音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Chopin「Polonaise-Fantasie 」にX線を当てると、平均律が浮かび上がる■

2011-11-27 21:55:17 | ■私のアナリーゼ講座■

 ■Chopin「Polonaise-Fantasie」にX線を当てると、平均律が浮かび上がる■
        ~29日の第 18回 平均律アナリーゼ講座のご案内~
                            2011.11.27 中村洋子
  

 

★ Bach  バッハ  に限らず、大作曲家の作品を肌に感じ、

その息吹きに触れたいのであれば、自筆譜から学ぶのが、

最良の手段です。


★現在、よく喧伝されています Jan Ekier  エキエルによる、

「 Chopin 校訂版 」 の楽譜にしましても、

「 Chopin 」 その人の 「 音楽 」 というよりは、

Ekier が作り上げた 「 Chopin 像 」 という印象を、強く受けます


明後日 29日に、カワイ表参道で開催いたします、

「 第 18回 平均律アナリーゼ講座  」  では、

Chopin の 「 Polonaise - Fantasie  Op.61  幻想ポロネーズ  」 を、

参照しながら、お話いたします。

 

 


この 「 Polonaise - Fantasie  Op.61 幻想ポロネーズ  」 に、

“ X線を照射 ” いたしますと、

Bach の「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 が、

くっきりと、浮かび上がってきます。


★Polonaise - Fantasie の 和声、転調、モティーフなど、

曲の構造といえるものが、ほとんど 

Johann Sebastian Bach  バッハ  (1685~1750)に、負っていることが、

如実に、分かります。

今回の講座で扱います 「 平均律 第 1巻 18番 Nr.18 gis - Moll

プレリュード&フーガ 」 には、それが実によく、表れています。


★Warszawa ワルシャワのBiblioteka Narodowa

ポーランド国立図書館に、保管されている 

「 Polonaise - Fantasie  Op.61 幻想ポロネーズ  」 の、

自筆譜は、Leipzig ライプツィヒ の Breitkopf & Härtel

ブライトコップフ・ウント・ヘルテル社から、出版するために、

Chopin が製版用に書いたものですので、決定稿に近いといえます。


★そのファクシミリを見ますと、 23cm ×  29cm で、

A4版の紙を横長に置いたものより、数センチ幅が狭いサイズです。

1ページ 5段で、全 8ページです。

 


★1ページの 1段目は、1小節目から 4小節目まで、記譜されています。

真っ先に、目に飛び込んできますのは、 2小節目と 3小節目の、

1拍目 和音に付されている、 「 f 」 の位置です。 


★通常の記譜法では、大譜表の小節線は、上段  (  ト音記号  ) から、

下段 ( へ音記号 ) まで、中断することなく、1本の縦線を引きます。

しかし、Chopin は、上段 の小節線は上段で止め、

下段 は、下段で別に線を引きます。

その結果、上段と下段の間には、

なにも書かれていない 「 空間 」 が、存在します。

この書き方は、実は Bach  バッハ の書き方でもあるのです。


2小節目と 3小節目の、1拍目 和音に付されている 「 f 」 は、

その 「 空間 」 に、描かれています。

上段と下段が、各々の小節線をもっているため、このように 「 f 」 を、

描いても、全く邪魔にならないどころか、 2小節目の 1拍目で、

急に、 「 f 」 にするのではなく、 1小節目最後の 2分休符の時点で、

 「 f 」 の準備を “心の中で ” 、することができるのです。

その準備を追認するように、余裕をもって、2節目で 「 f 」 を打鍵できます。


★3小節目の冒頭の 「 f 」 も、その前の小節線の 「 空間 」 に、

描かれています。

 


★それに対し、7小節目と 8小節目は、音型そのものは、

1、 2小節目と、よく似ていますが、各小節の冒頭は、「 pp 」 です。

この 「 pp 」 は、上段の真下 ( 下段の真上 ) の和音の位置に、

描かれています。


★ これは、その和音の打鍵の瞬間、「 pp 」 で、さらに沈潜していくような、

心理的効果が、感じられます


Ekier エキエル版では、2、 3小節目の 「 f 」 と、

7、 8小節目の 「 pp 」 は、なんら区別せずに、ともに、通常の記譜法どおり、

和音の位置 ( 上段の真下 ) に、機械的に記入しています。

脚注に、「 f 」 と 「 pp 」 の位置の違いについて、喚起するメモでも、

記してあれば、どんなにか、演奏で役に立つことでしょう。


★その他、Ekier エキエル版では、フレーズの位置も、

ごく機械的に、付けられているところが極めて多く、

Chopin の活き活きとした、 「 呼吸 」 は、抹殺されています。

これでは、  “ 干からびた Chopin ”  に、なってしまいます。 

音楽の喜びが、あまり伝わってこないのです。


★やはり、「 可能な限り、原典=自筆譜に当たる 」 しかありません。

伝記や解説本を、何冊も読むよりも、

作曲家の直接のメッセージが伝わる、自筆譜をまず、見るべきでしょう

 

 


先入観なく、自筆譜を見ながらピアノで弾いてみますと、

「 Chopin 自身は、こんな演奏をしていたのでしょう 」 という、

思いが、ひしひし伝わってきます。

しかし、それには、受け手が絶えず、自筆譜による勉強をしていることが、

前提と、なります。

やはり、J. S. Bach  バッハ にまで、遡る必要があり、

Chopin ショパン だけの勉強では、

実り多い成果は、期待できないでしょう。

 


 

                                   ※copyright © Yoko Nakamura
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

 

コメント (1)
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