文藝春秋社の単行本で、乃南アサ著『六月の雪』を読みました。奥付を見ると2018年5月刊の第1刷とありますので、まだバリバリの新刊です。著者は女子中高等学校から早稲田の社会科学部に進み中退、広告代理店勤務を経て作家生活に入った方のようで、今度のオリンピックの年あたりに還暦を迎える世代のようです。
主人公・杉山未來は、声優の夢破れ、契約社員として三年間地味に働き、契約最終日を迎えます。同居の祖母とささやかな宴を開こうとした未來は、生まれ故郷の台湾の夢を見て当時の写真を探そうと階段を踏み外し頭を打って入院した祖母のために、昔の生家を探そうと台湾に出かけます。案内してくれるのは、父の教え子らしい台湾女性、李怡華です。愛想のない彼女と台南の旅をスタートしますが、翌日、李怡華は都合で帰らなければいけないとのこと。代わって紹介されたのが洪春華という女性で、言葉遣いが悪いけれど悪い人ではなさそうです。
洪春華は、台南の歴史的建造物に強い楊建智や、彼の高校時代の歴史の先生・林賢成とともに、未來の祖母の記憶にある旧台南第一高等女学校や、曽祖父が勤めていたという三井の製糖試験所とその社宅を探します。
ここからは、台湾の歴史を織り交ぜながら、未來の家庭の事情や台湾で出会う人々の一筋縄ではいかない人生を垣間見る展開となり、ミステリー風ロードムービーの趣があります。日本語のわかる彼らと一緒だったから、なんとか祖母の記憶にある家や「六月の雪」という欖李花の花も探し当てることができました。
○
日本の植民地だった時代、蒋介石がやってきた戒厳令の時代、蒋経国から李登輝(*1)に交代した時代。台湾の歴史は、感情を表に出さない国民性を作ったと李怡華は言います。同じ家族であっても、世代によって台湾語、日本語、中国北京語と異なる言語を話すという事情は、温又柔さんの本(*2)でも承知していましたが、また別の角度から再確認しました。
未來が中国語を学ぼうと台湾に語学留学を決意するあたりは、ごく自然に納得しましたし、林先生と親密になりそうなハッピーエンドの展開も予想できたのに、バイタリティあふれる洪春華のオートバイ事故という結末は、ちょいと衝撃的でした。久々に、良い物語を読んだと感じました。最初、「のなみ」という読み方すらわからなかった乃南アサという作家の作品は初めて読みましたが、なかなかおもしろかった。
(*1):李登輝『台湾の主張』を読む〜「電網郊外散歩道」2016年9月
(*2):温又柔『台湾生まれ日本語育ち』を読む〜「電網郊外散歩道」2016年4月
主人公・杉山未來は、声優の夢破れ、契約社員として三年間地味に働き、契約最終日を迎えます。同居の祖母とささやかな宴を開こうとした未來は、生まれ故郷の台湾の夢を見て当時の写真を探そうと階段を踏み外し頭を打って入院した祖母のために、昔の生家を探そうと台湾に出かけます。案内してくれるのは、父の教え子らしい台湾女性、李怡華です。愛想のない彼女と台南の旅をスタートしますが、翌日、李怡華は都合で帰らなければいけないとのこと。代わって紹介されたのが洪春華という女性で、言葉遣いが悪いけれど悪い人ではなさそうです。
洪春華は、台南の歴史的建造物に強い楊建智や、彼の高校時代の歴史の先生・林賢成とともに、未來の祖母の記憶にある旧台南第一高等女学校や、曽祖父が勤めていたという三井の製糖試験所とその社宅を探します。
ここからは、台湾の歴史を織り交ぜながら、未來の家庭の事情や台湾で出会う人々の一筋縄ではいかない人生を垣間見る展開となり、ミステリー風ロードムービーの趣があります。日本語のわかる彼らと一緒だったから、なんとか祖母の記憶にある家や「六月の雪」という欖李花の花も探し当てることができました。
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日本の植民地だった時代、蒋介石がやってきた戒厳令の時代、蒋経国から李登輝(*1)に交代した時代。台湾の歴史は、感情を表に出さない国民性を作ったと李怡華は言います。同じ家族であっても、世代によって台湾語、日本語、中国北京語と異なる言語を話すという事情は、温又柔さんの本(*2)でも承知していましたが、また別の角度から再確認しました。
未來が中国語を学ぼうと台湾に語学留学を決意するあたりは、ごく自然に納得しましたし、林先生と親密になりそうなハッピーエンドの展開も予想できたのに、バイタリティあふれる洪春華のオートバイ事故という結末は、ちょいと衝撃的でした。久々に、良い物語を読んだと感じました。最初、「のなみ」という読み方すらわからなかった乃南アサという作家の作品は初めて読みましたが、なかなかおもしろかった。
(*1):李登輝『台湾の主張』を読む〜「電網郊外散歩道」2016年9月
(*2):温又柔『台湾生まれ日本語育ち』を読む〜「電網郊外散歩道」2016年4月