■Chopin「Polonaise-Fantasie」にX線を当てると、平均律が浮かび上がる■
~29日の第 18回 平均律アナリーゼ講座のご案内~
2011.11.27 中村洋子
★ Bach バッハ に限らず、大作曲家の作品を肌に感じ、
その息吹きに触れたいのであれば、自筆譜から学ぶのが、
最良の手段です。
「 Chopin 校訂版 」 の楽譜にしましても、 「 Chopin 」 その人の 「 音楽 」 というよりは、 Ekier が作り上げた 「 Chopin 像 」 という印象を、強く受けます。 「 第 18回 平均律アナリーゼ講座 」 では、 Chopin の 「 Polonaise - Fantasie Op.61 幻想ポロネーズ 」 を、 参照しながら、お話いたします。
★現在、よく喧伝されています Jan Ekier エキエルによる、
★明後日 29日に、カワイ表参道で開催いたします、
★この 「 Polonaise - Fantasie Op.61 幻想ポロネーズ 」 に、
“ X線を照射 ” いたしますと、
Bach の「 Wohltemperirte Clavier 平均律クラヴィーア曲集 」 が、
くっきりと、浮かび上がってきます。
★Polonaise - Fantasie の 和声、転調、モティーフなど、
曲の構造といえるものが、ほとんど
Johann Sebastian Bach バッハ (1685~1750)に、負っていることが、
如実に、分かります。
今回の講座で扱います 「 平均律 第 1巻 18番 Nr.18 gis - Moll
プレリュード&フーガ 」 には、それが実によく、表れています。
★Warszawa ワルシャワのBiblioteka Narodowa
ポーランド国立図書館に、保管されている
「 Polonaise - Fantasie Op.61 幻想ポロネーズ 」 の、
自筆譜は、Leipzig ライプツィヒ の Breitkopf & Härtel
ブライトコップフ・ウント・ヘルテル社から、出版するために、
Chopin が製版用に書いたものですので、決定稿に近いといえます。
★そのファクシミリを見ますと、 23cm × 29cm で、
A4版の紙を横長に置いたものより、数センチ幅が狭いサイズです。
1ページ 5段で、全 8ページです。
★1ページの 1段目は、1小節目から 4小節目まで、記譜されています。
真っ先に、目に飛び込んできますのは、 2小節目と 3小節目の、
1拍目 和音に付されている、 「 f 」 の位置です。
★通常の記譜法では、大譜表の小節線は、上段 ( ト音記号 ) から、
下段 ( へ音記号 ) まで、中断することなく、1本の縦線を引きます。
しかし、Chopin は、上段 の小節線は上段で止め、
下段 は、下段で別に線を引きます。
その結果、上段と下段の間には、
なにも書かれていない 「 空間 」 が、存在します。
この書き方は、実は Bach バッハ の書き方でもあるのです。
★2小節目と 3小節目の、1拍目 和音に付されている 「 f 」 は、
その 「 空間 」 に、描かれています。
上段と下段が、各々の小節線をもっているため、このように 「 f 」 を、
描いても、全く邪魔にならないどころか、 2小節目の 1拍目で、
急に、 「 f 」 にするのではなく、 1小節目最後の 2分休符の時点で、
「 f 」 の準備を “心の中で ” 、することができるのです。
その準備を追認するように、余裕をもって、2節目で 「 f 」 を打鍵できます。
★3小節目の冒頭の 「 f 」 も、その前の小節線の 「 空間 」 に、
描かれています。
★それに対し、7小節目と 8小節目は、音型そのものは、
1、 2小節目と、よく似ていますが、各小節の冒頭は、「 pp 」 です。
この 「 pp 」 は、上段の真下 ( 下段の真上 ) の和音の位置に、
描かれています。
★ これは、その和音の打鍵の瞬間、「 pp 」 で、さらに沈潜していくような、
心理的効果が、感じられます。
★Ekier エキエル版では、2、 3小節目の 「 f 」 と、
7、 8小節目の 「 pp 」 は、なんら区別せずに、ともに、通常の記譜法どおり、
和音の位置 ( 上段の真下 ) に、機械的に記入しています。
脚注に、「 f 」 と 「 pp 」 の位置の違いについて、喚起するメモでも、
記してあれば、どんなにか、演奏で役に立つことでしょう。
★その他、Ekier エキエル版では、フレーズの位置も、
ごく機械的に、付けられているところが極めて多く、
Chopin の活き活きとした、 「 呼吸 」 は、抹殺されています。
これでは、 “ 干からびた Chopin ” に、なってしまいます。
音楽の喜びが、あまり伝わってこないのです。
★やはり、「 可能な限り、原典=自筆譜に当たる 」 しかありません。
伝記や解説本を、何冊も読むよりも、
作曲家の直接のメッセージが伝わる、自筆譜をまず、見るべきでしょう。
★先入観なく、自筆譜を見ながらピアノで弾いてみますと、
「 Chopin 自身は、こんな演奏をしていたのでしょう 」 という、
思いが、ひしひし伝わってきます。
しかし、それには、受け手が絶えず、自筆譜による勉強をしていることが、
前提と、なります。
やはり、J. S. Bach バッハ にまで、遡る必要があり、
Chopin ショパン だけの勉強では、
実り多い成果は、期待できないでしょう。
※copyright © Yoko Nakamura
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あれは原典版ではなく解釈版ではないかと感じていましたが、先生のブログをみて色々な点が納得させられました。音楽全般のみならず文化芸術全般に造詣の深い先生のブログを今後も楽しみにしております。