prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
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「宮本武蔵 一乗寺の決闘」

2022年05月08日 | 映画
クライマックスの下り松とその周辺の田圃がすべて作り物だと言うのだが、何度見ても信じられないようなスケールとリアリティ。
早暁の光を狙ったので一日にいくらも撮れなかったというのも伝説化している。

4Kリマスター版で見ると、次第に明るくなっていく光の変化が絶妙に再生されていて、圧倒される。

一方であれ、と思ったのはこの前に見た二作前の「般若坂の決斗」ほどには屋内の装飾が充実していないように見えたこと。

この大作シリーズを作っていくうちに映画産業がどんどん左前になってしまい、次の「巌流島の決斗」では製作費は半減されたという、その前兆にして最後の輝きみたいなのかもしれない。

このあたりになると錦之助の武蔵がもの狂いというか、もはや人間離れしている感じすらする。
名目人の子供を斬ったことで坊主どもに悪鬼羅刹と言ってもまだ足りないとあらん限りの悪口雑言罵詈讒謗を浴び、名目人を立てたのは吉岡一門ではないかと「我、事において後悔せず」という有名な文句が締めくくりに置かれるのが異様な迫力。

監督の内田吐夢は満映にいたわけだが、その理事長の甘粕正彦がまさに現実の子供殺しとして指弾された人であることを思い出した。

(憲兵が大杉栄と伊藤野枝のアナーキスト二人を関東大震災のどさくさに紛れて殺したのは、良くはないが理由はわかる。しかしなぜ10歳の子供まで殺したのか。
殺したのは甘粕ではなく憲兵本隊だとも言うが、いずれにせよトチ狂うにも程がある話、
川喜田かしこの自伝に甘粕を見かけた時に感じた嫌悪感について記されたくだりがあるが、いか軍部が強かった当時でも、子供殺しに対する世論の怒りと反発はすさまじく、甘粕を処分しないわけにはいかなかったらしい

俳優たちのセリフが音吐朗々として聞き取りやすい。
吉岡一門の高弟でことに声がいい役者がいるので誰かと思ったら佐藤慶でした。



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