goo blog サービス終了のお知らせ 

リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(23)

2022年12月16日 18時49分15秒 | 音楽系
しばらくリュートのホールディングについて書いてきましたが、今まで紹介しましたコンマ様の記号以外のものについて見ていきましょう。

まずこれ。


Gaultier, Liure de Tablature des Pieces de Luth

文字の下についている、カッコ様の記号です。これは下からのアポジャトゥーラです。ゴーティエの曲集には次のように説明されています。

「タブの文字の下に書かれている小さな曲線状のラインは次のことを表します。すなわち文字を弾いたときに左手の指を下におろすことです」(某氏による英訳からの中川による重訳)

図版の b がファ♯だとすると、4コースのファ♯の音を右手指で弾いて音を出し、そのあと左手の中指(薬指)を2フレットの位置( タブの文字のc )に下ろしてソの音を出す、ということです。ソの音は右手で弾かないで左手だけで音を出します。

ことばで書くとなんかややこしいですが、コンマ様の記号の次によく使われる記号で、17世紀のフレンチから18世紀のドイツ系の作品に至るまで、コンマと同様によく使われた記号です。


Milleran manuscriptより


Weiss London Manuscript より

アポジャトゥーラ自体は別に右手で弾いても表現は充分可能ですが、(上からの場合も下からの場合も)右手で弾かないのがリュートにおける歴史的な弾き方ということになります。