電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋義夫『雪猫~鬼悠市風信帖』を読む

2012年05月17日 06時03分00秒 | 読書
文春文庫で、高橋義夫著『雪猫』を読みました。「鬼悠市風信帖」シリーズ第5作です。前巻(*)では気味の悪いカルト&ホラー調でしたが、今回は本来のストイックなハードボイルド調に少しのお色気を加味して、気持ちよく楽しめました。

第1話:「黒塚の女」。竹林内の争闘から助けた男は、御奏者番・加納正右衛門の庭番をつとめる佐藤太兵衛でした。米の先物取引の空米相場を探っているうちに正体が暴かれてしまったらしく、探索は中断してしまいます。空米相場の場所を提供する油屋の女主人お伊万は、安達ヶ原の鬼女を指す黒塚と噂されるしたたかな女らしいのです。
第2話:「天狗にらみ」。足軽目付の組頭の竹熊が、金縛り状態で記憶を失って倒れていました。山伏の後をつけていて、天狗にらみに遭ったというのです。そんな馬鹿な!でも、やっぱり案の定でした。公儀の隠密がらみだそうで、竹熊さんではちょいと荷が重い。
第3話:「立ち帰り新左」。これは、筋立てはごくシンプルな話です。追放になった男が、死にかけた娘のために帰ってくる。娘を看取り、自訴しようとする新左と医者の道悦に、足軽目付の竹熊はイキなはからいをします。
第4話:「闇の烏」。思わず鳥と間違えてしまいそうになりましたが、カラスです。竹熊が襲われ、負傷したといいます。鬼悠市が調べていくうちに、昔の御蔵米の不正事件が、実は飢饉の際に救民のためのお救い米に使われたのではないかということがわかってきます。しかし、責任を一身に負って死んだ男の息子は、ただ関係者を恨むばかりです。これは、なんとも切ない話です。
第5話:「猫の繰り言」。御奏者番の加納正右衛門の庭番・佐藤太兵衛が、風邪で寝込んだといいます。江戸から来た桃川実延という講釈師の軍談が評判になっており、油屋に泊まっているといいます。足軽目付の竹熊は何やら探索中のようで、本番の最中に捕物が展開されます。いっぽう、年寄り扱いされるのが嫌いな太兵衛さんのほうは、因縁の勝負に精魂を使い果たしていました。
第6話:「地吹雪街道」。奏者番の加納正右衛門が、湯治という触れ込みで熱浜に滞在し、五十嵐という男と会っていました。鬼悠市さんも呼び出されますが、酒に仕込まれた石見銀山(砒素)で加納は倒れてしまいます。地吹雪の中、医者の桜井道悦を迎えに行った鬼さんらは、なんとか加納の命が助かったことに安堵します。熱浜には、油屋の黒塚ことお伊万と、藩の須貝甚兵衛も宿泊しており、加納に毒を盛った犯人は誰か、探索はなかなか進みません。五十嵐は、毒が自分を狙ったものではないかと言いますが、加納さんも敵が多いようです。
第7話:表題作「雪猫」。佐藤太兵衛は、自分の仕事は田の草取りのようなものだと言います。なるほど、土着して長年諜報活動に従事している他国者や幕府隠密を草とすれば、これをあぶり出し、抜き取る仕事はたしかに草取りでしょう。でも、お伊万は本命ではなかった様子。草は、もっと思いがけない人物でした。やはり先入観、思い込みはいけません。



養子の柿太郎が、独楽回しに興じたりする子供らしさも見せますが、手にあかぎれを作りながら竹細工の修行に励む姿は、健気です。この作品のシリーズ中、定番の魅力になりつつあります。

(*):高橋義夫『どくろ化粧~鬼悠市風信帖(4)』を読む~「電網郊外散歩道」2012年2月
(*2):高橋義夫『猿屋形~鬼悠市風信帖(3)』を読む~「電網郊外散歩道」2012年1月
(*3):高橋義夫『かげろう飛脚~~鬼悠市風信帖(2)』を読む~「電網郊外散歩道」2010年1月
(*4):高橋義夫『眠る鬼~鬼悠市風信帖(1)』を読む~「電網郊外散歩道」2011年12月
コメント