■バルトークは、バッハ「平均律クラヴィーア曲集」を、自分の校訂版で、どう並べ替えたか■
09.5.29 中村洋子
★先週18日「バッハ・インヴェンション講座第10回」を開きましたが、
その晩、DAAD ドイツ学術交流会
( Deutscher Akademischer Austauschdienst )
東京事務所長 イレーネ・ヤンゼンさん
(Frau Dr.Irene Jansen)の ホームパーティーに、
招かれました。
翌19日、ドイツ文化会館で開かれる、中国出身でNew York在住の
女性pianist、モリー・ヴィヴィアン・ファンさん
(Frau Molly Vivian Huang)の演奏会を、歓迎する集いでした。
★私も、知的で物静かなファンさんと、楽しくお話し、
翌日のコンサートにも、お招きいただきました。
ファンさんは、カーティス音楽院で学び、
1972~75年、ドイツでも学び、
ホルショフスキー Mieczyslav Horszowskiにも、師事しました。
プログラムは、ハイドン、メンデルスゾーンや
ブラームスの大曲でしたが、
アンコールで弾かれた、平均律クラヴィーア曲集第1巻の
「13番 嬰ヘ長調の前奏曲」は、軽やかで、暖かみのある、
誠実な演奏でした。
★6月7日(日)午後3時から、カワイ表参道で、
私の「第5回アナリーゼ講座 前奏曲とは何か」を開きます。
ファンさんのお弾きになった、前奏曲嬰ヘ長調の主音「嬰ヘ音」は、
12音から成るオクターブの、ちょうど真ん中の音です。
平均律クラヴィーア曲集第1巻の1番 ハ長調は、分散和音で、
作られていますが、この嬰ヘ長調も、同様に、分散和音で、
構成されています。
これは、バッハが意図的に、曲集の真ん中に、
分散和音の曲を、配列したと思われます。
★「バッハ・インヴェンション講座」で、
≪インヴェンションをどのような順番で弾いたらいいか≫、
という質問を、よくお受けします。
何曲か選んで弾く場合、どういう順番で弾くか、
それを決めるということは、それ自体がすでに
演奏するという行為である、ということができます。
グールドの配置が、そのよい例です。
★全曲演奏の場合も、配列を変えることは、
十分に可能であると、思われますが、
インヴェンション全体を、一つの大きな「変奏曲」と、
みることができるため、
番号順に弾くのが、いいかもしれません。
順番を変える場合は、強い主張、または、
再構成するという意図を、全面に、
押し出す必要が、あるでしょう。
そのいい例が、バルトークの
「平均律クラヴィーア曲集校訂版」です。
★作曲家のベーラ・バルトーク Bela Bartok
(1881~1945)には、多彩な仕事のうちの、ひとつとして、
「校訂版」と「編曲」があります。
「初期イタリア鍵盤楽器音楽の演奏会用ピアノ編曲」
(1926~28ごろ)、
J・S・バッハ「トリオ・ソナタ第 6番」の演奏会用ピアノ編曲
(1930ごろ)、
J・S・バッハ、ベートーヴェン、ショパン、クープラン、
ハイドン、メンデルスゾーン、モーツァルト、シューベルト、
シューマンなどの、作品の校訂があります。
★平均律クラヴィーア曲集 1巻、2巻の計48曲を、
校訂した楽譜が、EDITIO MUSICA BUDAPEST から、
2冊セットで、出版されています。
これは、1巻、2巻を取り混ぜ、教育的配慮から、
曲順を、並び替え、構成したものです。
★第1ページには、
≪指使い や 演奏記号、注釈を、新しく付け加え、
難易度の順に、再構築、並び替えた48の前奏曲とフーガ≫と、
タイトルを、付けています。
★このバルトークの解釈を見ますと、バッハが、
より深く理解できると同時に、バルトークという作曲家も、
理解することが、できます。
★これは、6月23日の「バッハ・インヴェンション講座 11番」で、
お話します、ブラームスとバッハとの関係と、同じことです。
★バルトークの配列は、冒頭が「第2巻の15番 ト長調」から始まり、
「第1巻の6番 ニ短調」、「第1巻の21番 変ロ長調」と、続きます。
この3曲は、前奏曲あるいはフーガに、明瞭な分散和音が
使われていることが、最大の特徴です。
★そして、なんと、「第1巻の1番」は、
22番目の曲として、配列されています。
その前後には、「2巻の7番変ホ長調」と、
「第1巻の17番変イ長調」が、置かれています。
この独奏的な配列と、その意図について、
6月7日の講座でも、触れたいと思います。
★バルトークが、第1巻の1番を、
“なかなか手強い曲”と、みていたことが、
よく、分かります。
★7日の「前奏曲とは何か」の講座では、
その“手強い前奏曲”が、ベートーヴェンの「月光」や、
ショパンの前奏曲「雨だれ」や練習曲に、
どのように、変容していったか、
ドビュッシーが、それらから、新たに、
なにを、学び取ったか、
分かりやすく、ご説明いたします。
★ヤンゼンさんのホームパーティでは、ヴァイオリンの
クルト・グントナー先生(Prof. Kurt Guntner)にも、
再会いたしました。
先生は、カール・リヒターの
「ミュンヘンバッハオーケストラ」で、
コンサートマスターを、なさっていた方です。
リヒターのことを、伺いましたら、
「 彼とは、バッハのカンタータを何百回も・・・、
なんとたくさん、一緒に、演奏したことだろう 」と、
感慨に、ふけっていらっしゃいました。
彼の初来日も、リヒターと一緒だったそうです。
(花はカンゾウ)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
09.5.29 中村洋子
★先週18日「バッハ・インヴェンション講座第10回」を開きましたが、
その晩、DAAD ドイツ学術交流会
( Deutscher Akademischer Austauschdienst )
東京事務所長 イレーネ・ヤンゼンさん
(Frau Dr.Irene Jansen)の ホームパーティーに、
招かれました。
翌19日、ドイツ文化会館で開かれる、中国出身でNew York在住の
女性pianist、モリー・ヴィヴィアン・ファンさん
(Frau Molly Vivian Huang)の演奏会を、歓迎する集いでした。
★私も、知的で物静かなファンさんと、楽しくお話し、
翌日のコンサートにも、お招きいただきました。
ファンさんは、カーティス音楽院で学び、
1972~75年、ドイツでも学び、
ホルショフスキー Mieczyslav Horszowskiにも、師事しました。
プログラムは、ハイドン、メンデルスゾーンや
ブラームスの大曲でしたが、
アンコールで弾かれた、平均律クラヴィーア曲集第1巻の
「13番 嬰ヘ長調の前奏曲」は、軽やかで、暖かみのある、
誠実な演奏でした。
★6月7日(日)午後3時から、カワイ表参道で、
私の「第5回アナリーゼ講座 前奏曲とは何か」を開きます。
ファンさんのお弾きになった、前奏曲嬰ヘ長調の主音「嬰ヘ音」は、
12音から成るオクターブの、ちょうど真ん中の音です。
平均律クラヴィーア曲集第1巻の1番 ハ長調は、分散和音で、
作られていますが、この嬰ヘ長調も、同様に、分散和音で、
構成されています。
これは、バッハが意図的に、曲集の真ん中に、
分散和音の曲を、配列したと思われます。
★「バッハ・インヴェンション講座」で、
≪インヴェンションをどのような順番で弾いたらいいか≫、
という質問を、よくお受けします。
何曲か選んで弾く場合、どういう順番で弾くか、
それを決めるということは、それ自体がすでに
演奏するという行為である、ということができます。
グールドの配置が、そのよい例です。
★全曲演奏の場合も、配列を変えることは、
十分に可能であると、思われますが、
インヴェンション全体を、一つの大きな「変奏曲」と、
みることができるため、
番号順に弾くのが、いいかもしれません。
順番を変える場合は、強い主張、または、
再構成するという意図を、全面に、
押し出す必要が、あるでしょう。
そのいい例が、バルトークの
「平均律クラヴィーア曲集校訂版」です。
★作曲家のベーラ・バルトーク Bela Bartok
(1881~1945)には、多彩な仕事のうちの、ひとつとして、
「校訂版」と「編曲」があります。
「初期イタリア鍵盤楽器音楽の演奏会用ピアノ編曲」
(1926~28ごろ)、
J・S・バッハ「トリオ・ソナタ第 6番」の演奏会用ピアノ編曲
(1930ごろ)、
J・S・バッハ、ベートーヴェン、ショパン、クープラン、
ハイドン、メンデルスゾーン、モーツァルト、シューベルト、
シューマンなどの、作品の校訂があります。
★平均律クラヴィーア曲集 1巻、2巻の計48曲を、
校訂した楽譜が、EDITIO MUSICA BUDAPEST から、
2冊セットで、出版されています。
これは、1巻、2巻を取り混ぜ、教育的配慮から、
曲順を、並び替え、構成したものです。
★第1ページには、
≪指使い や 演奏記号、注釈を、新しく付け加え、
難易度の順に、再構築、並び替えた48の前奏曲とフーガ≫と、
タイトルを、付けています。
★このバルトークの解釈を見ますと、バッハが、
より深く理解できると同時に、バルトークという作曲家も、
理解することが、できます。
★これは、6月23日の「バッハ・インヴェンション講座 11番」で、
お話します、ブラームスとバッハとの関係と、同じことです。
★バルトークの配列は、冒頭が「第2巻の15番 ト長調」から始まり、
「第1巻の6番 ニ短調」、「第1巻の21番 変ロ長調」と、続きます。
この3曲は、前奏曲あるいはフーガに、明瞭な分散和音が
使われていることが、最大の特徴です。
★そして、なんと、「第1巻の1番」は、
22番目の曲として、配列されています。
その前後には、「2巻の7番変ホ長調」と、
「第1巻の17番変イ長調」が、置かれています。
この独奏的な配列と、その意図について、
6月7日の講座でも、触れたいと思います。
★バルトークが、第1巻の1番を、
“なかなか手強い曲”と、みていたことが、
よく、分かります。
★7日の「前奏曲とは何か」の講座では、
その“手強い前奏曲”が、ベートーヴェンの「月光」や、
ショパンの前奏曲「雨だれ」や練習曲に、
どのように、変容していったか、
ドビュッシーが、それらから、新たに、
なにを、学び取ったか、
分かりやすく、ご説明いたします。
★ヤンゼンさんのホームパーティでは、ヴァイオリンの
クルト・グントナー先生(Prof. Kurt Guntner)にも、
再会いたしました。
先生は、カール・リヒターの
「ミュンヘンバッハオーケストラ」で、
コンサートマスターを、なさっていた方です。
リヒターのことを、伺いましたら、
「 彼とは、バッハのカンタータを何百回も・・・、
なんとたくさん、一緒に、演奏したことだろう 」と、
感慨に、ふけっていらっしゃいました。
彼の初来日も、リヒターと一緒だったそうです。
(花はカンゾウ)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲