『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』17

2022-09-14 06:28:52 | 創作

* 17  * 

 

「自己実現」などと言いますが、自分が何かを実現する場は外部にしか存在しない。

 より噛み砕いて言えば、「人生の意味」は自分だけで完結するものではなく、常に周囲の人、社会との関係から生まれる。     

                                        養老 孟司


 

 中三ともなると、夏休み期間中に「三者面談」というのがあって、生徒と保護者が担任と「進路」について具体的な相談を進める。

 カナリの現・保護者は、師匠夫婦になっているので、この日は愛菜が学校へと赴いた。

 かつての国民的スターだった女優が来校するという噂が職員室内に拡まると、何とはなしに管理職はじめ、教員一同にソワソワ感のようなミーハーな雰囲気が漂った。

 教室で二人を迎え入れた担任も、一般人の中学教師なので、いささかの緊張を感じていたようである。

 ところが、その面談で、カナリの口からは、驚くべき発言が飛び出した。

「わたし、高校には、進学しません」

 と断言したのである。

 前夜に、師匠夫婦には、自分の決心を開陳し、両者の同意を得ていた。 

 

 師匠も、高校進学をしない、と親に告げたものの、母親に

「お願いだから、高校だけは行ってほしい・・・」

 と泣きつかれて、渋々、進学したという経緯があった。

 そして、世間を驚かせたのは、高3の三学期に、あと少しで卒業という時に、スパリと退学したのである。

 すでにタイトル戦に臨んでいた為、その対局と研究に全エネルギーを投入したい、という至極真っ当な考えでの事だった。

 卑近な言い方ならば、高校の勉強なぞしてる場合じゃなかった、のである。

 世の俗人たちは、常識的な考えで、せっかく卒業目前なのに・・・と、惜しむ声が多かったが・・・。

 読売新聞の「ジョーク欄」には「十年先を読んでのことです」という佳作が投稿されて、識者の笑いを誘った。

 だからといって、カナリも師匠を真似たわけでもなかった。

 もう、幼稚園を含めて十年間も学校生活を堪能したのである。  

 なので、一般教養的知識も、交友関係も、学校行事も、十分であった。

 彼女の成績は、決して悪くはなかった。

 いや。むしろ、常に百数十人の学年で10番内にいたのだから、優秀な生徒であった。

 教師には馬鹿な性(さが)があって、優秀な子はいい進学校に入れたい、と誰しもが思うものである。

 でも、その子の人生は、その子のものである。

 自己責任と自己決定で、自らの人生を彫琢すべきなのである。 

 御多分に洩れず、カナリの担任も、彼女の進学断念を惜しんだが、しかし、相手は、棋戦優勝歴もあり、中三にして年収一千万を超えるプロの社会人でもあるのだった。

 それも、自分の年収よりも遥かに上の・・・。

 

 カナリの「進学せず」というのは校内のみならず、世間でもちょっとした話題になった。 

 その言い草・・・

「天才だからねぇ。

 特別なのよねぇ・・・」

「もう、一千万も稼いでるんですものねぇ・・・」

「高校なんて、何にも役に立たないからでしょ・・・」

「足し算、引き算、割り算、掛け算だけできりゃ、十分ですもんねぇ・・・」

 etc・・・(笑)。


 

 その晩、カナリもまた、驚くような事を師匠夫婦から告げられた。

「カナちゃん。

 うちの、ほんとの娘になってもらえないかしら・・・」 

「もちろん。

 カナちゃんが、嫌じゃなかったら、だよ・・・。

 今のままの方がいい、というなら、それでも構わないからね」

 

                             

 

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