昨年の今日が、
家元こと立川談志が
75歳で没した日である。
近頃、一周忌企画が
いくつか放映された。
初めての高座もあったので、
DVDに録画しておいた。
立川談志は三遊亭円朝に並ぶ
落語の天才であり
立役者である。
この稀有の落語家の
謦咳に接せたのは
同時代に生きた者として
幸運だったと言えよう。
我が家には100枚にも及ぶ
CD全集とビデオ類、著作類が
揃っている。
30代のいっ時、
「追っかけ」をやっていたので、
直接に書いて頂いた色紙類も
手元にたくさんある。
今日は、生前の家元を偲んで
一席聴いてみようかと思う。
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『魂理学雑談』
トリックスター
奈保子 こういう混沌とした社会に登場が期待される、単なる道化者でなく、矛盾に満ちた存在であるトリックスターについてお伺いしたいのですが…。
佐々木 文化人類学者のラディンは、「訴える力と、珍しい魅力とを兼ね備えた人物で、創造者であり破壊者、贈与者であって反対者、他をだまし、自分がだまされる人物」と言うてますね。
奈保子 なんだか、選挙に登場して、ほんまに政治改革をしてくれそうな人を連想してしまいますが…。
佐々木 「Change!」とか言うてね(笑)。
奈保子 オバマ大統領もある意味、初の黒人大統領ということで、新しい世界の象徴のようでトリックスター的な要素があるかもしれませんね。
佐々木 たしかに、要素的にはあるかもね。ただ、一国の大統領がトリックスターでは国民が困るだろうけどね(笑)。
奈保子 …ですね(笑)。
佐々木 ユングは、世界中のトリックスターを分析してみて、人間の意識ができあがってくるときの「初期の未発達な意識の段階の反映」である、と言うてるんだね。
奈保子 つまり、現代人の意識のように、主体性や統合性を備えたものになる以前の、断片的で、刹那的、衝動的であった意識の段階ということでしょうか。
佐々木 そうですね。せやから、非近代社会の文化には、トリックスターの神話が多いんとちゃうかな。
奈保子 なるほど。そうなんですね。そういえば、子どもの心性も「断片的、刹那的、衝動的」であるという意味では、じゅうぶんにトリックスター的要素があるわけですね。
佐々木 そうそう。思春期は、現代でも、成人の意識ができあがる前の段階なんで、トリックスター的心性が働くんやね。
奈保子 そうですね。思春期の頃って、今想い出すと、なぜあんなことをしたのかわからない、と言うようなことをしたことがあります。
佐々木 そうでしょ。私も実は、「若気の至り」「汗顔の至り」という思い出が山ほどありますよ。時々、夜中にふと思い出したりすると、ワーッと絶叫したくなりますもんね(笑)。
奈保子 それは大変ですね(笑)。心の中にいるトリックスターを、うまく活躍させる人と、それに自分が乗っ取られてしまう人とでは、結果は異なってきますね。
佐々木 はい。ユングはトリックスターも元型の一つと言いましたが、それに同一化したり、憑依されたりすると、自我がコントロールできなくなって失敗してしまうことが起きますね。
奈保子 うまく活躍させれば、何らかの創造的な事ができるけど、同一化や憑依になると、無意識のうちにやってしまうことになり、マイナスの効果を持っているんですね。
佐々木 そうですね。
奈保子 モーツァルトの性格の一面なんか、多分にトリックスター的ですものね。
佐々木 なんたって、スカトロジー好きでしたから(笑)。
奈保子 トリックスターに同一化した人は、「ほとんど病気」かマニック(躁的)な状態に見えるんでしょうか。
佐々木 見えるかもしれへんね。なんか、パッパラパーっぽく見えるし、投げやりだったり、誇大妄想的だったり、嘘ついたり、時々、ほんまのこと言うたり…(笑)。
奈保子 始末におえないですね(笑)。
佐々木 おえない、おえない(笑)。ほんでもね、無意識的行為やけども、当人には結果的には、プラスの効果を生むことがあるんですわ。
奈保子 それと、会議や打ち合わせなんかで、みんなで真剣に考えても、なかなかいい案が浮かばないとき、トリックスターの一言で笑いが起こって、そこからふと新しい考えが開けたり・・・ということって、ありますよね。
佐々木 うん。そういう場面というのは日常よくありますね。それが、時折、あんがい真面目な人が冗談言うてブレイクスルーとなるときがありますから、それは、その人の内界のトリックスターがひょっこり顔を出すんでしょうかね。