『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』7

2022-09-04 09:11:43 | 創作

 

* 7 *


 苦痛にも何か意味がある、と考えるべきなのです。

 苦痛を悪だと考えてはいけない。

 そうでないと、患者は苦痛で苦しいうえに、その状態に意味が無いことになって、二重の苦しみを味わうことになる。                            

                          養老 孟司

 

 

「カナちん、あそぼ・・・」

 幼い聡美は、すっかり住み込み同居のオネーチャンに懐いていた。 

 その舌足らずが故に「カナちゃん」と上手に発音できず、「カナちん」と言うのが、カナリにはたまらなく可愛く思えた。

「うん。サトちゃん。何して遊ぶ?」

 すっかり、お姉さん役になったカナリは、愛聖園でも下の子の面倒をみていたように、先生のお嬢様ということを忘れて仲良しになっていた。

 おママごとやお絵かきを共にしながら、自分は父も母も知らず、園長先生やシスターたちの愛情に育まれて生きていたんだなぁ・・・ということを、ふと思う自分がいた。

 でも、今は・・・。

 そう・・・。今は、先生と奥様とサトちゃんやリュウちゃんが、私の家族なんだ・・・と、思うと、なんだか幸せいっぱいな気持ちが胸の奥に拡まった。

 

「ありがとね。カナちゃん。

 すっかり、サトのお姉さんね・・・」

 愛菜は、我が子を妹のように可愛がるカナリを、なんだか自分が生んだほんとの長女のような気になることがあった。

 そんなことをチラと食卓で夫に話したら

「ハハハ・・・。そうかもね・・・」

 と、能天気に笑っていた。

 

「失礼します」

 詰将棋を熱心に作っているソータのところに、カナリが自作の棋譜をもってやってきた。

「先生。見ていただけますか。今日、完成したんですが・・・」

 と、棋譜を差し出した。

 ソータは一目見ると、するどく眼を光らせた。

『詰将棋選手権』十連覇の前人未踏記録を持つ、文字通り〈世界一〉の師匠である。

 

 先日、カナリも名古屋における選手権に初参加したが、まだ、師匠の足元には到底およばず、それでも、十位内には喰い込んで、並み居る男性棋士たちを驚かせた。

「さすが、永世八冠のお弟子さんだねい・・・」

 と、本人を前に揶揄するチョイ悪おやじ棋士もいた。

「いいんじゃない。これ、ツメパラ(詰将棋パラダイス)に投稿してみたら?」

「こんなんで、いいんでしょうか?」

「うん。いい作品だと思うよ。スッキリして、格調もあるしね・・・」

 カナリの頬にパァッと、朱がさしたように喜悦の表情が浮かんだ。

「ありがとうございます」

 と、深々とお辞儀すると、階下にある師匠の研究用の部屋を辞した。

 振り向くと、パジャマ姿の竜馬が、指をくわえて廊下の真ん中で棒立ちになり、カナリをじっと視ていた。

「リュウちゃん。おねんね?」

 と、声かけると、おチビちゃんは、踵を返してトトッと居間に小走りでかえっていった。

「あらら・・・。フラれちゃった・・・」

 と、カナリは女優のように肩をちょいと上げてひとり笑いした。

 

                


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