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リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(24)

2022年12月17日 15時17分07秒 | 音楽系
今回はこの記号です。



この記号は現れる頻度はそう高くはありません。ゴーティエの曲集では次のように説明されています。

「タブの文字の下または後ろに書かれるこの記号(^)はアクセントを示しています。左手の指でこの記号が付いた文字に先行する文字を弾き、そして右手で和音が弾かれるのと同時に、この指を記号がついている文字にこの指を素早く移動させるのである」(某氏英訳、中川による重訳)

実際にこの記号が使われている例:


Milleran manuscript f.83, Prelude de Mouton


Gaultier Liure de Tablature P.43, La Dedicace ou Pauanne de Mr. G

文字による説明がとてもわかりにくいので、ミレランで具体的にあたってみましょう。まず「記号が付いた文字に先行する文字」ですが、この曲の場合は記号がついた文字は d で、それに先行する文字は c になります。ミレランには指の記号が2と付けられていますので、2の指で「先行する文字」である、c (3コース2フレットでシの音です)を押さえで右手で音を出します。

次に、2の指で押さえた c を記号が付いている文字すなわち d に素早く移動させるのです。

スラー式に音を出すのではなく、少しアクセントをつけてギターでいうグリッサンドの様に弾くということになります。下からのアポジャトゥーラとよく似ていますが、アポジャトゥーラは左手スラーで音を出しますので少し鳴り方が異なります。またアポジャトゥーラはアクセントを付けないし、少し長めに弾くこともあります。

ゴーティエの説明で、「・・・右手で和音が弾かれるとのと同時に・・・」という下りは下に別の声部がある場合のようですが、例に挙げた2例とも下に和音がついていないので、具体的にはよくわかりません。