『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

リアルファンタジー『名人を超える』44

2022-10-11 08:22:13 | 創作

* 44 *


 人生にはまた同じことが起こる可能性がありますからね。

 戦争になったり、紛争になったりする。

 それで日常の営為が吹っ飛ぶ可能性が、いつでもあるんですよ。

 テロにあったら、それこそ命がないかもしれない。

 それならそういう事に対して、自分がどう対応するか、それをきちんと考え抜いておかなけりゃいけない。          

                                                 養老 孟司


 *

 

 パーティーから数日して、月に一度の弟子とのVS(練習対局)日であった。 

 いつものように師匠が速攻で相手側を窮地に追い込み、弟子は自分の敗勢を悟るも、勉強ということもあり、淡々と終局に向かって駒を進めていた。

 すると、練習とはいえ、師匠たるもの、永世八冠たるものが、真剣対局にあってはならない「打ち歩詰め」という、反則手を“うっかり”指してしまった。

 その事に、先に気付いたのは弟子の方で、そして、数秒後に、当人が

「アッ!」

 と言って、呆然自失となった。

 棋士たるもの、それも、永世八冠なるものが、初心者が指すような反則手を打つということは、冗談で済まされることではなかった。

 しばし、沈黙がふたりの間に流れた。

 次の瞬間、ガラリ…と音がした。

 師匠が、右手を盤について、駒を畳にバラバラ…とこぼした。

「先生ッ! 」

 と、弟子が慌ててその上半身を抱えた。

 カナリは胸に苦悶感を覚え、喘ぐような表情で盤に顔を伏せた。

 

 自宅だったこともあり、早急に救急車が呼ばれ、愛菜と加奈梨が同乗した。

 救急救命に運ばれた時、カナリは高熱を発しており、症状は急性肺炎状態で、人事不省に陥っていた。 

 酸素マスク処置では血中酸素飽和度の降下を喰い止められず、ECMO(人工心肺装置)処置に切り替えられた。

 救急搬入から半時ほどして、処置に当たった救命医が廊下に出てきた。

 愛菜たちを親族と認めると、

「かなり危険な状態です。

 覚悟されといて下さい」

 と一言告げられた。

 その場に泣き崩れたのは加奈梨のほうだった。

「そんなぁ・・・。

 うそぉ・・・」

 と、顔を覆うと、とめどなく泪があふれた。

 愛菜は、救命室のドアを凝視したまま、唇を噛んだ。

「ソーちゃん。ソーちゃんッ!

 お願いッ!

 助けてーッ!

 カナちゃんを連れて行かないでーッ!」

 と、心の中で絶叫した。

 

 高1と中2になった聡美と竜馬が、病院に到着した。 

 聡美は母親に抱きついて、激しく泣いた。  

 竜馬は、拳を固く握って

「カナねえッ!!

 ガンバレーっ!」

 と、声を上げた。


                               

 

 

 


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