僕たち3人は、パリの空港から、旅行社の送迎車に乗せてもらって、午後6時40分にホテルに着いた。オペラ座から東へ歩いて10分程度の場所にある古いホテルだ。ホテル名は「ベルジェール・オペラ」という、何度聞いても覚えられない難しい名前である。
「お疲れ様でしたぁ」
車が到着すると、ホテルの前で旅行社の現地係員(日本人女性)が待っていた。
彼女は、僕たちをロビーに誘い、旅行中の留意事項を告げるとともに、最終日のホテルへの迎えの時間を書いた紙をくれた。さらに、市内巡廻観光バスの乗り放題のカード3枚と、地下鉄のカルネ(10枚入り回数券)を3束くれた。
この地下鉄の回数券は何を置いてもまず買わなければ…と思っていただけにうれしかった。ただ「アン・カルネ・シルブプレ」(カルネください)と地下鉄の窓口で言うのが、僕のこの旅での最初の「フランス語会話」だったはずだけに、そっちのチャンスが消えてしまったことは、ちょっと残念だったけれど…。
僕は旅行前に、必要と思われるフランス語会話のほんの少しだけを暗記していたのだけれど、そのうちのひとつが「アン・カルネ・シルブプレ」だった。
ちなみに、あと、いくつか必須の単語やフレーズを覚えたが、これだけは絶対に覚えておかなければならないという会話が一つだけあった。それは…
「ジュ・ヌ・セ・パ・パルレ・フランセ」
意味は、「私はフランス語を話せません」です。あはは。
でもね…笑ってる場合でもないのですよ。
初対面の相手にこれを言わないと、話が前に進みまへ~ん。
さて、パリのホテルは古い建物が多いというが、このホテルも、エレベーターひとつみても、電話ボックスに毛が生えたほどの大きさしかなく、今にも壊れそうなほど古ぼけて、おまけにドアを自分で開けたりしなければならない。
「このエレベーターは、いつ故障するかわからへんで。恐いわ…」
冗談半分にそう言っていた翌日、これが本当に故障して動かなくなり、それ以降ずっと別のエレベーターを利用した。冗談が冗談でなくなる…というのは恐ろしい。
部屋に荷物を置き、午後7時過ぎに、僕は妻と姉を促して慌しく部屋を出た。
これからオルセー美術館へ行くのだ。外はまだ、昼と同じ明るさだった。(午後9時頃にならないと日が暮れない)
いま日本時間では真夜中の2時だ。僕たちは朝からほとんど眠っていないから、ここは早い目にベッドに入って道中の疲れを取るべきであったが、にもかかわらず、ぜひ今日中にオルセーに行っておきたかった理由が、一つ半あった。
まず、一つの理由とは…。
僕たちは今回、パリで5泊することになっていた。これといってアテのない旅だとは言いながらも、スケジュールを組み立てていくと、丸々使えるのは第1日目の今日を除いて明日からの4日間のみ。その中で明後日は一日がかりでモンサンミッシェルへのバスツアーを申し込んでいたので、その日はつぶれる。残るは3日間である。だから行く先をうまく配分する必要があった。
パリが初めての姉に、ルーブル美術館とベルサイユ宮殿は案内しなければならないが、その2ヶ所はいずれも半日はかかるだろう。そこへオルセー美術館見学を入れると、気ままにパリ散策をする…という本来の目的が遂行できなくなってしまう。だからオルセーだけは強引に初日のうちに行ってしまおうと決めたのだ。僕はこれまでの3度のパリ旅行で、ルーブル美術館へは3度とも行ったが、オルセー美術館にはいろんな事情からまだ1度も行ったことがなかった。どうしても今回行きたかった。どんなに短時間でもいいから、訪れてみたかった場所なのである。
次に、あと半分の理由とは…。
そのオルセー美術館は通常は午後6時閉館だけれど、木曜日のみ9時45分まで開いている。しかも午後8時からは料金が安い。今日はちょうど木曜日。しかもいま、時間は7時過ぎ。これからだと割引料金で入れそうなのだ。じゃ~~~ん。
ホテルを出て、最寄りの地下鉄駅は、グランブルヴァールという、これも何度聞いても覚えられない駅名である。回数券で改札口を通り、やがて地下鉄がホームに入って来た。パリの地下鉄など、むろん初めて目にする姉は、なんだか緊張した様子であった。
電車が目の前で停止する。
「あれぇ…?」
車両の扉が開かない。
「あっ、そうや。自分でドアを開けなあかんねん!」
うっかりしていた。パリの地下鉄は、自分でドアを開けるシステムなのだ。
たまたま隣の扉が開いた。中から客が、扉を開けて降りてきたのである。
「そっちから乗ろう!」と、僕は妻と姉を開いた扉に連れて行って乗り込んだ。
乗り込んだとたんに、バタンっとドアが閉まった。
閉まるときだけは、自動で閉まるのである。
「そうなんや。ここの地下鉄は、手で開けるんやったんや」
と僕が、車内に入ってから、自分に言い聞かせるように姉に伝えると、
「へ~~~ぇ?? 自分の手でぇ…??」と姉は信じられない表情を浮かべた。
扉の内側と外側の両方に取っ手のようなものがついており、それを捻り上げたらドアが開く。内側からも開けられるし、ホーム側からも開けられる。内側から開ける人がいないと、ホームで立っていても、ドアが開かないまま発車してしまうわけ。
マドレーヌという乗換駅で停車したとき、僕は扉を開けようと、取っ手をグイと捻り上げた。しかし、扉は開かない。
「おりゃぁ~」と再び取っ手を捻り上げたのだが、やはり開かない。
「あ、どうしよう。えらいこっちゃ。降りられへんがな」
と言ってるうちに、うしろから金髪のマドモアゼルが、
「どいて、どいて」
という感じで僕らを押しのけ、取っ手をバーンっと、力強く跳ね上げた。
すると、扉がバカッと開き、僕たちは、彼女の尻にくっついてホームに降りた。
やれやれ…。
そうか。生半可な力では扉は開かないのだなぁ。
我々日本人のパワー不足は、野球やサッカーに限ったことではない。
地下鉄の扉ひとつ、日本人にはなかなか開けられないのだ。とほほ。
乗り換えた先の地下鉄の扉は、こんどは取っ手ではなく、プッシュボタン式であった。なんだかややこしいことだ。
こちらのほうは、丸いボタンをプシュッと押せば、ドアが開いた
これは取っ手方式よりも簡単だった。
「やったぁ!」
姉は大喜びして喝采し、妻はクスクス笑っている。
僕はパリが今度で4度目である…
な~んてえらそうなことを言っているが、実力のほどは、こんなものである。
「あの~、まだ動いているときにね…」と、地下道を歩きながら姉が言う。
「何が、まだ動いているときに…ですか?」
「地下鉄が止まる前でもね…。あのボタンを押したら、ドアが開くの?」
姉が、素朴な疑問を発した。
「まさか。それは、ゼッタイに開かないようになっているでしょう」
「でも、さっき乗っていた人、地下鉄が止まる前に押して、ドアを開けたわ」
「むむっ……」
「まだ動いているのに、その人はボタンを押して、そしたらドアが開いて、止まるか止まらないかの時に、もうホームに降りていたのよ」
「うむ。どうですかねぇ…。止まりかけたら、もうドアは開くのかな~?」
よもや走行中いつでもボタンを押したらドアが開く…ということはないだろう。
でも、仕組みがよくわからない。あんまり、聞かんといて。
後日、別の線の地下鉄に乗ったときである。
ドアに取っ手もボタンも見当たらず、今度はどうして開けるんだろう…と必死で扉を睨んでいたら、駅に着いたとたん、ガラガラッと勝手にドアが開いた。
「わっ。勝手に開いた!」
びっくりした。手動だけでなく、日本と同じ自動もあるんやないか…。
取っ手方式なら取っ手方式。
ボタン方式ならボタン方式。
自動なら自動…と、ちゃんと統一しておいてくれ~。
ほんまに、ややこしい。
ええかげんにしてほしいわ。
地下鉄(メトロ)グランブルヴァール駅の入口。
ホームで。
僕たちのホテルは、オペラ座(中央からやや右上)の東側にあった。
エレベーターが使用不能・・・小さなトラブル発生(ワクワク)。
でもいいな~~~。そんな旅のほうが面白いですよね。
地下鉄も色々あって、日本人にはビックリかもしれませんが、フランスの人達はおおらかだから、こだわっていないのでわないかしら?
ここまで読んだだけでも、日本って便利づくしの国なんですね~~~。
ちなみに、もお姉さまと同じ疑問をもってしまいました。
ん~、また味のあるいい感じのホテルで、こんなとこで半年程、長期滞在なんてしたいですね~。
そう、執筆なんてしながら。。。(小説家かい!)
そないに、ややこしいんですか地下鉄
私やったら、出れずに延々と町外れまでいってまいそうですわ。。
こうやって、地図をまじまじ見ると、けっこう観光地がかたまってるんですね。これは、地下鉄大活躍ですね。
たしか、モンサンミッシェルは結構遠いところにあるんですよね(TVでみた)
地図を眺めているだけで、想像力が広がります。。。オ~、シャンゼリゼ~、オ~シャンゼリゼィ~♪ホニャら~ホニャら~(なんちゅうてるんやろ?)
行きの飛行機から、フランス人の団体と一緒だったとは。。。どれだけ騒がしかったか目に浮かびます。
パリの地下鉄、なれないと戸惑いますよね。確かに、完全に止まる前にドアが開くんですよ。私もなんどかやりました。
それと、なぜか1号線だけは、普通に自動ドアなんですよね。ほんと不思議です。
私がパリにいる間は一度もありませんでしたが、ストも良くあります。今年もあったんですよ。みんな歩いて移動していたそうです。まあ、パリは狭いので、がんばれば歩けないことはないですが。
パリレポートの続き、楽しみにしています。
車かなんかのCMで使われているけどいつか行きたいな~って思ってます。
写真のUPあるのかな??
楽しみに待ってま~す。
地下鉄のドアは、乗降客が一人もいないのに勝手にドアが開いたり閉まったりすることのないようにつくられているのでしょうね。無用なドアの開閉をしないというフランス式ケチ精神のあらわれ、という評論家もいます。
のこたんがおっしゃるように、日本はそれから見たら、便利づくしの国ですね~。
いいんだか、わるいんだか…?
パリのメトロ駅のホームは、日本のそれと違って、壁面の駅名表示板に次の駅名が矢印とともに書いてあるような親切さはありません。だから、このホームがどっちの方向に行く地下鉄なのかを知るためには、路線の終点駅名を書いた表示板があるので、それで方向をたしかめるほかないのです。今回はなかったですが、過去の旅行で何度か反対方向の電車に乗ってしまいました。ですから、路線の終点駅は必ずチェックしておかなければならなりません。
車内放送、構内放送もいっさいありません。
まあ、あったとしても、わかりまへんけど…。
おかげで、楽しくパリめぐりをすることができました。
地下鉄の自動ドアは1号線でしたか?
じゃあ、バスティーユからコンコルドまで乗ったときだ。
地下鉄には計10回乗りましたので、もう、どれがどれかわからなくなって、
あの自動ドアはどこだったっけなぁ…? と気になっていました。
ひとつすっきりしました。
「パリは狭いのでがんばれば歩けないこともない」のを、今回実感しました。
最後の日は、ホテルからルーブルまで歩いてみたのですが、30分で着きました。
道中でいろんなものが目に飛び込んできます。
やっぱり、移動には徒歩が一番ですね。
パリ、1度行ったことがあるんです…。
えへへ、新婚旅行で(笑)。若かったなあ…。
滞在が短かったので、見ていないところたくさんありますけど。
ホテルの感じとか、地下鉄の感じとか、とても懐かしかったです。
あの時ははじめてのヨーロッパで、雰囲気に流されてるだけでしたが、
またいつか行ってみたいなあ…。
とりあえず、ご無事でお帰りで安心しました。
飛行機の中から、すごい体験をなさっておいでで、
さすがのんさんですね~!
続きをとっても楽しみにしております。
ちひろさんは新婚旅行でパリですかぁ。豪華ですねぇ。
僕は45歳の時に初めてパリへ行きました。
若い頃に一度行って見たかったなぁ。
僕らの新婚旅行は、同じ近畿地方の伊勢とか白浜でしたもんね。
ちひろさんはこの間、大阪へ来られていたのですよね。いま、ブログを読ませていただきました。
小浜へも足を延ばされ「ちりとてちん」紀行を子連れで強行…というのは、かなりハードだったと思います。
おまけに実家を含めた10泊とはすごい。
僕はパリでも、半分の5泊だったんですからね。
また、「奮戦記」楽しみにしています。
とにかく今は、洗濯したり荷物を片付けたりしてください。
お疲れさまでした~。
日本は地下鉄も地上の電車も空中の飛行機も、みんな親切なのです。
でも、あまりに親切すぎ、便利すぎる社会というのもどうかな、と考えさせられます。
それに慣れて、「親切・便利が当然」という感覚が根付くと、なんか日本人はみんな横着になってきそうでね~。
モンサンミッシェルへ行った日は、抜群のお天気だったので写真も沢山撮りました。
いいのを選りすぐって、なるべく数多くUPするようにしますので期待していてください!