電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋知宏『本当はこわい排尿障害』を読む

2019年02月04日 06時02分47秒 | -ノンフィクション
集英社新書の新刊で、高橋知宏著『本当はこわい排尿障害』を読みました。「泌尿器科の専門医が解き明かす膀胱と排尿の秘密。その陰部の痒み、排尿障害かもしれません。胃痛、腰痛、坐骨神経痛、逆流性食道炎、めまい、下痢症、扁桃腺炎、ドライアイ…も?!」とでかでかと帯に記され、排尿障害という言葉に興味を持ちました。

一定の年齢になれば、誰でもオシッコの悩みを持つようになるものだ、と先輩には教えられましたし、事実、以前の職場の偉い大先輩は、トイレでだいぶ苦労してオシッコをしていました。まだ若い君たちがうらやましいよと言われたものです。今や、その先輩の当時の年齢を軽く上回り、オシッコの悩みを持つようになるのもそう遠い先ではないのでしょう。であれば、転ばぬ先の杖、今から備えておく意味はあります。なんと言っても、「よく食べ・良く寝て・よく出して」が健康の秘訣だそうで、これに適度の運動が加わればなおよろしいのだそうですから。

本書の構成は次のとおりです。

第1章 陰嚢が痒い!
第2章 排尿障害の治療に挑む!
第3章 膀胱は不思議な臓器
第4章 初めての学会発表
第5章 すべて排尿障害が原因だった
第6章 前立腺と排尿障害

ここで、第1章は研究の発端となった出来事の紹介から始まります。陰嚢が痒くて眠っているうちに無意識にかきむしってしまい、赤く腫れてじゅくじゅくと浸出液が出て下着やズボンに擦れて痛くてたまらない、という男性患者が来院します。漫画の「男おいどん」のように、インキンタムシだと思って皮膚科に行ったけれど真菌は見つからない。皮膚そのものには原因が見当たらず、アレルギーの治療をしても改善しません。
著者のブログを見て来院した男性患者を診察してみると、頻尿の他に排尿障害があり、膀胱の出口が十分に開かないための症状だ、ということがわかってきます。
第2章では、多くの症例が紹介されます。手術と投薬に加えて1日の水分量を1500cc以下に制限する生活習慣の変更を指導して排尿障害の治療に挑んだ話で、現実の医療制度の壁についても触れています。
第3章は膀胱という臓器の発生と構造と機能、尿の性質を簡潔に紹介し、膀胱関連の疾病と排尿障害との関わりを述べています。
第4章は、排尿障害の重要性と治療の症例を学会で発表した際の反応を紹介しています。
開業医として働く傍ら、独自の見解で治療成績を積み重ねますが、なかなか理解されるまでには遠い、といったところでしょうか。それはまあ、ジョゼフ・リスターが外科手術の際の消毒の重要性を主張してから普及するまで、多くの時間がかかっていますからね~。情報の伝わる速さと、理解され定着するまでの時間とは別だ、ということでしょう。
第5章は、症例の中から「あれもこれも排尿障害との関連が疑われる」という問題提起でしょう。「すべて」というのは出版マスコミ界が多用する誇張表現で、理系人間が責任をもって主張する際にはあまり使わない言葉なのでは。むしろ、「アレもコレも排尿障害が原因か?」くらいの表現の方がベターかも。
第6章は前立腺ガンの多さから注目される前立腺関係の話。ここでも、前立腺ガンに対しては穏やかな治療を提案するなど、治療経験に基づく提起が注目されます。

全体として、興味深い内容でした。たまたま患者として治療を受け、著者の見解に接した編集者が、著者のブログ等に掲載されている内容も踏まえて出版をすすめ、出来上がった本らしい。ほぼ同世代の市井の開業医が独自の見解を主張するに至った経緯もさることながら、多くの症例・治療例が見事だと感じます。

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