■ Ries & Erler リース&エアラー社が 「 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、出版 ■
2013.10.11 中村洋子
★季節外れの台風が迷い込み、どこか不順な秋ですね。
それでも、ときおり顔を見せる青空は、
抜けるように爽快です。
★私の作品 「 Suite für Violoncello solo Nr.3
無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 が、出版されました。
「 Ries & Erler Berlin リース&エアラー 」 社の、
ホームページを、ご覧下さい。
http://shop.rieserler.de/product_info.php?info=2840&XTCsid=24e91095ba1fabd23887c811e5f68d73
http://shop.rieserler.de/index.php
表紙には、私が手書きしました「漢字」の題名を、
適当に、散りばめてあります。
★ヨーロッパの方々には、漢字がクールでかっこよく、
デザイン的にも、斬新に見えるのでしょう。
楽譜は、まもなく届くようですので、
とても、楽しみです。
★この作品は、 「 秋 」 がテーマです。
この組曲は、6曲でできていますが、
きょうは、第2番目の 「 鶺鴒 」 ( せきれい )
Die Bachstelze バッハシュテルツェ
The white wagtail について、ご説明します。
★これは、私の好きな詩人、三好達治の 「 鶺鴒 」 という詩に、
触発されました。
≪ 紅葉して 日に日に山が明るくなる
谿川は それだけ緑りを押し流す
白いひと組 黄色いひと組 鶺鴒が私に告げる
「 この川の石がみんなまるいのは
私の尻尾で敲いた ( たたいた ) からよ 」 ≫
★微笑ましい詩です。
深閑とした山奥、河原のなにげない石に止まり、
水しぶきを浴びながら、
一心に尾を振るう鶺鴒。
いつまでも、いつまでも叩いています。
人知の及ばない自然の営み。
無限に続きます。
秋の一こまです。
★この鶺鴒を、それほど深山ではないのですが、
実際に、見たことがあります。
どうしてこんなに、飽きもせず、
せわしなく、尾っぽを上下させるのか、
無為ともとれるその行為に、
何故か、感動します。
★Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生は、
この 「 鶺鴒 」 の曲が、大好きです。
Boettcher 先生が、この曲に、
Animato ♩=80 [ ♩=66 ] という、
速度記号を、 Einrichtung で書き込まれています。
Animato の語源は、 Animal です。
また、 [ flott und leicht ] も、記入されています。
★flott は、敏速、てきぱき、きびきび。
leicht は、軽く、軽やかに、という意味です。
先生の録音は、 [ flott und leicht ] をどう弾くか、という
最もよい例でしょう。
★34小節目には [ col legno ] という指示があります。
弓の裏側、つまり、木部のほうで、軽く叩いて演奏されています。
この曲がドイツで演奏された際には、新聞評がとても好意的で、
聴衆の皆さまが、楽しまれたようです。
★音楽は、自然を模す 「 標題音楽 」 でないことは、勿論ですが、
歴史的大作曲家でも、ときどき、
このような遊びを、するものです。
★ 見かけは楽しい曲ですが、実は、仕掛けがあるのです。
「 鶺鴒 」 の第 1小節目の 16分音符 「 c、 c1、 fis、 g 」 が、
第1楽章 「 Prelude 」 の冒頭と、どういう関係にあるか、
是非、 CD と楽譜を見ながら、謎解きしてください。
★この2小節目 「 D、 A 」 で始まる 16分音符のモティーフが、
このたび、 CD録音ができました私の
「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」 の、どの曲と対応しているか・・・
などを、ミステリーのように、
秋の夜長、楽しみながら CDを聴いていただきたいと、思います。
★そうしますと、私の 全 6曲の 「 無伴奏チェロ組曲 」 が全部、
宇宙をめぐる惑星のように、互いに、交感しながら、
響き合っているのが、お分かりになると、思います。
★私の作品は、微々たるミクロコスモスですが、
Bach の巨大なコスモスに、近づこうとした勉強の成果であることは、
間違いありません。
★この CDの聴きどころの一つは、 Boettcher 先生が、
たった一本の弓で、Legato Stacoto Tenuto Crescend
Decrescend などを、どのように、表現しているかという点です。
こうした Spieltechn は、実は、
ピアニストが最も欠けているものであると、
思います。
★ピアノは、指を 10本使うことができるため、一つの音に対する、
研磨の方法がやや、おろそか、単調になりがちな面があります。
ひどいときには、ガラスを割ったような音、
あるいは、威嚇するような激しい音を出し、
聴く人を不快にさせ、神経を傷つけかねません。
★私がお薦めしたいのは、弦楽器の演奏家はもちろん、
ピアニスト、特に、ピアノの先生方が、
楽譜を見ながら、Boettcher 先生の演奏を聴いてくださることです。
個々の音を、弦楽器でどう発音しているか、
それを、体験して欲しいのです。
★そうしますと、例えば、Burgmüller ブルグミュラー
「 25の練習曲 」 の、「 pastoral パストラル 」 のような、
初心者用の曲でも、左手の 「 g、 h、 d1 」 和音の、
スタッカートとなっている repeated notes を、どう弾くか、
そのとき、右手をどのように、レガートで歌わせるか、
具体的に、学ぶことができるのです。
★『 無伴奏チェロ組曲 3、2番 』 の CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」
https://www.academia-music.com/ で、販売中。
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