博多座、2009年8月17日マチネ。
平安時代、藤原氏が隆盛を極めていたころ。京の都では、大江山に棲む鬼・酒呑童子(十輝いりす)の一味が出没し悪行を重ねていた。帝は、都随一の武将・源頼光(寿つかさ)に悪鬼を討てと宣旨を下す。渡辺綱(北翔海莉)を始めとする頼光の四天王は大江山へ向かう決心をする。実は綱は茨木童子(大空祐飛)と名乗る鬼とかつて会ったことがあったのだ…原作/木原敏江、脚本/柴田侑宏、演出/中村暁、作曲・編曲/寺田瀧雄、振付/花柳萩。1986年に雪組で初演されたものの再演版。ファナティック・ショーは作・演出/藤井大介、2008年に月組で公演されたものの続演修正版。花組からともに組替えして来た新トップコンビのプレお披露目公演。
…というわけではるばる博多座まで観に行ってきてしまいました。博多は空港からも近くきれいで大きな立派な都会、博多座は東京で言うと新橋演舞場みたいな感じの立派な劇場で、今年開館10周年。最初の年から夏公演は宝塚歌劇がやっているのですね。いやめでたい。
前評判は上々すぎるくらい上々だったのですが、あえて、おちついて観よう、と心していました。特に芝居はね。というわけで『大江山花伝』については辛口です。
とはいえ、テーマとキャラクターとドラマと役者の演技はすばらしい。問題なのはストーリーと演出かな。
そもそも原作漫画も、ページが倍は必要だったんじゃないの?という、決して出来のいい作品ではないのですが、それをわりにそのまんまの展開でやっていて、かつ続編である『鬼の泉』のエピソードも突っ込んでいるので、わかりづらくなりすぎているのではないかなーと思うのです。テーマとして、ドラマとしてはかなり深いことをやろうとしている作品だけに…
いっそ紫都の館の、茨木と藤子(野々すみ花)の子供時代から始めて、時系列順に順番にゆっくりやっていく、という見せ方もあったのではなかろうか…
鬼と人との間に生まれ、どちらにもなりきれず、だからこそ純化・孤立していく主人公・茨木の姿は、読者・観客である少女(とそのなれのはて…)が自身を投影する絶好の存在です。自分の居場所がここではないどこかのようにいつも感じている、純粋で繊細な存在。それでいいの、それが本当は正しいの、と言ってくれる藤子は愛の象徴です。第14場の藤子の叫びは、聞いてはいましたが圧巻。たかだか研5の、トップになったばかりの娘役が、こんなに芝居ができるなんて、誰が想像したでしょう。けれどもここがなくては響かない物語だし、それを広い舞台にたったひとり立たせてやらせるおそろしい演出…!
しかしこれはいい。だが滝壷前では、綱や寄せ手は舞台にいてもよかったんじゃないかなー。
それから演技やダンスに時々入る歌舞伎的な演出、これが耐えがたい。こちらに歌舞伎の所作やルールを解読する教養がもはやないせい、ということは重々承知の上であえて言いたい。意味がわからないし下手したら笑っちゃうわけですよ。かっこいい、素敵と思えない。なんとかしていただきたい。
逆にすばらしいのは、たとえば幕開き、主役三人が主題歌を歌い踊る場面。
まさにタカラヅカ、こういうことは絶対に継承していくべきです。特にオープニングは後ろ姿で板付きの主人公が、ふりむき、顔を隠していた扇を外し、ライトが当たり、拍手が自然とわく…という流れになっていて完璧!
それから花影アリスが扮した胡蝶は舞台オリジナルでさすが柴田先生というキャラクターなのですが、主役三人に加わっていわゆる「エル・アモール」の場を構成するのもすばらしい。三角関係、四角関係はメロドラマの基本、宝塚歌劇の基本です。『相棒』舞台化とかって大丈夫なのか宝塚!?(おっと脱線)
主題歌を何度もうまくりプライズさせて観客に覚えさせ、観劇後には鼻歌でも歌わせて帰す形、すばらしい。
こういうショーアップ・シーンはいいんだけれどなあ…
さて、私が観たのは中日もすぎたころでしたが、役者たちの演技はどこもはまってよかったです。
ユウヒは初日開けてしばらくはもっともっさりした鬘を使っていたそうですが、髪の量を減らしてすっきり、顔の小ささと美しさがさらに目立って素敵なことこの上ない。綱に切られた左手を取り返す場で唐櫃を蹴り倒すシーンのかっこいいこと!(「何かを足蹴にするのがこれほど似合うトップスターも珍しい」というのははたしてほめ言葉なのか疑問だが、ユウヒの場合はアリか)鬼の宴会で胡蝶に誘われて登場するシーンのかっこいいこと! 藤子に嘘の愛想尽かしをするために「思い出をやろう」と抱き寄せて口づけるシーンの、優しくてやらしくて悲しいこと! 父である酒呑童子との意見の対立や『鬼の泉』のシーンは、もっと深めることもできるだろうけれどそれは脱線か、いやしかしやってしまえそうな力量を感じるぞ…という、実におもしろいシーンでした。
姿形からも学年からも、アリスのとコンビということもありえたのでしょうが、やはり若干似合いすぎかなー。ユウヒと並ぶとかわいそうなことにどうしても顔が大きく見えてしまうスミカの方が、それでも結果としてコンビとしては嵌まると言えてしまうと思うのです。
さらに上級生になっていく娘役は仕方がないんだけど、アリスは痩せすぎている! まだまだいい意味でむちむちしているスミカと並ぶと、ぶっちゃけ老けて見えるのです。でもかつてのジュンベさんや月組時代のトモちゃんのように、「別格ニ番手娘役」としていい役が書かれていくといいなーと思います。
というわけでスミカは若いのに芝居心があるのがすばらしく、ショーではバレエにかなりの心得があるのかダンスも問題なく、背中が硬くてダンスが上手いとはお世辞にも言えない、ショースターとは言い難いユウヒをきっとずっと守り立て支えてくれるでしょう。いい嫁をもらった、がんばれ!
みっちゃんもマサコもきっちり役を演じて問題なし。若手では坂田金時のダイがやはり輝きがありました。
ショーは月組で観たときも派手で楽しかったですが、今回もよかったです。
幕開きのレイナ役のスミカの上げる足が美しいことにまず感動。
赤いグラドスのお衣装も好きでしたが、4場のアパショナードになったユウヒの黒と金の衣装の似合いっぷりに初めて涙腺が緩み、客席に下りた時に「これぞトップスターだ!」と思って爆泣きしました。笑顔が素敵だし、かっこいいし!!
吸血鬼シーンのチカはかわいくなかった…お化粧が悪いのか?
ヴァレンチノのシーンもまた素敵。白燕尾! 白いマフラーに黒いタキシード! シーク姿、マタドール姿! ヴァレンチノの衣装替えを手伝うアクトル、という役でのマサコがまた素敵。てかあんなでかい男に後ろからスーツ着させて平然としているユウヒが素敵なんだけれどさ。
この場面のアンニュイさは確かにアサコのものとはまたニュアンスがちがって、とてもおもしろかったです。あとはもう好みの問題であり、所詮上手いと好きとはちがうのだ、ってことですね。
中詰の女装(笑)は、すみません、まだ誰が誰やらわかりませんでしたが、とりあえず組長とマサコは「でけえ!」とは思いました。イヤいいんです、正しい。
新シーンのオンラドの衣装は、スカーフが外れていたのでしょうか? 珍しく喉下というか首元が見えていて、男女の差が出る部分なので男役は普段あまり見せないようにする部分だと思うのですが、妙にドキドキしましたねー。ここでのスミカのダンスも達者ですばらしく、ユウヒが助けられていました。
ロケットのあとのエルモサのシーンは、確かにアリスが「それアタシの男だから!」って表情なのがとてもよかった。
黒燕尾の男役が三角形をなすグアボのシーンもすばらしい。グアボのみっちゃんのまっすぐな歌に乗せてデュエットダンスができるこのトップコンビは幸せものです。宝塚ってこういうことです。
次の大劇場で全組子が揃って本当のお披露目公演、『カサブランカ』と演目も恵まれたので楽しみ、トムとの釣り合いも良さそうで楽しみ。
そうそう、宙組は若手にも背の高い男役が多く、埋もれたり小さく見えたりすることを心配していましたが、贔屓目と言われてもいいけれどユウヒはバランスがいいのでまったく気にならなくて安心しました。だってマサコは背が高くてかっこいいというより腕が長すぎるし手が大きすぎて、本当にユウヒのいい引き立て役になってくれちゃってるし、みっちゃんは背は同じくらいだと思うんだけど顔が大きいのでこれまたユウヒが引き立つし…
あとはなるべくそつなくショーもこなして、体力の問題もあるけれど、遅咲きとはいえ短命なトップ生活にならないよう、がんばっていってくれるとうれしいです。
苦手だったトウコもタニも卒業し、今やっと私は久しぶりに全組まあまあ好き、と言える状態になったので、また熱心に通いたいと思います。
平安時代、藤原氏が隆盛を極めていたころ。京の都では、大江山に棲む鬼・酒呑童子(十輝いりす)の一味が出没し悪行を重ねていた。帝は、都随一の武将・源頼光(寿つかさ)に悪鬼を討てと宣旨を下す。渡辺綱(北翔海莉)を始めとする頼光の四天王は大江山へ向かう決心をする。実は綱は茨木童子(大空祐飛)と名乗る鬼とかつて会ったことがあったのだ…原作/木原敏江、脚本/柴田侑宏、演出/中村暁、作曲・編曲/寺田瀧雄、振付/花柳萩。1986年に雪組で初演されたものの再演版。ファナティック・ショーは作・演出/藤井大介、2008年に月組で公演されたものの続演修正版。花組からともに組替えして来た新トップコンビのプレお披露目公演。
…というわけではるばる博多座まで観に行ってきてしまいました。博多は空港からも近くきれいで大きな立派な都会、博多座は東京で言うと新橋演舞場みたいな感じの立派な劇場で、今年開館10周年。最初の年から夏公演は宝塚歌劇がやっているのですね。いやめでたい。
前評判は上々すぎるくらい上々だったのですが、あえて、おちついて観よう、と心していました。特に芝居はね。というわけで『大江山花伝』については辛口です。
とはいえ、テーマとキャラクターとドラマと役者の演技はすばらしい。問題なのはストーリーと演出かな。
そもそも原作漫画も、ページが倍は必要だったんじゃないの?という、決して出来のいい作品ではないのですが、それをわりにそのまんまの展開でやっていて、かつ続編である『鬼の泉』のエピソードも突っ込んでいるので、わかりづらくなりすぎているのではないかなーと思うのです。テーマとして、ドラマとしてはかなり深いことをやろうとしている作品だけに…
いっそ紫都の館の、茨木と藤子(野々すみ花)の子供時代から始めて、時系列順に順番にゆっくりやっていく、という見せ方もあったのではなかろうか…
鬼と人との間に生まれ、どちらにもなりきれず、だからこそ純化・孤立していく主人公・茨木の姿は、読者・観客である少女(とそのなれのはて…)が自身を投影する絶好の存在です。自分の居場所がここではないどこかのようにいつも感じている、純粋で繊細な存在。それでいいの、それが本当は正しいの、と言ってくれる藤子は愛の象徴です。第14場の藤子の叫びは、聞いてはいましたが圧巻。たかだか研5の、トップになったばかりの娘役が、こんなに芝居ができるなんて、誰が想像したでしょう。けれどもここがなくては響かない物語だし、それを広い舞台にたったひとり立たせてやらせるおそろしい演出…!
しかしこれはいい。だが滝壷前では、綱や寄せ手は舞台にいてもよかったんじゃないかなー。
それから演技やダンスに時々入る歌舞伎的な演出、これが耐えがたい。こちらに歌舞伎の所作やルールを解読する教養がもはやないせい、ということは重々承知の上であえて言いたい。意味がわからないし下手したら笑っちゃうわけですよ。かっこいい、素敵と思えない。なんとかしていただきたい。
逆にすばらしいのは、たとえば幕開き、主役三人が主題歌を歌い踊る場面。
まさにタカラヅカ、こういうことは絶対に継承していくべきです。特にオープニングは後ろ姿で板付きの主人公が、ふりむき、顔を隠していた扇を外し、ライトが当たり、拍手が自然とわく…という流れになっていて完璧!
それから花影アリスが扮した胡蝶は舞台オリジナルでさすが柴田先生というキャラクターなのですが、主役三人に加わっていわゆる「エル・アモール」の場を構成するのもすばらしい。三角関係、四角関係はメロドラマの基本、宝塚歌劇の基本です。『相棒』舞台化とかって大丈夫なのか宝塚!?(おっと脱線)
主題歌を何度もうまくりプライズさせて観客に覚えさせ、観劇後には鼻歌でも歌わせて帰す形、すばらしい。
こういうショーアップ・シーンはいいんだけれどなあ…
さて、私が観たのは中日もすぎたころでしたが、役者たちの演技はどこもはまってよかったです。
ユウヒは初日開けてしばらくはもっともっさりした鬘を使っていたそうですが、髪の量を減らしてすっきり、顔の小ささと美しさがさらに目立って素敵なことこの上ない。綱に切られた左手を取り返す場で唐櫃を蹴り倒すシーンのかっこいいこと!(「何かを足蹴にするのがこれほど似合うトップスターも珍しい」というのははたしてほめ言葉なのか疑問だが、ユウヒの場合はアリか)鬼の宴会で胡蝶に誘われて登場するシーンのかっこいいこと! 藤子に嘘の愛想尽かしをするために「思い出をやろう」と抱き寄せて口づけるシーンの、優しくてやらしくて悲しいこと! 父である酒呑童子との意見の対立や『鬼の泉』のシーンは、もっと深めることもできるだろうけれどそれは脱線か、いやしかしやってしまえそうな力量を感じるぞ…という、実におもしろいシーンでした。
姿形からも学年からも、アリスのとコンビということもありえたのでしょうが、やはり若干似合いすぎかなー。ユウヒと並ぶとかわいそうなことにどうしても顔が大きく見えてしまうスミカの方が、それでも結果としてコンビとしては嵌まると言えてしまうと思うのです。
さらに上級生になっていく娘役は仕方がないんだけど、アリスは痩せすぎている! まだまだいい意味でむちむちしているスミカと並ぶと、ぶっちゃけ老けて見えるのです。でもかつてのジュンベさんや月組時代のトモちゃんのように、「別格ニ番手娘役」としていい役が書かれていくといいなーと思います。
というわけでスミカは若いのに芝居心があるのがすばらしく、ショーではバレエにかなりの心得があるのかダンスも問題なく、背中が硬くてダンスが上手いとはお世辞にも言えない、ショースターとは言い難いユウヒをきっとずっと守り立て支えてくれるでしょう。いい嫁をもらった、がんばれ!
みっちゃんもマサコもきっちり役を演じて問題なし。若手では坂田金時のダイがやはり輝きがありました。
ショーは月組で観たときも派手で楽しかったですが、今回もよかったです。
幕開きのレイナ役のスミカの上げる足が美しいことにまず感動。
赤いグラドスのお衣装も好きでしたが、4場のアパショナードになったユウヒの黒と金の衣装の似合いっぷりに初めて涙腺が緩み、客席に下りた時に「これぞトップスターだ!」と思って爆泣きしました。笑顔が素敵だし、かっこいいし!!
吸血鬼シーンのチカはかわいくなかった…お化粧が悪いのか?
ヴァレンチノのシーンもまた素敵。白燕尾! 白いマフラーに黒いタキシード! シーク姿、マタドール姿! ヴァレンチノの衣装替えを手伝うアクトル、という役でのマサコがまた素敵。てかあんなでかい男に後ろからスーツ着させて平然としているユウヒが素敵なんだけれどさ。
この場面のアンニュイさは確かにアサコのものとはまたニュアンスがちがって、とてもおもしろかったです。あとはもう好みの問題であり、所詮上手いと好きとはちがうのだ、ってことですね。
中詰の女装(笑)は、すみません、まだ誰が誰やらわかりませんでしたが、とりあえず組長とマサコは「でけえ!」とは思いました。イヤいいんです、正しい。
新シーンのオンラドの衣装は、スカーフが外れていたのでしょうか? 珍しく喉下というか首元が見えていて、男女の差が出る部分なので男役は普段あまり見せないようにする部分だと思うのですが、妙にドキドキしましたねー。ここでのスミカのダンスも達者ですばらしく、ユウヒが助けられていました。
ロケットのあとのエルモサのシーンは、確かにアリスが「それアタシの男だから!」って表情なのがとてもよかった。
黒燕尾の男役が三角形をなすグアボのシーンもすばらしい。グアボのみっちゃんのまっすぐな歌に乗せてデュエットダンスができるこのトップコンビは幸せものです。宝塚ってこういうことです。
次の大劇場で全組子が揃って本当のお披露目公演、『カサブランカ』と演目も恵まれたので楽しみ、トムとの釣り合いも良さそうで楽しみ。
そうそう、宙組は若手にも背の高い男役が多く、埋もれたり小さく見えたりすることを心配していましたが、贔屓目と言われてもいいけれどユウヒはバランスがいいのでまったく気にならなくて安心しました。だってマサコは背が高くてかっこいいというより腕が長すぎるし手が大きすぎて、本当にユウヒのいい引き立て役になってくれちゃってるし、みっちゃんは背は同じくらいだと思うんだけど顔が大きいのでこれまたユウヒが引き立つし…
あとはなるべくそつなくショーもこなして、体力の問題もあるけれど、遅咲きとはいえ短命なトップ生活にならないよう、がんばっていってくれるとうれしいです。
苦手だったトウコもタニも卒業し、今やっと私は久しぶりに全組まあまあ好き、と言える状態になったので、また熱心に通いたいと思います。
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