■「インヴェンション1番」自筆譜の不思議な記譜レイアウト、そこに構造を解く鍵が■
~新アナリーゼ講座、Bach「平均律クラヴィーア曲集第1巻」と、この「1巻を源泉とする名曲」(全4回)≫~
2019.3.4 中村洋子
(水ぬるむ池)
★3月3日は雛祭り、6日は啓蟄、いよいよ春です。
3月3日は、旧暦では1月27日、
旧暦の雛祭りは、ことしは4月7日になります。
「桃の節句」は、4月7日の方が相応しいように思えます。
★早春の蝋梅からいま盛りの梅、そして桃、桜と
春の花リレーは続きます。
★≪菜の花の黄をまじへけり雛あられ≫ 久保田万太郎
緑、白、桃色の「雛あられ」の上に、黄色の菜の花の花びらが、
はらはらと、舞い落ちます。
うららかな春の幻想的な句です。
★菜の花の咲く頃まで、もう少し、自然素材のクチナシ、ヨモギ粉末、
赤ビートで彩色された「雛あられ」の封切りを、待ちましょう。
★4月20日から、アカデミアミュージックでの新講座が始まります。
≪バッハ「平均律クラヴィーア曲集第1巻」と、この「1巻を源泉とする名曲」
(全4回)≫
https://www.academia-music.com/user_data/analyzation_lecture
https://www.academia-music.com/images/pc/images/2019-1_Analyse.pdf
★今回、講座で取り上げます「Inventio1番 & Sinfonia1番」は、
どちらも「左、右ページとも各3段」が、基本のレイアウトです。
ここで驚くべきことに、各段最後(右端)は、小節の終わりである小節線では
終っていません。
(Inventio1番の左ページ2段目と、Sinfonia1番の左ページ3段目を除く)。
★例えば、「Inventio」1番の1段目右端は、4小節目3拍目で終わり、
残りの4拍目は、2段目冒頭から始まっています。
小節線ごとに整然と、区切られている実用譜を見慣れた目には、
奇異に感じられます。
★「Inventio & Sinfonia」の各15曲は、上記のように、
格段の終わりが、きれいに小節の終わりで閉じられてはいないことが、
非常に多いのです。
★小節線と段落分けが完全に一致しているのは、
「Inventio」の3、4、9番、「Sinfonia」の11番の4曲のみです。
むしろ、この4曲が例外といえます。
★「 Inventio」の3、4番と、「 Sinfonia」の11番は、
8分の3拍子ですから、小節を分断して記譜することは、
極めて難しいともいえます。
★4曲中の残りの9番は、4分の3拍子。
この曲集の「白眉」とも言える「4分の3拍子」です。
★「Inventionen und Sinfonien インヴェンションとシンフォニア」
につきましては、これまで、東京、横浜、名古屋、金沢で既に、
講座を開催しましたが、勉強すればするほど、その奥深さに
圧倒されていきます。
「平均律第1巻」の集大成とも言えます。
★どこが「集大成」なのかを解くカギは、平均律第1巻の「序文」にあります。
これについては、私が解説を書きました
【ベーレンライター原典版
バッハ、平均律クラヴィーア曲集 第1巻
日本語による詳細な解説付き楽譜】 http://www.academia-music.com/
http://www.academia-music.com/shopdetail/000000177122/
の「解説」をお読み下さい。
★さて、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻」の自筆譜が、
縦長の楽譜に記譜されているのに対し、
「Inventio & Sinfonia インヴェンション & シンフォニア」は、
各曲がおよそ横23㎝弱、縦17㎝弱の横長五線譜です。
1ページが、B5版のコピー用紙を、一回り小さくしたサイズです。
★どの曲も、見開き2ページに記譜されています。
各ページ3段ずつの計6段が、基本レイアウトですが、
「Inventio」の2、5、6、12、13番は、右にページ追加の1段が
ありますので、左ページ3段右ページ4段の計7段です。
★「Sinfonia」2番は、左右のページとも追加の1段があり、
左4ページ、右4ページの計8段です。
「Sinfonia」の3、6、7、9、11、12、15番は、右ページに追加の1段が
ありますので、左3段、右4段の計7段です。
★それ以外の「Inventio」1、3、4、7、8、9、10、11、14、15番の10曲と、
「Sinfonia」の1、3、4、5、8、10、13、14番の8曲は、
左右ともに、3段ずつの計6段が基本レイアウトです。
★何故 Bachは、このように小節を中途半端に、分断し、
段落を改めたのか・・・それを考えることが、
「曲の構造を知り演奏にどう結びつけるか、あるいは、どう鑑賞すべきか」の、
最短の手引きとなる、と言えます。
★お話を「Inventio& Sinfonia」1番に戻しますと、
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)の校訂版
(Edition Wilhelm Hansen)を、勉強しますと、
Bachの素晴らしい counterpoint 対位法が、まざまざと眼前に迫ります。
https://www.academia-music.com/products/detail/32389
https://www.academia-music.com/products/detail/158499
★一例を挙げますと、「Inventio」1番の上声3小節目の
Fingeringフィンガリング は、このようになっています。
★1拍目の「e¹, a²」を「1、4」の指にしますと、それに続く Fingeringは、
ごく自然に、こうなる筈です(赤い色)。
★何も3拍目3番目の16分音符「e²」と、4拍目冒頭の「c²」に、
各々「1」、「1」と書く必要はないはずです(緑色で囲った音)。
それをあえて「1」、「1」と書いたのは、その音こそ
≪大切な音です、よく注意してください≫と、
Fischerが注意喚起しているのです。
その大切な音「e² d² c²」は、実は、冒頭1小節目1拍目上声開始音の、
「逆行形」になります。
★続く4小節目上声を見ますと、
何と9つもFingeringが、記されています。
どれも、至極当たり前のFingeringです。
★Fischerは何故、それをこんなに詳しく書き込んだのでしょう。
上述の3小節目の「e² d² c²」の「1」、「1」と、よく似ているのが、
4小節目1、2拍目の「c² h¹ a¹」の「1」と「1」でしょう。
★この2つをつなげますと、「e² d² c²」「c² h¹ a¹」
当然、次に期待される音列は、
「e² d² c² h¹ a¹ g¹ fis¹」の下行音階が、成立します。
さあ、この下行音階を、Bachのレイアウトからどう読み解き、
演奏するか。
「Inventio」1番の巨大なエネルギーが、沸々とたぎっています。
講座で、詳しくご説明します。
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