電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋義夫『猿屋形~鬼悠市風信帖』を読む

2012年01月14日 06時04分40秒 | 読書
文春文庫の高橋義夫著『鬼悠市風信帖』シリーズ第三作『猿屋形』を読みました。著者の作品の中ではハードボイルドの系統に属すると思われるこのシリーズは、なかなかおもしろい作品です。

第1話:「けやき兄弟」。養子の柿太郎少年が正面に登場するお話です。若衆宿の若者たちのいじめにあい、内臓出欠で急死した親友の仇を討とうと、柿太郎は思いつめているようです。それをじっと見ている鬼さんの目は、厳しいがあたたかいものです。足軽組と小普請組の身分対立も背景にありました。
第2話:「めっけ小僧」。甘木湊に「めっけ小僧」という盗賊が出没するとのことで、足軽目付の竹熊の依頼で、鬼悠市は探索に乗り出します。どうやら、植えた隣藩の領民を助けるためらしい。1200両は戻りましたが、義賊は取り逃します。
第3話:「雪鬼」。大雪にあえぐ限界集落のような苦水村に伝わる「雪鬼」の言い伝えは、実は村の秘密に関わっていました。あやうく鬼も命を落としそうになります。命を落とした郡目付が、御奏者番の息子だったとは。ペーソスを感じさせます。
第4話:「羽織の紐」。足軽組と小普請組の対立は、病気でなくした息子の棺に紐のついた羽織を入れたと横槍が入ったことで、ひどく深まってしまいます。たかが羽織の紐、されど身分差の象徴である羽織の紐。
第5話:「おちかはん」。捨て子騒動の後ろには、間引きの悪習と、子どもを助けようとして強請られる産婆がいました。
第6話:「阿呆ばらい」。弓組の組頭が参勤で江戸詰めの最中に、内儀の浦が三男坊の精三郎と駆け落ちする事件が発生します。女25歳、男19歳。この二人を暗殺すべく動いているのを妨害し、殺させるな、というのが御奏者番の指示でした。鬼悠市と奏者番の家人・太兵衛爺さんとの二人は、ようやく逃亡中の二人を見つけ出します。しかし、「阿呆ばらい」という決着のしかたは、はじめて読みました。
第7話:表題作「猿屋形」。奏者番の加納正右衛門が病気とのこと。あまりの痛みで尻をつくことができぬ病気と言えば……痔ですね(^o^)/
温泉療法が少しずつ効いてきたのは良かったのですが、囮にされた鬼さんは、たいへんでした。



養子の柿太郎のまっすぐさ、養父・鬼悠市の厳しくあたたかい訓育、狂言回し役の竹熊、一筋縄ではいかない奏者番の加納正右衛門と配下の者たち。登場人物は、それぞれハードボイルドな物語を演じて魅力的です。このシリーズ、なかなかおもしろいです。


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