『人生を遊ぶ』

毎日、「今・ここ」を味わいながら、「あぁ、面白かった~ッ!!」と言いながら、いつか死んでいきたい。

  

創作童話『不思議箱』

2022-12-17 12:11:32 | 創作

 

  プチン!

  どうです、ホラ!

  これはですね、わたしたちの親指ぐらいに小さい人たちが住んでいる国なんですよ。

  ですから、ホラ!

  でてくる家や村も小さいし、動物なんかも、みィんな小さいでしょう。

  ホラ!  ここんとこを見てください。

  年寄りが猫をだいてすわっているでしょう。ホラ!

  この国の人たちは変わり者ですよ。

  馬のかわりにヘンテコなものをこさえて乗っているでしょう。

  ホラ!  大きな鳥の羽の中にうずくまって、空を飛んだりもしていますよ。

 

  ガチャガチャ    !

  火を吹く棒につかまって、月に行こうとしている人ですよ。これは。

  ここを見て下さい。
  この小さな国の人は、ここを押すとみんな消えてしまって死んでしまうんですよ。
  これはボタンというんですけどね。

  この国の人たちは、だれかにボタンを押されると、みィんな死んじゃうんですよ。
  ちょっと押してみますか?

  え?  かわいそうだから、できませんって・・・。

  でも、この国のうらにあるここをごらんなさいな。
  ここに、へんな石コロみたいなのが四つはいっているでしょう。

  この石コロの力がなくなると、どっちみちこの国の人たちは死ぬんです。
  この石コロの力というのはですね、ちょうどあなた方にとっての太陽のようなものじゃないでしょうか。

  太陽だって夜になったら沈んでしまいますよね。
  あれは一度太陽が死ぬんでしょう。
  でも、次の日にはまた生まれかわってでてきますよね。

  この国の人たちもボタンを押したら一度死にますけど、またボタンを押したら生まれてきます。
  石コロの力がなくなったらやっぱり死んじゃいますけど、新しい石コロを入れると、また生まれ変わってこの世にでてくるんですよ。

  どうです。この国のこと、すこしはわかりました?

 

         

 

 

 

 

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創作童話『こいのぼり二つ』

2022-12-16 07:21:28 | 創作

 

  それは、風の強いすこォし寒い朝でした。

  どの家にも、色とりどりのこいのぼりが、空をゆうゆうと泳いでいました。

  庭があって、しかも大きなこいのぼりが買えるような家---それは、それだけのお金がある家、ということでした。
  しかも、それだけではなく、そこには子ども思いのやさしいお父さんやお母さんがいるということでした。それに、子どもといっしょになって、お節句を喜んでくれるお爺ちゃんやお婆ちゃんもいるかもしれません。

  オッ君の家には、こいのぼりがふたつもありました。
  ひとつは、お父さんがスーパーで買ってきた六百八十円のものです。それは、しましまのプラスチックの棒に、三十センチぐらいの真鯉と緋鯉、そして吹き流しがついていました。

  もうひとつのは、オッ君が保育所でつくってきたものでした。赤い紙と青い紙をタイヤキのような形に切りぬいて、クレヨンでウロコや目を描いたものでした。銀紙の風車もついていて、それはクルクルとよく回りました。

  二つとも風をうけながら、けなげに軒先で泳いでいました。
  本物をあげたくても、オッ君の家はアパートだったので、庭がありませんでした。
  それでも、オッ君も、お父さんも、お母さんも満足でした。

  お母さんは、お父さんが買ってきたものよりも、オッ君のつくったものの方がずうっとすてきね、といいました。
  お父さんは、それをきいて
「親ばかチャンリン。そば屋のフウリン」
  とオッ君にはわからないことをいいました。

  近所の家では、けっこう本物がゆうゆうと空を舞っていました。それはそれで、目を楽しませてくれるものでした。
  ですが、オッ君んちのこいのぼりにも、なかなか味わいがありました。オッ君の、どう見てもタイヤキのような鯉は、口もとを針金で割りバシにゆわえつけられていたので、まるで、タイヤキが釣り針をのみこんだように見えました。

  また、お父さんが買ってきた方には、鯉のおしりのとこに、しましまのバーコードのシールがついたままでした。
  お父さんは、それをとろうともせず、
「日本広しといえども、正札つきの吹き流しもシャレてるじゃん。貧乏をすれどわが家にフゼイあり。シチの流れにシャッキンの山」
  とまたまたオッ君にわからないことをいって、カラカラと笑いました。

 

  ところがところが、オッ君んちに大事件が発生したのです。
  ちまきなど食べて、のんびりお節句を楽しんでなどいられないようになりました。
  オッ君んち自慢のこいのぼりが、二つともあとかたもなく消え失せてしまったのです。
  こいのぼりドロボウ  というものが世のなかにはあるそうですが、それはみなホンモノの方の専門家であるはずなのに・・・。

「なぜ?  どうして?      」
  お母さんも、オッ君もうなだれてしまいました。

  お父さんひとりが、カンカンになって怒っていました。
  そして天をあおぐと、お芝居のような格好をして
「おお、天は許したもうや。
  貧者のささやかなりし幸福をリョウジョクせんものを・・・」
  といいました。

  現実は、とても悲しいことになりました。

  雨の降る翌朝。
  オッ君のタイヤキが、路上のジュース販売機のそばで発見されたのです。
  哀れ、変わりはてた姿になって捨てられていたのでした。
  ぼろくずのように・・・。

  タイヤキ、タイヤキとオッ君のまえではバカにしていたお父さんも、雨に濡れ、破り捨てられた鯉をみると、悲しいものが胸の底からこみあげてきました。
  お父さんは、バーコードの方の行方なんかどうでもいいと思いました。

  オッ君んちはそれいらい、ほんとに沈んでしまいました。
  お父さんは何日も何日も、やり場のない怒りをもてあましていました。

  しかし、日がたつにつれ、その怒りもしずまると、お父さんはまた芝居がかった調子で
「誰ぞによる、何故の愚挙!  何故の暴挙なるや!」
  といい、お母さんを困らせました。

  だけど、お父さんはくる日もくる日も、いっしょうけんめい考えていたのです。
  そうして、何日かたったある日の夜。
  お父さんはオッ君とお母さんをまえにして、一つの物語を話してきかせました。


  ・・・それは、シトシト雨の降る寒むゥざむとした朝でした。
  どの家々にも、色とりどりのこいのぼりがハタハタと空を泳いでいました。
  庭があって、しかも大きなこいのぼりが買えるような家---それは、それだけのお金がある家ということでした。
  しかも、それだけではなく、そこには子ども思いのやさしいお父さんやお母さんがいるということでした。
  それに、子どもといっしょになって、お節句を喜んでくれるお爺ちゃんやお婆ちゃんもいるかもしれません。

  ひとりの、まだ小さな男の子が、空を見上げて、ぼんーやり、としていました。
  そして、すこし悲しそうな顔をしたかと思うと、うなだれて、
「ちくしょう    」
  とつぶやいたのです。
  それは誰にも聞こえぬほど小さな声でした。

  男の子にもお父さん、お母さんがいました。
  しかし、ふたりとも自分たちの仕事ばっかりしていて、男の子のことなんか少しもかまってくれません。
  それに、ふたりともあんまり仲がよくなかったのです。
  男の子は、お節句にちまきを食べたこともなければ、お誕生日にケーキを食べたこともありませんでした。

  男の子が、ぶらぶら街を歩いていると、古いアパートの玄関先で、パタパタと風にゆれているおもちゃのような二つのこいのぼりが目にとまりました。
  それは、大きな本物のこいのぼりよりも、どこかけなげで、あたたかく感じて、そこに親子がいることを思わせるものでした。
  男の子はしばらくじっとそれを見つめていました。
  銀紙の風車がクルクルと回っていました。

  とつぜん、男の子はそれをむしりとるようにすると、無我夢中で駆けだしました。
  だァれも見ていたものはありませんでした。
  しばらく走ると、男の子は息を切らせながらジュースの自動販売機のまえにいました。
  男の子は、肩で息をしながら、手のなかにある二つのこいのぼりをしばらくじっと見つめていました。
  すると、いきなり、紙でできていた片方のものをそこへ破り捨てました。

  男の子は
(ちくしょう!  ちくしょう!)
  と心のなかでなんども叫び声をあげました。

  破ったあと、男の子の手は少しふるえていました。
  そして、また走りだしました。
  走って走って、男の子は家にもどったのです。
  お父さんも、お母さんもいませんでした。

  男の子はだれにも見つからないように、もう一つのおもちゃのこいのぼりを、自分の服や靴下がはいっているダンボール箱のなかにかくしました。
  そして、男の子ははじめて泣きました。

 

  オッ君の目にも、泪が光っていました・・・。

 

                  

 

 

 

 

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創作童話『もしもし ハイハイ』

2022-12-15 09:15:45 | 創作

  静かな日曜の午後でした。

  朝からチラチラと雪が降りだして、ひさしぶりに「ホワイト・クリスマス」になりそうな予感がしました。

  ター君のお父さんは、おコタにとっぷり足をいれながら、一人でボンヤリとお酒を飲んでいました。それは葡萄から造られた「ワイン」というお酒で、ツルのように足の長いコップのなかで金色にキラキラ輝いていました。  

 お父さんはワインをチビリチビリと飲みながら、どんどんと白くなってゆく外の景色をながめていました。
  空からヒラヒラ舞い降りてくるちぎれた綿のような雪を見つめていると、だんだんと自分の方が雲の上へと昇ってゆくような感じがしました。

  おコタの上に頬杖をつきながら、ボンヤリと部屋のなかを見まわしていると、お父さんはホコリをかぶったピアノの上に、ちいちゃな赤いプッシュフォンを見つけました。
  それはター君のものでした。

  受話器と数字がかかれたボタンのとこだけが白い、可愛いらしいプッシュフォンでした。
  ター君のプッシュフォンをおコタの上にのせると、お父さんはしばらくそれをながめていたました。
  ボタンが  1  から  0  まで十個ついていました。

  お父さんは  1  のボタンを指先でちょこんと押してみました。
  すると、「ポーン」というきれいな音が、部屋中に鳴り響きました。
    2  のボタンを押すと、今度は少し高い音が「パーン」と鳴りました。

  お父さんは、  3  も  4  も押してみました。そのたびに「パーン」「ポーン」と澄んだ音が鳴り響きます。
  そうして、はじめて、それらのボタンが「ドレミファソラシド」の順になっていることに気づきました。

  お父さんは出鱈目に三つのボタンを押してみると、「ポン、ピン、パン」と不思議な音が部屋中にこだましました。

  お父さんはワインをガブリと一口飲むと、足の長いコップをおコタの上にトンとおきました。金色したワインはゆらゆら揺れながら、チカチカと小さな十字架の形をたくさん光らせました。

  お父さんは受話器を左手でとると、それを耳にあてて、右手のひとさし指で、  1、3、5、8  という順でボタンを押しました。 ゆっくり押しました。
  すると、今度はきれいな音が鳴り響きました。それは「ド、ミ、ソ、ド」という音だったからです。

  でも、お父さんの耳には、受話器をあてても何も音が聞こえませんでした。本物だったら、「プー」とか「ツー」とか聞こえるはずなのに。
  お父さんは、しばらく受話器を耳にあてたまま、ボンヤリとおコタの上をながめて
いました。
  なつかしそうにター君の電話をながめていました。

  お父さんは唾をゴクンとのみこむと、ちょっとかすれた声で
「もしもし。ター君ですかァ」
  と明るくいってみました。

  それからしばらく、お父さんはまた黙ってしまいました。
  お父さんの目が少しだけ光りました。

  ワインを一口飲みました。

「ター君    。お父さんだよ    元気?」
  と明るい声でいうと、今度はお父さんの目から、大きな大きな泪の玉が三つぶ、おコタの上に、ポタン!  ポタン!  ポタン!    と落ちました。
  しばらく、時計の音だけが、コチッコチッ    と部屋中に静かに響いていました。

  その時です! 

  虫が鳴くようなかすかな音が、受話機の向こうから響いてくるではありませんか。
  それは糸電話の声みたいに小さく震えながら、虫の囁きと同じぐらいにかすかに
「もしもし    もしもし    」
  と聞こえてきます。

  それは、とってもなつかしい響きの声でした。

「    もしもし。もしもし    お父さん?  お父さんなの?    」

  お父さんはハッとして、体を起こすと、
「ター君かいッ?    」
  と驚いて、大きな声をだしました。

  すると、電話の向こうの男の子も、驚いた声でいいました。
「お父さん?  ほんとにお父さん?」

  時間が真っ白になって、止まってしまったようでした。

「うんうん!」
  お父さんは、何べんもうなずきました。

  男の子がいいました。
「うそォ!  なんか信じられないや!」

  たしかに、それは間違いなくター君の声でした。
  お父さんは自分の耳の穴を大きく開いて、ター君の声を一生懸命に聞こうとしました。

  ター君が電話の向こうにいるんです。

「お父さん    ぼく元気だよ。もう、どこも痛くなんかないし、手だって、足だってホラッ!  ちゃんと動かせるんだよ」

  お父さんはウンウンうなずきながら、はなをすすりました。
  泪があとから、あとから、ポトポト、ポトポトこぼれました。

「ター君    お父さんなァ・・・  」
  そういうと、お父さんはその後がいえません。

  ター君の声は、お父さんにやさしくいいました。
「お父さん。ぼく、さびしくなんかないよ。だって、おじいちゃんも、おばあちゃんも一緒だもん。タロタロもしっぽをふって、ここにいるんだよ」

  タロタロは、ター君と散歩をしていたときに、一緒に車に轢かれました。

  お父さんの耳には、たしかに「ウォン!  ウォン!  ウォン!」と元気にほえるタロタロの声が聞こえました。

「お父さん。元気でね・・・  。ぼく待ってるから。それまで、おじいちゃんたちと一緒だから安心だよ」

  お父さんはウンと、一つうなずきました。
  そしてまた、一つ泪をポタリと落としました。

「さよなら。お父さん ・・・  」
「・・・・・・    」

  お父さんは、もっともっとター君と話をしたいと思いました。
  ですが、それができないことだ、ということを感じました。

「ぼく待ってるよ」
  ター君はやさしく、お父さんにいいました。

「うん。さよなら。ター君・・・ 」
  お父さんは、やっとそういいました。

  そして心のなかで、もう一度
(さよなら・・・  )
  と、つぶやきながら、しずかに小さな受話器をおきました。

 

          

 

 

 

 

 

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創作童話『天国の階段』

2022-12-14 09:51:23 | 創作

 

 雪の降る夜でした。 

「オギャー、オギャー」
 という元気な産声が、小さな病院中に響きわたりました。  

 廊下でひとり待っていたまだ若いお父さんは、その声を耳にしたとたん、イスからとびあがるように立ち上がりました。
 手には握りこぶしができていました。  

 しかし、まだ若いお父さんはどうしていいのかわからず、しばらくぼうっとして立ったままでいました。
 すると、カチャリとドアの開く音がして、看護婦さんがひとり廊下へ姿を見せました。看護婦さんはニコニコとやさしい笑顔をうかべながら、お父さんの方へやってきました。

「おめでとうございます。二千六百グラムの元気な男の子ですよ」

 まだ若いお父さんは、おちついて小さくうなずきました。

「いま、お母さんのとなりに一緒にいますよ。お会いになりますか?」

 看護婦さんが、生まれたばかりの自分の子を、ひとりの人間として思ってくれたことにお父さんはちょっとうれしく感じました。   

 そして、小さくうなずくと、看護婦さんのあとについて歩きました。
 それは、ちょっとこわごわしそうな後ろ姿でした。  

 ベッドの上には、イチゴのように赤くて小さな手をした男の子が、元気に首をふっていました。
 たったいま、お母さんとお父さんになったばかりの二人は、顔を見つめあいました。

 若いお父さんは、若いお母さんにむかって
「ごくろうさま。ありがとう    」
 といって、やさしく手を握りました。

 そして、赤ちゃんの手もあわせて、三人の手を重ね合わせました。
 ひとしずくの泪が、赤ちゃんのホッペにピトッとおちました。
 

 お父さんはニッコリ笑うと、ポケットから小さな赤い箱をとりだしました。
 そして、その箱のふたをちょっとだけ開けると、赤ちゃんとお母さんの枕もとにそっとおきました。 

 それは、小さなオルゴールでした。
 キラキラとひかりかがやくような音が空気のなかにとけてゆきました。
 不思議なメロディーでした。

 まるで、お星さまがいっぱいお友だちをつれて、空からゆっくり降りてくるようでした。
 三人に、おめでとう・・・を、言いに・・・。
 

 窓の外では、粉砂糖のような白い雪が、もみの木にふうわりとつもっていました。

 

             

 

 

 

 

 

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創作童話『雪のたより』

2022-12-13 08:37:57 | 創作

 

 雪 の た よ り 

 

 はるちゃんの部屋は、三階にありました。
 そこは高台の病院だったので、街全体が見おろせて、しかも遠くの山々の眺めもよいところでした。

「おーちゃん。また、あの子ひとりでいるよ」
  と、はるちゃんはお父さんにいいました。

  お庭のベンチで、いつもひとりで日向ぼっこをしている男の子がいました。はるちゃんが、その子に気がついたのはおとといです。

「コンコン」とノックの音がしました。
  マドちゃんでした。はるちゃんととても仲のいい看護婦さんです。
  ほんとうは『いのうえ まどか』っていうんだけど、ふたりは 「マドちゃん」「はるちゃん」て、呼びあっていました。

  体温計をわきにはさむと、はるちゃんは
「ねェ。あの子もどこかビョーキなの?」
  と、マドちゃんにききました。  

マドちゃんはニッコリほほえむと、
「ああ。ブンちゃんね」といいました。

「ブンちゃん・・・、っていうの?」
「そうよ。ブンちゃんね、ずっとまえにね、おなかのおそうじをしたの。ちょっぴりウンチがでにくくなってね。でも、もうすぐお家にかえれるのよ」

  それを聞いていたお父さんがいいました。
「はるかも、お乳の下にある水道がちょっとつまったから、明日おそうじするんだよ・・・。
飲んだお水がよく流れていくようにね・・・ 」

 

  おそうじの日。
  朝からチラチラ雪が降りだしていました。

  朝ごはんを食べおえると、マドちゃんがやってきました。

「はるちゃん。おチュウシャするね・・・。痛かったら、痛いっていってね」

  注射の針がプチリ、とはいるまで、はるちゃんはマドちゃんの目をじっと見つめていました。
  マドちゃんがニッコリすると、はるちゃんも少し痛そうな顔でニコリとしました。

  お薬が効いてくると、はるちゃんは目がトロォンとして、とてもいい気持ちになりました。
  まるで雲の上でフンワカふわりと遊んでいるようでした。

  おーちゃんがそばにいました。
  マドちゃんもいます。
  そして    あのブンちゃんが、笑って手をふってくれたような気がしました。

 

  はるちゃんが目をさましたのは、次の日の朝でした。

  窓の外は、すっかり銀色にかがやく世界になっていました。

  街もスッポリ。
  お山もスッポリ。
  ふんわり綿ぼうしをかぶっていました。

  そばに、マドちゃんがニコニコしながら立っていました。
  おーちゃんが、はるちゃんのおでこの髪をそっとなでてくれました。 

  枕もとには、ちいちゃな赤い手袋がおいてありました。

  窓辺で、小鳥が一羽
「チチチチ・・・」
  と、さえずりながら羽を休めていました。

(ありがとう・・・ )
  と、はるちゃんは、心のなかでささやきました。

                 

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