『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』9

2022-09-06 06:23:31 | 創作

* 9  *

 

 二十歳やそこらで自分なんか分かるはずがありません。中身は空っぽなのです。

 仕事というのは社会に空いた穴です。

道に穴が開いていたら、そのまま放っておくと、みんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。

ともかく、目の前の穴を埋める。

 それが仕事というものであって、自分にあった穴が開いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。

                            養老 孟司


 

 竜馬が午睡にはいると、愛菜もしばらくホッとできる自分の時間が持てた。

 息子は一才を過ぎて、やっと、トータン、カータンの言葉が出始めたばかりである。

 姉は、サータンだったが、カナリのことは「カータン」とすると混乱するので、

「わたし、ナータンでいいです・・・」

 と、自ら名乗りでた。

 幼い竜馬にとっては、カナリも立派な家族で、それは歳の離れた姉として刷り込まれるのだろう。

 はたして、聡美と竜馬のどちらかが棋士の道に進むのかどうか・・・。

 関心はあったものの、家族の誰もがはっきりとは口には出さなかった。

 ソータが幼児期に盛んに遊んだという立体パズル「キュボロ」は3セットも揃えてあった。

 一つの積み木に孔がくり貫かれ、それを合わせていくと複雑なトンネルが出来上がり、その最上段からビー玉を転がしてやる、という単純なものだが、アタマの固くなった大人がやると時間がかかる上に、そう何段にも積み重ねることは出来ないものだった。

 それを複雑に組み上げて、スムースにビー玉を通すことに夢中になって興じていたソータは、知らず知らずのうちに3次元の空間認知の感覚を鍛えていたのである。

 そして、そのあとは、将棋教室に通って、詰将棋に専心する毎日を過ごす。

 これは、2次元パズルである。

 それにも、ソータはハマり、デヴュー当時のテレビのインタヴューでは、

「一番好きなのは、詰将棋です」

 とまで答えていた。

 

 カナリは、幼児期の在園中は、篤志家が寄贈してくださったレゴで遊ぶのが大好きだった。

 複雑精緻な造形作品を早々と作れるようになり、シスターやヴォランティアの人たちを驚かせた。

 キュボロとは異なるものの、それも彼女にとっては、3D感覚を鍛えることになっていたのだろう。

 そして、紙とクレヨンがあったら、飽きずに迷路を描いて遊んでいた子なので、それにより2D感覚が磨かれていたのかもしれない。

 カナリが本格的に詰将棋を始めたのは、ソータ師匠に入門してからなのだが、ひとつコツを呑み込むと、見る間に、解くのも創るのも水準以上のものを体得していった。

 もっとも、師匠は『詰将棋選手権』十連覇の「世界一」だから、その薫陶もあってのことだろうが・・・。

詰将棋の力が伸び、師匠譲りのモンスター級パソコンの使いまわしに習熟してからというもの、彼女の棋力は爆発的に伸びた。

 それを専門誌『将棋世界』では、〈令和のビッグバン‼〉とベタに銘打って表紙写真と共に特集を組むほどだった。

 若き日の師匠と同様に、その弟子もまた、一歩一歩、棋界のスターの階段を昇っていくのが誰の目にも明らかに映った。

 

           

 

 

*

             

 


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