音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ゴルトベルク変奏曲Ariaの写譜が、 Annaのためのクラヴィーア小曲集にあり■

2016-12-19 00:31:12 | ■私のアナリーゼ講座■

■ゴルトベルク変奏曲Ariaの写譜が、 Annaのためのクラヴィーア小曲集にあり■
~冒頭3小節目の有名なトリルの向きは、ゴ変奏曲とは異なり上昇トリル~
            2016.12.19   中村洋子

 

 

★12月16日、 KAWAI 金沢で、

第5回「Italienisches Konzert イタリア協奏曲」アナリーゼ講座

開催しました。

第1楽章を3回にわたり、第2、第3楽章を各1回の計5回にわたる

長丁場でした。


★次回の KAWAI 金沢講座は、1月13日(金)、

「Klavierbüchlein für Anna Magdalena Bach 1725

アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」から、

皆さまにお馴染のペッツォルトのメヌエットや、ミュゼットなどを

取り上げる予定です。


★「Clavier-Büchlein vor Anna Magdalena Bachin, Anno 1722

アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集 1722」は、

Bachと Anna が結婚式を挙げた1721年12月の翌年から、

Bachが作曲して自分で書いた曲をまとめたものです。

Annaがクラヴィーアなどをより上手に演奏できるようになって欲しい、

と思って作曲した鍵盤楽器曲や、Bachが自分で演奏して

彼女を楽しませるための曲などが収録されており、

Bachから妻 Annaへの“愛の捧げもの”曲集です。


★しかし、この曲集は破損が激しく、70数ページあったうち、

残っているのは25ページ分だけで、全容は詳しく分かりません。





1725年から書き始められたもう一冊の

「Klavierbüchlein für Anna Magdalena Bach 1725」小曲集は、
 
1740年代初めまで書き加えられ続きました。


★その中に、1741年ごろ、Annaアンナによって写譜された

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」のAriaアリア

含まれています。


★1725年の小曲集では、新婚間もないAnnaの稚拙な写譜と、

後になって夫Bachの楽譜と見紛うような、流麗な筆致となった写譜の

両方を、ファクシミリで、見ることができます。


★現在は「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」として知られる

「Clavierübung クラヴィーアユーブンク」第4部は、

1741~42年にかけて出版されています。

ベーレンライター社の

「Goldberg-Variationenゴルトベルク変奏曲」の楽譜に添付されている、

私の「序文訳」と、序文に対する私の「訳者注」を、お読みください。

そのいきさつを詳しく書いております。

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733634

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=1501733635







★「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」に

収録されている「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の

主題であるAriaに戻しますと、

このクラヴィーア小曲集が、1725年から書かれていることにより、

「Goldberg-Variationen」初版譜よりずっと前に、Annaにより書き写された

「Goldberg-Variationen」の初稿ではないかと、考えられていた時期も

あったようです。


★現在は、この1725年版はfacsimileで全部を見ることができます。

https://www.academia-music.com/academia/search.php?mode=detail&id=0008906063

それによりますと、このAriaは、

≪ Anna Magdalena Bach, later handwriting≫

に分類されていますので、

1)「Goldberg-Variationen」の初稿なのか、

2)「Goldberg-Variationen」の異稿なのか・・・確定できません。


★「Goldberg-Variationen」初版譜と、 Annaの写譜を詳しく見比べますと、

12か所で、相違があります。

なかでも最も興味深いのは、3小節目上声2拍目「g¹」の、

付点四分音符に付けられた装飾音です。


★初版譜では、

3小節目2拍目 

11小節目2拍目 


17小節目2拍目 

 は、

すべて≪下降トリル descending trill(英)、Triller von oben(独)≫

となっています。


3小節目2拍目の奏法は、

トリルのついた「g¹」の2度上の「a¹」から「g¹」に進行し、

その後、2度下の「fis¹」から「g¹」に戻り、「a¹ g¹a¹ g¹・・・」

というトリル音となります。


「下降トリル」は、英語の「descending trill」を訳した語です。

この装飾音の形通り、「a¹」から下降して、この装飾音が付いた「g¹」に、

たどり着きます。

 

ドイツ語の「von oben」は、「上から」という意味です。

上から(a¹)装飾音の付いた「g¹」に、たどり着くという意味です。


★同じことを意味するのですが、英語では「下降」、

ドイツ語では「上から」のトリルと言います。

紛らわしいので、お気を付けください。


★さて、「Klavierbüchlein für Anna Magdalena Bach 1725」では、

11、17小節は、「下降トリル」なのですが、

3小節目は「上昇トリル ascending trill, Triller von unten」

なっています


初版譜Ariaの3回現れる下降トリルは、一度聴いたら忘れない程、

印象深い装飾音です。

初版譜のこの3回の下降トリルは、Bachが所持していました初版譜

(Bach自身が誤植を訂正したり、書き加えをした初版譜)facsimileを

見ましても、3回とも下降トリルですのでBachの決定稿と言えます。

 

 


Annaの写譜の3小節目の上昇トリルが、

もし、 Annaの書き誤りではなく、

Bachの「初稿」あるいは「異稿」であったとしますと、

≪Ariaの風景≫は、この≪上昇トリル≫によって、

ドラスティックに一転してしまいます。

実に、驚きです。


この分析につきましては、1月21日(土)に開催します、

「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座で、

詳しくお話いたします。

https://www.academia-music.com/academia/m.php/20161026-0


★この講座は、「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」

後期講座の第1回です。

第16、17、18変奏を主に解説いたしますが、前期講座の復習を

しながら、進めていきますので、初めて参加されてもご理解頂けます。

今回は、アリアと第1、2、3変奏の復習もいたします。


★後期2回目アナリーゼ講座は、3月18日で、

第19、20、21変奏と、第4、5、6変奏の復習を予定しています。

 



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次回の「KAWAI 金沢アナリーゼ講座」は、

《アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集》アナリーゼ講座
~Bachを勉強するための第1歩となるこの小曲集に、Bach演奏のエキスが凝縮~

★Bachは1720年、最初の妻Maria Barbaraを亡くします。翌年に迎えた妻Anna Magdalena(1701-1760)は、宮廷歌手でした。Bachは、 Annaアンナのために、1722年と25年に小曲集を二回編纂しました。1722年の曲集については、全容は分かっていませんが、1725年版は手稿譜ファクシミリが出版されていますので、全貌を見ることが出来ます。

★1725年版小曲集には、Bachの作品はわずかで、息子たちの作品やクープラン、ペッツォルト等、Bachが選択したであろう曲を、アンナやBachの家族が書き写した「家庭音楽帳」です。

★この小品集は現在、ピアノのレッスンでBach作品への導入曲として、盛んに演奏されています。講座では、その中で特に有名なペッツォルト Christian Petzolt(1677-1733)の、G-Durとg-Mollのメヌエットや、作者不明のD-Durのミュゼット(BWV Anh.126)等、数曲についてじっくりお話いたします。

★Bachの作品でなくても、Bachの眼識で選ばれた曲ですので、どれも大変優れており、Bachの作品に対するのと同様の勉強方法を要求されます。

★これらの作品を読み解くカギは、Bartók Béla バルトーク(1881-1945)の校訂版にあります。講座では、手稿譜ファクシミリとバルトーク校訂版を元にして解説いたします。
楽譜につきましては、お手持ちの「アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集」で結構ですので、ご持参ください。

 

 


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■日  時 :  1月13日(金)  午前10時~12時30分
■会  場 :  カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
     (尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 有料駐車場をご利用下さい)
■予  約 :  Tel.076-262-8236 金沢ショップ

■講師: 作曲家  中村 洋子

東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。

・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、「10 Duette fur 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。

・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 fur Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表 (disk UNION : GDRL 1001/1002)。

・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~(DU BOOKS社)を出版。

・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行したバッハ「ゴルトベルク変奏曲」 Urtext原典版の「序文」の日本語訳と「訳者による注釈」を担当。

 

 

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