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駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『夜の女たち』

2022年09月11日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 KAAT神奈川芸術劇場、2022年9月11日13時。

 戦後すぐの大阪、釜ヶ崎。大和田房子(江口のりこ)は焼け出されたあと、病気の子供を抱えて困窮していた。夫は戦地からまだ帰っておらず、両親や妹・夏子(前田敦子)は終戦を迎えたものの行方不明になっている。姑(山口ルツコ)や義理の妹・久美子(伊原六花)と同居しながら、着物を売り払ってなんとか暮らしている。そこに届いたある知らせに絶望するも、ダンサーとなった夏子と偶然再会し…
 原作/久板栄二郎、映画脚本/依田義賢、上演台本・演出/長塚圭史、音楽/荻野清子。1948年公開の溝口健二監督の同名映画をミュージカル化。全2幕。

 取材で演出家が歌唱力を問わずにキャスティングしたとか、歌はあまり重視しないとかいうようなことを語っていて、それでミュージカルってなんなんじゃい、と思いつつも、素材がおもしろそうだし気になるキャストだしで出かけてきました。映画は未見。
 確かに、一風変わったミュージカルではあるかもしれません。ドラマが盛り上がったときにその高揚や心情を朗々と大ナンバーで紡ぐような楽曲ではなくて、普段の会話をつぶやくように囁くように歌ったりすることも多い、なんというかちょっと不思議な世界観だったので。そして舞台女優さんはミュージカル畑でなくても普通程度に歌える人が多いのか、歌唱は特段問題を感じませんでした。江口のりこはちょっと怪しかったけれと、それこそ味のうちな気がしましたし、マエアツも元トップアイドルのわりに声量が全然なくてかなり怪しかったけれど、これまたキャラのうちな気がしました。伊原六花は歌える人ですもんね、心強かったです。そして他のキャスト、特にアンサンブルの女性6人はみんな達者でコーラスも美しく、雰囲気を盛り上げていました。
 大阪が舞台で台詞ががっつり関西弁で歌もそうなのもちょっとおもしろかったし、それこそ雰囲気があってよかったです。作曲家は多少苦労したようですけれどね。でも、和製オリジナル・ミュージカルとしてかなり正しい在り方なんじゃないかと思いました。そういう意味での、この演出家の「ミュージカル」への「挑戦」だったのでしょう。原作映画があるとはいえ、ひとつの何かの到達点のような、実におもしろいものを観た気がしました。
 わりと映画そのままの展開であるらしく、なのでややスローというかたっぷりめにやっている感じはありましたが、まあそれも味かな。
 戦後の、占領下の、混乱と困窮の中で売春をして生きていかざるをえなかった女たちの物語です。性暴力描写より暴力そのもの、つまり女による女へのリンチ描写の方が激しく痛々しいくらいです。でもそういう時代だったのでしょう。キャットファイトを男が楽しんでいる視線はなかったと思いました。それはよかったと思います。
 これは女性解放ものというよりは広い意味での反戦ものなのかな、とも思いました。男性キャラクターもいるしその視点も取り入れられているんですけれど(この点は映画からの改変のようです)、彼らもまた戦争と戦後社会の犠牲者なのでした。
 しかし私の父親は房子が亡くした息子と同い歳くらいなのではあるまいか…まったく裕福な生まれではありませんでしたが、適度に田舎で食べるものには困らなかったと聞いていますし、それがよかったのかもしれません。そしてたまたま健康に育ち上がって、中学までしか出なかったけれど、都会に出て就職して、母と職場結婚して、私と弟との核家族を作り、家を買い、カメラと旅行が趣味で、定年まで勤め上げ、今も元気にシルバー・ボランティアなんぞをして暮らしています。そういう戦後の高度成長期をバッチリ生きた世代の、でもある意味フツーの人だと思っていたのだけれど、そのひとつ上の世代は戦争を目の当たりにしていて、こんなにも困難な時代を生き抜かざるをえなかったのかと思うと、悲しくて哀れで申し訳なくて、心揺さぶられました。
 オチは、甘いと言えば言えると思います。でも解決とか、正解とかがない問題なんですよね。だからミュージカル仕立てにするのがふさわしい作品なのかもしれません。
 夜を駆け抜けろ、朝を目指せ、走れ、逃げろ、生き延びろ。そういうメッセージを訴えて終わった幕切れだと感じました。仕方がないとか、そういう時代でも愛はあったとか、そういう感傷や欺瞞に逃げていない、怒りとエネルギーとかすかな希望を感じさせるラストだったと思います。夜の中で、戦い、抗い、反逆する、女たちと、男たち。チェス盤のような八百屋舞台とスタイリッシュなライティング(照明/大石真一郎)で、ニュールックやパンパンたちの派手な服が出ようが(衣装/伊藤佐智子)なんとなくモノクロの空気が漂う、美しい舞台でした。
 ラストの暗転のあと、キャストは暗転の中でポーズをやめて整列し気をつけをして明るくなったらお辞儀をしてラインナップ、となったのもよかったです。でもそそくさ去るマエアツはよくなかったなー、ちゃんとして! あと姿勢が悪いぞ、舞台女優もやるならちゃんとしてー!
 福田転球、前田旺志郎、大東駿介、北村有起哉ら男優陣もとてもよかったです。生バンドもとても素敵でした。
 コロナで初日開幕が遅れた舞台でしたが、このあと北九州、豊橋、山口、松本、兵庫と回るようです。無事の完走をお祈りしています。



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