prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」

2022年05月26日 | 映画
また思いっきりむさ苦しいというか、中国がド貧乏だったところの田舎の村の感じを徹底的に出している。逆説的に、カネかけられるようになったから再現できたとも言える。
不思議なもので、昔の中国映画のあまりクオリティの高くない映像のリアリズムより情報量は多い分「リアル」でもあり、それなりに綺麗すぎるので逆に作り物っぽくも見える。

荒涼とした砂漠やどこまでも続く道など、何やら「マッドマックス2」の世界観みたい。
背景には文化大革命(1966~76)があるわけで、作中に登場する1964年制作の「英雄子女」っていう映画は実在するものらしいけれども画面を見た感じではなんだか朝鮮戦争での米軍との戦いみたいなんで見ているとなんだか不安な気分になる。

余談だが、監督のチャン・イーモウの父親は国民党軍の兵士で、従って共産党中国ではまともな職にはつけず、母親が働いて赤貧の中で育ったという。だものだから文革で田舎の村に下放(農民から学べというわけ)された多くのインテリ青年はあまりの知的刺激ゼロの環境に参ってしまった中、イーモウは平気で村にいついて写真術を身につけ多くの写真を撮りため、その写真が認められて、北京電影学院撮影学科に入学が認められた という。インタビューで自分の顔は典型的な中国の農民のそれだという意味のことを言っている。
実をいうと、それだけではなくて入学申請時にすでに27歳で結婚していて、当時の夫人の親戚が学院の理事、という縁故入学ってところもあったらしいが。オリンピックの開閉会式の演出の取りまとめといい、しぶといというか世渡りが上手い人と見受けられる。

砂漠の風景が色味を殺した感じで 毎度のことながら撮影監督出身のチャン⋅イーモウは色彩調整に関しては細心の注意を払っている。
巡回映画を扱った映画って言うと「ミツバチのささやき」 があるし、映画館を舞台にした映画としては「ニュー・シネマ・パラダイス」があるわけだが、前者のように映画そのものがいきなり子供の魂を掴むというわけでも、後者のようにノスタルジックに古き良き映画が貴重だった時代の疑似的な(というか、はっきりウソの)映画館を再現?したわけでもない。
さすがにというか、「パラダイス」みたいにフィルム映写機が一台しかないなどという象が映っているくらいの考証ミスはない。

フィルムに焼き付けられた娘の姿を一目見たいという父親の一念に焦点を合わせていて、実物の娘とは会おうとはしない。おそらく会ったら「反革命」分子の娘として巻き込むことになるからだろう。

フィルムが道に引きずられて埃まみれ砂まみれ傷だらけになる。
ここでの映画=モノとしてのフィルムは実際の人間の代わりというか依代みたいな存在としてある。
フィルムを加工して作ったスタンドの傘というのは、突飛なようだがナチスが人の皮を加工してスタンドの傘にした故事を思い出した。

映画の上映の仕方が面白くて ホールみたいなところに真ん中あたりにスクリーンを置いて、その両側に村人がびっしりと詰まっていて 上映されているスクリーンを表と裏から同時に見る格好になる。
実際がどの程度ああいうやり方をしたのかわからないけれども絵としてとても面白い。
またフィルムをエンドレスにつないで 映写室の中を何やらアクロバットのようにフィルムを行き来させて上映する場面などをやはり造形的に面白い。

文化大革命の頃の話なのだろうけれども男の子かと思うような泥棒の子供が最後の方だとまるっきり「初恋のきた道」の頃のチャン⋅ツィイーみたいな感じになる。イーモウの好みなんでしょうね。
また生き別れになった娘とフィルムと泥棒娘とがだぶるようになっている。