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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「年刊日本SF傑作選 超弦領域」(編:大森 望・日下 三蔵)

2011-05-01 22:15:37 | 【書物】1点集中型
 表題の通り、国内SFのアンソロジー。の、2008年度版ということらしい。本当は順番通りに2007年版「虚構機関」から読みたかったんだけど、なんでか図書館に入ってない(泣)。

 ライトノベルっぽいノリの「アキバ忍法帖」はちょっと苦手だけれども(笑)、おおむね楽しめた。出だしの法月綸太郎氏「ノックス・マシン」でがっちり惹き付けられて、王道な雰囲気のある(個人的に、すんなりSFとして受け止められる作品という意味で)「エイミーの敗北」「ONE PIECES」「時空争奪」と続き、中ほどには「あれっ、小説じゃないのね」とか「どのへんがSFか?」みたいな毛色の変わったものがずらりと並ぶ。でもこれがSFであろうがなかろうが意外と面白い。最相葉月氏は星新一氏関連のノンフィクションで名高いので興味を持っていたが、もっといろいろ読んでみたらさらに星作品も面白く読めそう。
 「すべてはマグロのためだった」はいかにもモーニングっぽい雰囲気かも。なんとなく。←なんとなくって。でもこれお話としてはとても好きです。SFという以前に、なんか作者のこの作品に懸ける熱意が主人公に投影されてる感じがして。士郎正宗氏とクラークを心底敬愛しているというのも、親近感が持てるというか……。

 で、最後に小川一水氏・円城塔氏・伊藤計劃氏と3連発。これは効きます(笑)。伊藤氏以外は初めて読んだけど、円城作品は一度読んでみたいなーと思っていた。宇宙の起源を知ろうとする人の営みにかかわる「数」。無限と無。確かに著者の言うとおり、「そういうこともあるのだろう」、そういう可能性もあるのだろうという捉え方ができる感じがした。それこそ、「何故かと真顔で問われても困る」んだけど(笑)。雰囲気はすごく好きだなぁ。
 小川作品「青い星までとんでいけ」がクラーク・トリビュートとして書かれたのも、そう言われて読んでみるとよくわかる。下位機械たちの近代的すぎる(笑)台詞回しは個人的には苦手だけども、エクスの負うものや一段上にある「オーバーロード」の存在感とか、さりげなくクラークをなぞる雰囲気は嫌いじゃない。
 オーラスの伊藤作品「From the Nothing, With Love」はもう鉄板かな。「ハーモニー」に通底する「何をもって生命となすか」というテーマは、伊藤計劃という命そのものが最後まで紡ぎ続けていたものだけに、相変わらずずっしり来る。

 読み終えて思うのは、SFという舞台装置の中でどれだけ人の心の動きを描き出しているか、結局そのあたりが自分自身が面白さを感じるかどうかの分水嶺なんじゃないかということ。SF以外のジャンルでもそういう傾向が当然あるので、このへんは私にとっては不変な基準だろうと思う。それでいて特にSFというジャンルを好んで読むというのは、宇宙という途轍もない空間に感じる憧憬みたいなものの表れかもしれない。
 それと、各作品前の編者の言葉を読んでみて考えるに、けっこうイーガンにハマれそうな気がしてきた(笑)ので、また読んでみようと思う。クラークは言わずもがな。っていうかクラークはすでにかなり好きなんだけど。