雪 の た よ り
はるちゃんの部屋は、三階にありました。
そこは高台の病院だったので、街全体が見おろせて、しかも遠くの山々の眺めもよいところでした。
「おーちゃん。また、あの子ひとりでいるよ」
と、はるちゃんはお父さんにいいました。
お庭のベンチで、いつもひとりで日向ぼっこをしている男の子がいました。はるちゃんが、その子に気がついたのはおとといです。
「コンコン」とノックの音がしました。
マドちゃんでした。はるちゃんととても仲のいい看護婦さんです。
ほんとうは『いのうえ まどか』っていうんだけど、ふたりは 「マドちゃん」「はるちゃん」て、呼びあっていました。
体温計をわきにはさむと、はるちゃんは
「ねェ。あの子もどこかビョーキなの?」
と、マドちゃんにききました。
マドちゃんはニッコリほほえむと、
「ああ。ブンちゃんね」といいました。
「ブンちゃん・・・、っていうの?」
「そうよ。ブンちゃんね、ずっとまえにね、おなかのおそうじをしたの。ちょっぴりウンチがでにくくなってね。でも、もうすぐお家にかえれるのよ」
それを聞いていたお父さんがいいました。
「はるかも、お乳の下にある水道がちょっとつまったから、明日おそうじするんだよ・・・。
飲んだお水がよく流れていくようにね・・・ 」
おそうじの日。
朝からチラチラ雪が降りだしていました。
朝ごはんを食べおえると、マドちゃんがやってきました。
「はるちゃん。おチュウシャするね・・・。痛かったら、痛いっていってね」
注射の針がプチリ、とはいるまで、はるちゃんはマドちゃんの目をじっと見つめていました。
マドちゃんがニッコリすると、はるちゃんも少し痛そうな顔でニコリとしました。
お薬が効いてくると、はるちゃんは目がトロォンとして、とてもいい気持ちになりました。
まるで雲の上でフンワカふわりと遊んでいるようでした。
おーちゃんがそばにいました。
マドちゃんもいます。
そして あのブンちゃんが、笑って手をふってくれたような気がしました。
はるちゃんが目をさましたのは、次の日の朝でした。
窓の外は、すっかり銀色にかがやく世界になっていました。
街もスッポリ。
お山もスッポリ。
ふんわり綿ぼうしをかぶっていました。
そばに、マドちゃんがニコニコしながら立っていました。
おーちゃんが、はるちゃんのおでこの髪をそっとなでてくれました。
枕もとには、ちいちゃな赤い手袋がおいてありました。
窓辺で、小鳥が一羽
「チチチチ・・・」
と、さえずりながら羽を休めていました。
(ありがとう・・・ )
と、はるちゃんは、心のなかでささやきました。
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