電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

『没後十年 藤沢周平読本』を読む

2008年08月31日 07時11分47秒 | -藤沢周平
山形新聞社は、藤沢周平没後十年を記念して、昨年一年間、特集を企画しました。同紙夕刊に掲載された記事内容はたいへん充実したもので、新しい発見も多く、連載を毎回楽しみにしておりました。当「電網郊外散歩道」でも、そのつど記事にしておりますが、せっかくの特集を、単行本にしてほしいものだと願っておりました。このたび、仙台市の書肆である荒蝦夷社から発売された『没後十年 藤沢周平読本』は、まさに本特集を1冊にまとめたもので、読み応えがあります。

構成と内容は、次の通りです。

第1章 私が選ぶ藤沢作品ベスト12 (高橋義夫)
用心棒日月抄/春秋山伏記/義民が駆ける/三屋清左衛門残日録/回転の門/蝉しぐれ/一茶/雲奔る/橋ものがたり/隠し剣秋風抄/詩塵/漆の実のみのる国
第2章 藤沢作品の表現世界 (中村明)
風/姿/女/剣/心/食/顔/笑/喩/視/始/終
第3章 藤沢周平 その生涯の追憶 (蒲生芳郎)
出会いの頃/同人誌時代/療養生活/妻の発病と死/「溟い海」で新人賞/直木賞受賞後/転機の『用心棒日月抄』/多忙な日々/昭和五十年代の豊熟期/『蝉しぐれ』前後/歴史小説/実りの時期
第4章 藤沢周平を語る
畠山弘/井上史雄/井上ひさし/高山秀子/久保田久雄/山本陽史/池上冬樹/牧野房/佐伯一麦/東谷慶昭/佐藤賢一
第5章 藤沢作品と私 49人の方々の短い文章
第6章 シンポジウム 没後十年 藤沢周平の魅力を語る

第1章と第3章は、新聞掲載時によく読みましたし、何度か感想や紹介を書きました。また、第6章のシンポジウムにも参加して、本ブログでも記事にしました。(*)
しかし、今日の単行本化によって、あらためて感心したのは、第2章の表現論です。藤沢周平の文章を、表現の面から分析し紹介して、実に興味深いものです。なるほど、と頷きます。本書のように単行本化されることにより、年間の特集の全体像が見えてきます。
そして、やはり第3章、「藤沢周平 その生涯の追憶」は、やはり見事な内容です。同級生、文学仲間の一人として、プライベートなことも知っている立場にあるはずですが、これまで積極的には公にすることがなかった事実もあります。たぶん、娘の展子さんや家族の周辺の人々が、没後十年を経て少しずつ語るようになってきたことに力を得て、作家の秘密にそっと触れているのでしょう。このあたりの、情のある姿勢が、初期短編集の公刊に関連するその内容とともに、心を打つものがあります。



コメント (4)    この記事についてブログを書く
« マルティヌー「交響曲第1番」... | トップ | 新しいパソコンが届く »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
 (ばーば)
2008-08-31 15:25:59
先日本屋さんに行くと前面にこの本が並んでいました。 いつか読もうとは思っていましたが(narkejp)さんの評を読むと直ぐにでも読みたくなってしまいます。
サム・リーブスの「長く冷たい秋」は図書館で借りて読みました。 ハードボイルドの中に流れている(親子かも知れない)という男の情に泣かされました。
返信する
ばーば さん、 (narkejp)
2008-08-31 20:13:17
コメントありがとうございます。本書は、題名こそ数ある追随本のような印象を受けますが、内容は独自の価値を持っていると思います。師範学校の同級生で文学仲間の蒲生芳郎さんの追憶の文章だけでも、味がありました。さすがに「蝉しぐれ」が連載された新聞社の、当時担当記者だった現在の会長が、気合を入れて特集しただけありますね。
返信する
Unknown (さちこ)
2008-08-31 22:10:59
こんばんは。
内容の充実していて、読み応えがありそうですね。
興味深いです。
返信する
さちこ さん、 (narkejp)
2008-09-01 05:50:46
コメントありがとうございます。内容的に、新しい発見もあり、けっこう読み応えがありました。機会があれば、ぜひ手に取ってみてください。
返信する

コメントを投稿

-藤沢周平」カテゴリの最新記事