電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェン「ピアノソナタ第31番変イ長調Op.110」を聴く

2006年11月09日 06時00分22秒 | -独奏曲
ベートーヴェンの後期のピアノソナタの中で、若い頃に一番好きでよく聴いたのがこの曲だろうと思います。当時はむろんLPレコードで、日本コロムビアのダイヤモンド1000シリーズに含まれた、アルフレート・ブレンデルの演奏でした。まだ若いブレンデルが初めて全集に挑戦したこの録音、ヴォックス原盤によるものだそうですが、曲間の無音溝の時間の長さを曲に合わせて変更するようにブレンデルが主張し、エンジニアを困らせたのだとか。奇矯な人だなと思いましたが、演奏はどれも説得力があり、特にこの31番のソナタに魅了されました。

1821年に作曲され、結局誰にも献呈されなかった、自分のための音楽。ここしばらくは、アルフレッド・ブレンデルの演奏で、Philipsの 412 789-2 というCDで聴いています。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番に併録されたもので、1973年の10月にロンドンで録音されたものです。

第1楽章、モデラート・カンタービレ・モルト・エスプレッシーヴォ。親密で優しい主題です。歌うように何度も何度も現れます。
第2楽章、アレグロ・モルト。軽やかで速い楽想が駆け回る導入、そしてアダージョ・マ・ノン・トロッポのゆっくりした呟きに似て、やがて「嘆きの歌」がつむぎだされてきます。続いてアレグロ・マ・ノン・トロッポでフーガが続きます。論理的なフーガが、再び繰り返される嘆きの歌を鎮めていきます。終結部では速度を増し、分散和音を連続して、これでもか、これでもかと力強く終わります。

うーむ。この曲を聞くと、何事も裏目に出てうまくいかなかった若い頃を思い出してしまいます。中年以降は仕事も順調でしたし、幸いに病気もせず、うちひしがれてこの曲に慰めを見出すようなつらいこともなく過ごしてきました。幸せなことです。できれば嘆きの歌をたびたび聴いて心臓に血の涙を流すような事態は、今後とも避けたいところです。

■アルフレッド・ブレンデル (Philips,1973)
I=6'50" II-a=1'44" II-b=10'38" total=19'12"
■アルフレッド・ブレンデル (Vox,1960年代)
total=18'02"

写真は高校生でしょうか、文翔館・議場ホール前の広場でフルートとクラリネットの練習。吹奏楽のメンバーのようです。大きな樹木の下で、短い秋の日を惜しんでおります。
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