life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「姑獲鳥の夏(上)(下)」(著:京極 夏彦)

2020-04-19 16:20:24 | 【書物】1点集中型
 ものすごく今さら感満載だけど、そういえば京極作品って何気に全然読んだことないということに思い当たり、とりあえずタイトルだけ知っている作品に着手してみた次第。

 伝奇的なやつなのか、ホラーなのか、ミステリなのか? といろいろ思いながらも、そういうジャンル分けしたところで意味はないので措いておく。文体は純文学の古典のような……旧仮名遣いとまではいかないので(そこは「晴子情歌」でそれなりに鍛えられたけど)全然大丈夫だし、それも昭和レトロな雰囲気の演出っぽくて嫌いではない。
 が、推理の苦手な私に、この謎は全然手に負えないので(笑)読む方はそのままさらっと下巻へいくと、事件解決のクライマックスかと思われる、登場人物ほぼ総出の場面での陰陽師としての京極堂の登場。壮大なイリュージョンを見せられているのかという気にもなる。が、発端であったはずの藤牧氏失踪事件が凄絶な形で解決したと思いきや、話はそこからだった。

 結局のところ、涼子という人間はいったいどういう存在なのか、久遠寺家とは本当は何者なのか。この事件はそもそもどういうものだったのか。
 私の中ではこの物語、途中からなんとなくSFっぽい雰囲気を感じる世界になっていった。人は自分の見たいものだけを見る、っていうのはこういうことなんだね。脳は先回りできる、であるが故に人は我知らず自らによって騙される。ビリー・ミリガンの話を再読したばかりだったから、その点でも入ってきやすい結論ではあった。単なるミステリでもなく、心霊ものでもなく、きっとほかにはないのであろう独特のアプローチが面白かった。ほかの作品もいずれ読んでみよう。