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「『無限』に魅入られた天才数学者たち」(著:アミール・D・アクゼル/訳:青木 薫)

2016-12-01 22:07:21 | 【書物】1点集中型
 当たり前に認識しているつもりである「無限」であるが、概念としては紀元前のギリシャ人が発見していたものの、「実在」として扱われるようになったのは19世紀のカントールからと、人類の歴史からすればつい最近のことなのだそうな。
 無限の一つの具現である無理数がピュタゴラスに与えた衝撃や、ゼノンのパラドックスといったあたりは数学的なものでもあり話としてわかりやすい。対して、一見して数学とはさほど縁が近いとも思われないようなユダヤのカバラが出てきたのは、古代の科学と宗教の関係があらためて見えてくるという点で面白かった。

 無限というものがただ一つのものでないことはその一言だけだとピンと来ないものだが、一つ一つひもとかれていくと、理解できているかどうかは別として(笑)非常に納得できた。無限はただ無限というだけではなくて、「有限ではない数」という別の無限も存在する。……だけではなくて、さらにそれより大きい無限もある。それこそ無限に続く入れ子のような無限とでも言おうか。
 数学的な部分と並行して、こうした「無限」のもつ広がりに見せられたカントールが、その広がりに取り込まれるようにのめり込んでいく姿も描かれている。さらに、カントールの理論がその後、どのように広がっていくのかも。導き出された公理をもとに新たな予想が生まれ、さらにそれを定理へと完成させるという、多くの数学者の手を経て積み重ねられていく数学の姿があるのだ。数学という世界の可能性を示唆する結びの言葉、「数学の本質は、その自由性にある。」蓋し名言である。