音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ バッハの「 イタリア協奏曲 」 を読み解く ■

2011-04-10 15:37:06 | ■私のアナリーゼ講座■

■ バッハの「 イタリア協奏曲 」 を読み解く ■
              2011.4.10 中村洋子

 


★3月は、予期せぬ大震災のため、

3回 予定しておりました 「 アナリーゼ講座 」 が、

残念ながら、延期となりました。


★その間、私は 「 無伴奏チェロ組曲 」 の作曲に、

全力を、挙げていました。

「 組曲第 5番 」 まで完成し、

現在は、「 第 6番 」 を、作曲中です。


★また、3月末には、ドイツで 3回目の出版となります

「 10 Duette fur Violloncelli 」 が、

Berlin ベルリンの  Ries & Erler 

リース&エアラー社 から、出版されました。

4月初めの、 Musikmesse Frankfurt 2011

フランクフルトでの 「 ミュージック メッセ 」 で、

公開されました。 

 


★大バッハ  ( 1685~ 1750 ) は生前、出版を、

( 数え方にもよりますが ) 6回ほど、しました。

鍵盤作品としては、

・Clavier Ubung Ⅰ 1731年

・Clavier Ubung Ⅱ 1735年

・Clavier Ubung Ⅲ 1739年

・Clavier Ubung Ⅳ 1741年

また、1747年に、

・Einige canonische Veraenderungenも、出版され、

全部で、5回です。


★このほかもう一つは 1747年、有名な、

Musikalisches Opfer 「 音楽の捧げもの 」 が、あります。

さらに、没後の1751年には、 

Die Kunst der Fuge 「 フーガの技法 」 が、出版されました。


★Clavier Ubung Ⅰ は、「 6つのパルティータ 」

Clavier Ubung  Ⅳは、「 ゴルトベルク変奏曲 」です。

Clavier Ubung Ⅱは、この「 イタリア協奏曲 」と、

「 フランス風序曲 」 が、収録されています。


★現在、この出版された楽譜 Clavier Ubung Ⅱ の、

誤記部分を、バッハが自分で、訂正したメモが、

残されています。

このため、Clavier Ubung Ⅱの出版楽譜は、

バッハが、認知した楽譜とみて、

差し支えないでしょう。

 


★私はいまも、この出版楽譜のファクシミリ版を、

詳細に、勉強しています。

バッハの鍵盤作品につきましては、いつも申し上げているとおり、

現在出回っています出版楽譜は、初版楽譜とは、

かけ離れた 「 記譜法 」 に、変わっています。


★初版楽譜で、各小節を、子細に検討することにより、

演奏するうえで、本質的な 「 示唆 」 が得られると同時に、

なぜ バッハが「 イタリア協奏曲 」 と、名付けたのか、

それも、手に取るように、分かってきます。


★第 1楽章 1小節目は、「 ト音記号とバス記号 」 による、

いわゆる 「 大譜表 」 で、書かれています。

バス記号に書かれている、主和音(  F  A  C  F  ) の、

最も低い 「 F 」 の音のみ、符尾が下向きになっています。

残りの「  A  C  F 」 は、上向きに、書かれています。


★このため、この和音は、「 一塊りの和音 」 ではなく、

最低音が、「 バスの声部 」 を意味し、

他の 3つの音とは、性格が異なります。

 


★それを、どのような音色で演奏すべきかは、

バッハが若いころ、勉強した Antonio Vivaldi

ヴィヴァルディ ( 1678~ 1741 )や、

 Marcello マルチェルロの「 コンチェルト 」 と、

それらをバッハ自身が、鍵盤作品に編曲した作品とを、

比較しますと、容易に、想像がつきます。


★2小節目は、左手がバス記号から、アルト記号に変わります。

1小節目とは、明らかに 「 声部 」 が、異なります。

この 「 F  D  B  」 を第 1テノール、

再び、バス記号に戻った左手 「 F D B 」 を、

第 2テノールと、とらえます。


★そうしますと、この 3小節間、実は、

冒頭の低いバス 「 F 」 が、オルガンポイント

(保続音)のように、鳴り響いているのに、気付きます。

一つの実験として、冒頭の 「 F 」 を、

ソステヌートペダルで、演奏を始める前に、

踏んでおき、この 3小節間、踏み続けます。

 
★どうでしょう!

なんとも、ゴージャスな 「 バッハのイタリア協奏曲 」 が、

出現します。

 


★4小節目の左手は、「 バス記号 」 のまま、

「 F(かたかなヘ音) 」から、「 F(ひらがなへ音)」 へ、

1オクターブ、下行します。

最初の 「 F(かたかなヘ音)」 は、

4分音符の長さを伸ばす役割としての、「 上向き符尾 」 と、

8分音符で、次の 「 F(ひらがなへ音)」 へと進行する

「 下向きの符尾 」 の、両方の指示をできるように、

複雑に、記譜されています。

この 4分音符は、「 第 1テノール声部 」 、

8分音符は、「 第 2テノール 」 と、

とらえることができます。


★続く、「 F(ひらがなへ音)」 は、

冒頭の 1小節目の 「 バス音 F 」 と、同じ音であり、

ここまで、保続音が続いている、ということになります。


★このような見方は、5小節目から 8小節目の、

「 C(かたかなハ音)」についても、

全く、同じことがいえます。


★このように、初版譜を詳細に検討しますと、

バッハが、この曲をどのように構想し、

どのように弾いていたか、

それが、明白に分かります。


★「 イタリア協奏曲 」 のアナリーゼ講座を、

開くことが、可能になりましたら、

この続きを、お話したいと思います。

               

(クロッカス、花梨の芽、八つ手の実、紅梅と空、屋根 椿)

                                   ※copyright ©Yoko Nakamura

▼▲▽無断での転載、引用は固くお断りいたします△▼▲

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