知的所有権の制約から利用が妨げられている技術を利用できるようになることを目指したのである(Schnurr, 2017)。
AATFとその支援者らは、害虫・疾病・干ばつに強いイネ・ササゲ・トウモロコシなどのアフリカの主要穀物の遺伝子組み換えの開発に着手している。しかし、ビル&メリンダ・ゲイツ財団(BMGF)を始めとする強力な援助機関の支援にも関わらず、アフリカ農家向けに特別に設計され、アフリカ農家が利用可能な遺伝子組み換え作物の作成を目指す運動の結果はまだ実現していない。
AATFは巨大アグリ企業とロイヤリティー無しのライセンス契約を交渉しているが、AATFが仲介するPPP(官民連携)の動向は鈍い。
2022年時点で、これらプロジェクトのうち商業化の段階に達したのはナイジェリアのBtササゲの一つだけであり、化学的及び規制上の障害物に足を取られているプロジェクトは、アフリカ向け節水トウモロコシ・ウガンダの栄養強化バナナ・ウイルス耐性キャッサバなどである。
こうした継続的遅延は、アフリカの科学者らや農民の利益を優先するのでなく多国籍企業の利益を優先する姿勢であり、国際的資金供与団体からの資金供給の不安定さであり、バイオ技術に対する寛容な法律の存在であり、そしてPPP事業を遂行する国家が適切な規制政策を欠いているもとでのPPP事業遂行がプロジェクトの停滞を生んでいると考えられる(Schnurr, 2018)。
1990年代の企業統合化の流れと既存のGM技術をアフリカ諸国に適応しようと試みた過去の歴史を顧みれば、GE技術の持つ低コスト性という特質がアフリカの農民らの手ごろな利用に結び付くだろうと主張する技術擁護者らは、立ち止まって考えるべき時だと考える。
現在、展開中のアフリカ固有の作物のGE版作物のなかで、アフリカの研究機関や高度学術団体内で検討されているプロジェクトはほとんどないのである。
更に問題な点であるのは、各種組織がGE技術の様々な場面で知的所有権争いを展開している環境のもとで、知的所有権の規則が製品のコストや利用法にどう影響をするのか、研究や研究のデザインにどのように影響するのか、ゲノム編集に必要な材料・機材・材料への入手性にどのように影響があるのか、等で様々な疑問が残されているのであり、これらさまざまな疑問というものはそもそもGM技術の開発展開時にも存在していたものなのだ(Martin-Laffon et al., 2019; Montenrgro de Wit, 2020)。
GE技術の特許出願は、2005年以降15倍以上に増加している(Brinegar et al., 2017; Graff and Sherkow, 2020)。学術機関と企業組織が急速に知的所有権を申請していることは、「基本的な研究手段と考えられるものが、成立する知的所有権の支配下に置かれ、それにより技術の展開や利用性に障害が出る可能性の有ることを科学者らや法律専門家らは危惧している(Egelie et al., 2016)。
GM技術をめぐる知的所有権制度の時と同様は、GE技術の知的所有権化は、ゲノム編集における将来の人道的及び公共の利益のための活動領域を限定することになる。
コルテバ・アグリサイエンス社所有のCRISPR関連の知的所有権の占める領域は広範であることから、今後この領域の技術や構築物の知的所有権を追求する如何なる活動組織もコルテバ・アグリサイエンス社との間でライセンス協議の必要性がある(Egelie et al., 2016)。
現在進行中の知的所有権取得の動向は、GM技術の利用時に生じたことと同様に、GE技術に関しての企業支配の集中化を引き起こす可能性がある。
CRISPR技術の知的所有権化の動向と本技術の利用性が、今後「衝突を引き起こすか、または協調化が起こるか」は、今後の動向を見ないと判断できない状況ではある(Sherkow, 2018)。GeorgesとRay(2017)は、「大企業が利益最大化のために課す知的所有権による支配という構造に対する心からの怒りというものが、GE作物を社会的に受け入れる際の最大の障害物となる」として、「政府は、知的所有権の権利に対する合理的な規制をもとにGE作物をコントロールしていくことが求められる」と指摘している。より規制を強めた対応を政府が取らなければ、GE作物はコストの高さや知的所有権に係る協定上の制約からその利用性は限定的なものになるだろう。

第三の主張:迅速性
ゲノム編集を支える3番目の主張は、技術的設備と実験室的研究段階から市場に上市するまでの時間が、GM技術に比べて早いとする点である。
従来の植物育種は通常「本質的にランダムであり、近縁種に望ましい形質があるかどうかに制約されていた」と考えられている(Barrows et al., 2014)。
20世紀後半にGM技術が登場した時、従来の育種では「最低でも7年から10年」かかっていた形質改良プロセスをGM技術では5~6年に短縮できると称賛された(Sharma et al.,2002)。
しかし、GE技術の登場によってGM技術は今では遅い・扱いにくい・面倒だと言われるものになっている。目的の遺伝子の特定と分離、そして特定評価が多くの場合「時間がかかるもの」とされ(Jacobsen et al., 2013)、一方、戻し交配と選択による標的形質の導入は、育種プロセスを遅らせるもう一つの「制限要因」である(Wolter et al.,2019)。
それとは異なり、GE技術は「一世代の中で、複数の有益な形質を選別した遺伝子鎖の中でピラミッド化することが可能となる」、よって育種工程の必要時間は半減することができるとされる(Gao,2021)。
GE技術擁護者たちの二番目に主張する点は、GE作物には対象とする作物とは別の種類の外来生命体からのDNAの導入が避けられていることであり、この外来生命体からのDNAが取り込まれていないことから、いわゆるトランスジェックDNAが含まれているとされたGM作物の市場化が非常に煩雑な規制上のハードルをクリアしなければならないことから遅れたという事実を、GE作物は回避できると指摘しているのである
バイオ技術擁護者らに広く行きわたる意見として、GM作物はアフリカ大陸において過剰に規制を受けており、技術の利用化や革新化を妨げるものである、という考えがある(Qaim 2020;Smyth,2020;Thomson, 2021)。
擁護者らの不満は、バイオ技術に対する安全規制法が禁止的であり慎重な側面を持っていること、安全規制を司る組織の資金不足の点と植物育種と規制監督の両方の能力構築の不足が原因しているとされる(Nang’avo et al., 2014)。
しかし擁護者らは希望は捨てておらず、ゲノム編集技術が先のGM技術の轍を踏むことなく、ハードルをクリアできるものと考えている(Lassoued et al,2019; Waltz,2019)。
このことはどの位信憑性があるか?
GM技術が登場した初期のころ、擁護者らはGM技術に対し起こるであろう懐疑論の大きさを過少に評価していた。
2000年債の初めごろ、アフリカ諸国でバイオ技術を規制する如何なる法律も、また国内に規制する組織を持っている国もほとんどなかったのである。
各国政府・BMGF・ロックフェラー財団や米国国際開発庁を含む世界の開発資金供給機関は、直ちに地球環境ファシリティー(the Global Environmental Facility)やバイオセーフティーアフリカ専門家ネットワーク(African Biosafety Network of Experrise)やバイオセーフティ-システムプログラム(Programme for Biosafety Systems)等の専用プログラムを立ち上げることで、各国の法制整備・国家バイオセーフティ-機関の設立・規制当局者たちの訓練の支援活動を進めていった。
バイオセーフティ-に関連する規制当局は中立性が求められるものであるが、推進されたバイオセーフティ-法や機関は遺伝子技術を擁護する性格を持つことを要請されたことから、バイオ技術の規制と推進と間の線引きがあいまいになるという事態が起こった。
資金供与国や供与団体らは、これらの活発な活動や遺伝子組み換え作物(GMO)プロジェクトへ資金提供や熱心な戦略的情報操作を駆使することで、アフリカ大陸全体にバイオ技術を受け入れる政権を持つ国家を作りだすことができるとの信念を持っていた。
だが、事態はそんな単純なものではなかったのである。
アフリカ各国政府は開発を推進していく上で、そしてバイオセーフティ-規制を運用していく上で、主権の行使を行い、例えばエチオピアやウガンダではバイオ技術を推進するのでなく、むしろ規制をかける方向の法律を施行していった。
それに加えて、アフリカ大陸全体で生物多様性アフリカセンターやアフリカ食料主権同盟が実践する社会運動が推進され、それらの社会運動ではGM作物の利用だけでなく、これら革新技術が内蔵する開発や自由化自体の構造的問題そして革新技術の世界規模への拡大化に内在する世界規模で存在する格差問題にも疑念を提示するのである(Rock 2019)。

この論文執筆時点では、ゲノム編集技術を既存の法律または新しい法律に組み込むことを考えているアフリカの国はほとんどないと言える。
ゲノム編集に焦点をあてた規制を策定しようとした国は3カ国のみであった。
ケニアとナイジェリアはどちらも、「新規の遺伝子の組み合わせを持っていない製品に対してはバイオセーフティ-規制から除外するとかケースバイケースに審査するといった」より寛容的なアプローチを選択している(Komen et al., 2020)。一方、南アフリカは2021年10月に以前のGM作物と同様の危険性評価を遺伝子編集作物に課すことを宣言している。
規制制度・規制体系がアフリカ大陸ではバイオ技術の推進に役立つのではなく、むしろ推進を妨げていると、多くのバイオ技術推進派が信じているということを前提にすると、多くのGM作物が陥ってしまった落とし穴を避けて、承認プロセスを推進するためには、外来性DNAを含有するものと含有しないものを明確に分別する規制体系を、バイオ技術推進派は擁護するだろうことは充分あり得ると思われる。
かかる規制体系がアフリカ諸国の政治家や市民らに受け入れられるかどうかは、また別の話ではある。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

雷雨と豪雨が、今までの予測・常識をはるかに超えて激甚化する社会

2024-08-26 14:10:14 | 環境問題
最近毎日のように、どこかで線状降水帯が発生したとの注意を喚起する情報が流される。
昨日は確か栃木あたりに発生していたと記憶する。

世界を見ても、豪雨による洪水被害の報道が多く為されている。ここ数日で見ても、例えばバングラデシュで現在洪水被害が発生している。

以前パプアニューギニアの地滑りに関連する記事を紹介したが、その際、それぞれの地域の地形というものは、その地域の従来の気象条件との間に微妙なバランスがあり、そのバランスの上に地域の地形は成立し、保全されており、もしこのバランスをとっている一方の要素の気象条件が従来と全く違った場合には、その変化した状況との間に新たなバランスを構築しようとする力が働き、パプアニューギニアの場合は地滑りが発生することに繋がったと紹介しました。

今回線状降水帯や雷雨・豪雨の背景にあるメカニズムを紹介する記事があり、紹介してみたいと思います。

参考にした記事は、次の2つになります。
1.過剰に充電された雷雨:気候変動により引き起こされる異常な降雨や洪水を甘く考えていないだろうか?(原題:Supercharged thunderstorms: have we underestimated how climate change drives extreme rain and floods?: The Conversation 2024 May 9 written by Andrew Dowdy et al)
2.致命的な洪水が発生し、バングラデシュで数百万人が孤立している(原題:Deadly floods leave millions stranded in Bangladesh: AlJazeera 2024 Aug 23・25)
記事の忠実な紹介ではなく、大意を伝えるものです。

先例を見ない洪水を紹介する記事の中に、気温が1℃上がるごとに大気の湿度は約7%増えるという記載を良く目にする。
この7%増加という数字は、丁度今から200年前にフランスの技術者Sadi Carnot氏が行った研究の中に記されているという。

そして現在我々は、Carnot氏が1℃上昇ごとに7%湿度が上がるという事実以上の情報を手にしている。それは大気中に蓄えられた気体の水蒸気が雨粒へと凝縮する際に熱が放出されるということであり、この放出された熱が原因して雷雲中に強い上昇気流が発生し、周辺から更に湿気に富んだ空気を取り込んでいくことにより、更にエネルギーを増していく構図が出来上がり、結果的に今までに経験したことのない強烈な豪雨が産み出されるというメカニズムである。

このメカニズムにより発生する降水量は、気温1℃上昇当たり7%の湿度増加から予測される降水量をはるかに超え、2倍から3倍の量になるとされている。即ち気温1℃上昇で14%~21%多い降水量になる、とされているのである。

最近の例で言うと、ブラジルの洪水被害(2023年11月)やドバイの飛行場の水害(2024年4月)がある。

オーストラリアでは、最新の気象科学情報を総合的に調査し、今後の洪水事象への対応指針を作成している。この指針によると、気温1℃上昇当たり、短時間に集中的に発生する雷雨の場合、降雨量が7~28%増大すること、1日以上にわたる降雨の場合には2~15%降水量が増大するとし、これらの予測降水量は既存の従来の洪水対策指針が想定している気温1℃上昇あたり5%の降雨量増大をはるかに超える降雨量が現実の実態を表している、と指摘している。

従って、現在発生している雷を伴った豪雨というものは、我々が従来の予測をもとに対策を取っている安全基準をはるかに超える降雨量を実際にはもたらしており、洪水や地滑り・山崩れが起こり得る状況の中で我々は暮らしている、との認識が求められるのである。

バングラデシュ西部地域で少なくとも13人が死亡し、450万人に影響がでる洪水が発生している。先週金曜の当局発表によると、19万人ほどが避難所に退避し、バングラデシュの64の行政地域の内の11に影響が出ているという。

主要港湾都市のチッタゴンの北西100kmにあるフェニ地区の被害が最も大きい。

日曜の当局発表によると、洪水の峠は越え、水は引き始めているとしているが、いまだに30万人が避難生活を続けている。

災害対策担当大臣のAzam氏は「現在被害地域の通信環境の回復と食糧配布を目指す取り組みをおこなっている。合わせて伝染病被害の拡大を防止する対応も行っている」と話している。

世界気候リスク指標(Global Climate Risk Index)によると、バングラデシュは気候変動に対し最も脆弱な国の一つとされており、毎年モンスーンによる降雨被害が発生し、近年は異常気象のパターンの変化や極端な気象異常の増大が指摘されていた。

バングラデシュはつい最近数週間の政治的混乱の末に、ハシナ首相(当時)がインドに逃れ、ハシナ氏に代わってノーベル平和賞受賞者のムハンマド・ユヌス氏が暫定政権を率い、近く行われる総選挙前の民主的改革計画を推進している最中の洪水被害の発生になっている。

二酸化炭素の排出を早急に削減できなければ、人新世時代という、人が引き起こし進行し続けている異常気象の高進が要因となり、我々の想定をはるかに超す被害の甚大化が避けられないことになる。世界で頻発する事態にもっと危機感を持たなければならないだろう。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

農業と食の問題を通して世界の潮流を考える(3-2)

2024-08-12 12:59:37 | 環境問題
前回の(3-1)では、ブラジルを例として、遺伝子組み換え作物(GM作物)普及に誘導するシステムが、農業向け化学薬剤の使用量を低減化するのでなく、逆に拡大する可能性があることを示す情報を紹介して締めくくった。このブラジルの例を紹介した2024年1月13日の情報の序論部分の紹介から始めます。逐語的な訳でなく、大意を伝えることを念頭に置いています。

(序論)
ブラジルは、世界最大の食糧生産を誇る国の一つ。それに合わせて殺虫剤等農業向け化学薬剤の外部資源投入を拡大しており、2014年の殺虫剤市場規模は122億米ドルという。
2000~2012年の期間で、単位面積当たりの農業向け薬剤量は2倍以上に拡大している。

これら化学薬剤が環境及び人の健康に対し悪影響を及ぼすとする研究例は数多くあり、かかる観点からすると、ブラジルの化学薬剤拡大の方向性は懸念すべき問題である。

「世界の農業薬剤の使用量の増大傾向」と「遺伝子工学的に除草剤耐性を付与した作物の利用拡大」との間に正比例の関係が存在することを、数多くの研究報告が示している。
米国の研究では、1996~2011年の期間、GM作物の利用により農業向け薬剤が18.3万t増大している(この量は全作物への農業向け薬剤使用量の7%に相当している)。
代表的なGM作物である「グリフォサート耐性形質を付与した大豆」の栽培に限ると、除草剤「グリフォサート」の利用は1995年に年2500トンだったのが、2002年には年3万トン(12倍)へと急増している。

除草剤、2,4-Dへの耐性形質を付与した種子の開発過程で、2,4-D耐性GM種子が実現した場合、2,4-Dの使用が3~7倍に拡大するだろうとの予測がなされている。

ブラジルのGM作物は1990年代末に当初違法に導入され、2003年に正式に承認された。6種類のGM作物が承認されたが、利用されているのは3種(大豆・トウモロコシ・綿花)。

遺伝子工学的に導入されている形質は、可能性としては数多くあるが、現在組み込まれている形質は、「除草剤耐性」と「殺虫剤耐性」と「除草剤・殺虫剤の両方に対する耐性」である。

GM作物の作付面積の観点からブラジルにおけるGM作物の状況を見てみると、興味深いことが見えてくる。
即ち、今回調査した期間の最初の2003年のGM作物の作付面積は300万haであったのが、最後の2014年時点ではGM作物耕作面積が13倍以上の4220万haにまで拡大している。ブラジルの耕作可能面積は、2017年ブラジル政府発表データによると6340万haとされていることから計算すると、2003年時点ではGM作物は全耕作地の5%弱だったのが、2014年に66%を超えるまでに拡大したことになる。
一方ブラジルには、耕作面積が2ha以下の小規模農家の耕作地が全耕地の23%存在しているとされ、これら小規模農家はGM作物の採用・普及は難しいとされており、この23%分を除外して計算し直すと、GM作物は導入が容易であり可能な全耕作地の86.5%に既に浸透していることになる。
【ブラジルの耕作可能面積(ブラジル政府データ):2017年時点で6340万ha
小規模農家数:390万、小規模農家の占める耕作地面積割合:23%】

極めて強烈な浸透・拡散力がGM作物にあったことが判る。

ここに浮かび上がるGM作物が持つブラジル国内への浸透力・伝播力・拡散力というものに注目することが重要と考える。
即ち、グリフォサート耐性GM種子を開発したモンサント社のビジネスモデルの訴求力が極めて大きかったこと、並びにこのビジネスモデルを受け入れる作物生産者側の思惑が上手く合致したことの相乗効果が働いたと思われる。

次にグリフォサート耐性GM種子を開発したモンサント社のビジネスモデルの現状を紹介する情報を基に、遺伝子工学を育種に応用するビジネスモデルの功罪を見てみたい。

紹介する情報は、『グリフォサート耐性作物(GR作物)の歴史と今後の行方(原題:History and Outlook for Glyphosate-Resistant Crops; Reviews of Environmental Contamination and Toxicology,2021 June 10)』になります。要約部分の紹介です。

1996年のグリフォサート耐性作物(Glyphosate-resistant, GR作物)の登場により、バイオ技術を作物に適用する研究開発の流れが開始された。
穀物栽培等を行う生産者らが、可能な限りGR作物を受け入れたことから、農耕史上最も急速に新規技術の利用が推進され、拡大化した事例となっている。

この技術の利用は、雑草対策としてグリフォサート[N-(phosphonomethyl) glycine]利用に依存することを要件としており、グリフォサートの継続的利用により、グリフォサート耐性の雑草が経年的に発現してくることは、当然の成り行きである。
近年、広範囲に拡大しているグリフォサート耐性雑草(GR-weeds)は、グリフォサートとは別の作用機序の除草剤に対しても耐性を発現してきており、GR作物を採用し栽培している生産者らは雑草の管理方法の変更に迫られてきている。
しかし、北米と南米の生産者らは6種の主要穀物栽培に、この技術(GR作物)の利用を継続しているのである。

農業向け化学薬剤製造会社や種子開発企業らは、グリフォサートを利用する耕作法の延命を図っており、その方策としてグリフォサートと他の除草剤との組み合わせ使用の拡大策が有る。
他の組み合わせ除草剤として、グルフォシネート[4-(hydroxy-methyl-phosphinoyl)-DL- homoalanine]、ジカンバ(3,6-dichloro-2-methoxybenzoic acid)、2,4-D [2-(2,4-dichloro-phenoxy)acetic acid]、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸2酸素添加酵素阻害剤(4-hydroxyphenyl pyruvate dioxygenase inhibitors)、アセチルコエンザイムAカルボキシラーゼ阻害剤(acetyl coenzyme A carboxylase inhibitors)や他の除草剤がある。

しかしながら除草剤製造会社はここ30年以上にわたり、新しい作用機序を持つ別種の除草剤の商品化は出来ておらず、現在販売中の薬剤の能力をほぼ最大限に使い果たしてしまっているというのが、現在のGR作物栽培者らの行っている雑草管理の状況と言える。
GR作物の栽培は今日でも主流であり、雑草管理はグリフォサートに相変わらずに依存しているけれども、抵抗性を拡大している雑草の能力には追い付いていないのである。

従って栽培者らは新しい技術を切望しているものの、かかる新たな技術は見えてはいない。
GR作物の利用が進んでいない地域への利用の拡大や、6種の主要GR作物以外の例えばGR小麦やGRサトウキビを開発し利用していく方策は残されており、それなりの可能性はあるものの、モンサント社の敷いたRoundup Ready(モンサント社の登録商標名)の革新的なビジネスモデルは終了したと言える状況である。

GR作物が利用され、そしてグリフォサートで雑草対策は万全だとする農業システムにはいくつかの問題点が存在していると考える。
その一つは今見たように、栽培に不可欠な除草剤を使用することにより雑草に薬剤耐性が必然的に発生するという問題である〈雑草だけでなく害虫や植物病原菌にも耐性が起こる)。
2番目の点は、例えばモンサント社のビジネスモデルの構築には、地域農業従事者らの考えや希望が全く組み込まれないシステムで研究・開発が進行されるという事実である。当然ながら、そこには大企業の利益最大化の思想のみが反映されているのである。
更に3番目の問題点として、ビル&メリンダ ゲーツ財団に代表される慈善基金や国際開発金融機関等の存在が世界のGM作物推進の背景に有るのであり、これら組織はその大きな資金力とともに世論を形成し左右していくことが可能な情報発信力をも持っているのである。

換言すると、巨大企業は世界の小規模農家や先住民等が暮らす地域社会の声を聞かずに無視する形で革新技術を創出し、そのビジネスモデルを慈善団体や国際開発金融機関が有する資金力と情報発信力にモノを言わせて、世界に進めていく構図が浮かび上がるのであり、このビジネスモデルの浸透力と展開力の大きさは、始めに紹介したブラジルにおけるGM作物の浸透力と展開力をみれば驚異的だと言えるのである。

現在の農業には、少なくとも2つの耕作上の哲学が有ると考えている。
1つは大企業中心の革新技術の開発が先行し(革新技術開発競争主義)、それを契機にその開発されたビジネスモデルの拡大化を、国際開発金融機関や慈善財団が資金力と広告力を背景にトップダウン式に各国政府に押し付けていくシステムであり、アフリカの例でいえばAGRA的システムである。
もう一つは、AFSA的・ラ ビア カンペシーナ的なシステムであり、そこでは地域に密着し、その地域条件に適った種子を含めて農耕法全般の提案を、小規模農家や地域先住民等と地域の大学や組織の農業専門家とが協働して考案・採用していくというボトムアップ式システムである。
現在は、前者のトップダウンシステムのみが優先されている状況の存在の大きさが、我々に突き付けられている課題だと考えている。
少なくとも後者のボトムアップ式システムにも充分な資金が提供される仕組みを考えていくことが重要な視点と考える。

『遺伝子という山を越えた先にあるもの:アフリカの遺伝子組み換え作物の実態と遺伝子編集技術の暗示するもの(原題Beyond the Genome: Genetically Modified Crops in Africa and the Implications for Genome Editing; Development and Change 2023年1月5日 J.Sean Rock et al)』という報告がある。
この報告では、アフリカにおける農業の今後の向かうべき方向と遺伝子技術の利用の向かうべき方向との指針となる事柄が議論されている。興味深い情報なので 次に紹介します。

この情報は、遺伝子操作技術の中でも特に最新の技法である『遺伝子編集技術Genome Editing、GE技術』が出現した現時点において、アフリカの人々が、この技術に純粋に期待をかけている実態を指摘するとともに、一方では最新GE技術に先立つ数十年前に現われたGM(Genetically Modified)技術が辿った道程の轍を、今回のGE技術が繰り返すことのないような方策を指摘することを狙っているものになります。

(要旨)ゲノム編集技術(GE技術:遺伝形質の改変を促進する植物育種技術の一種)が、アフリカの農業技術開発に従事する研究者や専門家の想像力を膨らませている。遺伝子組み換え作物(GM作物)が数十年前に世の中に登場した時分を彷彿させるものがあり、ゲノム編集は、「高い精密さ・低コスト・短期間で結果が判る」ことから育種の常識を変革する可能性のある技術として歓迎されている。

この論文では2つの事柄を取り扱っている。1つ目はゲノム編集GE技術と以前の遺伝子組み換えGM技術との関係性を考察すること、2つ目は遺伝子組み換え技術の経験から学んだ教訓を、ゲノム編集技術の今後の方向性にどのように活かしていったら良いか、に関する一連の推奨事項を提示することである。

著者らの結論は、技術開発者・開発企業や政策担当者および科学者が、地域農民たちと共同してゲノム編集技術を開発していくシステムを優先することが大切であること、そしてシステムを全体として一体的に構築していくことの重要性を意識して進めていく必要があると考えており、1990年代当時のGMシステム開発の際の『遺伝子の開発・改変のみに焦点を当てたシステム組み立て』にならないよう注意を喚起している。

換言すると、知的所有権によって使用・利用に制約と利権が発生する作物を開発対象とするのでなく、地域ごとに特有の様々な作物を開発対象として選択し、利用することで資源保有の面で劣る地域共同体の農民らにも利用可能なシステムの構築を目指すことである。

複雑であり絶えずダイナミックに変化しているアグロエコロジー型農耕システムの中で、様々な種子が重要な構成要素の一つであることを認識してシステムを構築する必要がある。
これらの考え方が組み込まれない形式での開発システムになるのであれば、そのゲノム編集技術プロジェクトは過去に起こった失敗を再度繰り返す危険が出てくるであろう。

(序論)
2018年、Foreign Affairs 誌上で慈善事業家ビル・ゲーツがゲノム編集の有用性について熱烈メッセージを述べている。
即ち「生命に宿る遺伝形質の改変操作を高速化できる植物育種技術であるゲノム編集技術(GE技術)は、従来最も脆弱な状況にある世界の農民たちを貧困から救い出す武器として有効だ。この技術の持つ可能性を失ってしまうのであれば、それは悲劇だ」と発言している。
政治家たちや政策担当者たちも同様の興奮に包まれていた。例えば前英国環境担当のMichael Gove氏はゲノム編集作物(genome-edited crops)が次に来る農業革命の推進力となるだろう、と発言している。

ゲノム編集技術が注目された事情には、2020年のノーベル化学賞がゲノム編集手段であるCRISPR-Cas9の開発者(E.Charpentier とJ.Doudna)に贈られたことが挙げられる。
ゲノム編集技術はアフリカ農業の開発・推進および転換を目指す専門家らにも刺激を与え、アフリカ大陸の農業を革新する可能性を持つ非常に大きな技術が開発された、と称えている(Komen et al 2020, Tripathi et al 2022、Mudziwapasi et al 2018, Li 2020)。

以前の遺伝子組み換え技術(GM技術)に比べて、ゲノム編集技術(GE技術)が、作物の形質転換のスピードの速さと精密さの点において優れていると、アフリカのゲノム技術擁護者らは指摘している。

これらのゲノム編集にまつわる楽観情報の流され方を見ると、遺伝子組み換え作物(genetically modified crops,GM crops)がアフリカに到来した当時のGM作物を支持する言説の流され方、説明のされかた、物語の語られかたを思い出す。

2000年代の初期、「グリーン革命」の父といわれるNorman Borlaug氏が、遺伝子組み換え技術は増大する世界人口を養っていく上で基本的に重要な武器だと主張した。
アフリカにおける停滞する収穫量の低さを改善し、小規模農民らの飢えと貧困を解決する役割を、このGM作物が担うとして、アフリカの人々もBorlaug氏が説くような話に魅せられていたのである。

GM作物に対し1.7億ドルを超す投資をし、現在もGM作物システムへの最大出資者であるビル・ゲーツ氏は、「アフリカ農民らが抱える栄養上の課題・生産性の課題・作物の疾病の課題をGM技術が解決を約束している」と主張している(Gates,2015)。
これらBorlaug氏やGates氏が謳うビジョンを実現すべくここ30年ほどの時間を使って様々な努力が為されてきたが、アフリカにおけるGM作物の現実・実態は、謳われた宣伝文句程には成果を見せてはいない。

農業バイオ技術の取得に関する国際サービス機関(the International Service for the Acquisition of Agri-biotech Applications, ISAAA)のデータによると、アフリカにおけるGM作物の耕作面積は2%以下であり、南アを除くと僅か0.3%となる。

学者らや活動家らは、GM種子の様な新しい種子技術が、アフリカ農業を如何に工業型への転換を促進するか、そして多額の資本が必要とされる中で農家らの興味を如何に優先して取りつないでいくか、の視点の重要性を指摘している。そして学者らや活動家らは、特許で守られている種子を持続可能な形で利用していくことがアフリカの小規模農家達にとっては困難であると見ている (Juma,1989;Kloppenburg 2004)。

社会科学者らもまた、アフリカにおけるGM作物栽培の拡張が妨げられる政治的-経済的要因を指摘している。それは、購入して利用する種子がコストの高い外部投入資源(肥料や農薬や灌漑設備等)を要求することであり、制約条件の多い作物管理体制を要求するものであるからである。

そしてアフリカの科学者らや農民らの介在が、研究開発段階や育種プログラム検討の時点で制限されていること、確立されている官民協力体制のシステムが、アフリカ農民の利益を優先するのでなく、技術提供企業者の利益を優先していること、そしてGM種子技術と目指すべき農業システムの目標との間の両立性を評価する方法が、妥当性を欠き不適切であること等が問題だと指摘されている(Dowd-Uribe,2014;Adenle,2014;Muraguri, 2010;Rock& Schurman,2020;Luna&Dowd-Uribe,2020)。

これらの批判的な意見の存在を踏まえての推進派と懐疑派との意見の交換が、現在のゲノム編集に絡んでの話題に欠けていることが、目立っているのである。

現在までの状況を観察しているBartkowski氏ら(2018)は、ゲノム編集が抱えている潜在能力・可能性や課題を広範なそして社会科学的な立場から分析している情報はほとんどないとしている。
例外としては、Kuzma氏(2018)がGM作物の遺産から学ぶことが重要な視点だと議論している。Shah氏ら(2021)は、ゲノム編集に関わる言説・説明・物語が戦略的に狭められ、利用されている点の問題を取り上げている。そしてMontenegro de Wit氏(2020)はゲノム編集が「民主化された」技術であるとの概念に疑念を示している。

この論文で、我々は、言説的分析(discursive analysis)と経験上得ている証拠とを組み合わせるやり方でもって、これら批判的な考察に貢献しようと考えている。
即ちアフリカにおけるGM作物遺産のどのような教訓が、今後ゲノム編集技術を理解し、利用していく上で役立つか?

結論的に言えば、過去30年間にわたり近代農業にバイオ技術が介在してきたことで生じた歴史的教訓を我々が適切に評価することが、GM技術とGE技術を擁護する議論が継続したことによって妨げられてきた点を議論することになる。

以上が(要旨)と(序論)部分の紹介でした。
この研究情報は、この後に多くの情報が詰め込まれており、全ての紹介は無理になります。
焦点を絞った形で次回に紹介致します。
ポイントは、GE技術擁護者の訴える3つの特徴(精密さ・コスト面・スピード)に関する擁護側と懐疑派側の論点の整理、そしてGE技術を成功裏にアフリカに普及させたいのであれば、どのような条件が必要なのかの議論を展開すること、になると思います。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

地球沸騰時代の野生生物の窮状からみた世の中の『進歩』の度合

2024-07-17 11:08:33 | 環境問題
「社会の進歩」は望ましいとの思想がある。この思想をもとに、『地球沸騰時代は脆弱な生命体ほど厳しい状況に置かれる』という現実を紹介する情報をもとに「進歩」という視点から見た我々の世の中の現在地を考えてみたい。

1971年、市井三郎氏は「歴史の進歩とは何か(岩波新書)」のなかで、進歩思想の歴史を紹介しつつ、次の考え方・モノサシを「社会の進歩」の指標として提案している。

私流表現になるが、大筋で市井氏が主張する指標は『合理的・正当な理由がなく、当人に責任を負わせることは不当であり理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境を受け入れざるを得ない脆弱層が存在するのであれば、その脆弱層の存在を少なくすればするほど、その世の中は進歩している』という、考え方・モノサシを市井氏は示したのである。
半世紀以上が経過した今でも通用する、生き生きとした見方だと思う。

ここで、「正当な理由がなく、そして当人に責任を問うことは理不尽な理由でもって、引き起こされる過酷な環境」とは、現在我々が直面している地球沸騰時代の熱波であり、洪水であり、山火事等々であり、我々は世界の現実としてそれらを日々目にしているのである。

そして「脆弱層」とは、視野を狭くすればグローバルサウスの国々が一例になるだろうが、我々はもっと視野を広げる必要があるだろう。

即ち、地球沸騰時代の対処を放置したり遅らせたり、あるいは判断・手段を誤り、現在既に進んでいる望ましくない方向が更に進行して行けば、ゆくゆくは地上の全員(人間だけではない)が脆弱層になるのである。ここでは脆弱層の代表として野生生物を取り上げて、話を進めていくが、話の内容は野生生物だけの問題でないことは当然なことである。

この様に考え、我々が「社会の進歩」を進めたいと希望するのであれば、地球沸騰時代に生きる我々に求められることは、市井氏の示した「進歩のモノサシ」からハッキリ見えてくる。即ち、我々のやるべきことは、「地球沸騰時代の厳しい環境に苦しむ脆弱層を如何に減らしていくか」ということになる。それが『我々の世の中の進歩』に繋がる行動にもなるのである。

そしてそれを進める上で、前提として、どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか、といったことも把握して行くことも求められるだろう。

では目標とする「脆弱層を如何に減らしていくか」の動向の世界の現在地はどうであるか。これは、容易に判断は難しいものの、COPやG7、G20、EUや拡大BRICS・ASEAN・アフリカ連合等の動向を注視していくことで、見ていくことになるだろう。

但し現状は、例えばGHG排出の点で責任がないにも関わらず熱波や日照り・水害・山火事・海面上昇等の窮状に苦しむ脆弱なアジア・アフリカ・中南米や島嶼国の人々がいる一方で、彼らが行う緩和策や順応化策に向けた活動資金の提供を後へ後へと先延ばししている先進国主導のCOPの動向を見るにつけ、世界の現在地には明るさは余り感じられない。世界の主導層の想定する「社会の進歩」に、脆弱な全ての国や市民や野生生物が含まれていて欲しいものだが、果たしてどうなのだろうか。注視を続ける必要がある。

今日の本題に移りますが、もう一つ今後この問題を考えていく際に心に留めておくべき点として、1つは地球沸騰時代の過酷な環境に対して緩和措置・適応措置を講じる際にも、そこには『格差』が現在、厳然として存在しているという事実の認識と、そして2つ目に資本を武器に社会の変革を、技術革新競争を勝ち抜くことのみを目標として推進して行こうとする信仰とも言える考え方が世界の支配層や、我々にも存在しているという認識を持つことが大切と思っております。そして、それら信仰を持つ層には強大な力がある。彼らの力を『上からの圧力』とすると、市民側の『下からの圧力』をどう醸成していくかが大切な視点と考えております。

では今回のテーマです。上に説明の2番目の課題の『どのような脆弱層が存在しているのか、現在どんな窮状にあるのか、かれらの窮状を放置した場合、如何なる影響が出る可能性があるか』という話題に関係する情報(脆弱層の代表として野生動物を取り上げている)を提示します。

責任がないにも関わらずに、そして緩和も回避する術も力も持ち合わせていないことから地球沸騰時代の被害だけを甘受せざるを得ない代表者として野生動物を取り上げ、地球沸騰時代の被害を理不尽にも受けているのは人間だけではないということ、そして野生動物の窮状を通して、我々社会にある格差の存在する故に起こっている脆弱な人々のこと、そしてその窮状が継続することから懸念される我々社会に広がりつつある新たな脅威の拡大に関連する情報と捉えています。

紹介する情報は次の2つです。

1. 何故野生動物が不眠症になるのか?
(Vox.com, 2024年6月2日 Benji Jones氏記す)
2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める
(Insideclimatenews.org, 2024年5月7日 Kiley Price氏記す)

概略を伝えることを念頭に置いております。詳細は出典に当たって下さい。

1、何故野生動物が不眠症になるのか?(Why some wild animals are getting insomnia)

暑すぎる寝床で数時間、べた付く汗で眠れずに横になっている気分位、嫌なものはない。

過度の熱気は安眠を邪魔するが、それは我々が持つ自然放冷機能の作動を熱気が妨害するからだとされている。
しかし、多くの人はエアコンや扇風機をオンに出来るという幸運に恵まれている。だが野生動物には、そんな幸運はない。

哺乳動物に関する新たな研究報告が2つ出ており、それらによると、例えばチェコの野生イノシシは暑い夏の時期の安眠度合いが、涼しい時期に比べて17%低下するという。
もう一つの研究は、アイルランドの小鹿もまた夏の暑い日の睡眠がより短く、睡眠の質がより悪くなることが指摘されている。

即ち気候変動の結果、夏季の暑さが高進すると動物たちは睡眠が妨げられることになり、その結果、彼らの免疫力は低下していき、生存が危ぶまれる可能性が出てくる。
そして、生息地の移動が促進されたり、それに基づく伝染病の拡大が起こったり等々の、従来は保全されていた自然界の生態系の均衡が破られる恐れが出てくることになる。

動物たちの睡眠状況を観察することで、科学者らはそのような事柄を調査している。

ブリストル大学研究員のEuan Mortlock氏は、動物たちの睡眠状況の観察を研究対象にしている。対象は、大は大型の哺乳動物から小はミバエ(fruit flies)までを観察している。

「動物たちが起きている時に行う様々な行動が興味深い研究対象であって、睡眠行動というものは、この起床時の興味深い行動の時間と次の起床時の行動の時間を単に埋めて、繋いでいるだけの存在だ、と多くの人々は捉えていると思う。しかし私はこの睡眠行動を最も興味深い観察すべき行動の一つだと考えている」とMortlock氏は指摘する。

睡眠行動を、観察すべき興味深い研究対象だと考える理由の一つは、恐らく海綿動物を除いて全ての動物が共通して睡眠行動をとっているという点である。アザラシは300mもの深さまで潜りながら昼寝をし、クラゲは脳に相当する部分がないにも関わらずに睡眠状態になり、そのときクラゲの脈拍数は低下することが判っている。
ショウジョウバエも昼寝をする。その際ショウジョウバエは頭を少し下に傾け、触角は垂らしているという。

睡眠は、人にとっても動物にとっても非常に大切なことであり、例えば免疫系の改善や脳の働きを良くするといった様々な効能がある。従って睡眠を妨害する環境の変化は、生存や生態系に深刻な影響を与える可能性があるのである。

人の睡眠は、FitbitやApple Watchなどを使って追跡が可能であるが、野生生物に対して、Mortlock氏らは加速度計と呼ばれる装置を、捕獲した動物に取り付けることでデータを採集することに成功している。
この方法を用いると、様々な動物の睡眠行動やその他の行動の情報を入手することが可能となり、例えば、暑さや寒さその他の気象状況による野生動物の行動様式の情報を得ることができるという訳である。

Mortlock 氏らは2019年からイノシシを対象に、この方法を用いて監視活動を行い、睡眠時間と睡眠の質を測定し、得られたデータと気温や湿度といった気象データと比較し、それらの関係性を調査してきている。

得られた発見に「気温が高いと睡眠は短くなり、断片的になり、睡眠の質の低下が起こる」がある。また雪や雨の天候のもとでは、睡眠の質は高まることを認めている。これらの天候では動物の体温が低下することになり、その影響と考えている。

Mortlock氏らはダブリン近郊の公園の小鹿を対象に300日以上のデータを蓄積し解析を行っている。小鹿の場合も暑い日の睡眠時間と睡眠の質は、イノシシと同様に低下することを認めている。

非営利団体Climate Centralの報告によると、猛暑日が昨年世界全体で平均26日分増加したとされ、Mortlock氏らの研究結果と付け合わせると、野生生物の世界で、睡眠の質の低下状況が生まれている可能性が懸念されている。
睡眠不足は、野生動物の免疫性に影響を与え、病気になる可能性が高まり、子供の世話に費やす時間が低下するといった影響が出るとされている。

ここで、野生動物らは適応性の高い生き物だということを意識することも大切であり、気温や湿度の上昇により睡眠に悪影響が出る状況に置かれた場合に、彼らは行動様式を変えていくことも考えられる。例えば、体温を下げるため水浴び回数を増したり、寒冷地への移動を行うこともある。

彼らが取るこれらの適応行動によって、野生動物が人間の生活圏に接近する可能性が高まることが起こるのである。

猛暑や熱波は野生動物にとっても間違いなく様々な課題を突き付けるものである。野生動物たちは既に森林伐採や密猟などの脅威にも曝されてきているのである。

2.地球沸騰化が野生動物と人々を接近させ、悲劇が生まれる可能性を高める(Climate Change Is Pushing Animals Closer to Humans, With Potentially Catastrophic Consequences)

気候変動が原因して、世界の動物の行動範囲に変化が起こっている。
それぞれの動物の広範な生活場所の配置替えにより、動物は人間の生活圏への接近を強要され、悲劇を生む可能性が高まっている。

気候変動が原因して人と野生動物との間に争いや接触が世界的に増え、人獣共通伝染病のリスクが高まり、世界にあふれ出てくることを示す研究報告例が増えてきている。

最近の事例を紹介していく。

(1) 人と野生動物との間の争い・接触の増大
熱波や海面上昇に加えて、アジア・サハラ砂漠以南のアフリカ・オーストラリアやフロリダに住む人々の間では、気候変動の進行につれて命に関わる毒蛇との遭遇の懸念が高まってきている。

最近の研究によると、気温上昇につれてある種の毒蛇(アフリカ西部のクサリヘビgaboon viperやアジア・サハラ砂漠以南に住むエジプトコブラ)の生息域が拡大しているという。
多くの毒蛇の生息域が、気候変動の進行により失われていく可能性があり、その結果危険な毒蛇の生息域が耕作地や家畜飼育場と重なっていく可能性が、ことに低収入諸国で高まると研究者らは見ている。

WHOも、この状況を注視しており、各国に解毒剤備蓄を増やすこと・人々に毒蛇への注意喚起を進める等の「緊急行動」を1月に要請している。
地球沸騰化により、冬眠と呼ばれる蛇の静止状態からの目覚めの時期が早まってきており、オーストラリアの蛇の活動が高進していることを、生物学者らは既に認めている。

「蛇が早い時期から活動的になり遅い時期までその活動が続くということは、それだけで終わるものではなく、蛇たちは夜遅くまで活動的になっているということを意味している」とクイーンズランド大学の生物学教授のFry氏は指摘する。

フロリダ・エバーグレーズでは、地域をはいまわるビルマニシキヘビ(1980年代にペットとして移入)の数が増えている。そして今や気候変動の影響で北部地域へと生息域を拡大している、と米地質学会は指摘している。

蛇以外の野生動物と人との争いについては、複雑さがあると言われている。

例えば、北極クマは氷塊の溶解進行により陸地での狩りの機会が増えており、人々との接触機会が拡大している。
過去20年の動向を見ると北極くまの生息域は移動しており、悲劇的な遭遇が起こる可能性が高まっているとワシントンポスト紙は指摘している。

世界各地で、数えきれない衝突事例が観察されており、人にも野生動物にも被害が起こる可能性が出てきている。

(2)動物起源の伝染病の発生
鳥インフルエンザで見られるように、人獣共通伝染病は常に一つの生物種に局在するものではない。

気候変動の進展につれて、人と野生動物との間合いが狭まるにつれて、これらの人畜共通伝染病の蔓延が進行し、流行化へと転換をおこす機会が増えることをフィナンシャルタイムズ紙が報じている。

多くの場合、流行化への転換を引き起こすきっかけとなるのは極めて小さい生き物、即ち蚊であることが多い。
高温化により、蚊は生殖再生産を加速し、人畜への咬みつきが増え、そして生息域の拡大等が相合わさって伝染病の伝搬が促進されることになる。
WHOの2023年報告は、ハマダラ蚊が原因であるマラリアの流行と気候変動との関連性を報告している。

同様に、蚊が媒介するデング熱が、従来感染が見られなかった地域にも広まっている、とされており、その理由は気候変動及び都市化の進行だとしている。
ペルーにおける感染の拡大がことに懸念されており、今年のデング熱により死亡者数は3倍以上とされている。「蚊が気候変動に適応してきており、従来よりも生殖再生産速度が速まっている」とリマ大学の伝染病学者のTarazona氏は指摘し、「ラテンアメリカ地域において極めて深刻な状況が生まれている」としている。

ダニが媒介するライム病と気候変動との関連性もまた研究されている。
研究によると、気温と湿度の上昇がダニの生育地の拡大に繋がっており、メイン州やウィスコンシン州で見られるという。

人獣共通伝染病の拡散を低減する目的で、諸国は共同体間の連絡網の利用やAIの活用等を利用する監視の増強を進めている。

***
熱帯夜が増加すると、野生動物の間で睡眠障害が深刻化し、結果として全ての脆弱層の生き物は疲弊し、その免疫力は低下し、精神状況にも懸念すべき状況が発生する恐れが出るのである。

一方で、人畜共通伝染病を媒介する蚊やダニはより活発化し、その活動域も従来の範囲を超えて広がりつつあり、これら人畜共通伝染病の流行により、脆弱層が更に影響を受けるという悪いサイクルの循環が起こることが大いに懸念される。

かかる「悪いサイクルの循環」の発生を如何に抑制し、脆弱層の健康・免疫力を改善し、伝染病の蔓延を如何に防いでいくかに、世界の行方は掛かっている訳であるが、市井氏のいう『進歩』という視点から見て、我々は脆弱層の窮状を低減していっている、明るい方向を目指しての道中に我々は現在いると、断言できるであろうか?

また、我々の世の中は、支配層が差配する「進歩思想」だけに頼る、即ち技術革新至上主義だけに頼る「進歩思想」だけで、間違いなく世の中は『進歩』していけると言えるのであろうか?

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

「日本の木造高層ビル事情の現在地」の確認と自然や生態系すら商品化しようと試みる「世界のグリーンウォッシング事情の現在地」との対比から見えてくるもの

2024-05-31 13:48:48 | 環境問題
「東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。この対比、どちらに与したいですか?」という話題を4月25日に紹介した。

その後、「なぜ今、木造高層ビルが建ち始めているのか------日本が抱える国家的な森林問題」
(Yahoo!ニュース 2024年2月29日付け一志治夫氏記す)という記事があることが判ったので、その紹介を兼ねて木造高層ビルや木造都市計画等に関連する我が国の現在地を一志氏の話をなぞりながら先ずは見てみたい。

O現状説明として:木材を使った高層大規模ビル建築が急速に増えたのは、2020年代に入ってから。純木造は少ないが、柱や梁、内外装に木を多用し、鉄骨や鉄筋コンクリートと組み合わせて造る地上6階建て以上のビルは、都内だけで、すでに20棟をゆうに超えている。この1月4日には、東京日本橋で地上18階建て、高さ84mの「日本一の高層木造賃貸オフィスビル」(建築主/三井不動産 設計・施工/竹中工務店)の建設工事も始まった(竣工予定は2026年)。

O木造高層ビルが増えだした理由:CLTや耐火集成材といった火災時の耐火性能を持つ木の柱・梁など新たな木質系材料が誕生し、鉄骨とのジョイントなどの技術開発をゼネコンやメーカーが進めた結果、燃える、腐る、折れるといった木材の弱点、課題が克服され始めたこと。つまり、高性能の木材が誕生したことで、木造高層につきものの消防法との兼ね合いや海外事例の拡大という背景をもとに、難題のハードルが下がってきたことが一つ目の理由。そして、この動きを後押しする法整備の存在がもう一つの理由。

O現在の法整備の状況:2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、その後2021年に改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市〈まち〉の木造化推進法)となった。これをもとに、建築主が国や地方公共団体とともに木材利用に取り組む「建築物木材利用促進協定制度」が創設され、各行政による補助金制度も整い始めている。

O木造高層ビル建設が推進される背景:一つは日本が抱える切実な森林問題を挙げ、我が国の森林と林業の歴史に触れている。国土の3分の2が森林。その4割は人工林。木材を利用し、森を循環させることが日本の絶対的テーマと考えるも、1964年の木材輸入自由化で外国産材の輸入が急増。「林業は儲からない」となり「放置林」が増加。2002年に国産材の供給量が底を打ち増加に転じるものの、2021年の自給率はいまだ41.1%。かかる状況が現在地とはいえ、SDGsやESG投資と無縁ではいられないスーパーゼネコンや大手不動産会社にとって、法整備も整いつつある中、我が国の絶対的テーマである国内の木材利用、そして日本の森を好循環させることにも繋がるという観点から見ても、「木造高層ビル」建設推進の動きは、うってつけのテーマと捉えられているのであろう。そして2010年の「公共建築物等木材利用促進法」も後押しする形で、一気に建築業界の積極的な取り組みが始まったのである。

O今や不動産会社自らが森林を保有したり、管理運営する:野村不動産ホールディングは、2022年10月東京奥多摩に、「つなぐ森」の地上権を取得し循環する森づくりをスタートさせ、東京都と「建築物木材利用促進協定」を締結。今後30年、130ヘクタールの森を保有し、「地産地消の循環する森づくり」を推進していくとしている。「つなぐ森」で生産される木材は、年間約500m3。野村不動産グループが目標とする木材使用量は16,500m3。「つなぐ森」からの木材は1.5%分とわずかであるが、切り出した丸太を地域の加工所に出すことで、加工所の生産量は従来の3倍になり、地域に新たな雇用が生まれている、と意義を語っている。
日本の人工林の約半分が主伐期の50年生を超えている。CO2吸収量が減少する高齢木を伐採し、新たに植えるという循環システムを作ることは急務とされており、そうした中で不動産会社が地産地消を掲げて森林を保有し始めたことの意義は深い。
また、不動産会社「ヒューリック」は2021年10月、銀座8丁目に「銀座を中心に森を作る」を開発コンセプトに、日本初となる耐火木造12階建ての商業施設「HULIC&New Ginza8」を竣工(設計・施工/竹中工務店)。福島県産のスギを中心に使った木造+鉄骨造のハイブリッド建築。外装に木材を使用し、柱や梁に耐火集成材を用い、構造材だけで288㎡の木材を使用。ヒューリックは、「伐採した分の木は植える」を掲げ、福島県白河で植林活動も行っている。森の循環あっての木造建築というコンセプトがここでも貫かれている。

以上、一志治夫氏の情報をもとに日本の木造高層ビルと日本の森林の状況ならびに今後の行方を占う話を紹介したが、都市の高層木造ビルのプロジェクトを推進している不動産デベロッパーの担当者の一人が思わず語った言葉が気になったので、彼の言葉も再録しておきます。

『2030年の前後って、木造ビルがたくさん出来ていたよね、なんか流行っていたよね、みたいなことになっちゃうことですね、一番恐れているのは』と彼はこうなって欲しくはないものの、大いに有りえる近未来の「日本の木造高層ビル事情」を懸念しているのである。ここに紹介している大手デベロッパーの動向は、賞賛に値するものと評価したい。熱しやすく、冷めやすい世の常の中でも、めげずに何とか進展していってほしいものではある。

とは言え、上に紹介した一志治夫氏の記事の内容は、日本も日本の不動産会社も良くやっているじゃないか、是非上手く進むよう我々も協力したいものだ、といった思いになるのはある意味、コインの一面のみを見ての話なのである。

コインの反対側の面を考えてみたい。

その為に先ずキーワードとなる、nature-based solutions(「自然を意識した解決策」NbSと略記)という言葉の説明が必要となる。

気候変動による社会・経済・環境上への打撃に世界が今後対処していく時に、このNbSが大きな役割を果たすとの観点から、国連環境総会第5回会合(UNEA-5)において多国間でNbSが討議され、その定義が正式に決定されている。

決定された定義は次である。

『手つかずの自然の陸地・水域の生態系、あるいは人手が入り改変された陸地・水域の生態系を保護・保全・再生・持続可能なやり方で利用し、管理運営する行動がNbSである。このNbSの行動は、我々が直面する社会的・経済的・環境上の課題に対し、有効であり順応性がある行動であること、そして併せてこのNbSの行動が、人々の幸福、生態系が持つサービス、そして回復力と生物多様性を提供できるような行動、をNbSとしている』

2023年4月15-16日に札幌で開かれたG7気候・エネルギー・環境大臣の会合でもこのNbSが一つの議題として討論され、UNEA-5における議論を追認し、NbSが気候・生物多様性・人間の幸福を含む多くの課題の解決に有効に働く能力を持っている、としてNbSの実行化実践化を強調している。

この世界の動きに合わせて、東京都は2030年目標(自然と共生する豊かな社会を目指し、あらゆる主体が連携して生物多様性の保全と持続可能な利用を進めることにより、生物多様性を回復軌道に乗せる=ネイチャーポジティブの実現)という東京都生物多様性地域戦略を立てており、この戦略の基本戦略IIに、行政・事業者・民間団体などの核となる主体者と共に『Tokyo-NbS』アクションを推進する、という行動目標をたてている。2030年までを「NbS定着期間」と捉え、各主体がNbSとなる取組を実施することを目指す、として手法としてのNbSが組み込まれている。

国際自然保護連合(IUCN)が提唱し、国連環境総会(UNEA)がお墨付きを与え、G7が推進力を与え動き出した我々市民社会と経済社会そして自然環境に大きく影響を及ぼす気候環境危機・生物多様性損失危機・生計危機等への順応策緩和策を考えていく手法として『自然を意識した解決策NbS』が注目されて来ているのが我々の現在地だといえます。

一志治夫氏の話題にある大手不動産会社の東京奥多摩で展開されている「つなぐ森」プロジェクトが、東京都のTokyo-NbSアクションメンバーに登録されている(他にサントリーの「奥多摩の森林整備による水資源と生物多様性の保全」プロジェクトがある)ことからみても、現在、行政と大手企業という主体組織が「気候危機・環境危機・生物多様性損失危機等の順応緩和策を考え出していく手法」として『自然を意識した解決策NbS』を大きく意識していることが判ると思う。

NbSが注目され、行政と大手企業が主体的に動き出している状況は、歓迎すべきだけれども、この流れには注意が必要だとする意見・情報が存在しているのである。次の情報です。

『自然を意識した解決策(NbS)』---気候危機と生物多様性危機を利用して企業や自治体がグリーンウォッシュの手段とする間違いであり困った解決策(原題:“Nature-based solutions(NbS)"---another false, corporate pathway in the great greenwashing of the climate and biodiversity crises、globalforestcoalition.org、 Oct.12,2023 by S.Lahiri and V. F. Martinez)

「自然を意識した解決策(NbS)」に関する国連多国間協議の最終ラウンドが今週ナイロビで行われる。NbSに関しては、昆明-モントリオールでの生物多様性枠組み協議においても議題になっている。これらの協議に入っていく際、我々はこれらの取り組みの方向性を慎重に見極めていくことが大切である。

NbSという言葉は、多くの人にとって健全な方向が目指されているとの印象を与えるだろう。しかし慎重にそして厳密に実施状況を分析・精査していくと、気候危機・生物多様性危機の解決を目指すNbSの理念とは反対に、危険な障害物となる恐れが浮かび上がる。

政策立案者らは、これら多国間協議の場に於いて、社会的・環境的課題に対して彼らが取り組む際に、NbSという用語が、持続可能な管理運営方法であり、自然の特徴や自然の流れを利用しているという意味合いを持つ、と指摘している。

しかし実態としては、カーボンオフセットの図式を含むような彼らが提案する方式は、人間の権利の破綻や生態系システムの破綻に繋がるものだとの認識が強まっており、そして同時に真の緊急課題である炭素排出を削減する課題から我々の注意をそらす有害なものではないか、と徐々に受け取られるようになってきている。

これらの間違った解決策が提起される動因として考えられるものは、不安感を過大に煽る企業側のロビー活動組織の存在がある。

石油・天然ガス・アグロビジネス・輸送部門の事業者らやGHG高排出諸国の政府らが「自然を意識した解決策(NbS)」という言葉を使用することが、増えてきている。
これらの事業体や政府は、我々が今日目撃している環境破壊の大半の責任を負うべき組織であり、世界中の共同体に影響を与えている。
環境保護の幾つかのNGO団体もNbSを支持しており、NbSの考えが最適なインフラを作りだし、生物多様性がある未来を約束するのに役立つとしている(IUCN?)。

しかしながら、NbSの指針となる原理原則は、数千年にわたり地球上の森林の保護者の任を負ってきた先住民族の人々の智恵や世界観や伝統的な慣習や持続可能な生計の立て方といったものとは合致しないのである。

最近の研究によると、NbS活動が生態系や森林や生物多様性に対して悪影響を及ぼし、合わせて先住民族の人々や多方面の女性や地域共同体にも悪影響を及ぼすということが明らかとなってきている。更に何世代にわたり自然を守ってきていた人々を疎外していくことも明らかとなってきている。

例えば、シェルの例では、シェルは、年間1億ドルを『自然を意識したプロジェクト』向けに投資することで、シェルのGHG排出分をオフセットすることを狙ってNbSを利用している。同様にフランスの石油大資本のトタルは、アフリカで木材・森林・アグロフォレストリー・植林分野のプレイヤーであるForetリソースマネジメント社と共同してコンゴ共和国と提携契約を結び、4万haに及ぶ植林活動を行っている。トタルはコンゴ共和国で1000万ha以上の植林を行うという。

植林活動や再森林化活動の何処が問題なのかと尋ねるかもしれない。

しかしながら、世界の巨大企業が主にカーボンオフセット制度を利用する形で「商品市場指向型のNbS」プロジェクトに投資する行動の状況を丹念に精査していくと、それら高排出事業体企業の行動というものは、気候危機や生物多様性危機を解決することを狙っての行動というよりも、高排出事業体企業によるグリーンウォッシングの行動にすぎないということが判ってくるだろう(高GHG排出企業や排出国政府が、彼らに染みついた悪いイメージの払しょくを狙うとともに、自然環境という資源を商品化し、市場に引き出すことで、可能な限りこれら活動への投資に対する利益・配当の獲得をも狙う行動をグリーンウォシングというのだろう)。

FAOとNature Conservancy(1951年設立の自然保護NGO。生物生息地確保や生態系保全活動を行う。100万人以上の会員を擁す)との共同文書が、これらの行動の傾向を取り上げており、それによると農業分野のNbSは主として混合型資金調達・債権・グリーンクレジットと株式・カーボンクレジット・生物多様性及び水系オフセット等を通じて出資金のリターンを求める傾向をこれらの行動がどのように反映しているかを示している。

このNbSというレンズを通して見ると、『森林と土地は金銭化できる資産であり、自然資産は経済的に増大が期待できる』という見方が生まれてくるのである。

2022年2月のナイロビで開かれた国連環境会議(UNEA 5.2)において、「持続可能な発展のための自然を意識した解決策NbS」に関する決議5/5が採択された。
この決議は多国間協議で定義が合意されたNbS活動を可能な限り迅速に進めていくという推進力を与える一方で、展開が予想されるNbS活動が、GHG排出削減活動の迅速化、深耕化、継続化という我々の要求を妨げることがないよう確認していくためにNbSの効果効能の分析の必要性がある点を確認し、指摘もしている。

またNbS(nature-based solutions)が誤用・悪用される可能性への懸念から、『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との調和の必要性を強調もしている。

『自然を意識した解決策NbS(nature-based solutions)』と『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』との曖昧で、ハッキリしない結合化は、気候変動と生物多様性(T8)および人々に対する自然の貢献の再建(T11)に関する目標を検討した昆明-モントリオール世界生物多様性枠組交渉(KMGBF)においても反映されている。
この決議はまた、NbSには多面的な解釈が存在していることを認めており、協議参加国間の中に共通認識が欠けている事実も認め、受け入れている。

先住民族の主要グループは、炭素マーケットのオフセットシステム装置というものが、先住民族の権利を侵害し、彼らの領域を侵食し、重大な人権問題を引き起こす可能性があると、警告を発している。彼らの主張は正当なものである。

NbSの提案者や支持者らは、『自然を経済的な資産だと解釈し取り扱おうとする』のであり、自然の従来からの管理者たちから自然を奪い取り、自然を投資対象となる商品に変えて、彼らの投資に見合う将来の利益獲得を目指すのである(16世紀イギリスで進行した、地主による牧場用地の獲得の為の、そして農民の離村と賃金労働者化を促し産業革命の地ならしを求めた運動と理解される「囲い込み運動」の現代版だろう)。

NbSを『生態系を意識した活動(ecosystem-based approaches)』と調和させようとする試みが、KMGBF交渉にも及ぼうとしていることが見られており、懸念すべき状況が生まれている。
『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』には、CBDおよび数回の気候危機COP会議を経てきたという長い発展の歴史がある。

『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』というものは、多様な文化的背景をもつ人々が生態系を統合する要素である、という認識のもとで、人々はみな平等に生態系を保全しつつ持続可能なやり方で生態系を利用していくことを推進しようという考えである。

一方で、国連環境総会UNEAの決議内容は、気候危機と生物多様性危機という双頭の危機の解決策を求めんが為に、極端に緩和手段(mitigation)に軸足を置いたものであり、そこには先住民族・多面的な活躍する女性や地域共同体が介在していることの考えが抜け落ちているのである。
この重大な欠点を持つ「商品市場主導の解決策作り」の動向に我々は反対すべきである。

この国連多国間協議場内に起こっているNbSを『生態系を意識した活動(ecosystems approach)』と同一視し、調和させようとするこれらの試みは、大きな問題を孕んでいるだけでなく、自然の持つ機能が商品化され・金融化され、そして民営化されていくことを狙う商品市場至上主義に基づく市場内の協調関係が構築されることになる。
自然と一体に暮らしている我々が懸念を訴えていく際の障害物となり、結果的に政治的思惑を利する恐れがあるのである。

UNEAのNbSに関する政府間協議と気候変動と生物多様性に関するCBD SBSTTA25会議が始まる今、我々は人々と地域共同体を気候変動と生物多様性に関する議題の中心に据える絶好の機会を得ている。必要な進路修正を行い、気候変動と生物多様性という2つの危機に対する有効な解決策への道を切り開く時が来ている。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか?

2024-05-26 22:04:44 | 環境問題
もし社会に、何らかの構造的課題が存在しているのであれば、それに対しては是正に繋がる行動が為されてほしいものだ。その課題が国内のものであろうが、国際間にまたがるものであろうが、同様に行動が為されてほしいものである。

ところが、グローバルノースに対してグローバルサウスが存在していると言われていること自体に、両者の間には厳然たる構造的課題が国際間には存在していることは明白である。

例えば、パーム油のプランテ―ション開墾の為の森林伐採の横行や、違法伐採木材すらが流通し横行している状況の放置であり、結果として森林伐採が進行し、ために気候変動事象が更に悪化していくという悪い回転の構造が今もあり、しかも減るどころか拡大していると言われているのである。

そして課題が生じる大きな原因の一つに、格差の存在とその放置の問題があると考える。

ここで伝える話題の論旨は、例えば、先の能登地震の問題を考える際にも通じる興味ある視点が提供されていると思う。日本の国内にも、更に更にと富み栄えていく都市部と共に、更に更にと疲弊が進み消滅さえ懸念される田園部との格差問題があり、この課題の放置は許されないのであり、是正に繋がる行動が大いに論じられ、そして為されてほしいと思う所である。

かかる視点から、このパプアニューギニアの現在の災害状況を伝える記事は、これらの課題を再確認する機会となり意義あるものと思い紹介する次第です。

***
何故にパプアニューギニアで多くの死者の発生を伴う地滑り・土砂崩れが多いのか?どのような協力が我々にできるのだろうか?
(原題:Why does Papua New Guinea experience so many fatal landslides---and what can be done?
ABC news Australia アンドリュー・ソールペ氏記す )

この金曜、パプアニューギニア・エンガ州のカオカラムという辺境の村で、100人を超す人命が奪われたと見られる大規模な地滑り・土砂崩れが発生した。

パプアニューギニアでは、ここ数カ月間、地滑り・土砂崩れ被害が続いている。例えば4月にはシンブ州で14人が生き埋めになっており、3月中旬には3件の地滑り・土砂崩れが発生し少なくとも21人が亡くなっている。

人命が奪われる地すべり・土砂崩れ被害の発生は、パプアニューギニアでは今に始まったことではなく、しかも悲しいことに、地すべり・土砂崩れが定期的に発生し、多くの人命がこの地で奪われるものの、それらの報道が海外に流されることは余りないのである。

パプアニューギニアにおいて地すべり・土砂崩れが何故頻繁に発生するのか、しかも多数の人命が奪われ続けるのか、そして世界の国々がこの状況の打開にどう協力できるか、を考えてみたい。

科学雑誌「Eos」で「地滑り・土砂崩れブログ」を運営している、著名な地滑り・土砂崩れ事象専門家である英国のハル大学副学長のデイブ・ぺトレイ氏は、パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れには多くの要因が絡んでおり、その中の主な要因としてパプアニューギニアの山岳地帯特有の気象環境と熱帯特有の天候とが深く影響している、と語る。

激しい風雨や嵐により地盤の浸食が進行していき、洪水や高潮といった全ての事象が危険な岩石落下の発生率を高める働きをする、とぺトレイ氏は指摘する。

それに加えて、パプアニューギニアは太平洋の2つのプレートの境界に沿って活火山が走り、そして地震活動の活発な環太平洋火山帯に位置しており、地滑り・土砂崩れが起こりやすい環境が整っている、としている。

「常時起こる地震自体が地滑り・土砂崩れを誘発することがあり、地震によって岩盤の斜面構造が弱体化されるということも起こる。いわば、これらの地域全体が構造的に非常に活動的な場所となっている」とぺトレイ氏は指摘する。

パプアニューギニアで頻発する地滑り・土砂崩れは確かに問題ではあるが、パプアニューギニアに限ったものではないのであり、例えばアメリカ・日本・イタリア・オーストリアやスイスのような世界の各地の丘陵・山岳地域で、厳しい気象条件が重なれば地滑り・土砂崩れは同様に発生しやすくなるのである。

それでは、人命を奪うような地滑り・土砂崩れが、ことにパプアニューギニアで頻発しているのは何故なのだろうか?

研究者らは、地震やその他の通常起こる自然災害の場合と同じく、地滑り・土砂崩れによる死亡者数とその地域の経済状況との間に存在する関係性に長年にわたり着目している。

全ての条件が同じであれば、国が貧しいほど、死亡者数は多くなる、と言われている。

この説明に対する理由は数多くある。インフラ構築物が貧弱な点・緊急時対応が有効に働かない点・医療体制が低水準である点や早期警戒警報システムがない点などが主な理由である。

別の理由として、その地域の人々の居住場所が、地域の開発状況によって決まってしまうという点を指摘する研究者がいる(Joshua West,The Conversation,January22,2018)。

パプアニューギニアは世界で最も田園地帯特有の社会が残っている地域の一つである。

公式発表の人口は、1050万人だが、実際はもっと多いと見られ、国連の調査結果によると1700万人程になるだろうと見られている。この違いの発生は、基礎的統計資料の運用上の不備が原因とされている。

いずれにしても、パプアニューギニアの都市部に居住する人の数は、全体の20%以下で、大半の人々は自給自足型農業に依存して暮らす農耕民であり、彼らは農耕のためある程度の土地を必要としている。そして人口が増大する傾向のなか、丘陵地が主体の地域で暮らさざるを得ない彼らは、必然的に地滑り・土砂崩れの危険性があり、緊急時の支援活動が期待できない地域に居住せざるを得ない状況に置かれているのである。

地形的な条件や気象条件の問題に加えて、パプアニューギニアの地滑り・土砂崩れ頻発の原因として、ペトリイ氏は人間の生産活動がもう一つ別の大きな要因となっていると指摘する。

パプアニューギニアの森林地域には、小さな規模の村々及び彼らの耕作地域が展開されている以外に、大規模産業の数多くの工場もまた展開されており、金・銀・銅・コバルトの採掘や液化天然ガス(LNG)も採掘が行われており、過去に人命を奪った地滑りが引き起こされていたのである。

規模の大きい違法伐採の問題もパプアニューギニアには存在しており、またパプアニューギニアは世界で5番目に多くヤシ油を輸出しており、ヤシ油のプランテ―ションには大規模な森林伐採がついて廻るのである。

ぺトレイ氏は、「地形的には、植林化・森林化が強く求められるのであるが、パプアニューギニアの森は伐採され続けている」と指摘する。

パプアニューギニアの森林伐採の問題は、衛星写真で確認する限り改善の兆しはない。パプアニューギニアは地滑り・土砂崩れの危険性の除去や低減に役立つインフラ作りに苦闘している最中である。

一方で、森林伐採も原因して気候変動は高進していき、海面上昇による高潮被害も課題となってきている。海岸沿いの村レセ・カヴォラの住民は、巨大高潮により農作地や飲み水が被害を受けたことから、この3月村全体の移動の検討を始めている。

気候変動は、地域の地形が対処できる能力を超える突然の気象状況を発生させることから、特に地滑りに大きな影響を与える、とぺトレイ氏は指摘する。

「短時間に、多大な降雨量を伴う雨に対して、崖という斜面は特に脆弱だ」としている。

「地形というものは、それが従来経験してきた最も大きな衝撃には耐える構造ではあるが、もしも新たな衝撃が従来経験した以上の大規模な場合、その地形は、新たな衝撃に応じて変形していくのであり、即ち地滑り・土砂崩れということが必然的なものになるのである」とぺトレイ氏は指摘する。

山岳地帯での地滑り・土砂崩れは、ある程度は避けられないものである。しかしながら、死亡者数や対応策という両面において地滑り・土砂崩れの被害を軽減することは出来る、と専門家らは指摘する。

ヤシ油のプランテ―ションやLNG開発の様な大規模プロジェクトを推進するのではなく、規模の小さい地元経済の後押しが、パプアニューギニアが進めるべき正しい方向の対策であろう。

ぺトレイ氏は、過去に数百人の人命が地滑り被害で失われていたヒマラヤ地域が植林活動・森林化促進活動により成功を収めてきているネパールの事例を取り上げている。「森林再生に積極的だった地域では、地滑り・土砂崩れはかなり減少しているのである」と指摘している。

パプアニューギニア以外の国々の人々は、例えばヤシ油への必要量を抑えることとか違法伐採の木材の利用をやめるといった形でパプアニューギニアの森林伐採スピードを遅らせる形での協力は可能である。

「希少金属等の資源の採掘の運用上の規制を強めることも又、我々には必要なことである」とぺトレイ氏は指摘している。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである

2024-05-06 11:22:42 | 環境問題
「原発がベースロード電源だとする神話を払拭する:再生可能エネは上手く働かない、という神話・物語は間違いである」
(Energypost.eu 2016年3月23日  Mark Diesendorf氏記す)

今回の情報は、4月21日投稿の「原発ヨイショのお為ごかしな物語をオーストラリア・ディーゼンドルフ氏が反駁する」において、原発擁護者らが良く使う次の神話・物語1および2つの変形例については、著者のDiesendorf氏が既に説明済みとして前回の情報では触れなかった氏の反駁に相当するものになります。

【神話・物語1:ベースロード発電所は、ベースロード需要を供給するために必要だ。】
【変形例:ベースロード発電所は、不規則で安定していない再生可能エネルギーをバックアップするために、常時運転しておく必要がある。】
【変形例:再生可能エネルギーは、大規模な電力供給の為の主要な電力源と見なすには、あまりに不規則であり不安定性である。】

***
原発を正当化する主張として「原発は、水力と並んで大きな規模で信頼できるベースロード電源となる性能を持っている。しかも炭素排出量が小さい技術である。よって原発は必要なのである」ということを聞いたことがあるでしょう。

この主張に沿った神話や説明が、例えば、英国で提案された原発のHinkley Cの建設決定を正当化する際に英国のエネルギー担当Amber Ruddさんが利用しており、彼は「ベースロード電源確保は保証される必要がある」と主張している。
同様に、先のオーストラリア産業相のIan Macfarlaneさんは最近のウラニューム関連の会合において「誇ることが出来る唯一の排出炭素ガスゼロのベースロード電源のシステムは、水力と原子力である」との主張にも利用されている。

これらの主張が正当であるとするには、鍵となる3つの前提の妥当性の検証ならびに証明が必要となるのである。

一つ目の前提は、「確かにベースロード電源は良いものであり必要なものである」になる。
しかし、ベースロード電源というものは、必要のない時に必要以上の電力を供給し、必要な時には供給力が足りない、というのが実態としての実績なのである。
実際に必要とされ、優秀な電源とは、需要に見合う供給をその時々の状況に合わせて即座に追随できる柔軟性を持つ発電方式なのである。

二つ目の前提は、「原発は信頼できるベースロード電源である」という主張である。
しかし実際には原発はそのようなものではない。即ち、原発はすべて、安全上の理由や技術的欠陥から平常時の状態から逸脱する可能性が存在しているのである。よって、例えば3.2GWの原発には、すぐに呼び出せる3.2GWの高価な「運転予備力(spinning reserve)」を準備しておくことが求められているのである。

【参考情報:運転予備力とは、突然の故障や電力需要の急変に際しても安定した電力供給が出来るよう保有している余力電力のことを指す】

「どんな発電形式(原発・石炭や天然ガス火力)であろうが、ベースロード発電所というものは、需要の有無にかかわらず最高レベルの能力を常に発揮するように設計される必要がある」というのが三つ目の前提であるが、これも間違いである。
これらの前提条件の問題性を更に説明すると以下のようになる。

ソーラー発電から充分な供給を持たない通常の大規模電力網における夏季の電力需要の変動・動揺を想定して見ると、ベースロード発電所は一般に分刻み、時間刻みの需要と供給の変動・動揺に追随して運転するには適していないのである。従って、柔軟性のある、例えばダム機能を持つ水力発電や開放型ガスタービン発電(open cycle gas turbines,OCGTs)をもって補強しておくことが必要とされるのである。

「ベースロード発電所は、送電線網に信頼性の高い電力を供給する」という仮定は、再生可能エネルギ―から大規模な供給を受けている実際の送電線網の実績・経験から、および時間ごとのコンピューターシミュレーションの検証結果から、の両方から判断して、誤りであることが証明されている。
2014年、オーストラリア南部の州では、年間電力消費量の39%を再生可能エネルギ―(33%を風力、6%をソーラー)から取得しており、それにより、その州では石炭火力を用いていたベースロード発電所は不要だと判断され閉鎖している。そして数年にわたり州全体のシステムは再生可能エネルギ―とガスの組み合わせで確実に稼働しており、隣接のビクトリア州からの輸入も少量で済んでいるのである。
北ドイツのMecklenburg-Vorpommern州とSchleswig-Holstein州の両州は、その大半が風力である「実質」再生可能エネルギ―100%の稼働を既に実現している。「実質」というのは、相互間ならびに隣接する地域との間の取引の存在を意味している。
そしてこれら両州では、ベースロード発電所には依存していないのである。

そして「ベースロード発電所は必要ない」ということで一致している多くの研究があるのだが、これらの研究や説明・言説に対し「それはマヤカシだ」と反論する原発擁護者らが存在している。
彼ら原発擁護者らの言い分は「それらの地域は、どこか別の地域のベースロード発電所からの送電線網により輸入・移入される電力に依存している」というものである。
しかし実際にはベースロード発電所から輸入・移入されている量はわずかなのである。

オーストラリアのように完全に隔絶されている国々や、アメリカのようにほぼ隣国から隔絶している国々において、年間電力利用量の80~100%までの量を再生可能エネルギ―に依存する電力の需給システムに関する時間ごとのコンピューターシミュレーションが行なわれているが、得られている結果は実際的経験・実績と整合的なのである。
アメリカにおいて、科学者らや技術者らの大規模なチームによりコンピューターシミュレーションが行われ、80~90%の再生可能電力が技術的に適当であり、信頼できると認めている(100%再生可能なケースは検討していない)。2012版レポート(再生可能電力の将来性研究、Vol.1、技術レポートTP-6A20-A52409-1)が、アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(National Renewable Energy Laboratory,NREL)から発行されており、そのシミュレーションの結果は、時間ごとの供給と需要とのバランスは取れているとしている。
さらにレポートによると、「現時点で購入可能な技術から得られる再生可能発電は、ある種のより柔軟な電気システムと組み合わせることで、2050年における時間ごとの需要に見合う形で、全米の80%の発電量を充分に適切に供給できる」としている。

入手できる技術と電力需要・風力及びソーラーに関する実測データを組み込んだ100%再生可能エネルギ―を条件としているオーストラリア国家電力マーケットが行った時間ごとのシミュレーションにおいても同様な結果が得られている。
このオーストラリアのモデルには、ベースロード発電所は含めておらず、比較的少規模の貯蔵施設が含まれているだけである。最近のシミュレーションはまだ公表されていないが、1時間ごとのデータは、8年間の期間に及んでいる。

欧州での研究と併せて、これらの研究は、負荷喪失確率または年間エネルギー不足といった全体の需給システムにおける標準的信頼性基準を満たした上で、ベースロード発電所は必要ないということを明らかにしているのである。

さらに、これらの研究からは、ソーラーや風力と言った変動する再生可能エネルギーを年間70%まで、その供給に依存するというオーストラリアでのモデルにおいても、信頼性は維持されるとしている。

では、このことを実現するには、どのようなことが必要なのだろうか?

それには、柔軟性ある発電所を使うことで、電力需要の動揺・不安定さをバランスさせることが必要なことだ、としている。

第一に必要なのは、変化しやすい風力やソーラー発電に起こる動揺・不安定さは、需要発生時点で電力を供給できる需給調整可能な、柔軟な再生可能発電源によってバランスを取るということである。これらの柔軟な再生可能発電源としては、ダム機能を持つ水力発電、オープンサイクルガスタービン(OCGTs)や熱貯蔵機能を持つ集中型太陽熱発電(concentrated solar thermal power:CST)がある。ここにおいて、システム内の全ての発電所が需給調整可能型であることは必須の条件ではない。
ちなみに、ガスタービン自体は、都市廃棄物や農業廃棄物の堆肥化などからの「グリーンガス」を燃料として利用したり、あるいは再生可能エネルギーの余剰分を利用することが出来る。これらについては以下に説明する。

第二に必要なのは、異なった統計的性能を有するものと再生可能エネルギー源を組み合わせて利用することで、信頼性を高めることである。このことは、複数の技術に依存するシステム、および地域を拡大して展開させた風力発電とソーラー発電に依存するシステムというものが、全体としての電力の動揺・不安定性を低減させることに繋がるということを示している。
このことにより、既に貢献度合いが小さいガスタービン発電の寄与を数%へと低減させることが出来ることになる。

第三に必要なのは、再生可能エネルギー源を地理的に広く分散させるために、そして送電線網への再生可能エネルギー源の供給多様性を高めるために、新たな送電線網が必要になるということである。
例えば、風の強いドイツ北部の地域とドイツ南部の風が弱く、限定的な太陽光の地域との間の接続例が提案されている。また大きな風力資源を持っているテキサスにとっては、隣接する州との接続を拡大する必要性があるということである。

第四に必要なのは、電力需要ピーク時の電力を削るために、そして電力供給量の低い時期の電力管理を目的として「スマート需要管理」を導入することで、信頼性を更に高めることが必要だということである。
このことは、電力供給者ならびに消費者の両方がコントロールできるスマートメーターとスマートスィッチによって支援をすることであり、そして電力需要が高い時や、または供給量が低い時に消費者が短期間、ある種の回路(例えば、エアコン、温水化、アルミの精錬)を切断するようプログラムを組むことで支援するやり方である。
アメリカ国家再生可能エネルギー研究所(NREL)がまとめているように、高レベルで再生可能エネルギ―発電を利用する電力システムの需給バランスを取る上で必要とされる、拡大された電力システムの柔軟性というものは、供給側ならびに需要側のオプションの保有リスト(柔軟な従来型発電や送電線網内での電力備蓄や新たな送電線網や、より応答性の高い電気機器や電力システム運用の変更)から得ることができる。

上記の研究をはるかに超える研究が、最近Mark Jacobsonらにより発表されている。
それによると、アメリカにおける輸送と加熱を含む全てのエネルギーが、再生可能エネルギーから供給できるということを示すものであった。コンピューターシミュレーションでは、6年間にわたり30秒ごとに獲得される電力需要・風力・ソーラーに関する合成データが使用されている。

備蓄(蓄電)或いは「風力ガス(windgas)」もまた電力の動揺・不安定性を管理できるのである。

上記の「柔軟な」方式というものは、良好な風力資源に恵まれるものの太陽光資源には恵まれない英国やその他の国にとっては経済的に最適なものではないかもしれない。

風力とソーラーにおける動揺や不安定さを管理していく別のやり方としては、より多く備蓄するやり方、例えば蓄電池または揚水式水力発電や圧縮空気方式がある。

さらに別の方式としては、英国のHinkley C原発プロジェクトに対し、もっとグリーンであり、低コストの代替え案だとして、エネルギーブレーンプール(Energy Brainpool)社が最近推奨している「風力ガス(windgas)」のシナリオがある。

このアイデアは過剰な風力エネルギーを用いて水の電解を行って水素を作り、その水素を用いてメタンを作り、それをコンバイン型サイクルガスタービン発電所(combined cycle gas turbine,CCGT)の燃料として利用するものである。

ここで、実用上は水素をメタンに100%変換する必要はなく、水素を少し残したメタン-水素混合物がより効率的であり有効な燃料になるとされている。
別のオプションに、水素をアンモニアに変換する方式があり、得られるアンモニアは燃料利用だけでなく、肥料産業向けに利用することも出来る。

ブレーンプール社のシナリオでは、このシステムは3.2GWのHinkley C 原発の発電出力を再現でき、より低コストで運用できるとしている。

実際には、以下に見るように、はるかに優れた方式とされる。

・各風力タービン、CCGT、ガス貯蔵ユニットや「電力をガスに転換」する施設は完成すれば、全体システムの建設完成を待たず、それの施設は直ちにその機能を発揮し始める
・このシステムはベースロード発電所としてではなく、実際には現実の需要に見合う柔軟な発電所として用いられることになり、もっと大きな価値を持つ施設となる
・ソーラー発電が更に安価になっていくと、ソーラー発電はそのシステムとの統合化が進められ、それによって更に弾力性・復元性が向上し、コストが低減することになる
・システム全体が送電線網の安定性を生む出し、原発のように全てが突然停止すると言ったマイナスの「統合コスト」を生みだすようなことは、起こらないことになる

以上、述べたように柔軟性がある再生エネルギ―を基盤とする全ての方式においては、「従来型のベースロード発電所というものは不要になる」のである。

オーストラリアの緑の党の前代議員Christine Milneさんは、「我々は今、過去と未来との間で起こっている争いのただ中にいる」と述べている。再生エネを故意に誹謗中傷するベースロードに関するお伽噺や神話の類に反論していくことが、この争いにとって鍵となる大切な作業なのである。
***

最後にこの情報を提供しているオーストラリア・ニューサウスウェールズ大学で学際的環境研究を行っているMark Diesendorf準教授は次のように述べている。

「再生可能エネルギーには、ベースロード電力を供給できるだけでなく、もっと価値あること、即ち需要に応じて柔軟に電力を供給出来る性能がある。そして続けて再生可能エネルギーの拡大により、原発の役割・使命は実質的に終わる」と主張している。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話

2024-04-25 13:12:53 | 環境問題
東京ではタワマン・コンクリ強度不足の話、ストックホルムでは木造都市計画の話。
この対比、どちらに与したいですか?

2027年入居を目指す、中央区豊海のタワーマンション2棟のプロジェクトを進める三井不動産-清水建設が、コンクリの強度不足という瑕疵が見つかり、スケジュールに齟齬を来したという話題が東京新聞のウェブ(4月5日付け)に紹介されている。地上53階建て、全2046戸を予定し、昨年1月着工、現在1、2階を建設中で問題が確認されたという状況。

東京駅を中心に中央区では、三井不動産を始めとするデベロッパーが行政と一体に、現在槌音高く、そして巨大クレーンを林立させ、再開発と称して巨大事業に猛進中であることは、以前紹介している。ついこの前、地域内の工事現場で重大事故があり、複数名の作業員が事故死するという痛ましい事態も起こっている。

世界人口(80億人)の55%が現在、都市部で暮らし、そして世界の潮流として、人々は更に都会に吸引され、2050年には都市部住人の割合は68%に達すると予測(国連情報)され、都市生活者の数は今後新規に25億人が加わると言われている。

これに合わせて莫大な数の新規住宅が都市部に用意される必要性があり、それぞれの国がこの問題にどのように対処していくのか、が問われているのが現状であり、この先5-10年の喫契の課題となっている。但し単に都市部に住居を用意さえすれば良いという話ではなく、環境との調和・脱炭素化・グリーン社会化の方向性を考慮に入れた持続可能な形で各国はこれに対処していくことが求められている。

この喫契の課題に対する日本の対応を見るにつけ、そして東京駅周辺の喧騒的な再開発ラッシュを見るにつけ、どこか違和感を覚えるところがあり、その上今回の豊海のタワーマンションの話を聞くと、我々社会が何か大切なものを何処かに置き去りにしてきてしまい、見失ってしまっているのではないか、と感じている。

世界のいろいろな潮流を調べることの面白さに惹かれて、木造の高層建築物についても調べているが、その過程で興味あるスウェーデンの話に突き当ったので、今回は豊海のタワーマンションの話との比較をしながら、スウェーデンの話題を紹介します。

ストックホルム樹木都市構想というプロジェクトの話題になります。

現在計画が進行中のストックホルム木造都市計画は、スウェーデンの大手不動産会社Atrium Ljungbergが、2023年6月に発表しており、ストックホルム南部の25ヘクタールを超す敷地に、2千戸の住宅と7000か所のオフィススペース、レストランや店舗の建設を予定しており、そのすべてが木造で、2025年の着工予定で、最初の建物の完成は2027年を見込んでいるという。
樹木を多く植えるなど、森の中にいる雰囲気を感じるように設計されているという。

スウェーデンでは、コンクリや鋼鉄から脱却した形で、環境との調和を、脱炭素社会とグリーン社会の構築を、そして持続可能な未来社会の追求を、木造建築物にこだわる形で追求していこうとの意識と意欲があることが見て取れる計画に思える。

一方、良く言えば、日本ではコンクリ・鋼鉄・アルミ等の従来の建築手法にこだわりを持ち続ける中で、環境と調和し、脱炭素化やグリーン社会化の方向は見失うことなく、持続可能な未来社会を追求しようとする姿が浮かび上がってくる。

ここで見られる明らかな立脚点の違いが、何処から出てくるのかは、興味ある問題だと思います。
ここでは、簡単に森林と林業に対する両国の違いを見ることで、この違いの一つの面をあぶり出してみたい、と思います。

以下に、スウェーデンと日本の対比をならべてみます。
1. 人口:日本は1.251億人(2022)、スウェーデンは1049万人
2. 森林面積等:日本の森林面積は約2500万ha(国土面積3780万haの約66%)
スウェーデンの森林面積は約2800万ha(国土面積4080万haの約68%)
人口には大差があるが、国土と森林の面積、森林率は似ており、しかもこの森林率がここ数十年ほぼ一定している点でも良く似ている両国です。
3. GDP/1人:日本は33823米ドル(2022)、スウェーデンは55689米ドル(2022、IMF)
4. 森林の状況と森林資源の利用状況
(スウェーデン)
・スウェーデンでは、ほぼ全ての森林は管理されているとされる。農業や造林の影響を受けていない原生林があるのは最北の山岳地帯だけで、これらは天然林と呼ばれる。
従って大半の森林は農業や造林や管理という形で人の手が入っている状況といえる。
・年間の森林蓄積量の成長増量分は約1.2億m3で、伐採実績収穫分は9000万m3程。
従ってスウェーデンの森林は毎年増大し続けており、現在は30億m3を超えている。
・2250万ha(80%程)の森林が生産的に利用・活用されている。
・スウェーデンの年間樹木伐採率は2.4%程。
・パルプ・紙・製材品に関して世界第2位の輸出国。
・木材自給率:139%(柏田木材のホームページ情報より)
・林業に6万人以上が直接雇用。林産業全般の雇用従業員数は20万人程になる。
直接雇用6万人の対人口割合は0.6%、関連業種全般の20万人の対人口割合は2%。

(日本) 「森林・林業学習館」の情報より引用
・人工林はこの40年間(1966~2007)で約30%増加し、1000万haに達する。戦後の拡大造林の動きで、広葉樹の天然林の多くが針葉樹林に置き換わり、結果的に天然林等の約15%の低下が引き起こされた。
・増え続ける森林蓄積(樹木の幹の体積のことを指す)。
日本の特徴は、森林蓄積が増え続けていること(1966~2017年の50年に2.8倍化、18.87億m3が55.6億m3に)、ことに人工林の蓄積の増加(同50年間に約6倍化、5.58億m3が35.45億m3に)が際立っている。森林面積が変わらない中での、森林蓄積のこの増大は、森林の樹木間の密集度合いの増大を意味しており、人工林は手入れされずに放置され、幹が太るのを単に眺めているのが日本の特色と言える。
スウェーデンの森林が、ほぼ同じ環境にありながら蓄積量が30億m3程で収まっているのに対して、日本では人工林(1000万haと約3分の1の面積でありながら、35.45億m3とスウェーデン以上の蓄積量になっている)だけで、スウェーデンの蓄積量を凌駕していることの暗示する意味合いは非常に重いものがある。
・日本の樹木伐採率:0.53%。
・木材自給率:40.7%(2022、柏田木材のホームページ情報より)
・ 林業従事者の激減が起こっており、現在の従事者数4.5万人は対人口比0.036%であり、スウェーデンの20分の1程度という極めて「末期的」な状況である。
林業従事者数の推移データ
51.9万人(1955)、20.6万人(1970)、10万人(1990)4.5万人(2015)

「末期的」と言った理由を述べてみたい。
妥当な林業従事者割合がどの程度かは、厄介で決めにくいものとは思うが、ILOが2022年11月24日に発表の森林部門の世界の雇用者数が3300万人と推計していることが、利用できるのではと考えている。
この考えを基に妥当な林業従事者割合をわりだすと、3300万/80億の0.41%となる。スウェーデンが現在0.6%であり、この考え方から出される数字がある程度は当たっていると思う。この数値からすると日本の望ましい林業専業雇用従事者は50万人程となり、現状の4.5万人(0.036%)は極めて「末期的」なもので、日本が森林や林業を疎かにしている例証の一つと言うことの妥当性を裏付けるものと考える。
少なくとも、世界基準の林業専業雇用従事者を確保することが、責任ある社会の姿だと感じる所です。我が国も1955年当時はそのような普通の社会だった訳ですから。

以上、両国の森林と林業の状況比較を紹介したが、両国の間にはかなりの違いがある。

即ち、スウェーデンは持続可能な森林運営と林業経営が社会にとって重要だ、と捉えていることが明らかであり、そしてその実績を積み重ねている国だと言える。このことは木材関係の輸出が世界第2位、木材自給率が139%、森林蓄積率が毎年増大を続け、そして80%もの森林に人の手が入っている状況をみれば明らかであろう。

一方、日本は人工林の手入れが為されずに単に放置され、森では無意味に樹木の間が狭まり混雑さが高まっている。そして社会はそれを放任している、これが日本の現実である。

スウェーデンでは、ストックホルム樹木都市構想というプロジェクトが進み、日本では東京駅を中心に再開発が推進中であり、重大事故が起ころうが、瑕疵が見つかり進行に遅れが生じようが、行政とデベロッパーが一旦敷いたレール上の進行はそれほどの支障なく続いていくのである(東京―大阪間のリニアにも相通じる症状だろう)。

そして森林の放置も続くのである。でも、この状況は如何にもおかしい。
こういう見方をしてみたらどうだろうか?

それぞれの国や市民や社会は、森林という資源を世界から委ねられた形でそれぞれに持っており、その運営を世界から一任された存在だと考えるのである。

ある国は委ねられた貴重な森林資源を持続可能な形で有効に活用して、委ねられた権利に相応の義務を果たしている。その結果、世界の脱炭素化へ向かう方向に協力している。

一方委ねられた森林資源の活用をおろそかにする国や社会も残念ながら存在しており、そんな国や社会では森林資源が持っている炭素吸収・固定化力やそのほかの数多くの潜在能力が充分に発揮されることがない。
あまりにも、もったいないことであり、資源を委ねられているという権利に相応の義務を果たしていない国であり、社会であり、市民であると捉える必要があると感じている。

豊海のタワマンの話とストックホルムの話、私は後者の木造都市作りのプランの話の方が好きであり、スウェーデンの話の方に与したいと思う。

ある意味、我が国を象徴するとも言える現在の東京駅周辺の再開発や中央区豊海の今回の瑕疵発見の話には、森林と言う世界から委ねられている資源の大切さを忘れ、置き去りにしたまま、突進している我々社会の歪な偏った行動の結果ではないか、と感じている。

今の日本の都市(再)開発の仕方や森林を放擲している実態に違和感を持つ人が増え、政治に原因があるのではと思う人が増え変化が必要だ、に繋がっていけば良いと思っている。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

(目にとまった記事の紹介)『太陽光を遮断して地球を冷やす提案が撤回された』

2024-03-03 09:58:23 | 環境問題
(目にとまった記事の紹介) 『太陽光を遮断して地球を冷やす提案が撤回された』(Deutsche Welle,2024年3月1日)

ナイロビ:この木曜、国連代表団は地球温暖化対策として太陽光を宇宙に跳ね返すという技術を更に推進していくことを求める決議議案を撤回した。本技術が健康と環境上のリスクに影響が出ることを懸念しての動きである。

国連環境総会(UN Environment Assembly,UNEA)で、この決議草案に反対する人々は、太陽光修正技術(solar radiation modification,SRM)の利用が、巨大な汚染事業者らに対して彼らの責任が免責されてしまうことに繋がるのではないか、と懸念していると会議を傍聴していた団体らが発言している。

スイスとモロッコとが12月に初めてこの地球工学的技術の検討を要請する決議を上程しており、今週ナイロビの総会でこの問題について協議されていた。

当初の草案では専門家らの招集が要望され、彼らの手になるリスクと倫理上の考察を加えたSRMの、可能性があり、そして妥当な利用法に関する報告書が作成されることが要望される、ということが念頭に置かれていた。

この技術を使っての最も知られている利用法の一つが、冷却用反射材としてSO2を用いて、それを大気圏のかなりの上層に噴霧するというものである。
わずか数件の小規模SRMプロジェクトが実施されているだけの状況である。
そして研究者の中には、気候変動の臨界点越えを避けることが必要となった際にSRMは運用可能だと指摘している人もいる。

批判的立場の人たちは、天候と農業とに悪影響が起こり得るとし、殊に貧困国にその影響が大きく生じるだろうことを懸念している。
彼らはSRMが温室効果ガス排出削減活動のスピードを遅らせる言い訳・方便に利用されることもまた懸念している。

直近の2週間にわたる6回の改訂版作成の後、木曜日にこの決議案は撤回された。

スイス連邦環境局のRobin Poll報道官は、「SRMに関する情報への利用しやすさ改善という議案に各国が反対している。そして収集する情報にSRMのリスクと不確実性に焦点を当てるべきかどうかという点、あるいは潜在的な利点をも同様に含めるべきかどうかという点で、各国は反対している。」
「UNEAが、この重要な議題に結論を出せられなかったことは残念なことである。しかし、ここで行われた議論には多くの、そして有益な情報が含まれており、この重要な課題に関する国際的な討議を我々は開始したのである。」とPoll報道官は指摘している。

ケニアの気候問題代表のAli Mohamedさんは、アフリカ諸国がこの決議に反対している、としている。
「この科学技術はまだ開発の黎明期であり、潜在するリスクは充分解明されてはいない」とMohamedさんは語る。

「現時点で、温室効果ガス規制には数多くの解決策がある」

国際環境法センター(The Centre for International Environmental Law,CIEL)によれば、EUと太平洋島嶼諸国とコロンビアそしてメキシコが決議に反対しているという。

「これらの技術は気候危機の根本の原因を解決していくことには繋がらず、反対に主要なGHG排出事業者らが化石燃料の段階的廃止という緊急の必要性を遅らせるような目的でこの技術が使われることになるだろう」とCIELの上級地球工学キャンペーン担当のMary Churchさんは指摘している。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan

SDGsからSPGs、SOGsへ

2024-03-02 11:51:41 | 環境問題
今のSDGsが描く望ましい「未来の社会と自然の景観」は企業論理からのみ見ている修正だと感じる。SDGsをSPGsやSOGsに読み換えると企業論理とは異なる「人々」の論理が発する「別の」目標設定の必要性が見えてきて、それらを今のSDGsに持ち込むことの大切さと面白さが見えてくると思う。

現在のSDGsには企業が差配し、企業に都合のよい目標だけが注入される仕組みが社会に埋め込まれているように感じている。そして社会はそれを受け入れて、その方向にしゃにむに動かされているように感じる。そこには我々という「人々」の存在が抜け落ちているように思う。そんな危機意識を以前から持っている。

危機意識の根元の一つに、SDGsのD(Development)という言葉に違和感を覚える事がある。

Developmentは「開発」とか「発展」に直結する言葉と、普通受け取られている。
そして「開発」や「発展」という言葉が真っ先に結び付く先は「企業」であり、「企業の存在理由」のなかにこのDが強く組み込まれていると、人々も安易に納得しているように思う。

従って企業が差配し、企業に都合のよい目標が優先されている現在のSDGs が違和感なく社会に受け入れられている背景には、DevelopmentのDが挿入され、ある意味強制的に企業の存在感を世界に周知させようとして、Dが使われているというネーミングの妙にも理由があるのではないかと邪推している。

社会を構成するのは「人々」と「企業」。決して「企業」だけで成り立っている訳ではない。現状のSDGsが「企業」の論理を中心として動いており、一方の「人々」が抜け落ちている状況は困ったものだと常々感じております。

そこで命名の妙が一つの原因であるのなら、SDGsに代わる別のスローガンを提起するのも意義があるのではとの思いから、SPGsとSOGsというスローガンを敢えて提示してみます。

SPGsはSustainable People Goalsの略、SOGsはSustainable Other Goalsの略です。
SPGs中のPは申すまでもなく、ハッキリと「人々」が主体だというスローガンとしたいという思いからの造語です。
SOGs中のO(Other)は現状の「企業中心の論理」から出てくる目標設定とは異なる、それらとは別の「他の」目標の設定が重要だ、ということを強調したいが為に作った造語です。

SDGsを敢えてSPGsとかSOGsに読み換えることで、現在は脇に置かれがちな我々という「人々」が希望する未来の目標の設定をSDGsに組み込んで行くチャンネルが生まれるのではないかと考えております。

企業の論理とは異なる人々の持つ別の論理から生まれる目標をSDGsに組み込むことは、「今世紀半ばの世の中はこんな風であって欲しい」というSDGsの本来の目標をより健全にする作業であり、視野をより広げる上で必要とされる作業であると考えております。

「人々」という言葉を繰り返して使用していますが、ここで使っている「人々」には我々人間だけでなく共に暮らしている動物・植物そして微生物、即ち全ての生命あるものを含めております。そして生命あるものだけでなく、我々の周りに共に存在している大地河川や大気といった自然環境をも含めて考えていきたいと考えております。即ち命のあるなしに関わらず全ての我々の周りにあるものを代表して代弁する存在として、我々という「人々」が存在している、という立場を取りたいと考えています。

この様な視点の考えを推し進めていく上で役立つ情報を今後紹介していきたいと考えており、今回は先ずAlJazeeraの情報から始めてみます。そこではアフリカが抱える諸課題は、企業利益を優先する思考から手掛けていくのではなく、諸課題解決の中心に「人々」を据えて取り組むことの重要性を訴える視点が打ち出されております。

AlJazeeraの2月28日の記事『アフリカの気候変動の真の解決は人々に関することの追求から可能であり、利益を追求することでは決して解決できない』(アフリカOxfam所属のHassaneさんの手になる記事)
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2月17-18日アディスアベバで今年度のアフリカ連合サミットが開催され、各国指導者らが「気候変動に関するナイロビ宣言」を採択。

アフリカでは、干ばつと洪水が交互に繰り返されており、農作物は枯れ、流され、そして多くの家畜が死亡している。
アフリカ東部だけでも74億ドルに相当する家畜と数十万haに及ぶ農作物が失われ、その結果数百万人の人々が無収入、または食べ物のない状況に昨年置かれていたという。

アフリカ東部では井戸掘削の際、5か所に1ヵ所はカラ井戸であったり、浄化処理なしでは飲めない水が出るといった状況である。井戸掘削はより深く掘る必要があり、費用がかさむことになり、維持も困難なことになる。

ナイロビ宣言は、地球温暖化に対するアフリカの寄与度合いは歴史的に極わずかであるのに対して、アフリカの人々の生命と生計そして経済面は温暖化による悪影響をより大きく受けており、過大な負担をアフリカは強いられている、という指摘の点では市民社会の思いとおおむね一致している。

この宣言では「地域共同体」の果たす役割が、気候変動対策活動において鍵となる、との認識が指摘されており、注目すべき視点である。
気候変動への対処に必要となる適切な資源と支援を、役割が期待される「地域共同体」に確実に到達させていくことが、当然ながら求められるのである。残念ながら、この点の明確なシナリオの提示が正にナイロビ宣言では欠けている部分である。

アフリカ各国は「グリーン成長」戦略の地域規模への、地方規模への、そして国家規模・世界規模への拡大を目指す政策・規制そして奨励金制度の実施に取り組んでいる。

ここで問題となるのが「グリーン成長」とは、ではどんなものか、という条件についての透明性が無い状況が存在していることである。現状では無数の成長策が提示され、妥当なものと判断されており、その結果優先されるべきは「人々」を中心に据えるとの尺度が薄められて、「利益」思考が優先されてしまうという事態がたびたび発生することになっている。

例えば海外でのCO2排出を相殺する目的で企業は広大な土地を購入することが可能となっており、結果として企業の石油とガスのくみ上げは継続され、その為にアフリカや他の地域が出汁として利用されるという状況が発生しているのである。そしてこのような状況により、アフリカ大陸の小規模農家そして大陸の環境に不利益がもたらされているのである。

富裕国に対し、彼らの約束の履行を促すこと、そして気候予算の拡大を要求することは大切ではあるが、提供される資金の性格を見極めることも重要である。
富裕国側は2020年度に833億ドルを拠出したというが、Oxfamの計算では実質上は高めに見積もっても245億ドルだったとしている。富裕国側の根拠には気候変動目標案件に含めるには、評価基準を過大に甘くする必要のあるプロジェクトが混じっていたり、ローンとして拠出している案件も含まれているとしている。債務が既に重くのしかかっている国にとって、ローン案件は受給国にとっては反対に有害な支援となる恐れがある。

また、現在利用可能な気候変動向け資金のメカニズムには、利用のしやすさの点での課題と包括性・一体性の無さの課題を指摘する市民社会の組織や団体が多く存在している。
事実、Oxfamの調査では西アフリカ/Sahel地域で国際的気候変動資金を直接利用できた団体のなかで、「地域的組織・団体」だと認定できたのはわずか0.8%だったとされる。

気候変動資金がどの程度地域レベルに到達し、プロセスに地域社会がどのように参加しているかについて、不透明な情報提供が依然として続いている。この点の改善が求められる。

そして地元住民が利用しやすく、管理しやすい少額の助成金の創設が求められる。

ナイロビ宣言では女性が直面する多面的な課題に対する包括的であり一体的な取り組みが為されていない。食べ物が足りない時、女性は食べる量をへらしたり、最後に食べるということを行うものである。そして学校をやめるのは女児が優先され、そして口減らし目的で女性は早婚化となる。日々の水を求めて女性は炎天下子供を抱えて数km歩くことになり、危険にさらされている。家庭内暴力の傾向は貧困状況と密接に関連しているとの研究が東アフリカで確認されており、貧困状況の改善が早急に求められる。

ナイロビ宣言では輸送に対する炭素税の創設を世界に要請している。
しかし適切な緩和戦略を併せて取り入れることなく進めると炭素税は脆弱な人々に悪影響を過大に与えることとなり、食料・医薬品やその他生活必需品のコストを更に上昇させる恐れがある。

我々の希望は投資が真に「人々」に広く行きわたり、気候変動への対処が可能となり、それにより「人々」は食物を生産することが出来るように繋がっていくシステムの構築である。

国際農業開発基金(the International Fund for Agricultural Development,IFAD)によるとアフリカ大陸には推定3300万世帯の小規模農家があり、大陸の食糧供給力の70%程を生産しているという。この様な状況でも、FAOによるとサハラ以南の地域に住む貧困状態にある90%の住民は農村地域に暮らしているという。

給水システムと衛生システムに向けての投資が必要とされる。アフリカ南部地域では飲用可能な水を利用できる人の割合は高々61%とされ、適切な衛生環境下で暮らしている人は5人に2人という。最近のマラウィ・モザンビーク・ザンビアやジンバブエにおけるコレラの蔓延が拡大している原因はかかる衛生環境の劣悪さである。事実1月以降これらの地域では新規感染者が数千人にのぼり、死者は数百人発生している。

現在アフリカは決定的な岐路に立っていると言える。

アフリカ大陸の指導者らは自由貿易市場から要請される拙速な取り繕い策、そして致命的になる恐れのある罠とも言える策を回避すべきであり、気候変動活動の中心に「人々」を据えることに注力すべきである。そうすることによって「包摂的・一体的な成長と持続可能な発展に基づく豊かなアフリカ」を目指すというアジェンダ2063がその目標に向けて一歩を踏み出すことになることが期待できるのである。

資源とチャンスへの利用可能性が公平であり、そして利用しやすさを支援することで、全ての個人が生き残るだけでなく、自然界と調和して繁栄するアフリカ大陸の構築が可能となるのである。
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アフリカの気候変動に対応する現在の状況や水資源・衛生状況の課題と疾病との関係やジェンダーをも含めての貧困問題等と通して、結局は市場の論理が優先されている形の支援が横行していることをOxfamアフリカの担当者が指摘していると思います。

Oxfamが指摘している「利益」を中心に据えるのではなく、「人々」を中心に据えてアフリカの今後の課題に対処していくことが大切とする姿勢は、冒頭述べた現在のSDGsが企業の論理が中心となっており、それをより健全にするには企業の論理とは異なる「人々」が持つ別の論理から生まれる、今までとは異なる「他の」目標をSDGsに組み込むことが大切であり、必要な作業だとする思いと相通ずる認識だと思います。

「今世紀半ばの世の中はこんな風であって欲しい」というSDGsの本来の健全な目標を作っていくには、企業の論理だけでなく、それとは異なる別の論理からの検討が必要であり、それを行えるのは我々「人々」が求められていると思うのです。

次回は我々の農耕と病害虫とのかかわりに関連する問題を取り上げる形で、ともすると企業の「利益」が偏重されすぎてきた歴史と、そこから生じた「人々」の不利益の問題を取り上げてみます。そして企業からの課題解決策が優先され、それとは異なる「他の」良い解決策があるにも関わらずに、何故かそれが見落とされてしまった歴史の例を名著とされるカーソンの「沈黙の春」に焦点を当てることで振り返ってみたいと考えています。

「護憲+BBS」「新聞記事などの紹介」より
yo-chan