音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■平均律・アナリーゼ講座で、なぜ、他の作曲家を取り上げるのか?■

2011-12-02 21:20:55 | ■私のアナリーゼ講座■

■平均律・アナリーゼ講座で、なぜ、他の作曲家を取り上げるのか?■
~ ChopinがBachから吸収したものを分析することで、逆にBach理解が深まる~

                       2011.12.2    中村洋子

 

                          ( 万両の実 )


★先日、Roman Polanski  ロマン・ポランスキー監督の

≪ The Ghost writer ゴーストライター ≫  という映画を、見ました。

冒頭のシーンは、氷雨が降りしきる暗い冬の夜、

大型フェリーの甲板に、置き去りにされた無人の車を、

寒々しく、描写するところから始まります。


★この場面の音楽は、Steve Reich スティーブ・ライヒ (1936~)風の、

同一のモティーフを、次々と畳みかける手法に、

金管などの特有の響きを、うまくミックスさせ、商業音楽として、成功していました。

陰鬱な風景に、よく合っていました。

しかし、どこかで聴いたことがあるような音楽でもありました。


★11月29日の Bach 平均律アナリーゼ講座の後、自宅で、

Sergiu Celibidache セルジウ・チェリビダッケ(1912~1996)指揮の

 Anton Bruckner アントン・ブルックナー(1824~1896)、

 Symphony No.3 交響曲 3番(1889) を、聴きました


★やはり、そうでした。

この映画の音楽は、何のことはない、Bruckner Symphony No.3、

第1楽章冒頭の、 “ 巧みな remake ” でした。

 

 


★この映画音楽の作者は、この音楽で賞を得ているようですが、

Celibidache チェリビダッケは、

この Bruckner Symphony No.3 の指揮で、

この交響曲の源泉 は、どこから来ているか?、

さらに、その後の派生作品 (= 映画音楽 ) の、出自までを、

自然に、完璧に炙り出しています。


★Bruckner Symphony No.3 の源泉は、実は、

Bach の 「 Johannes-Passion ヨハネ受難曲 」 です。

Johannes-Passion そのものです。

聴くだけで、それが分かる Celibidache の、

この見事な CDは、特にお薦めです。


★11月29日の 、Bach 平均律アナリーゼ講座の後、

次のような 「 感想 」 を、頂きました。

「 Chopin ショパンの作品はあまり、興味がないのでピンとこないし、

分からない。他の作曲に与えた影響を論ずるよりは、

Bach の作品に絞って、アナリーゼして欲しい 」 という内容です。

 
講座では、平均律 18番が、 Chopin の「 Polonaise - Fantasie

 幻想ポロネーズ  」 に与えた影響、

その影響を Chopin がどのように取り込み、展開 し、

Polonaise - Fantasie  として、結実させたか、

具体的に詳しく、ご説明しました。


Chopin を理解するためには、 Bach  を理解する必要があることは、

何度も、書いております。

しかし、その逆に、 ≪ Bach を理解するためには、

Chopin の勉強も、必要であり、絶対に欠かせない ≫ のです。

 

 


Bach  バッハ の音楽は、例えてみますと、どの断面を切り取っても、

密度の濃い、宝石のようなさまざまな要素で、満ち満ちています。

後世のBeethoven ベートーヴェン(1770~ 1827) や、

Frédéric  Chopin ショパン (1810~1849) は、

そのうちの 「 一つの要素 」 を切り取り、大きく大きく育て、

大輪の花として、薔薇や芙蓉の花のように、美しく咲かせる、

という営為に、成功した作曲家です。


Bach  バッハ を何気なく見るだけでは、

見過ごしてしまうような 「 要素 」 に、スポットライトを当て、

拡大し、誰にでも、分かりやすくしたのが Beethoven であり、

Chopin ショパン である、という言い方も、可能です。

それゆえ、幅広く愛され、これからも永遠に愛され続けることでしょう。


★ Bach  バッハ の ≪ 豊かな複雑さ ≫ を、一瞬にして理解し、

味わうことができるのは、現代でも至難なことかもしれません。

その為にも、 Bach 以降の作曲家の作品から、

 Bach の 「 要素 」 を、一つ一つ逆照射し、解剖する必要があるのです。

それにより、≪ Bachのより深い理解 ≫ へと、

一歩一歩、近づくことができるのです。


★同様に、 Chopin 以降の 「 Prélude 前奏曲 」 も、

Chopin の影響を、強く受けていますので、それらを分析することで、

逆に、 Chopin の独自性など、理解が一層深まるのです。

 

 


Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー (1862~1918)、

Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875~1937)、

Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845~1924) など、

フランスの大作曲家を、理解するうえでも、

 Chopin 研究は、不可欠です。

なぜなら、 Chopin の大きな影響なくしては、

生まれ出なかった作曲家、といえるからです。


Chopin  が、地中海のマジョルカ島で、

「 Préludes Op.28  24の前奏曲集 」 を、

完成させた際、大事に持参してきたのは、 Bach の

「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 です。

また、 Chopinは、演奏会が近づくと、2週間ほど閉じこもり、

Bach ばかり弾いていた、という逸話も残っています。

 

★私は、“ 世紀のChopin弾き ” と称された、大ピアニスト

Arthur Rubinstein アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982) も、

自宅では、 Bach を弾いていたと思います。

 Bach を弾けば、 Chopin のすべてが、そこにあるからです。

「 ピアノが上手くなりたいのならば、 Bach を毎日弾くことである 」 という、

彼の言葉も、残されています。

同じことは、 Chopin も言っています。


★ Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) は、

11歳で、チェロを手にする前、

教会オルガニストだった父親から、ピアノを習いましたが、

その父親は、Bach の平均律クラヴィーア曲集よりも、

Beethoven のピアノソナタや Chopin のピアノ曲を、

尊敬していたと、 「 Conversations avec Pable Casals

 カザルスとの対話 」 に、書かれています。

面白いですね。

 

 


★ Bach  バッハ の存命中、Telemann テーレマン(1681~1767) は、

世俗的な表現を用いれば、「 Bachより格が上 」 で、

遥かに高い評価を受けていたことは、有名な話です。

それは Chopin 同様、覚えやすい要素を、

 Bachに比べると、平易に、展開したからです。

一般の人にも、分かりやすい音楽だったからです。


Bach が亡くなった 1750年で、時間を止め、

その後の作曲家には興味がない、知りたくないというのは、

 Bach を本当に学ぶことには、ならないでしょう。

そのような、演奏家も見受けられます。

 

★Mozart や Beethoven 、 Chopin 、 Schumann 、

Brahms、Bartók  の作品を学ぶことは、

Bach の高みへと到達するための、ステップ、階段なのです。

一段一段と、じっくり踏みしめ、登っていくことで、

やっと Bach が、見えてきます 。

ご自分の分析で、ご自分の手で、

Bach をつかむことができるようになる、それが、

私の講座の、目標でもあります。

 


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