ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

チェルノブイリ原発ツアー

2012-03-14 | 放射能関連情報
 先日ベラルーシのカメラマンで新聞社で働いている人と話をする機会がありました。
 その人はチェルノブイリ原発ツアーに行ったことがあるということで、詳しく教えてもらいました。

 チェルノブイリ事故が起きたとき、ご本人は生後1ヶ月だったので、事故のことはもちろん何も覚えていません。ミンスク生まれで、ご両親もこれと言って事故のことを話したこともありません。
 また被ばくが原因と思われる症状なども出ていません。
 
 2007年の21歳のとき、カメラマンとして働き始めた頃、新聞の編集部から
「チェルノブイリ原発の写真がいるんだ。撮りに行ってくれ。」
と言われました。
 仕事なので承諾し、経費などももちろん編集部が出すことになりました。
 チェルノブイリまで行く、と言っても編集部が車を出してくれるわけではなく、ベラルーシの旅行会社がウクライナの旅行会社とともに手配しているチェルノブイリ原発パックツアーに申し込んで、一般の観光客といっしょに行くことになりました。

 このパックツアーは今でもあります。1年前の2011年の時点では2日間で80$の料金だそうです。この中に交通費、食費、宿泊費、立ち入り許可証発行の代行などが含まれています。(安い・・・。)
 ミンスク市内で参加者が集合し、夕方バスでウクライナのキエフに向けて出発。
 朝起きるとキエフに到着し、ホテルへ行きました。
 このとき注意されていたのは原発の見学後、着ていた服は捨てないといけないので、捨てても惜しくない服を着ていくこと。そして着替えを持っていくこと、でした。

 きれいな着替えはキエフのホテルに置いておきます。
 それから専用のバスでチェルノブイリ原発へ向かいました。
 各人には線量計が渡され、ガイドも同行します。
 この話をしてくれた人は出張だったわけですが、そのほかのツアー客は一般人で、どちらかと言うと
「怖いもの見たさ。」「変わったところへ行ってみたい。」「なかなか行けないところへ行きたい。」
と言った参加理由の人が多かったようです。

 まず原発関係者の町だったプリピャチに入って、そこで停車。
 カメラマンさんは仕事なので、たくさん写真を撮ったそうです。もちろん無人の町になっているのですが、雑草や苔が伸び放題になっていました。
 人も車もめったに通らないので、道路のアスファルトを突き抜けて若木が生えてきていたり、枝を払うといった手をかけることがなくなったので街路樹が伸びて葉っぱのトンネルができていたりしたそうです。
 異様に巨大な植物や、明らかに奇形の植物、などは見かけなかったそうです。

 このように植物が街中に生い茂っている状態のプリピャチですが、地面のところどころ直径10メートルぐらい丸く植物が「抜けている」部分があるそうです。
 周りは雑草が生えているのに、その「サークル」には草も苔も全く生えていません。線量計を近づけるとそこは特に線量が高く、ガイドから近くに寄らないように、と言われました。

 観光客が
「どうして草が全く生えていないこんなサークルが地面にあるんですか?」
と質問するとガイドは、推測ですが、と前置きして
「おそらく事故が起きたときに核燃料のかけらが飛び散って、ここに落ちたのでしょう。落ちた地点から半径5メートルには、何も生えないし、虫も動物も生き物という生き物はいません。死のサークルなのです。」
と説明しました。カメラマンさんは、さすがに気持ち悪かった・・・そうです。

 近くの森には野生動物がいて、人間がいないせいかすぐ近くまで近寄っても怖がらないそうです。おかげで至近距離で野生動物が撮影できた、とカメラマンさんは喜びました。
 そのほか絶滅危惧種の鳥も増えてきているそうで、自然が野生的に変化しており、動物にとっては楽園のような森になっているそうです。
 
 その後チェルノブイリ原発へ。石棺にはひびが入っていました。
 しかし線量計はそんなに高い数値を示さず、恐怖は感じなかったそうです。

 観光も終了し、その後30キロ圏内から外へ出ました。
 そこに建物があって、そこで着替えます。ホテルに置いてきた「きれいな」服はちゃんと業者が別の車に乗せて、その着替え所まで持って来てくれていました。
 それまで着ていた「汚れた」服は全部脱いで、袋にまとめていれます。
 その後業者さんがその服を、放射能廃棄物専用のゴミを捨てる穴に捨てに行ってくれます。
 ツアー客はバスに乗ってキエフのホテルに帰ります。そこでシャワーを浴びます。そして夕方バスに乗り、翌朝ミンスクに到着、解散、となります。

 カメラマンさんは編集部に行き、撮影した写真を渡し、その後数枚の写真が新聞に載りました。
 そして編集部から保養に行くよう言われ、24日間被爆者向けのサナトリウムに滞在しました。
 そこでは被爆者専用プログラムが組まれています。
 1日6回の特別食。ビタミンのサプリ。マッサージ。食事には赤ワインも出ました。
(赤ワインのポリフェノールが免疫力を高めるとして、ベラルーシでは適量を飲むことを奨励している。)
 費用や手続きは編集部が負担しています。
 仕事のために危険な場所へ若い人を送り込んだのですから、当然と言えば当然ですよね。

 保養所から帰ってきてしばらく働いていると、さらに「保養に行きなさい。」と出張も兼ねて、バリ島へ行ったそうです。
 そこで夏休み3週間を編集部の経費で滞在しました。
 (すばらしい! 編集部太っ腹!)

 もっともこのカメラマンさんはWBCで測定をしていないので、チェルノブイリ原発へ行ったとき、どれぐらい被ばくしたのか、また保養の効果でどれぐらい放射能が排出されたのかは分かりません。

 カメラマンさんはもうすぐ26歳になりますが持病などはなく、とても元気に仕事をしている、ということでした。

 貴重な話を伺えてよかったです。
 それにしてもこのカメラマンさんは出張で行ったわけだけれど、怖いもの見たさでこんなツアーに参加する人もいるとは・・・。
 私としては未来の日本に「フクイチ パックツアー」などと言うものが存在してほしくないです。
 もともとそこで働いていた人や近くに住んでいて、今避難を余儀なくされている住民の方々の気持ちを考えると、観光なんかしてほしくないです。

 
 

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