電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山響第206回定期演奏会で西村朗、ラヴェル、シューマンを聴く

2010年07月19日 06時07分18秒 | -オーケストラ
早朝から果樹園の草刈りに精を出し、サクランボの雨避けテントの撤去作業もそこそこに、日曜の夕方、山形交響楽団第206回定期演奏会を聴きました。会場は山形テルサホールで、プログラムは「音楽家たちの出会いと語らい」をテーマに、

西村 朗:新作委嘱作品 2010 「桜人~オーケストラのための」
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
シューマン:交響曲 第1番 変ロ長調 作品38 「春」
 指揮:飯森範親、ピアノ:永田美穂

というものです。

会場に到着すると間もなく、音楽監督・飯森範親さんのプレ・コンサート・トークが始まりました。話題は、(1)携帯電話で情報が得られる話、(2)後で「N響アワー」ならぬ「山響アワー」風に、西村朗さん自身の解説があること、(3)シューマンの交響曲第1番「春」の話、です。ラヴェルは、後でピアノをセッティングするときに話をすることにして、まずはシューマンの解説を中心に。それまでピアノ曲ばかり書いていたシューマン、師匠の娘クララと恋愛し、お父さんは大反対。いろいろ苦難の末ようやく結ばれて、ハッピーで歌曲ばかり書きますが、シューベルトの兄を訪ねて発見したハ長調の大交響曲に刺激され、シンフォニーを書きたいと願い、作曲します。当時の生活の反映でしょうか、幸福感に満ちた音楽になっています。当時はモーツァルトと同じような楽器を用いていたので、古楽器を使用して演奏するとのこと。
ここで、山形交響楽団のコンポーザー・イン・レジデンス、西村朗さんの登場です。内心「わーお、N響アワーとおんなじだ~」などとミーハー心が刺激され、新作への期待が高まります。西村さんは、「このように響いて欲しい」と願って作曲するが、昨日と今日と、続けて二回も演奏を聴くことができることを喜んでいるそうな。いろいろな仕掛けをすっきりと表現してもらい、思った以上だった、とのことでした。

昨夜は米沢牛のしゃぶしゃぶを食べ、お昼は平田牧場の豚肉のとんかつを食べたとのこと。「食と温泉の国」というキャッチフレーズは私が考えた、という飯森さんに、西村さんは「食と温泉と芸術の国」山形でしょう、と嬉しい言葉をサービス。山響からの依頼に対し、山形と言えば桜、というイメージで、「人は自らが桜花であり、同時にまた、桜花である他の人々を愛でてともに生きる」という意味で「桜人」としたのだそうです。ほんとは「おくりびと」を少~し意識したのだそうな。

楽器編成は、弦楽部が 10-8-6-6-4 で対向配置。ピッコロ持ち替え(1)を含むフルート(2)、オーボエ(2)、クラリネット(3)、ファゴット(2)、ホルン(2)、トランペット(2)、パーカッションが多数使われているようです。コンサート・マスターは、高木和弘さんです。
第1曲目は、西村朗「桜人~オーケストラのための」。
【1】導入部と夜明け。夜明け前から夜明けにかけての生き物のざわめきを表したのでしょうか、名前もわからないさまざまな現代奏法を駆使した曲で、力強さと美しさのある音楽。フランス音楽風でもあり、かつまた、どこか邦楽のイメージも感じさせる音楽です。
【2】昼の陽光、曇り、風。曲の主部にあたります。集中と拡散、とでも言うのでしょうか、多彩なオーケストレーションが見事です。
【3】黄昏。どこか邦楽のような印象を与えていた、隠れた旋律がチェロに現れてきます。「さーくーらー、さーくーらー、やーよーいーのーそーらーはー」ですね。それが全体に広がっていきます。最後は意外なほどに終止感のある「バシッ」という音で終わります。一日の終わりにこんな音はないでしょうから、もしかすると人生の終わりの音なのかも。

ステージ上でピアノを中央に出し、協奏曲の準備をしている間に、西村さんと飯盛さんのお話があったのですが、左側バルコニー席からは残念ながら映像なしの「山響アワー」となりました。やっぱり1階席がよかったかな~(^o^;)>poripori

さて、第2曲、ラヴェルのピアノ協奏曲です。ピアノ独奏は、永田美穂さん。水色というのか、カワセミ色というのか、あざやかな色彩のドレスです。第1楽章を聴きながら、眺める方は、すっかり「のだめカンタービレ」の映画を思い出し、舞台上は孫ルイか野田恵か、という気分かも(^o^)/
第2楽章、アダージョ・アッサイ。ピアノ独奏で始まりますが、シンプルで近代的な響きです。抑制されたバランス、でも音がよく通ってきます。オーケストラがそっと入ってくると、Fl, Ob, Cl, Fl, Fg と音色が移ろい、弦も静かにピアノに寄り添うように演奏します。ピアノが波間に遊ぶように分散和音を転がしながら、イングリッシュホルンがひなびた音色で、ゆるやかな旋律を奏で、ピアノが答える経過のうちに、静かに曲が終わります。
第3楽章、プレスト。ピッコロ・クラリネットの音が、いささかけたたましい。低音楽器との対話も、なんとなく愉快でにぎやかです。ちょいと昔の酒場を思わせる印象もあり。「オーケストラの魔術師」というラヴェルの愛称は、たしかに伊達ではありません。あらためて、すごいものだと感じます。

ここで、前半が終わり、15分の休憩となります。



後半は、シューマンの交響曲第1番「春」。楽器編成は、持ち替えもあるようですが、弦楽部が 10-8-6-6-4 の対向配置、それに Fl(2), Ob(2), Cl(2), Fg(2), Hrn(5), バロックTp(2), Tb(3)うちバス・トロンボーン(1), Timp(1), トライアングル(1) というものです。5人のホルンセクションが迫力です。
第1楽章、アンダンテ・ウン・ポコ・マエストーソ~アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ。比較的遅めのテンポで始まり、各楽器のバランスの描き分けがていねいに行われます。このあたり、澄んだ音を出すオーケストラの強みです。
第2楽章、ラルゲット。弦楽器の始まりがすてきです。山響の弦の音色の威力でしょう。ヴィオラが前に出るときは他はおさえて、チェロが出番のとき、ホルンがユニゾンで。木管は小鳥の鳴き声のように。内臓も神経も次第にゴム状に変質しつつあったシューマンは、鋭いつんざくような音には耐えられなかったのかも。決してただ音を塗り重ねてはいなくて、Hrn, Cl, Ob, Fg が響きを重ね、中間色のような効果を出しているようです。このあたり、ドビュッシーのような楽器の引き算による透明な原色効果ではありません。ティンパニはお休みです。
第3楽章、モルト・ヴィヴァーチェ。明るい表情で舞曲のように。快活で楽しい表情で、ティンパニもバンバン活躍します。
第4楽章、アレグロ・アニマート・エ・グラツィオーソ。木管の「パカパッパカパッパカパッパカパッパカ~」の音色がユーモラス。弦が低音で応えるのもおもしろい。ホルンの上昇するモチーフが幸福感をさそい、崩れ落ちる音型が多いシューマンには珍しく、快活な幸福のシンフォニーです。角笛のホルンが鳴り響き、フルートの小鳥が歌い始める頃には、再び「パカパッパカパッパカパッパカパッパカ~」が繰りかえされ、音楽は熱を帯びて高揚してきます。最後はトゥッティで、ベートーヴェンを意識したような終わり方です。あー、良かった!満足~!



終演後も、ファンの交流会が行われ、西村朗さんに木島由美子さんがインタビューしていましたが、率直な答えに思わず「山響アワー」みたい!その後でソリストの永田美穂さんが登場、なんだか周囲がぱっと明るくなったような気がするのは、ヲジサンの気のせいでしょうか(^o^)/
飯森さんは、アフィニス夏の音楽祭の宣伝もしっかりとしていました。これはぜひ聴きに行きたいものです。



ところで、今回のテーマ「音楽家たちの出会いと語らい」ですが、いろんな出会いと語らいがありましたね。飯森さんと西村朗さん、西村さんとラヴェル、西村さんと木島さん、永田さんとラヴェルと飯森さん、いずれも興味深い出会いと語らいでした。最後のシューマンは、たぶん生誕200年記念年だからかな?オーケストラの皆さんとシューマンは、幸福な出会いと語らいができたでしょうか?
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