駒子の備忘録

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ミン・ジン・リー『パチンコ』(文春文庫上下巻)

2024年05月26日 | 乱読記/書名は行
 日韓併合下の釜山沖の小さな島、影島。下宿屋の娘、キム・ソンジャは粋な仲買人のコ・ハンスと出会い、恋に落ちて身籠もるが、実はハンスには妻子がいた。妊娠を恥じる彼女に牧師のイサクが手を差し伸べ、ふたりはイサクの兄が住む大阪の鶴橋へ。しかし過酷な日々が待ち受けていた…国家と歴史に翻弄されながらも生き抜く家族の姿を描いた、比類なき最高傑作。

 作家はソウル生まれではあるものの、1976年に家族でニューヨークに移住して、イエール大学、ジョージタウン大学ロースクールを経て弁護士となった人だそうで、この作品は大学在学中に構想され、東京在住中の取材に基づいて草稿を破棄し、2017年に刊行されたものだそうです。韓国風にいうとイ・ミンジンさんなのかな? おそらく英語で書かれたものなのでしょう。Apple TV+でドラマ化され、アメリカの放送映画批評家協会賞を受賞しているそうです。韓国でも翻訳されているのでしょうか? 「在日コリアン一家の四世代にわたる年代記」で、韓国に朝ドラがあるならそのいい原作になりそう、とかも思いました。そういう物語です。ものすごくおもしろく読みました。
 ソンジャが主人公とされているけれど、特にそういうことはないのではないかしらん…また、これではたしてオチなのだろうか?とも思ったかな。家族の血脈は続いていくので…ただ、彼女の孫息子のソロモンが父のあとを継いでパチンコ店経営の仕事に就くと決めたこと、自死した息子ノアが失踪中も父親の墓参りを欠かさなかったことを彼女が知ったことで、一応ひとつの区切りにはなったのかもしれないな、とは思いました。
 作品とはあまり関係ないようですが、パチンコっておそらく日本でガラパゴス的に進化したギャンブルなのではないでしょうか? 韓国始め外国ではあまりウケないギャンブルなのでは…というか、ものすごく日本人向きっぽいギャンブルだと思います。自分対、台。でも自分の部屋でひとりでやるゲームとかではなくて、わざわざ店に来て、大勢の中で、喧噪の中で、孤独にやるゲーム。音や光に中毒している。ポーカーとかの、周りとのコミュニケーションや戦略が要るようなゲームとは違う。求道的ですらある…日本人が好きなのがわかる気がします。やったことないのでイメージだけで語っていますが…で、卑賤な職業、業界とされていて、それで在日韓国人に押しつけてきた部分があるのでしょうね。
 アメリカと戦争して負けたことすら知らない若者も多い今の日本で、朝鮮半島を併合していたことなんかまして知られていないのでしょうが、朝鮮人からしたら忘れることなどありえない近くも近い歴史、現代と直結した歴史なわけです。正しい言い方ではないかもしれませんが、改めて勉強になりましたし、読んでいて、差別とかいじめとかの在り方が「ああ、ホント、日本人がいかにもしそう…」って感じで的確に描かれていて、とてもわかりやすかったです。それが今では日本人内にも持ち込まれていて内ゲバ化しているわけですが、それはまた別の話です。
 あとはそういうことは抜きにしても、家族の年代記ものとして本当におもしろく読めました。花は私には不可解すぎて、物語の中でもどういう意味があるのかな、とかは思いましたけど…また、病名を明かさないのは別の差別では、とかも思いましたが、まあ些細なことです。
 私はもちろんキム・チャンホが好きでしたよ…生きていきくれるといいな、今はもういくつになるのかしら…今年の夏、久々にソウルに旅行する予定です。楽しみです。







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