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リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(18)

2022年12月04日 16時02分17秒 | 音楽系
ちょっと飛びますが、Mf.2002手稿本の前書き15番を見てみましょう。

ここでは左手の使い方について述べられています。

「左手全体は充分に丸くし、それぞれの指が開いて綺麗な姿になっていなければなりません。口絵の銅版画を参照して下さい」

その口絵の銅版画がこれです。



先述のように同手稿本前書き3番から17番はルサージュの「リュートの飾り棚」の前書きの引き写しです。ですから同写本には当然ながら「口絵」はありません。スミス論文にはその「口絵」が掲載されていまして、上の絵はそれからの引用です。

ルサージュの「リュートの飾り棚」はツリーエディションから復刻版が出ていてそれを私は持っているのですが、そこにはなぜかこの口絵はついていませんが、どうしてなんでしょうかねぇ。

それはともかく、この項目は左手についてのことなのですが、もうひとつ注目してほしいのは右手のポジションです。

口絵の奏者の右手は、アームが弦とほぼ直角になるようなポジションを取っています。現代のクラシックギターの奏者にはこのくらいのポジションで弾いている人もいますし、19世紀のギタリスト、ディオニシオ・アグアドなんかも同様のポジションです。



昔のリュートを弾いている絵でこのくらいのポジションを取っているのは、何点か見たことがありますが、現代のリュート奏者でこのような右手ポジションで弾いている人は見たことがありません。実際にためしてみても、指頭奏法だとあまり音が綺麗になりません。ブリッジよりでも、シャルル・ムートンのように少し弦に対して角度を付けないときれいな音がでません。



ギターのアグアドは確か爪を使っていたようですが、爪弾き奏法であればいけるのかもしれません。ということはこのルサージュの著書の扉絵の人は爪を使って弾いていた?

現代のリュート奏者の右手ポジションは、ムートンくらいの人から、ルネッサンスリュートを弾くようにアームの角度が弦に対して鋭角というか弦のラインに近い角度で弾いている人まで様々です。さすがに後者はごく少数ですが、型云々より綺麗な音、いい音楽が優先されるのは言うまでもありません。