駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『白鷺の城/異人たちのルネサンス』

2018年12月29日 | 観劇記/タイトルさ行
 宝塚大劇場、2018年10月5日11時(初日)、6日11時、7日11時、14日11時、23日13時、18時(新公)、28日11時。
 東京宝塚劇場、11月23日15時半(初日)、24日15時半(組総見)、29日18時半、12月6日18時半(新公)、13日18時半、18日13時半、22日15時半、24日15時半(大楽)。

 15世紀、代々銀行業を営むメディチ家の当主ロレンツォ・ディ・メディチ(芹香斗亜)はフィレンツェの統治者として、また芸術作品の収集家としてイタリア全土にその名を知られていた。ロレンツォの関心はヴェロッキオ工房で働くレオナルド・ダ・ヴィンチ(真風涼帆)に向けられていた。人並み外れた才能を持つ彼を独占し、召し抱えたいと狙うロレンツォだったが、レオナルドはそのやり口に反発し、庇護を受けることを拒み続けていた…
 作・演出/田渕大輔、作曲・編曲/青木朝子、編曲/植田浩德。

 初日の感想はこちら、ル・サンクつっこみ記事はこちら
 ここのあらすじはいつもプログラムから書き移すのですが、今キーボードを打ちながら、「…こんな説明、舞台のどこにもなかったじゃん…」と遠い目になるのを止められませんでした。
 イヤ、補完はできますよ? 類推もできますし、史実に関しては多少の知識がある観客も多いことでしょうよ。
 でも舞台できちんと描かなきゃダメじゃん、プログラムのあらすじに書いておいたからその設定を前提に舞台を観てネ、なんてダメに決まってるじゃん。設定が、前提が舞台上できちんと構築されないままに話が始まるから、大半の人がぽかんとなっておいていかれる気分になってノレなくて早々に飽きて寝て、それでほとんど観てなくても駄作だったねって判定するんですよ。それでいいの? 悔しくないの? 悔しいでしょ? なら反省して、猛省して、次作がんばりましょうねマジで。若い作家に期待するしか劇団の未来はありませんからね、私はあきらめませんからね。ちゃんと観て褒めるべきは褒めダメなところはダメ出ししますよなんの権限もないけれど。生徒はみんながんばってるんだから、ファンもがんばって通ってるんだから、作家も座付きの立場に甘えずがんばってください。基本を勉強して、感性を磨き、個性を際立たせてより良いオリジナル作品を作っていってください。頼みますよホントに…
 とはいえ、ビギナーを同伴してみると、誰も着替えないのでキャラクターが判別しやすく、誰が誰だかわからなくなっちゃって混乱するようなことはないし、主要キャラクターの数も少ないので複雑な筋が追えなくなるようなこともないようで、「どうなるの?」というストーリー展開への興味だけでけっこう楽しめてくれているようでした。たとえラストがベタベタでも、綺麗だったね良かったねおもしろかったね、と単純に満足するようだ、ということも観察できました。話に大きな矛盾や破綻はないし(グイドの計画の荒さに関してはさておき)、ストーリーテリングとしてはまあまあ明快で上手く作れているんですよね。貧乏くさい気がしなくもないけど装置の使い方は上手いし、プロローグからの本編の始まり方とかも上手い、歌詞もいい。ホント褒めたい点も多々あるのです。一、二回観る他組ファンが「言われているほど悪くないんじゃない? このレベルの凡作なんて過去にもたくさんあったし」と言うのもよくわかりますし、私だってその立場ならそんな評価で終えていたと思います。
 ただ、過去にもあったからと言うのは今もなお進化できていないということの指摘なので、劇団はもっと重く受け止めるべきですよね。世の娯楽は日々アップデートし進化し深化しより新しいものおもしろいもの素晴らしいものが続々と生まれているのです。十年一日同じレベルのものをやってたら飽きられます、見捨てられます。私は今の、現代の観客として、過去にも似たレベルの作品はあったから、という理由だけではこの作品を擁護できません。
 てか昔の作家だろうとたとえば昔の柴田先生なら(『黒豹』のことがあるので今の柴田先生にはもう求められないと私は考えています)、この作品、まったく同じ流れだとしてももっと深い、染みる台詞を書いて全然違う味わいを持たせられたと思うんですよね(ついでにたとえばパッツィの手下にもっとキャラを与えたり、グイドやクラリーチェにも参謀や侍女の役を置いたりするだろうし、工房仲間のキャラにももっと差をつけたことでしょう)。あるいはこの、このモチーフ、このテーマでいくならこの話でなくても他にもうちょっとおもしろくできたんじゃないの?という歯がゆさが今回のミソなのかもしれません。ハシボーではない、というところがね。
 でも、これなら主人公がダ・ヴィンチである必要はなかったのではないかとか、むしろロレンツォを主人公にした方がもっとおもしろいドラマが描けたのではなかろうかとか、ついつい違う提案をしたくなる作品なのですよ…そこがなんとももったいなかったと思いました。

 では簡単に生徒の感想を。
 ゆりかちゃんは、後半は特に、夢見がちでちょっと浮き世離れしていて周りから変人扱いされちゃう、当人は普通の好青年のつもりなんだけれどやっぱり才能ある芸術家…という感じにレオナルドを作っているように見えました。それは好感が持てました。私はゆりかちゃんの素の純朴さとかが好きなので、こういうキャラクターが好きなんですね。でも世間的にはもっとバリバリに色気出しちゃうような大人な役や黒い役、悪い役の方がウケるし舞台でもハマるんじゃないかしらん…と思うと、もう『オーシャンズ11』に期待するしかないかなと思っています。作品としては実は私はあまり買っていないのだけれど。『黒い瞳』のニコライも私はキャラクターとしては大好きでこういうゆりかちゃんもきっと好みなんだろうけれど、多分また似ちゃうかなと思うので。『WSS』のトニーもこの系統だったと思いますしね。こんないい素材のトップスターにもっといい役、いい演目を振ってやってくれよ劇団…(ToT)
 まどかはいいね、上手いしさらに上手くなったと思います。ロリっぽく言われがちだけれど本当は大人っぽい芝居ができるタイプのトップ娘役さんですよね。オレンジのドレスの色っぽさはたまりませんでした。もし田渕先生が本気でこのカテリーナの境遇、キャラクターに集中して話を構築できたなら、フェミニズム的に大傑作が生まれたかもしれないのに…と思うと残念です。
 キキちゃんは…あの銀鏡ソロはまあカッコいいんだろうけれど、もうちょっと意味のあるものにしてあげたかったよな、と思います。私はこの人にはスターとして特に興味はないんだけれど(全然ツボらないんですよすみません)、真ん中に置くと一番映えるタイプだとは思っていて、だからこそ二番手の今、もっといろんなタイプのいい役をやらせてあげたいと思っているのですけれど…そこは心配。もっといい悪役や儲け役を書いてあげてくださいよ先生方…あ、ラムセスはこれに当たっていたかな。『群盗』がハマることを祈っています。
 愛ちゃんはいいね、こちらも上手くなっていますよね。こういう役はもうお手のもの、というのもあるし、でもちゃんと今までとは違うアプローチをして違うキャラクターになっているのがいいですよね。グイドというキャラクターになかなかドラマがあったのもよかった。専科異動に関してはいろいろ言いたいこともあるけれど、とりあえず見守り続けたいと思っています。
 ずんちゃんも上手いんだけどね、そして決して弟キャラなだけじゃないスターさんなんだけどね、それこそ組替えはないんですかね、がっつり三番手にしていく意向に見えますが大丈夫なんですかね。というのはやっぱりどうしてもタッパが足りなく見えるからですよ、四番手にするのであろうそらしかり、なんですけれどね…こういうところが宙組経営で不安すぎる点なんですよホント…
 あとはやはりまっぷーの芝居がいいですね。工房でのレオナルドとのやりとりには本当に慈愛に満ちていて、あの場面だけが芝居濃度の高さで際立っていました。
 あおいちゃんもきゃのんもせーこもみんな「知ってる」って役でそこが残念だし、工房チームもしかりでカイルの仲間たちと何が違うの?ってなっちゃってるのが本当に残念です。こういうキャラしか書けないのならせめて配役を変えてくれ。
 そしてモンチやかなこは? あきもやなっつ、りっつやわんたは? こってぃやきよやアラレ、何してました? 中堅も若手も、スターを全然生かせていないって話ですよ。娘役にも役がなさすぎる。ららにもじゅりにももっと違う仕事をさせてくれ。そしてまいあをもっと使ってくださいよお願いですから…
 今回でご卒業のかけるとなっちゃんにはダンサーとして見せ場が与えられていましたが、特にかけるはもっとお芝居をする役が見たかった気もしましたねー。もったいない…でも大楽の酒場の場面でのソロへの拍手やジュリアーノの婚約披露でのダンスへの拍手が熱く大きく、感動的でした。

 一応、ペルジーノさん語りも。
 鬘というか髪型についてはもうあちこちで話に出ていますが、赤毛というのは演出家の指定で、でも地毛がうまく染まらなかったし色は抜けて安定しないしで全鬘でいくことにして、だったら前髪も珍しく下ろしてみるかとなったそうなんですが、その前髪が今回のポイントだったと思っているのでその流れに感謝!です。色もだけれど、下ろしていて幼く見えてすごく若者っぽくて、そこがよかったんだと思います。ゆりかちゃんの兄弟子にちゃんと見えていたのかは謎ですが…(^^;)
 大楽の酒場の場面でかけるのダンスのシメに拍手が鳴り止まず、ペルジーノがレオナルドを名を呼んで芝居を再開するのを遅らせていましたよね。ちょっと感動しちゃいました。
 ここのアドリブとそのあとの銀橋から上手花道へのアドリブだけが楽しみな日々でしたが、ホント毎回どーでもいいことをわちゃわちゃやっていてみんな愛らしかったです。しかしりく、くっつきすぎやで…(笑)
 ラストにサライの肩を抱いて去るくだりについては、あの時点ではペルジーノたちはサライからくわしい説明を聞かされないままにただ教会まで連れてこられただけだろうから、サライがしてしまったことの重大さも把握していなくて、でも何か事情がありげなことは察して、けれどここはレオナルドとカテリーナのふたりにしてあげよう、話はあとでゆっくり聞くよ…という感じでサライとともに立ち去るのかな、と思えました。
 サライには、病身の家族がいるとか外国で絵を学びたいとかの理由があることにした方があの行動に納得しやすかったかもしれないけれど、私は人は金に単に目がくらむこともあると思っているので、あれはあれでよかったと思っています(そしてあのくだりのりんきらパッツィの下衆っぷりはサイコーでしたよね!)。ただこの物語は全体にそこまで人間を業深いものだとは描けていないので、サライのこの在り方が浮いていて、それが良くないのだとは思っています。
 なんにせよ、ペルジーノは優しい。そしてほとんどただそれだけのキャラクターだったけれど、これでは他にやりようもなかったと思うので、今回はもういいです…
 (ね? あんなに女役を嫌がっていたけれど、カイルの仲間たちとか工房チームとかなんてグループ芝居なんかよりネフェルティティの方がなんぼか重要な役だったしやりがいあったでしょ? やってよかったでしょ? もっとやりたいでしょ? と言いたいです…これを不満に思ってより奮闘しより長くいてくれたら、とか思います…(ToT))


 本朝妖綺譚『白鷺の城』の作・演出は大野拓史。
 初日は、もっとフツーの日本物ショーも観たかったけれどな…とも思いましたが、回数を重ねるうちに、むしろこちらをお芝居にしてショーをネルサンス・モチーフのものにしてフィナーレはまんまで上演したらよかったんじゃないの!?と思うようになりました。どの場面もいろいろ設定つまっているし前後で省略されているエピソードなんかも知りたいし、もっとまかまどのイチャイチャが見たいよー!
 妖狐のまどかにゃんはとにかく絶品でした。
 こちらは殿上人も武人も祭りの男もそれはそれはあでやかで素敵でしたが、ソロのひとつも欲しかったよね…こちらも全体にスター起用という点では甚だしく残念だったので、そのあたりも次の公演ではどうにかしていただきたいです。フツーのショーならもっとやりようあったろうと思いますしね…てか博多座でもっと歌手として使ってくれていいのよ!? その次はまたショーなしの公演なんだからさあ…


 というわけで総じてフラストレーションがたまる公演でしたが、みんな邪馬台国とかベルリンとかで耐えてきた苦しみですよね、みなが耐えてきた苦しみなら私も耐えてみせよう…!とオスカルばりにがんばりましたよ。それでも観劇回数はさすがに少なめになりました。
 大楽は滑り込めて感謝でした。やはりその場にいられるってありがたい…!
 カテコの退団者とのコール&レスポンスの楽しかったこと!
「あさひなー!」「あおいー!」なんて空前絶後だし「なっちゃん!」「がんばってー!」なんてホント心込めちゃったし(近い距離から口元に手をメガホン状で当てて呼ばわるゆりかちゃんがホントにキュートでした)入りがサンタ扮装だったかけるとの「メリー?」「クリスマース!」も本当に楽しかったです。
 からの、組子も加わって全員での「愛ちゃん!」「がんばってー!」ですよ。ライビュで見てるんだろうなって愛ちゃん会のお友達の分まで二階席から大声張り上げちゃいました。劇場がひとつになってた、みんな心はひとつだった。みんないろいろ思うところはあって、でも信じて送り出すと決めた、そんなあたたかさでした。あれは愛ちゃんも本当に嬉しかっただろうし、伝わったと信じています。
 風があってかなり寒かったけれど、『白夜』大楽に比べたら可愛いものでアレを生き延びた私たちに怖いものはありませんでした。退団者四人をしっかり見送り、贔屓からすぐの集合日について茶目っ気あるお言葉もいただいて、餃子でクリパ兼打ち上げして大満足で解散しました。またムラで、次は博多座で、と言い合って別れられる、大事な楽しいお友達たちに感謝です。いい観劇納めになりました。










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