『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』3

2022-08-31 09:59:42 | 創作

* 3 *

 

 人間には分からない現実のディテールを完全に把握している存在が、世界中で一人だけいる。

 それが「神」である。

 この前提があるからこそ、正しい答えも存在しているという前提ができる。

 唯一絶対的な存在があってこそ「正解」は存在する、という事なのです。

                      養老 孟司

 

 

「りゅうま・・・っていうのは、どう?」 

 愛菜が産院のベッドで授乳をしている時だった。

「それって、どんな字なの?」

「ん・・・。

 ドラゴンの竜に、オウマの馬」

 ソータにしては、珍しくはにかむような仕草を妻に見せたのが、愛菜には訝しく思った。

「飛車が成ると竜になって、角が成ると馬になるんだよ・・・」

「あ、そうね・・・」

(なーんだ・・・。そうか・・・) 

 愛菜も、詳しくはないものの、あらかたの将棋のルールは知ってはいた。

 だから、モジモジしてた夫を思うと、なんだか少年のようで可笑しかった。

「そっかぁ・・・。

 竜と馬になると、めっちゃ強くなるものね・・・」

「うん。そう・・・」

「いいんじゃないですか、お父さん・・・」 

 なんだか、老妻のような口ぶりに、ソータも笑みがこぼれ、

「じゃ、お母さん。そういうことで・・・」

 と、素直に喜んでいるふうだった。 

 

 かくして、長男は海援隊の坂本龍馬とは似て非なる「竜馬くん」とあいなった。

 ちなみに、二つ上になる長女は、お母さんの命名で「聡美(さとみ)」とした。

 娘の偉大なる父であり、愛する夫でもあるその名からの一字を冠に頂いたのである。

 娘は、まったくのお父さんっ子で、遠征から帰ると、玄関まで走ってきては、抱っこをせがむ甘えん坊さんだった。

 ソータも、目の中に入れても痛くない、というほどに愛娘を可愛がっていた。 

 愛菜は、二人きりの時は恋人時代のように「ソーちゃん」と呼んでいたが、子どもたちの前では、「お父さん」と呼ぶようになっていた。

 そも二人の馴れ初めは・・・というと、さるお茶のCMでの共演が縁となった。

 ネットに公開された対談動画は、互いのファンがやきもきするほどの好相性を見せ、これはもしかしたら・・・と、思わないでもない国民も少なくなかったようなのである。

 入籍発表当時は、女性週刊誌はじめ、連日、ワイドショーでも取り上げられるほどの熱狂的フィーバーぶりを列島にもたらした。

 それが、早くも二児の父親、母親となった。

 

 

 

* 

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御神紋&家紋

2022-08-31 09:08:52 | ノンジャンル

三年越しの
坐骨神経痛のうえに、
顎関節症という
やっかいなものまで
しょいこんじまって
往生している。

ゆるゆるの
5本前歯ブリッジのせいとは思うが、
なにせ、それが自然に外れるまでは
作り替えしない方がいいと
歯科医から言われてるので
取るわけにもいかない。

いまんとこ、
幸いにしてアゴの痛みはないが、
大きく口が開けれず、
食事のたびに
ガコン・カコンと音がして
不愉快極まりない。

上前歯は5本がユルユルで、
奥歯は知覚過敏でシミシミ・・・
なので、食べることが容易じゃなく、
なんだか・・・喰えなくなったら、
もう、生き物として
終わりやんなぁ・・・と、
寂しく思った。

これが、老いる・・・
という事なのである。

ほんでも、
YouTubeの矯正法を見て、
アゴ周りをマッサージしたり、
メンソール軟膏を塗って
なんとか凌いでいる。

*

 

4階にあるK中の
カウンセリング室に、
家にあった金光教の御神紋を
持ち込んで、デスク正面に備えた。

ヒノキ材にレーザーで
彫られたもので、
鼻を近づけるといい香りがする。

今朝の朝刊では、
亡くなった稲盛さんの
語録が載っていたが、
「還暦を過ぎたら、
死の国へ旅立つのに
たしかな信仰が要ると思って
得度した・・・」
とあり、我が意を得たような気がした。

そう。
人間は、自ずと生まれ、
自ずと死すのである。

これを不条理と捉え、
勝手に生まれさせられて、
勝手に死なされる・・・
と言う哲学者もいる。

いずれにせよ、
「死」という未知なるものへ
身を委ねるには、
信ずるに値する「絶対的」なものに
身を任せるよりない。

それは○○教でなくも、
愛する人でもいい。

この歳になって、
初孫ができて、
彼の為なら死んでもいい、
という気になった。

*

お盆に墓参して、
墓石の家紋を見て、
以前に調べた事を忘れたので、
また、ウィキってみた。

「四菱」は、
清和源氏の流れで、
平安時代には
公家の装束に用いられた
有職文様のひとつ。

そして、「佐々木」姓は、
宇多天皇の第8皇子の
敦実親王の流れをくむ
宇多源氏、源成頼の孫の
佐々木経方を祖とする一族。

近江国・蒲生郡・佐々木荘が発祥。

軍事貴族として繁栄し、
源平合戦で活躍し
全国に勢力を広げた。

*

毎日、1曲をアップしている
Facebookの『リュート・マラソン』で
マウロ・ジュリアーニの
『華麗なるソナタ』を弾いてみた。

ジュリアーニは
ナポリ出身でウィーンに在住し、
ベートーヴェンの『第七交響曲』の
初演では、オケでチェロを弾いていた、
という逸話がある。

なので、
この単楽章ソナタも、
どこか、ベートーヴェンの
ピアノ・ソナタのような風合いがある。

 

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リアルファンタジー『名人を超える』2

2022-08-30 07:32:24 | 創作

* 2 *

 

 個性が大事だといいながら、実際には、よその人の顔色を伺ってばかり、とういうのが今の日本人のやっていることでしょう。

 だとすれば、そういう現状をまず認めるところからはじめるべきでしょう。

 個性も独創性もクソも無い。

                      養老 孟司

 

 

「名人、こちらにもお願いします!」

 報道陣のフラッシュが幾重にも焚かれる中に、『永世八冠』という色紙を胸のあたりに掲げた父親が画面の中で微笑んでいた。

「ほーら。リュウちゃん、お父さんよ!」

 と、お膝に抱っこの幼さな子に、母親が画面を指さした。

 父と察してか、一歳になったばかりの竜馬は、ちっちゃな手のひらをパチパチと叩いた。

「あら。えらいわねぇ・・・。

 リュウちゃん、お手々パチパチ覚えたのね」

 母親は、まるで息子が父の達成したばかりの偉業に対して、自分に変わって家族代表で拍手を贈ったかのようにさえ思えた。

 思わず、その産毛のいい香りのする頭に頬ずりをした。そして、

(ソーちゃん、おめでとう!)

 と、心の中で祝福した。

 翌日のスポーツ紙は、どの社も一面

『史上初! 永世八冠達成!』

『前代未聞の偉業!』

 との最大限の賛辞を謳っていた。

 テレビのワイドショーも久々の明るいニュースで、将棋にはド素人のコメンテーターたちが歯の浮くような美辞麗句を並べていた。

 

〔おみやげ、何がいい?〕

 と、対局前夜に、ソータは愛妻にメールを送った。

 大一番の大事な前夜だというのに、さすがだなぁ・・・と、妻はなかば呆れもし、感心もした。

 今や現役当時の自分をも凌ぐほどのCMにもひっぱりだこで、時たま、家族の前でその映像が流れると、

(やっぱ、シロートくさいね・・・)

 と、自虐的に照れ笑いするのが、なんだか彼らしくって、幾つになっても可愛く感じるのだった。

 

 天才子役・名女優と賞されたのは、もう遠い過去のように愛菜には思えていた。

 そう・・・。あれは、前世のわたしだったんだ・・・。

 と、愛菜は時々、妙な錯覚のような感覚をおぼえることがあった。

 それは夫の桁外れな天才ぶり、棋界の記録を全て塗り替えた異星人のような業績の前には、自分のちっぽけなキャリアなぞ、もうどうでもよいことだった。

 それに、自分には、彼の大事な娘と息子がいた。それは、大袈裟でなく、命よりも大事な大事な宝物であった。 

 

 

*

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顎関節症で、アゴがカクカク・・・

2022-08-30 07:07:00 | 健康

昨晩、夕食時に、
なんだか上手く噛めず、
アゴが妙にカクカクするなぁ・・・
と思って、ググッてみたら、
どうやら『顎関節症』というのに
なったらしい。

YouTubeには
沢山の動画があったが、
特に、コロナ禍の現在、
その症状が5倍も増えているという。

ただ、自分の場合は、
前5本のブリッジが緩んで、
カクカクいうままにしており、
取れるまで治せないので、
それが原因で
噛み合わせや「片噛み」が
原因かと思う。

それと、常態化している
「横向き寝」も
よくないらしい。

いろんなサイトで、
セルフケアの方法を紹介しているので、
今日から、実践してみて、
ダメな時は、ブリッジの
作り直しの時に、歯科医に
診てもらうよりない。

今ん処、
カクカク音だけで
痛みがないのが幸いである。

*

ヤフオクで、
久しぶりにティアックの
オートリバースのダブルデッキを
13800円で落札した。

車内でも、
カセットは落語などを聴くのに
未だに使っており、
千本以上もあるので
デッキは欠かせないアイテムである。

*

 

ムクゲが
あちこちで満開になっており、
夏の名残りを感じさせてくれる。

真ん中が赤いものは、
「紅底」ともいい、
茶道では「宗旦槿(そうたんムクゲ)」
と呼ぶ。

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リアルファンタジー『名人を超える』1

2022-08-29 07:18:56 | 創作

 

* 1 *

 

 人生でぶつかる問題に、そもそも正解なんてない。

 とりあえずの答えがあるだけです。

 私はそう思っています。

 でも今の学校で学ぶと、ひとつの問題に正解が一つというのは当然になってしまいます。

 本当にそうか、よく考えてもらいたい。  

                養老 孟司

 *

 

「ありがとうございました」

 ソータは、一言、簡潔にそう言うと、最後の対局を終えたかのように、その枕元で瞑目した師匠に対して深々と一礼した。

 長らく看病に仕えていた奥さんが、その枕元で

「パパ、よかったねぇ・・・。

 ソーちゃん来てくれて・・・」

 と、泪を拭いながら嗚咽した。

 ソータの目にも涙が浮かんだかと思うと、それは、次から次と溢れ出し、まるで子どもにかえったように、そう・・・入門時の小学生にかえったように泣きじゃくった。

「お忙しい処、ほんとに、ありがとね。

 パパ喜んでたと思うわ。

 名人戦、頑張ってね。

 パパもきっと、応援してるから・・・」

「はい・・・。頑張って防衛します・・・」

 とソータは気丈に答えた。  

 廊下には、愛妻の愛菜が心配げに待っていた。

 ガクリと肩が落ち、明らかに気落ちした様子が見られた夫に

「だいじょうぶ?・・・」

 と、思わず声をかけた。

「・・・・・・」

 ソータは無言のまま頷いた。

 夫が激しく泣いたことを悟った妻は、バッグからガーゼ地のハンカチをそっと差し出した。

 夫は無言のまま受け取ると、恥じらいもなく、泪の跡をぬぐった。

 

 天才子役から売れっ子女優街道を揺らぐことなく歩んでいた愛菜だったが、自分の才能を遥かに上回る棋界の大天才とめぐり逢い、自らのキャリアを惜しげもなく放擲し、芸能界引退後は、子育てと夫のサポートに専念する生き方を選んだ。

 その才能と経済的価値を惜しむ世間の思いなぞ歯牙にもかけなかったのは、まるで、昭和の大スター山口 百恵の生き様を彷彿させるものだった。

 もとより賢い彼女は、自分を凌ぐ不出生の大天才の子を産んで、その遺伝子を後世に残さねば・・・と、なかば本能的な使命感のようなものを身の内に激しく感じて、そんな自分自身にも驚いたことがあった。

 が、実際の処は、可愛い息子と娘に恵まれて、世間並の母親の喜びを日々満喫もしていた。

 

「じゃ、子どもたち、よろしくね・・・」

 力ない少しばかりの笑顔を浮かべながら、名人は、セントレアから千歳に飛び立った。

 傷心の夫の哀しみを我が事のように感じながら、妻はその機影が霞むまでスカイデッキに佇んでいた。

(がんばって、ソーちゃん・・・)

 妻は、心の中でそう祈り、同時に、偉大な夫の永世名人位獲得を信じて疑わなかった。

 名人位の通算5期目となる現棋戦をあと一勝すれば、前人未到の『永世八冠』を達成することになる。

 盆暮れに夫に連れ添って、師匠宅への御挨拶参りをしていた妻は、

「先生。ソーちゃんを見守ってください」

 と、瞑目して合掌した。

 

 

*

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