prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
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「フレイルティー 妄執」

2024年08月18日 | 映画
1955年に生まれ2017年に亡くなった俳優ビル・パクストンが唯一監督主演した映画で、「最も過小評価されたスリラー、ホラー」というリストに載っていたので、見たら、なるほど納得。

ビルの経歴を見ると、高校時代は8ミリを作っていて、十八の時にロジャー・コーマン製作のもと「ビッグ・バッド・ママ」の美術をつとめるといった具合に俳優より先にカメラの後ろにいたのがわかる。
コーマン製作、ジョナサン・デミ監督の「クレイジー・ママ」でデミに出演を勧められ俳優デビューし、あとは俳優としてのキャリアを積むことになる。

DVDにはオーディオコメンタリーが三種類、監督、脚本家、プロデューサー+編集者+音楽がある。

・子役の出番が多いので出演時間が限られるため効率的に撮れるようセット撮影を多くした。
・手のモチーフにこだわった。
・マシュー・マコノヒーなど、ビルが出演した「U-571」の出演者の人脈を生かした。
・「サイコ」「めまい」などヒッチコック作品をいかにもと言った調子でなく引用した。
・マコノヒー、パワーズ・ブースといった 高いギャラ(!)をとる役者はそれなりの役割を引き出すよう心掛けた。具体的に言うと、アップの多用。アップに耐える役者というのは貴重と言われるとなるほどそうか思う。
・車内のシーンは外景はまったく写さず、雨と光の効果だけで処理した。
・撮影監督のビル・バトラーの貢献はきわめて大きい。「ジョーズ」の逆ズームのカットの引用もある。
・犠牲者役にはパクストンの演技教師にお願いした。
・兄弟がベッドで見たい映画を話すシーンはパクストン自身が「エイリアン2」の出演者なのでシナリオに書かれていた「エイリアン」は却下になった。
・ジェームス・キャメロンに試写を見せて聞いた意見を容れて編集をちょっと変えたが、そのちょっとが構成を根本的に変えることになった。

脚本家と監督の解釈の違いがあるのもわかる。

同じ家が監督にはヒッチコックの「サイコ」のように写り、プロデューサーにはエドワード・ホッパーの引用に写る。

パクストンは神のお告げを受けたと思っていて、ふたりの息子に「悪魔を滅ぼす」ようリストアップした人たちを殺すのを手伝わせるという、まあ恐ろしい役。本当にいそうだし、見たところ狂っている風でない分、なお怖い。
一番悪魔っぽいのは神なのではないかと思いましたよ。

パクストンの監督としての力量は緻密にして柔軟で、一本だけで終わらせたのは惜しい。





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