駒子の備忘録

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宝塚歌劇雪組『夢介千両みやげ/Sensetional!』

2022年05月14日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 宝塚大劇場、2022年3月20日11時、4月12日13時、18時(新公)。
 東京宝塚劇場、5月12日18時半。

 桜満開の東海道を股旅に三度笠姿の夢介(彩風咲奈)という若者がのんびり江戸へと向かっている。相州小田原の庄屋の息子である彼は、父親から千両をもらい「通人」になるための道楽修行へ出かけるところなのだ。江戸まであとわずかの宿場町で、悪い男につけられているため一晩だけ一緒に泊まってくれと女に頼まれ、道楽修行のうちと引き受けるが、実はこの女は「オランダお銀」(朝月希和)と呼ばれる名うての掏摸で…
 原作/山手樹一郎、脚本・演出/石田昌也、作曲・編曲/手島恭子。『桃太郎侍』などで知られる作家の痛快娯楽作を宝塚歌劇化した大江戸スクランブル。

 マイ初日雑感はこちら
 東京公演は友会で当てた一回しかチケットを持っておらず、コロナで初日が延びてドキドキしましたが無事に11日に開幕して、おかげさまで観られてよかったです。
 が、あいかわらずみんなお松についてはお腹の子供の話しかしないし(あるいは一度夢介の家の養女にして嫁に出す云々など、要するに当人の人柄や中身についてではなく、外側の話ばかりがされています)、「肌を合わせる」の乱発もそのままで、全体になんの修正されていなかったので、覚悟していたこととはいえガッカリしてマイ楽となったのでした。
 個人的に、最終的には、初日雑感では言及しませんでしたが、やきもちを妬くお銀に対して三太(和希そら)に「相手は玄人ばかりで、素人の女に手を出したわけじゃない」というようなことを言わせるのが心底イヤだな、と感じました。初日雑感で言及せず、その後気に障るようになったのは他に、三太の幼い弟妹たちに対して色事に関するジョークを言わせるところなんかもそうです。これってキャラクターに対してもそうだし、女性であるタカラジェンヌに対するほとんど性暴力でもあるな、と思いました。こういう台詞を言わせることが、です。今、映画界なんかで炎上している、女優への(あるいは男優に対しても)セクハラ、モラハラ案件なんかと地続きのものだと思うのです。劇団は自覚してちゃんと対処していかないと、いくらスミレの花園だのなんだの言ってもいずれマスコミや司法の手で裁かれますよ?と強く警告しておきたいです。ファンだからこそ、今の状況が見過ごせません。
 この、女性を玄人だのなんだのと区分するのって、要するに女性が水商売というか、ぶっちゃけ性産業に従事しているかどうか、ってことですよね。女手妻師も小唄の女師匠もいわゆる芸能人というか芸を売る商売ですが、実際には色も売らないと成り立たないとして、売春婦と一絡げにされている。それに対してもうちょっと固い仕事に就いている女性やそもそも働かなくてもいい家の妻女なんかを「素人」と呼んでいるわけです。ちゃんちゃらおかしい区分ですよね。たとえば男性に対してはこういう区分はしないんだし、それでいうなら買う男と買わない男で区分しろよとも思うわけですが、男社会にそういう発想はまるでないわけです。ちょっと前の流行り言葉ですが、買春と言わずパパ活と言うのも同じです。売買春問題で常に売る女の側を悪く言い、買う男側を透明化させているのです。
 この物語の当時、そしてこの原作小説が書かれた時代には男女ともにそういう認識があった、というのは仕方がないし、認めましょう。でも当時だって女性の側は「ケッ」と思っていたと思いますよ。そして令和の今、宝塚歌劇で上演するのに、何もこの区分をわざわざ持ち出さなくてもいいでしょう。「夢さんは優しいから、頼られちゃうだけだよ」「本当に好きなのはお銀さんだけだと思うよ」でいいじゃないですか。何故そういう気遣いができないのか。この表現は女性蔑視で本当は今までも駄目だったんだけど今ではさらにマズい、宝塚歌劇でやるんだからさらにさらにマズい、と何故気づけないのか。むしろ粋な言い回しだと思ってあえてやってみせていい気になっている気配すら感じます。それが心底イヤなのです。強権を持った男性が立場が弱く年若い女性にあえて嫌がることをやらせて悦に入っている醜悪な構図です、見るに耐えません。男の支配欲や優越感を満たすのに使われるのはまっぴらです。何故女を対等のものとして見られないのでしょうか。そんな男のコンプレックスや引け目につきあっていられませんよ。この問題点が意識できないのなら、ダーイシにはショーはともかく(こうした意識は作品のすべてににじみ出るので物語でなくても創作すべてをやめてもらいたいところですが、なんせショー作家は数がいなくて苦しいので)芝居新作を手がけるのはこれを最後にきっぱり引退していただきたいですマジで。全体的に見ればほっこりおおらかラブコメエンタメでおもしろかったねよかったね、ということに一応はなるのだけれど、やはりこういう部分から物は傷んでいくので、元から絶たないと駄目だと思います。劇団には早急になんとかしていただきたいです、いやホントマジで。

 大劇場新公は観られたので、以下簡単に感想を。
 夢介のあがちん、よかったです。発表時には、バウ主演も済ませたようなスターさんなんだし今さら主役ではなく、もっと違う修行をさせたら?と思いましたが、蓋を開けたらこういう作品だったので、勉強になるタイプの役みたいなものが他に特にないのでした…
 それにあがちんは咲ちゃんよりスマートな感じで、個人的に好きでした。夢介は昼行灯を演じているのではなく、本当に牛のようなぼーっとした若者ではあると思うのですが、咲ちゃんがそれをやるとホントに愛媛の田舎者のぼやーっとした素地が出ちゃうというか(すみません、偏見です)、トップスターさんの演じる役としてカッコよくいてほしいギリギリのところを逸脱してまでやっちゃいそうに見えていた気もしたので、あがちんくらいの人の良さとゆるい感じでいいんじゃゃないのかなー、と思えたんですよね。だからあとはホント歌だな、もうちょっと味が欲しいよねえ…
 お銀は華純沙那ちゃん、キリッとしていて良きでした! 前回の新公がやや抜擢に近かったと思うんだけれど、きっちりヒロインを務めてきたと思いました。
 総太郎はかせきょー、四角い口がでっかくて華があって、ちゃんとはんなりしていて、とてもよかったと思います。こちらも期待の大器かと。がんばれー!
 金の字は聖海由侑くん、バタ臭い華があってこれも目を惹きました。三太は一禾あおくん、でかいけど上手い!
 ゆーちゃんさんの嘉平は真友月れあくん、イヤ上手かった舌を巻きました。お松はぶーけたんで、これもいじらしくて印象的でした。妃華ちゃん浜次は夢白ちゃん、さすがのヒロイン力で場が保つ保つ、よかったです。八丁堀の同心・市村さまは日和春磨くん、こちらも達者で唸りました。偽旗本の一つ目の御前は蒼波黎也くん、これまた前回新公は目の覚めるようなクールワルメガネだったのに今回はきっちり笑い取ってて、やるなおぬし…! あとはお滝のりなくるが可愛かったです。有栖ちゃゃんはホント芝居だとうーん、だよなあと思ったり…
 担当は生駒怜子先生。特に大きな変更はなく、台詞の修正もなかったのでそこはちょっとしょんぼりでした。まあダーイシが女性の演出助手に手を入れさせるわきゃないよね、とも思ったりしました。


 ショー・スプレンディッド『Sensational!』は作・演出/中村一徳。
 東京では誘えば喜んで観る、でも特にファンではない、そして仕事でややお疲れ気味の後輩を同伴したのですが、見事にほぼ船を漕いでいて、そうだよねどんなにまぶしかろうとうるさかろうとこう単調だとむしろ催眠効果あるよね、と思いました。あいもかわらぬ人海戦術で、逆に言えばどの場面も同じノリでスターが順に出てきたり群舞が入ったりが繰り返されて工夫も目新しさもなく、ストーリーや設定がありげなあーさと夢白ちゃんメインの場面ですら要するに何を歌い踊っているのか皆目わからず、どの場面の歌もダンスも同じようないわゆるタカラヅカのダンスって感じで、そろそろBもなんか考えないと毎度金太郎飴すぎるよ…と思えてきました。銀橋に人をたくさん出すのはいいけど、娘役もちゃんと起用するのもいいけど、でもそういうことよりおもしろい、観ていて楽しいショーをちゃんと作ってほしいです。というかちょっと休もうマジで。そんでなんかもっと充電して? たかが数年前の作品と同じ曲使ってる時点でヤバいって…


 なんかさきひらって、わりとできあがって就任したし、なんでもできる技量もあるしそういうタイプだと思うし、代表作と言えるいい作品に当たったら3作で代替わりしてもいいタイプのトップコンビなんじゃないのかなーとか勝手に考えていたんですが、次も『蒼穹の昴』じゃ期待できない気しかしないし、もはや気の毒な気がしています…あみちゃんが抜けてあやなが抜けるのは本当に痛いけれど、そらの加入は大きいし、娘役もいろいろいて下級生男役もいろいろ芽吹き始めていて、いい座組だと思うだけに、これぞという作品に当たってほしい…
 外野ですが、心配しています。とりあえず東京公演が無事に完走できますように。そしてリベンジ船出とそらあや『心中』、楽しみにしています!!!







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