『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

創作童話『雪のたより』

2022-12-13 08:37:57 | 創作

 

 雪 の た よ り 

 

 はるちゃんの部屋は、三階にありました。
 そこは高台の病院だったので、街全体が見おろせて、しかも遠くの山々の眺めもよいところでした。

「おーちゃん。また、あの子ひとりでいるよ」
  と、はるちゃんはお父さんにいいました。

  お庭のベンチで、いつもひとりで日向ぼっこをしている男の子がいました。はるちゃんが、その子に気がついたのはおとといです。

「コンコン」とノックの音がしました。
  マドちゃんでした。はるちゃんととても仲のいい看護婦さんです。
  ほんとうは『いのうえ まどか』っていうんだけど、ふたりは 「マドちゃん」「はるちゃん」て、呼びあっていました。

  体温計をわきにはさむと、はるちゃんは
「ねェ。あの子もどこかビョーキなの?」
  と、マドちゃんにききました。  

マドちゃんはニッコリほほえむと、
「ああ。ブンちゃんね」といいました。

「ブンちゃん・・・、っていうの?」
「そうよ。ブンちゃんね、ずっとまえにね、おなかのおそうじをしたの。ちょっぴりウンチがでにくくなってね。でも、もうすぐお家にかえれるのよ」

  それを聞いていたお父さんがいいました。
「はるかも、お乳の下にある水道がちょっとつまったから、明日おそうじするんだよ・・・。
飲んだお水がよく流れていくようにね・・・ 」

 

  おそうじの日。
  朝からチラチラ雪が降りだしていました。

  朝ごはんを食べおえると、マドちゃんがやってきました。

「はるちゃん。おチュウシャするね・・・。痛かったら、痛いっていってね」

  注射の針がプチリ、とはいるまで、はるちゃんはマドちゃんの目をじっと見つめていました。
  マドちゃんがニッコリすると、はるちゃんも少し痛そうな顔でニコリとしました。

  お薬が効いてくると、はるちゃんは目がトロォンとして、とてもいい気持ちになりました。
  まるで雲の上でフンワカふわりと遊んでいるようでした。

  おーちゃんがそばにいました。
  マドちゃんもいます。
  そして    あのブンちゃんが、笑って手をふってくれたような気がしました。

 

  はるちゃんが目をさましたのは、次の日の朝でした。

  窓の外は、すっかり銀色にかがやく世界になっていました。

  街もスッポリ。
  お山もスッポリ。
  ふんわり綿ぼうしをかぶっていました。

  そばに、マドちゃんがニコニコしながら立っていました。
  おーちゃんが、はるちゃんのおでこの髪をそっとなでてくれました。 

  枕もとには、ちいちゃな赤い手袋がおいてありました。

  窓辺で、小鳥が一羽
「チチチチ・・・」
  と、さえずりながら羽を休めていました。

(ありがとう・・・ )
  と、はるちゃんは、心のなかでささやきました。

                 


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