音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、子供にこそ弾いて欲しい曲■

2016-07-03 23:52:10 | ■私のアナリーゼ講座■

■軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、子供にこそ弾いて欲しい曲■
 ~名古屋・平均律アナリーゼ講座1巻4番cis-Moll のご案内~
           2016.7.3       中村洋子

 

 


★七月に入ったばかりですが、既に猛暑です。

今日は、蝉の初鳴きを聞きました。

先週6月29日は、名古屋で第3回平均律アナリーゼ講座、

「第1巻3番 Cis-Dur  Prelude & Fuga」を、開きました。


★名古屋は年3回ですので、講座のたびに、

久しぶりにお会いします受講生の方と「お元気でしたか」と、

和やかなご挨拶が飛び交います。


★毎回欠かさずに参加されますある方は、欧州旅行をされ、

BonnボンのBeethoven Haus ベートーヴェンハウスに、行かれたそうです。

「エリーゼのために の自筆譜facsimileを求めて参りました」と、

顔をほころばせていらっしゃいました。

「Für Elise エリーゼのために」 につきましては、私の著書

「クラシック音楽の真実は大作曲家の自筆譜にあり!」で、

詳しく論じておりますので、是非、お読みください。

 


★この講座では、Bachの源流の一つである、

Johann Pachelbel ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)の

作品の解説と、平均律第1巻3番を源泉とした

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)の「雨だれ」、

Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)の「月光ソナタ」が、

成立していく過程を、ピアノで音にしながら、お話しました。

 

★名古屋の次回10月26日(水)、

第4回平均律アナリーゼ講座でも、第1巻4番cis-Moll 嬰ハ短調を

基に、引き続き「月光ソナタ」や「雨だれ」について、

すべて 「Manuscript Autograph 自筆譜」facsimile により、

ご説明いたします。

 

 


平均律第1巻4番cis-Moll は、何か大変に深淵で、

容易に取り上げてはいけない、と思い込まされていませんか?


Preludeは、短調でありながら、とても親しみ易い舞曲です。

Pachelbel パッヘルベル由来の、心をとろかすような

Sequenzゼクエンツも、満載です。

Bachが、10歳になるかならないかの長男フリーデマンに

この曲を弾かせたのも、納得です。


★Chopinも、このPreludeを≪ Andante con moto ♩=92≫ で

弾いていました。

 

 

Andante con motoは、直訳しますと「動きをもったアンダンテ」。

おどろおどろしく、もったいぶった曲ではないのです。

Chopinは、Czernyチェルニー版の平均律第1巻で弾いていました。

このCzernyチェルニー版は、間違いが多い版でもありますが、

そこに、 Chopinはたくさんの書き込みをしています。


4番 Preludeは、冒頭を「」で始めています。

Chopinの自作品と同様、音楽が始まる前の拍子記号の

真下(真上)に「」を、書き込んでいます。


打鍵する前に「」を作りなさい、心の中で準備しなさい、

という意味でしょう。

slurスラーも、拍子記号の真上から始まっています。

ピアノで冒頭第1音が鳴らされる前から、

“既に、音楽は始まっていますよ!”という合図です。

 

 


★何故、 Chopinがこうしたのかということですが、

彼は、その前の第3番の Fugaを ♩=104 Allegro に設定しています。

そして、最終小節の55小節目の最後の音に、

sforzandoスフォルツァンド(その音を特に大きく)を、

記入しています。

 

 


3番Fugaフーガを弾き終え、続けて4番Preludeを

演奏する場合、4番をいきなり弾き始めるのではなく、

第1音の前に、「p」を心のの中でつくり、第1音「gis¹」を、

あたかも、その前から続いていた流れるように、

静かな旋律の途中の音のように、

アタックではなく、柔らかく弾き始めていた、ということでしょう。

 

★3番 Fuga 55小節目のチェルニー版は2拍目のdis¹の

音価(音の長さ)が間違っていますので、

Bachの自筆譜から正しい楽譜を写譜しておきます。

 

 

Chopinの自筆譜の読み方は、私の著作 Chapter 5 の166ページ

≪Chopin の幻想ポロネーズを自筆譜から読み込む≫

を、どうぞお読みください。

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------

中村洋子 バッハ 平均律 第1巻 4番 cis-Moll Prelude& Fuga アナリーゼ講座

■軽やかで繊細な平均律第1巻4番前奏曲は、子供にこそ弾いて欲しい曲■
      ~Beethoven 月光ソナタは、4番が源泉~

日時 : 2016年 10月 26日(水) 10:00 ~ 12:30
会場 : カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

予約  : カワイ名古屋
 〒460-0003 名古屋市中区錦3-15-15
 Tel 052-962-3939 Fax 052-972-6427


★憂愁の霧に閉ざされたような、メランコリックな平均律第1巻

「4番前奏曲」は、実は、Bachの Französische Suite

フランス組曲の優美な舞曲と深く、関連しています。

この4番前奏曲と表裏一体の関係にある「3番フーガ」は、

明るく、軽やか、屈託がありません。


★このことからも、「4番前奏曲」を深刻に、重々しく弾く必要がない、

ことが分かります。

Bachは、この前奏曲 を、当時10歳前後だった長男のフリーデマンに

弾かせるため、1720年

「フリーデマンバッハのためのクラヴィーア小曲集」に、

この前奏曲を、ほぼそのまま収録しています。


★軽やかにして繊細な、この4番前奏曲は、

子供さんにこそ、弾いていただきたい曲です。
 
演奏法についても、分かりやすくお話いたします。
 
 
★解説書などには、“4番フーガの主題は、十字架の形をしている”

などと、もったいぶって“あなたには難しすぎる”と言わんばかりの、

衒学的な解説がなされているようです。

しかし、それに囚われる必要は全くありません。


★Bachの意図を理解するために、自筆譜の勉強が欠かせません。

また、Beethovenの月光ソナタ「Klavier sonate cis-Moll Op.27 Nr.2」は、

この平均律1巻4番を源泉としています。

月光ソナタの繊細な美しさこそ、この4番フーガの魅力の一面でもあるのです。

月光ソナタの自筆譜から読み取れることを、4番フーガに逆照射いたしますと、

さらに両曲の理解が、深まります。

■ 講師:作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数を発表。


2003年~05年:アリオン音楽財団《東京の夏音楽祭》で新作を発表。
07年:自作品「Suite Nr.1 fϋr 無伴奏チェロ組曲 第1番」などを
チェロの巨匠Woiggang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が
演奏したCD

『 W.Boettcher Plays JAPAN ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』
を発表。


08年:CD『龍笛&ピアノのためのデュオ』、CD『星の林に月の船』
(ソプラノとギター)を発表。

08~09年:「Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien   Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、
 KAWAI表参道で開催。

09年:「Suite Nr.1 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第1番」を、
 ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

10~12年:「Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ Analysis   平均律クラヴィーア曲集 第1巻 アナリーゼ講座」全24回を、KAWAI表参道で開催。

10年:CD『Suite Nr.3 & 2 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番、2番』Wolfgang Boettcher演奏を発表。
「Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集」をドイツ・ドルトムントのハウケハック社 Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

11年:「10 Duette fϋr 2 Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」を、
 ベルリン・リース&エアラー社「Ries & Erler Berlin」から出版。

12年:「Zehn Phantasien fϋr Celloquartett(Band1,Nr.1-5)チェロ四重奏のための10のファンタジー(第1巻、1~5番)を Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版」
13年:CD『Suite Nr.4 & 5 & 6 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第4,5,6番』Wolfgang Boettcher演奏を発表。
「Suite Nr.3 fϋr Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第3番」を、ベルリン・リース&エアラー社「 Ries & Erler Berlin」から出版。
 14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」の楽譜を、ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。 SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、自作品が演奏される。

16年:ドイツの「ベーレンライター出版社」が刊行した J.S.バッハ(原典版)「ゴルトベルグ変奏曲」など、バッハ鍵盤作品の「序文」の日本語訳と「訳者による注釈」を担当。

著書『クラシック音楽の真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!』
(DU BOOKS)を出版。
 CD『 Mars 夏日星』を発表。

★SACD「無伴奏チェロ組曲 第1~6番」Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/


 

 

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ■フーガ形式極致の第10変奏、... | トップ | ■イタリア協奏曲1楽章、ゼク... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

■私のアナリーゼ講座■」カテゴリの最新記事