電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

シューベルトのピアノ五重奏曲「鱒」を聴く

2008年08月09日 06時44分10秒 | -室内楽
老父の葬儀等の期間中は、音楽を楽しむ余裕などありませんでしたので、長距離通勤を利用して、本当にしばらくぶりに音楽を聴きました。シューベルトのピアノ五重奏曲「鱒」です。LPの時代には、アルフレッド・ブレンデル(Pf)、クリーヴランド弦楽四重奏団員による演奏(Ph 20PC-2031)を楽しみましたが、カーステレオで聴くにはちょいと無理がありますので、ルドルフ・ゼルキン(Pf)と彼のマールボロ・チームによる演奏(FDCA-585)にて。例の、某中古書店に放出されたCD全集分売もののうちの一枚です。カーステレオ用には、たいへんありがたい(^_^)/

第1楽章、アレグロ・ヴィヴァーチェ。弦の斉奏にピアノの分散和音で始まり、第1主題、第2主題、コーダと、全部で13分以上を要する、ずいぶん大きな楽章です。躍動的で、聞きごたえがあります。作曲を依頼したお金持ちの鉱山業者がチェロをたしなんだそうで、チェロ・パートに印象的な出番がちゃんと用意されています。
第2楽章、アンダンテ。ピアノが前面に出て活躍しますが、現在の感覚からするとやや高域よりの響きに思えます。これは当時の楽器の制約から?
第3楽章、スケルツォ。いかにもシューベルトらしい、途中で何度も転調するスケルツォです。
第4楽章、主題と変奏。歌曲「鱒」の旋律が主題となり、ヴァイオリンによって奏されます。他の弦楽器が伴奏にまわり、変奏に入ってからはピアノやヴィオラと続きます。チェロとコントラバスも加わり、本当に美しい旋律です。
第5楽章、フィナーレ:アレグロ・ジュスト。フィナーレらしい、華やかさがあります。

いいなぁ!シューベルトの音楽!
思わずほっとします。聴き慣れた音楽が、また新鮮に聞こえてきます。
求心的であっても息苦しくはない、親密であっても馴れ合いではない、よくコントロールされ、バランスの取れた響きが、心のこわばりを解きほぐすようです。

楽器編成が、第2ヴァイオリンに代えてコントラバスが加わっている点が、今の時代の感覚からすると風変わりですが、LPの解説(大木正興さん)によれば、これは当時ウィーンで人気のあった、シューベルトより10歳ほど年長のフンメルにも同様の編成のピアノ五重奏曲があり、参考にした可能性があるのだとか。

また、ピアノの音が高域よりの感じを受けますが、これも当時の楽器の制約によるものかもしれません。産業革命に伴う鋼鉄技術の進歩が、強靭なピアノのフレームを産み出したと考えると、当時のアマチュア音楽愛好家の家に、最新型のピアノが常に用意されているとは限りません。であれば、ピアノはモーツァルト流の高域重視型、低音はコントラバスに受け持たせる、という割り切り方はありうると思います。そんなふうに考えると、この楽器編成は合理的です。実際に、コントラバスの役割は、あるときはティンパニ風にも聞こえるし、バスを強調する時もあり、かなり多彩な役割を果たしています。

さて、おとなしくて目立つのが嫌いなシューベルト自身は、どのパートを担当したのだろう、と興味津津です。もしかすると、内声部で音楽を充実させる、ヴィオラあたりなのでしょうか。

■ゼルキン(Pf)、マールボロ・チーム
I=13'36" II=7'07" III=4'04" IV=8'19" V=6'19" total=39'25"
■ブレンデル(Pf)、クリーヴランド弦楽四重奏団員
I=13'21" II=7'03" III=3'52" IV=7'40" V=6'09" total=38'05"

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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ご無沙汰して居りました。 (アスカパパ)
2011-11-05 13:27:47
コメントとトラックバック、ありがとうございました。

 ご尊父様がご他界後、当然聴けなかったクラシック。それがやっと聴く心の余裕を取り戻せるようにならた頃のnarkejpさんのお気持ち、分かる気がします。実は私も今春、次女を亡くし、暫くは何も手が着きませんでしたから。

 シューベルトの「鱒」は、漸く心の余裕を取り戻せるようになってきた、そのような時に聴く曲として、適しているようにも思いました。

 narkejpさんの何時も乍らの重厚なレビュー、拝読しました。
 ゼルキン(Pf)、マールボロ・チーム盤と、
 ブレンデル(Pf)、クリーヴランド弦楽四重奏団員盤、
 各々の演奏時間に一分余の差異があるのに興を持ちまして、私の盤の演奏時間をチェックしました。

■杉谷/ベルリン・フィルハーモニー弦楽五重奏団
I=13'43" II=7'03" III=4'30" IV=8'00" V=6'53" total=40'09"
■ギレリス/アマデウス四重奏団
I=13'32" II=7'17" III=3'58" IV=7'54" V=6'19" total=39'00"

 前者は、第3楽章スケルツォと、最終楽章が稍長く、総演奏時間も1分程度長いのが特徴かと思います。
 後者は、第5楽章がゼルキン盤と全く同じで、総演奏時間も酷似しているのに気付きました。

 クラシックの演奏時間に差異が生ずるのに、何時も興味があります。
 例えば、ベーム指揮/ウィーン・フィル盤は、比較的、演奏時間が長いように思います。
 指揮者の曲の解釈や、個性などによるものと思いますが、そのような個性が、聴いている私をして、聴く楽しみを倍加させて呉れるような気もします。
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アスカパパ さん、 (narkejp)
2011-11-05 20:24:15
コメント、トラックバックをありがとうございます。家族を亡くしてシューベルトを聴くというよく似た状況でしたので、トラックバックいたしました。
演奏時間の件、テンポのほかにも繰り返しの有無など様々な要素はあると思いますが、大雑把に傾向をとらえるには、わかりやすい指標のように思います。私も、そんな意味で演奏データを掲載しています。
杉谷さんの演奏は、さらに堂々とした、あるいはゆったりしたテンポなのでしょうか。
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