■ カザルスの Bach演奏がこの上ないのは、彼が平均律を毎日勉強したから■
~ 平均律 第 2巻 13番アナリーゼ講座のご案内 ~
2014.3.6 中村洋子
★3月 11日(火) 、KAWAI表参道・コンサートサロン「パウゼ」で、
「 平均律 第 2巻 13番 Fis-Dur Prelude & Fuga 」
のアナリーゼ講座を、開催いたします。
そのための勉強をしておりますが、毎日毎日が発見の連続で、
楽しくて、仕方ありません。
★Bach の自筆譜を、勉強いたしますと、
この上なく親切な先生に、丁寧に丁寧に、
直接、レッスンしていただいているような、
錯覚すら、覚えます。
★平均律 2巻を勉強する方法は、まずは、
「 Bach の自筆譜 」 を徹底的に学びます。
そして、補助的に、
Bartók Béla バルトーク (1881~1945) 先生、
Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)先生
の教えを、乞います。
ところどころ、Bärenreiter ベーレンライター版
( 新 Bach 全集 ) も、参照します。
Henle ヘンレ版は、独善的で、勝手な改竄も多く、
あまりお薦めしません。
★Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886~1960)が、
平均律の校訂を、残せずに世を去ったのは、
大変に、残念です。
しかし、Frederic Chopin ショパン (1810~1849) が、
平均律 第 1巻に書き込んだ Fingering と解釈が、肝心要の部分で、
Bartók 校訂版と、不思議に、いつも一致しているように、
Fischer版がもし、存在していたとしても、
Bartók、 Röntgen と、大きな相違はないと、思われます。
★以前書きましたが、
Pablo Casals パブロ・カザルス(1876~1973) は、
毎朝、 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集から、
2曲を選び、それを弾くことから、
一日を、始めたそうです。
★Casalsの Bach 「 6 Suiten für Violoncello solo
無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」 演奏は、
全く、他のチェリストの追随を、許しません。
その理由は、実は、この毎朝の、
≪ 平均律の演奏と勉強 ≫ に依るものが大きいと、
私は、思います。
★どなたでもご存知の、世界的な素晴らしいチェリストたちによる、
Bach 無伴奏チェロ組曲の演奏を、数多く、聴きましたが、
「 あれだけ立派なマエストロたちが、どうして、
こんなに底の浅いBach なのか 」 と、
いつも、疑問に思っていました。
★やっと、得心がいきました。
私が、 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集を、
「 自筆譜 」 で勉強した結果、やっと、
Casalsの演奏が、なぜ素晴らしいのか、その理由が
明確に、分かったのです。
★基本的に、Celloは単旋律なのですが、
Bach の 「 無伴奏チェロ組曲 」 に、
縦横無尽に、張り巡らされている
Harmony 和声や、Counterpoint 対位法を、
完全に分析し、それを知悉して、血肉化して初めて、
「 無伴奏チェロ組曲 」 の全体像が、
現れてくるのです。
★毎日、Celloの練習をしているだけでは、
「 無伴奏チェロ組曲 」 の全体像は、
把握できないでしょう。
★チェリストに限らず、どんな楽器の奏者でも、勉強すべきは、
Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集です。
並外れたテクニックで、聴衆を圧倒するような、
名人チェリストたちの、惨めな Bachを聴くたびに、
痛感いたします。
★ということは、彼らが演奏する、
Robert Schumann ロベルト・シューマン (1810~1856) の
「 Cello Concerto 」 、
Johannes Brahms ブラームス (1833~1897) の、
「 Cello Sonata 」 も、本物かどうか、
ということになります。
★逆に、音楽を好きでたまらない方が、
こつこつと、平均律を勉強すれば、
≪ 真贋を見抜く目と耳を獲得できる ≫、ということになります。
これが、音楽の喜びそのものなのです。
★1月に、ある会合で、Casalsの 「 Song of the Birds 鳥の歌 」 を、
ピアノで演奏しましたが、
原曲は、「 for Cello and String Orchestra 」
弦楽合奏と独奏 Cello のための曲です。
★曲の初め、ヴァイオリンの 2分音符の長いトレモロ、
これは鳥のさえずりを、象徴しているのですが、
それを、ピアノで弾いていて、どこかで聴いたことがある、
と思っていました。
★今回、平均律 2巻 13番を勉強しておりまして、
やっと、分かりました。
13番 Prelude の 26、 27小節目に、頻繁に現れる
「 cis2 2点嬰ハ音 」 の、長い trill トリルが、
「 鳥の歌 」 のトリルと大変によく、似ているのです。
★Casalsによりますと、この曲は、カタロニアの古い 「 Carol 祝い歌 」、
その歌詞は、キリスト降誕をうたっています。
「 みどりご 」 を迎えるのは鷹、雀、ナイチンゲール、ミソサザイです。
鳥たちは、 「 みどりご 」 を、甘い香りで大地をよろこばせる
一輪の花にたとえて、歌います。
★Casalsは、トリルを標題音楽的に使っているのではなく、
この 13番 Prelude のトリルと同じように、
使っています。
★13番 Prelude の 26、 27小節は、実は全 75小節の、
ちょうど 3分の 1のところに位置し、
そのレイアウトも、非常に作為的に、凝っています。
★この 「 cis2 」 のトリルは、 26小節目の 2拍目から、始まりますが、
Bach は、26小節目の 1拍目を、
わざわざ、 5段目の一番最後に記譜し、
6段目の冒頭に、2拍目を置いています。
つまり冒頭から 「 cis2 」 のトリルが、始まるよう、
記譜しているのです。
★さらに、26小節目 2拍目の真上、つまり、5段目の冒頭に
目を移しますと、ここも 同様に、21小節目の 2拍目から、
始まっています。
なんと、この2拍目の上声は、 「 cis2 」 なのです。
★この 「 cis 」 という音は、実は、
≪ 13番 Fis- Dur の属音 ≫ です。
大変に、重要な音なのです。
★今度は目を、13番 Prelude の冒頭に移しますと、
何と、その上声は、 「 cis2 」 から、
始まっているのです。
★この一連の 「 cis2 」 のレイアウトのみならず、
Bach の自筆譜から、分かってくる曲の凄さ、楽しさに、
毎日、付き合っていますと、
喜びが、心から溢れ、春を待つ鳥のように、
歌いだしたくなるのです。
★さらに、 26、 27小節目の trill は、
13番 fuga の subject の、冒頭の trill に、
変容していくと思います。
★13番 Fuga の冒頭トリルを、どう弾くべきかについても、
Bach 先生の自筆譜を、読み込みますと、
なんなく、回答が得られます。
★しかし、この Prelude & Fugaは、
愉悦に満ちているだけでは、ありません。
同時に、深い悲しみもたたえ、その悲しみの中に、
昇華した一種の明るさも、感じられます。
★次の 「14番 Prelude & Fuga fis-Moll 」 は、
平均律 2巻の白眉と言う説もありますが、
この曲は、嘆きに満ちた曲ではなく、実に暖かく、
明るい曲であることが、13番をよく勉強いたしますと、
分かってきます。
★講座でご説明しますが、平均律は、
24曲の別々の曲を、曲集として集めたのではなく、
≪ 巨大な 1曲の 24楽章 ≫ 、とみるべきなのです。
とりわけ、≪ 同じ主音をもつ、長調と短調の結び付き ≫ は強く、
14番を弾くためには、 13番を徹底的に勉強しなければ、
無理である、ということになります。
★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
全国の主要CDショップや amazon で、ご注文できます。
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