音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「インヴェンション1番」自筆譜の不思議な記譜レイアウト、そこに構造を解く鍵が■

2019-03-04 22:46:36 | ■私のアナリーゼ講座■

■「インヴェンション1番」自筆譜の不思議な記譜レイアウト、そこに構造を解く鍵が■
~新アナリーゼ講座、Bach「平均律クラヴィーア曲集第1巻」と、この「1巻を源泉とする名曲」(全4回)≫~              

             2019.3.4   中村洋子  

 


                   
(水ぬるむ池)

                                 

★3月3日は雛祭り、6日は啓蟄、いよいよ春です。

3月3日は、旧暦では1月27日、

旧暦の雛祭りは、ことしは4月7日になります。

「桃の節句」は、4月7日の方が相応しいように思えます。


★早春の蝋梅からいま盛りの梅、そして桃、桜と

春の花リレーは続きます。


★≪菜の花の黄をまじへけり雛あられ≫ 久保田万太郎

緑、白、桃色の「雛あられ」の上に、黄色の菜の花の花びらが、

はらはらと、舞い落ちます。

うららかな春の幻想的な句です。


★菜の花の咲く頃まで、もう少し、自然素材のクチナシ、ヨモギ粉末、

赤ビートで彩色された「雛あられ」の封切りを、待ちましょう。

 




4月20日から、アカデミアミュージックでの新講座が始まります。

≪バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」と、この「1巻を源泉とする名曲」
                              (全4回)≫
https://www.academia-music.com/user_data/analyzation_lecture
https://www.academia-music.com/images/pc/images/2019-1_Analyse.pdf


★今回、講座で取り上げます「Inventio1番 & Sinfonia1番」は、

どちらも「左、右ページとも各3段」が、基本のレイアウトです。

ここで驚くべきことに、各段最後(右端)は、小節の終わりである小節線では

終っていません。
(Inventio1番の左ページ2段目と、Sinfonia1番の左ページ3段目を除く)。


★例えば、「Inventio」1番の1段目右端は、4小節目3拍目で終わり、

残りの4拍目は、2段目冒頭から始まっています。

小節線ごとに整然と、区切られている実用譜を見慣れた目には、

奇異に感じられます。

 

 


★「Inventio & Sinfonia」の各15曲は、上記のように、

格段の終わりが、きれいに小節の終わりで閉じられてはいないことが、

非常に多いのです。


★小節線と段落分けが完全に一致しているのは、

「Inventio」の3、4、9番、「Sinfonia」の11番の4曲のみです。

むしろ、この4曲が例外といえます。


★「 Inventio」の3、4番と、「 Sinfonia」の11番は、

8分の3拍子ですから、小節を分断して記譜することは、

極めて難しいともいえます。



 

★4曲中の残りの9番は、4分の3拍子。

この曲集の「白眉」とも言える「4分の3拍子」です。

 

 

★「Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア」

につきましては、これまで、東京、横浜、名古屋、金沢で既に、

講座を開催しましたが、勉強すればするほど、その奥深さに

圧倒されていきます。

「平均律第1巻」の集大成とも言えます。

 

 


どこが「集大成」なのかを解くカギは、平均律第1巻の「序文」にあります。

これについては、私が解説を書きました

  【ベーレンライター原典版  
    バッハ、平均律クラヴィーア曲集 第1巻
              日本語による詳細な解説付き楽譜】       http://www.academia-music.com/
http://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/

の「解説」をお読み下さい。

 

★さて、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻」の自筆譜が、

縦長の楽譜に記譜されているのに対し、

「Inventio & Sinfonia インヴェンション & シンフォニア」は、

各曲がおよそ横23㎝弱、縦17㎝弱の横長五線譜です。

1ページが、B5版のコピー用紙を、一回り小さくしたサイズです。


★どの曲も、見開き2ページに記譜されています。

各ページ3段ずつの計6段が、基本レイアウトですが、

「Inventio」の2、5、6、12、13番は、右にページ追加の1段が

ありますので、左ページ3段右ページ4段の計7段です。


★「Sinfonia」2番は、左右のページとも追加の1段があり、

左4ページ、右4ページの計8段です。

「Sinfonia」の3、6、7、9、11、12、15番は、右ページに追加の1段が

ありますので、左3段、右4段の計7段です。


★それ以外の「Inventio」1、3、4、7、8、9、10、11、14、15番の10曲と、

「Sinfonia」の1、3、4、5、8、10、13、14番の8曲は、

左右ともに、3段ずつの計6段が基本レイアウトです。

 

 


何故 Bachは、このように小節を中途半端に、分断し、

段落を改めたのか・・・それを考えることが、

「曲の構造を知り演奏にどう結びつけるか、あるいは、どう鑑賞すべきか」の、

最短の手引きとなる、と言えます。


★お話を「Inventio& Sinfonia」1番に戻しますと、

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)の校訂版

(Edition Wilhelm Hansen)を、勉強しますと、

Bachの素晴らしい counterpoint 対位法が、まざまざと眼前に迫ります

https://www.academia-music.com/products/detail/32389
https://www.academia-music.com/products/detail/158499


★一例を挙げますと、「Inventio」1番の上声3小節目の

Fingeringフィンガリング は、このようになっています。

 

 

★1拍目の「e¹, a²」を「1、4」の指にしますと、それに続く Fingeringは、

ごく自然に、こうなる筈です(赤い色)。

 

 

★何も3拍目3番目の16分音符「e²」と、4拍目冒頭の「c²」に、

各々「1」、「1」と書く必要はないはずです(緑色で囲った音)。

それをあえて「1」、「1」と書いたのは、その音こそ

≪大切な音です、よく注意してください≫と、

Fischerが注意喚起しているのです。

その大切な音「e² d² c²」は、実は、冒頭1小節目1拍目上声開始音の、

「逆行形」になります。

 

 

★続く4小節目上声を見ますと、

 

 

何と9つもFingeringが、記されています。

どれも、至極当たり前のFingeringです


★Fischerは何故、それをこんなに詳しく書き込んだのでしょう。

上述の3小節目の「e² d² c²」の「1」、「1」と、よく似ているのが、

4小節目1、2拍目の「c² h¹ a¹」の「1」と「1」でしょう。

 

 

★この2つをつなげますと、「e² d² c²」「c² h¹ a¹」

 

 

当然、次に期待される音列は、

 

 

「e² d² c² h¹ a¹ g¹ fis¹」の下行音階が、成立します。

さあ、この下行音階を、Bachのレイアウトからどう読み解き、

演奏するか。

「Inventio」1番の巨大なエネルギーが、沸々とたぎっています。

講座で、詳しくご説明します。

 

 

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             All Rights Reserved
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